鈴を慰めてから翌日、クラス対抗戦のトーナメント表が廊下に張り出されることとなり、一夏の初戦の相手がまさかの鈴であることが発覚した日の放課後、俺と一夏はアリーナでの練習を終え、更衣室で着替えを行っていた。
「一回戦は鈴と対決か…、どうしよう…」
一夏から苦悶の声らしきものが聴こえてくる。
「どうしようも何も訓練するしかないだろ。とりあえず代表候補生が相手なんだ、胸を借りるつもりで当たって砕け散ってこい」
「砕け散れって…、流石にひどくないか…?」
乙女心がわからん朴念仁に優しい言葉を掛けてもらえるとでも思ったか。
……仕方ない。鈴、すまん。
「……なあ、お前鈴が何で泣いてたか理由、わかってないだろ」
こいつは一度はっきりと言葉にしないと伝わらないと思う。これ以上女性を傷つける前にここで何で鈴が傷ついているのかを伝えておくべきだと判断する。
「そういうってことはカナタは何でかわかるのか?」
「まあ、な。鈴が泣いていたのは一夏、お前が約束の意味を理解してなかったからだよ」
「意味?毎日酢豚を作るってことにそれ以外なんの意味があるんだよ」
一夏は約束の『意味』にピンとこないようで首を傾げている。まあこれ自体は正直仕方ないとも思う。だからこそ俺はその言葉の前提条件から一夏に説明をする。
「日本には『毎日私の為に味噌汁を作ってください』ってプロポーズに言葉がある。意味としては毎日味噌汁を作ってくれるくらい一緒にいてほしいってとこだな」
「……なる、ほど」
「この言葉は基本男性から女性に向けての言葉だが女性から伝えるのであれば『毎日味噌汁を作らせてください』ってところだろう」
「……」
一夏の顔色がだんだんと青くなっている。もともと一夏は男女の関係に疎いだけであり、気も効くしコミュニケーションをとることは得意だ。頭の回転も別段悪いという訳でもなくむしろいい方だろう。俺の言いたいことに気づいてきたみたいだな。
「なら中国人の女性が伝えると…ってことだな。」
「……ああ、『毎日酢豚を食べてくれ』って事だろ」
ここまで言えば一夏もなぜ鈴が泣いたのか理解できたようだった。勇気を振り絞ってしたプロポーズが全く意味が伝わってなかったとすれば泣きたくもなるってものだろう。
「…俺、鈴になんてことしてんだよ」
一夏の顔は後悔と申し訳のなさで一杯の表情をしている。このままだと最悪の場合、暴走しかねないのでフォローもしておくか。
「俺も鈴からその約束の言葉を聞いたとき、すぐには意味が分からなかったから仕方ないとも思うがな。…そんなに気になるんだったら対抗戦が終わった後にでも鈴と腹割って話してやれ。」
俺は途中になっていた着替えを終わらせ更衣室から出ていく。
「……そうだな、鈴ともう一度話してみるよ。……鈴からは一発くらいぶん殴られそうだけどな。おかげでしっかり向き合えそうだ、ありがとう、カナタ」
一夏には振り返らずに手を振りそのまま自分の部屋まで戻っていく。
「箒とセシリアにはバレないといいなぁ……」
鈴に肩入れしてしまったために他二人の恋する乙女たちにバレないことを祈っているがどうなることやら…。
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一夏との話から時間は流れ、クラス対抗戦当日。
俺はクラスの皆とともに観客席で一夏と鈴の試合の開始を待っていた。
「織斑くん頑張ってー!」
「フリーパスを私たちにー!」
女子たちの声援を聴くと、どうやらクラスの女子たちはクラス対抗戦の景品として配布される食堂デザートのフリーパスに目がくらんでいるようだった。
「ねーねー、かなたんはどっちが勝つと思う?」
隣で一緒に観戦しているのほほんさんからこの試合がどうなるかを尋ねられる。
「んー、普通に考えれば鈴が圧倒して終わりだろうな」
小耳にはさんだ話によるとこの試合では賭けが行われており、オッズは一夏が30倍近いらしい。
