完璧な僕の嘘を、嫌われ者の君だけが「正論」で壊した   作:テレサ二号

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お久しぶりです、テレサ2号です!
更新遅くなってしまいすみません!

仕事の過渡期と重なり、中々執筆時間が取れていませんでした!

その間にお気に入り登録200人と通算UAが20000を超えました!!(*’ω’ノノ゙☆パチパチ
いつもご愛読いただきありがとうございます!
これからもよろしくお願いします!

では、本編です!!


第十五話:伊井野ミコは気付かされる

 

奉心祭まで1ヶ月を切ったある日、生徒会室ではかぐやと耀が作業して、石上がゲームをしていた。

 

ここ数日、生徒会準備室にこもっていた耀もこの日は生徒会室で作業をしている。

 

そんな耀にかぐやが声を掛けた。

 

「そういえば杉原くん?今、オーケストラ部が謎のバイオリニストを血眼で探しているようですよ?」

 

「謎のバイオリニストですか?」

 

「はい、先日音楽室の方からプロと比較しても遜色がないレベルのピアノとバイオリンが聴こえて来たとオーケストラ部の間で話題になっているそうで」

 

「それって...」

 

「そうです。先日の藤原さんと杉原くんの演奏が外部に漏れていたようですね」

 

「正直、どこかの部に所属するつもりは無いのでバレないようにしないと...」

 

「そう仰ると思って、藤原さんには予め口止めしておきましたのでご安心ください」

 

「助かります。でもなぜ、藤原先輩なんですか?」

 

「校内であのレベルのピアノ演奏ができるのは藤原さんくらいしかいませんから、藤原さんにまずはアプローチしてくるのでは無いかと読んでの布石です」

 

「さ、さすがです。お気遣い感謝します。まぁ、近いうちに人前で演奏する機会が訪れるかもしれないのですが、今は奉心祭の準備に忙しいので助かります」

 

「まぁ、あの日の杉原くんはぶっちゃけ神ってましたからね」

 

「石上くん、体育祭以降応援団のメンバーの口癖うつったよね?」

 

「いやぁ、中々抜けなくて」

 

などと他愛無い話をしていると、話題に上がった応援団メンバーである子安つばめが生徒会室に入ってきた。

 

「こんにちは!文化祭の出展書類を持ってきました!」

 

「つ、つ、つ、つばめ先輩!?」

 

「やほー、優くん」

 

「ど、ど、ど、どうしたんですか!?」

 

「だから書類を出しに来たんだって」

 

「......文化祭書類はこちらにお願いします」

 

耀はつばめの訪問に慌てる石上の様子を伺ってから、つばめに向けて手を上げる。

 

「初めまして、すぎはっ...」

 

「杉原くんでしょ?」

 

「ご存知でしたか?」

 

「だって有名人だもん!校内で知らない人はいないよ!」

 

「私はっ...」

 

「子安つばめ先輩ですよね?存じ上げております。先輩は有名人ですから、校内で知らない方はいらっしゃらないと思いますよ?」

 

2人が見つめ合い、微笑み合う。

石上だけがムムムっといった顔をしている。

 

「すみません、書類をいただけますか?」

 

耀は書類を受け取ってから、内容を確認する。

その間につばめはかぐやと会話を始める。

 

「うちらね、新体操と演劇を混ぜた舞台をやりたいんだぁ。みんな頑張ってるし、ステージいい時間帯にして欲しいなぁ...なんて」

 

「子安先輩が仰るいい時間帯というのは?」

 

「最終日の18時なんかが一番最高なんだけどなぁ」

 

「なるほど、しかし...」

 

「任せてくださいっ!」

 

「えっ?」

 

「僕が新体操部に最高の時間帯を準備します!」

 

「ホントに!?ありがとう優くんーっ!!」

 

つばめは石上の頭を抱くように撫で回すと、石上は満更でも無さそうな表情を浮かべながら顔を真っ赤にした。

 

「じゃまたねっ!優くん、かぐやちゃん、杉原くん!」

 

一同はつばめを見送ると、石上は再びゲームを再開した。

 

「...へぇ、そういう事」

 

「なんですか?そういう事って。四宮先輩変な勘違いしてません?」

 

つばめとの一連のやり取りを見ていたかぐやがクスクスとニヤケながら石上に問いかけ、石上は飽きれたような表情を浮かべた。

 

「彼女が好きなんでしょ?」

 

「見当違いも甚だしいです。急に来たからびっくりしただけですよ」

 