「とはいえアイツもただやられて終わり、ってのもないだろ。善戦くらいはしてくるんじゃないか?」
「おお~、じゃあおりむーには期待だね~」
――っとそんな話をしていたらどうやらそろそろ始まるみたいだな。
アリーナの左右から一夏と鈴が姿を現す。二人の姿をみて観客席のテンションは最高になり一斉に歓声が沸き上がった。
「あれが鈴の専用機か」
鈴が装着しているISは紫に近い赤色に黒がメインカラーのISだった。その両肩には刺々しい形をした非固定浮遊部位が装備されていた。
確か中国が開発した第三世代機の『
『鈴、この試合が終わったら話したいことがある』
『話したい事ね…。いいわ、私もあんたには言いたいことがあるし』
『たすかる。……じゃあそのためにもこの試合、本気で行かせてもらう』
『かかって来なさい。ボコボコにしてあげるわ』
二人がオープンチャネルで話している様子だが当人たちは気づいてないみたいだ。二人の意味深な会話に観客席のテンションが振り切れ、とてつもない状況になってる…。
「……何してんだ、あいつら」
「周りに聞こえてるのに気づいてなさそうだね~」
俺とのほほんさんが苦笑しているとアリーナのスピーカーから『これより試合を開始します』という宣言とともに試合の開始を告げるブザーがなり試合が始まった。
ブザーが鳴り終わる前に二人同時に動き始め一夏は鈴へと突貫、鈴は両手に持った大型の青龍刀を使い、迫りくる一夏を迎撃する。
「おー!おりむーリンリンに食らいついてるよー!」
「だな、だけど一夏は攻め続けることで何とか優位を取ってるが、鈴はまだまだ余裕がある」
一夏が鈴に対して猛攻を仕掛けているのは自分が受けに回ったら確実に負けるとわかっているからこその行動だろう。つまり一夏は鈴に攻めさせられている。事実攻めているはずの一夏の表情は苦しげなものだが、鈴の方はまだ余裕が残っている。
一夏が仕切り直しの為後方へと下がろうとしたその時、甲龍の非固定浮遊部位の装甲部がスライドし空間が一瞬歪むのが見えた。
――ドンッ!
轟音とともに白式が真横に吹き飛ばされる。
……あれが甲龍の第三世代兵装か。
「布仏さん、あれが甲龍の第三世代兵装だよな?」
「そうだよ~、『龍砲』って言って空間に圧力をかけて衝撃を砲弾にして打ち出すんだって」
衝撃砲か…。遠山家や伊藤マキリが使う『矢指』に似た兵器か。目には見えない分弾道の予測やタイミングがつかめないのは厳しいな。
「衝撃砲ってことは弾切れは期待できそうにないな」
「しかも『龍砲』は稼働限界値がないから前後左右360度からの攻撃が出来るんだって~」
マジか。あの攻撃がどの角度からも飛んでくるのは流石に予想外だった。
一夏も衝撃砲による砲撃と、青龍刀による連撃に翻弄されている様子で防戦一方となっていた。
鈴の攻撃によりアリーナの反対側へと吹き飛ばされた勢いを利用し、後退した一夏は何かを決心した様子で鈴に向き直る。
二人は何か話しているようだがオープンチャネルではないので何を言っているかはわからないが一夏が雪片弐型を腰に構え直し、背後のスラスターにエネルギーを溜め始まる。
――瞬間、白式が爆発的な加速を行い甲龍のもとへと迫っていく。
「『
一夏が最近、放課後の訓練で練習していたISの機動技術であり、スラスターから放出したエネルギーを再度スラスターへと取り込み、都合2回分のエネルギーで直線加速を行うISの高等技術だ。
鈴も一夏が『瞬時加速』が使えるとは思っていなかったのか反応が一瞬遅れてしまう。一夏は鈴のそんな一瞬の隙を見逃さず腰に佩いた雪片弐型に白い光『零落白夜』の力を灯し、抜刀。
甲龍へと雪片弐型が迫り、切り裂こうとしたその瞬間。
ゾワリとした悪寒とともに頭上から閃光が放たれた。
《警告。ISによる射撃攻撃及び所属不明のISの反応あり。》
待機形態のウラガーノから警告が発されたのと閃光がアリーナへと着弾し、大きな衝撃と轟音が鳴り響いたのは同時だった。