「そうですか...変なこと言ってごめんなさい」

 

「分かってくれればいいんですけど」

 

「何しろ彼女に熱を上げる男子が、この学校には大勢いると聞き及んでいたもので...」

 

石上の顔が一瞬で強ばり、体がビクンっと反応する。

 

「石上くんもそんな方々の1人なのかと...」

 

「へぇー、そうなんですね......」

 

「逆に良かったですよ。競争率の高い相手に無謀な恋をしたのではないかと肝を冷やしました。杉原くんはどう思います?」

 

「.......僕は石上くんが子安先輩に興味が無いなら、僕からアプローチしようかなと思いましたね」

 

耀がニヤニヤしながら石上を煽る。

 

「なるほど、杉原くんがアプローチするならチャンスはあるかもしれませんねぇ」

 

続けてかぐやがニヤニヤしながら耀の発言を肯定する。

 

「...ねビーム...」

 

「???」

 

「死ね死ねビーム!死ね死ねビームぅぅ!!」

 

石上は両手の人差し指を立て、いわゆるピストルの形を作り、左手は自身のこめかみに、右手は耀の頭に向け、ビームを連射した。

※実際にビームは出ていません。

 

「止めなさい石上くん!そんな攻撃では杉原くんは倒せないわよ!」

 

「止めないでください四宮先輩!彼を殺して僕も死ぬっ!」

 

「そんな大切な親友と殺し合いになるような言葉を持ってこないでよ」

 

耀は笑いながら『冗談だよ』と発言を取り消すとようやく石上は落ち着きを取り戻した。

 

「やっぱり彼女が好きなんでしょう?好きじゃなきゃそんなリアクションはしませんよ」

 

「うぅ...」

 

「詳しく聞きたいわ?子安先輩のどんなの所が好きなの?」

 

耀は作業していたノートパソコンを上書き保存してから閉じた。

 

「応援団の時に色々お世話になってですね...。最初は応援団の空気を良くするために、無理して絡んで来てると思ってたんです。でもあの人はそうじゃないんですよ。素でアレっていうか。無理せず普通に優しい人だって気づいたら......なんかその」

 

「あらあら、可愛いわね石上くん」

 

照れながら語る石上にかぐやは思わず、少しだけ顔を赤らめる。

 

「でもいいんです、最初から諦めてますから。僕が杉原くんくらい魅力的な男子だったらアプローチできたのかもしれませんが」

 

かぐやは耀に視線を向ける。

耀は少しため息をついてから石上に説得を始める。

 

「確かに僕と石上くんを比較すると、容姿・頭脳・社交性、それに楽器の演奏技術など。客観的なデータとして、石上くんに劣るところは一つも無いかもしれないよ?」

 

予想外の耀の言葉にかぐやと石上に一瞬の間が空く。

 

「……四宮先輩。一発、一発だけでいいです。あそこの文鎮で彼を殴ってもいいですか?」

 

「……気持ちは痛いほどわかるけれど、ダメよ石上くん。事実を言われたからって暴力を振るうのは、人ととして感心しないわ。気持ちは痛いほど分かるけれどね」

 

かぐやは大事なことなので二度言った。

そして耀は続ける。

 

「だけど、人の魅力というのは単なるスペックだけじゃないだろ?人柄とか相手を思いやれる優しさとか。人間味としての魅力度なら、僕が石上くんに勝っているなんて思ったことは一度もないよ。君はいつも自分を過小評価し過ぎた。もっと自信を持ちなよ。君に一番足りないのは魅力やスペックなんかじゃない、自信だけさ」

 

耀の言う通り、かぐやも常々石上に足りないのは成功体験からくる自信だと思っていた。

彼の人生は失敗の連続。

 

『どうせまた失敗する』

 

そういう考えがいつも頭の片隅にある。

 

 

「石上くん、どんな手段を使ってもいいわ。子安つばめを手に入れなさい」

 

 

「いやいや!どんな無理難題ですか!?」

 

かぐやからの提案に思わず、石上は全身を使って拒否をする。

 

「フラれたらどうしよう...今の関係が壊れたら...そう思う気持ちも分かるわ。でも告らなきゃどこまでもズルズル行くわよ」

 

かぐやは今年一番魂の籠った言葉を吐いた。

 

「まぁ、一応自分が告白する時を想定して成功率の高い告白方法のアイデアはあるんです...」

 

「成功率の高い告白方法!?」

 

かぐやが少しだけ前のめりになった。

 