観客席のほかの生徒たちは何が起きたのかと困惑しており、アリーナ全体は先ほどまでの熱狂が嘘かのように静まり返っている。
アリーナへと目線を向けてみると、一夏と鈴も突然の事に理解が追いついていないのか穴が開いたシールドバリアと砂煙を交互に見ていた。
少しすると砂煙が晴れ、アリーナで何が起こっていたか確認でき、侵入者の姿が露わになった。
「あれは……?」
そこにいたのは異形のISだった。闇の様な暗黒色のカラーリングに手足は大きく肥大している。そしてその手足には不釣り合いな細すぎる腰に顔を覆うヘルメット。その出で立ちはまさに異形のものと呼ぶにふさわしい存在だった。
『織斑君、凰さん!今すぐアリーナから脱出してください!直ぐに先生達がISで制圧に行きます!!観客席の皆さんも慌てずに避難してください!!』
アリーナの放送室から響き渡る山田先生の悲鳴にも似た避難勧告。
『織斑先生、ウラガ―ノの展開許可をください。自分が観客席の避難を手伝います』
これがIS学園に対するテロ行為であることを即座に理解し織斑先生へISの展開許可の為に通信を飛ばす。
『遠山か、許可する。観客席の生徒たちの避難誘導は頼んだ。現在アリーナの隔壁がハッキングによりロックされている。隔壁の破壊も視野に入れて行動してくれ』
『了解』
織斑先生からISの展開許可を貰い、ウラガ―ノを装着しパニックになり始めている観客席へと大声を張り上げる。
「静かにしてくれ!!!これから俺が避難誘導を行う!!絶対にみんなを無事に避難させる!!急がず慌てずに移動してくれ!!」
アリーナの出入り口付近にいる生徒たちに声を掛けロックされたドアを確認してみると確かにあく気配はない。ストームを呼び出しロック機構へと即座に発砲。扉を破壊し力ずくで隔壁を開いていく。
「よし!!これで出入り口は開いた!順番に避難してくれ!!絶対に前にいる人を押したりしないでくれ!!みんなの事は命に代えてでも無事に避難させる。くれぐれも慌てないでくれ!!」
開いたドアから次々と生徒たちが避難していく。ほとんどの生徒が避難が終了したタイミングでアリーナから戦闘音が聴こえ始める。どうやら一夏たちは避難先にあの正体不明機が侵入することを危惧し、足止め戦闘を開始したようだった。
それなら俺に出来ることはあいつらへの加勢ではなく、あいつらが一刻も早く避難できるように観客席の避難を出来る限り迅速に終わらせることだ。
戦闘音がアリーナから響き渡る中、最後の避難者であるのほほんさんがアリーナから出ようとしたその瞬間。
《警告。所属不明のISの反応あり。》
二度目の警告がウラガ―ノに届いた。
ガシャンという音とともに
「――クソが!!」
そのISは掌をこちらに向け、ビームらしきものを溜めている。おそらくあのビームがアリーナのシールドバリアをたたき割ったものだろう。
スラスターを吹かし、俺は今出せる最大速度で正体不明機の攻撃を防ぐべく体当たりを行う。
「間に合えええ!!」
ガキィィイイン!!!
幸いなことにビームは放たれる直前でなんとか間に合い、発射されることはなかった。クソッ!アイツの肩に配置されていた銃口から銃弾を何発か受けてしまった。
キィン…
「な!!?」
銃弾を受けて数秒後、突如として俺のISが強制的に解除される。すぐに再展開しようとするがウラガ―ノに反応はない。どういう事だ!!?
「――
正体不明機の襲撃に巻き込まれ取り残されてしまったのほほんさんから、この現象を起こしたと思われるものの名前が挙がった。
「……IS相手に生身かよ」
どうやら俺の本番はここかららしい。
あけましておめでとうございます。
この話を書いている途中で年が明けました。2026年もよろしくお願いします。
お付き合いいただきありがとうございます。
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