「へぇー、一応どんな方法か聞いておこうかしら」

 

石上の目つきが少しだけ真剣なものに変わる。

 

「まず、普通に告ってもダメなのは分かってます。ですがそれがウルトラロマンティックな告白だとしたら?」

 

「ウルトラロマンティック!?」

 

石上は自信を増した顔つきに徐々に変わっていく。

 

「つばめ先輩の机に毎日花を添えておくんです」

 

暗雲が漂い始める。

 

「月曜日はアガパンサス、火曜日はイチゴの花、水曜日は芍薬、木曜日はテッポウユリ、金曜日はルピナス。そしてそれらの頭文字を繋げると!ア・イ・シ・テ・ルになる!これどうっすか!?」

 

かぐやの顔が完全に引き攣る。

かぐやが感想を口にする前に耀が先に口を開いた。

 

「...石上くん、その作戦には2つの大きな欠点があるよ」

 

「へぇ...その欠点とやらを教えて貰いましょうか」

 

(良かった...杉原くんが代弁してくれるようね)

 

耀の口上にかぐやは胸を撫で下ろす。

 

「1つ、子安先輩が花の名前を知らない可能性があること。2つ、花の入手経路を確保していないこと。作戦自体はとてもいいから...ry」

 

「いい訳ないでしょう!?杉原くんまでそっちに行かないで!!」

 

かぐやの魂の叫びがこだまする。

耀は驚きを隠せなかった。

そして耀すら称賛する作戦に胃を唱えたかぐやへ石上がその意図を尋ねた。

 

「この作戦が何故ダメなんですか?」

 

「知らない人が自分の机に毎日毎日、一輪の花を置いていくのよ?好きでもない人にそれをやられるのは普通に気色が悪いわ...」

 

(なるほど...その観点でしたか...)

 

耀はかぐやの貴重な意見を心のノートにメモした。

 

 

 

「石上くんの欠点は持ち前の気持ち悪さね」

 

しばらく続いた、石上優のウルトラロマンティック作戦は全てかぐやに論破され、かぐやは話を纏めようとしていた。

 

「女は力に惹かれるものです!腕力・財力・コミュ力......それには勿論、知力も含まれるわ」

 

「まぁ、それは確かに説得力あるかもしれませんね。目の前のコミュ力と知力を兼ね備えた男は実際にモテますし」

 

石上は耀へと視線を向ける。

しかし耀は『僕は腕力無いけどね』と否定する。

 

「兎にも角にもまずは知力!次の期末試験、順位が張り出される50位以内に入りなさい。そうすれば誰もが貴方を見直すわ。勿論、子安つばめも。...そして貴方自身もね。それじゃあ、今回も特訓するわよ」

 

"特訓"の二文字を聞いて石上の表情が暗くなる。

そしてかぐやは冒頭の会話を掘り返す。

 

「そういえば石上くん?子安つばめと約束した、舞台の時間は大丈夫なのかしら?」

 

「......スギえもんっ!!どうにかしてよぉぉぉぉ!!」

 

生徒会室に助けを求める石上の悲鳴が響いた。

 

こうして、石上の特訓の日々が始まった。

 

 

 

 

迎えた試験当日。

 

1年B組では特訓を済ませた石上がテストに臨もうとしていた。

そんな石上に前の席であるミコが声をかける。

 

「生徒会の一員としてくれぐれも赤点なんて取らないでね」

 

「心配いらねーよ。ちゃんと勉強して来てるし」

 

「嘘ばっかし」

 

ミコはため息をつきながら前を向く。

 

しかし石上は本当に勉強をして来ている。

そして本気で上位を狙っている。

教室中央に席がある耀と目があう。

耀は二度拳で自分の胸を突き『がんばれ』とエールを送ってからテスト用紙に視線を移した。

 

今までの石上ならば、試験前だろうと関係なく怠惰の限りを尽くしたであろう。

 

その彼を本気にさせたのは何か?

 

四宮かぐやの血も涙もない鞭の雨か。

はたまた子安つばめに対する恋愛感情か。

 

『石上くんならできるわ』

 

脳内でかぐやの言葉が響く。

 

その言葉が、その視線が、娯楽に逃げようとする彼の腕を重くした。

 

(僕なんかに期待してくれる人もいるんだな...。だったらその期待に、絶対応えたい!!)

 

耀は再び石上に視線を向ける。

 

石上の表情が過去に無いほど真剣になり、このテストをいかに努力して臨んでいるかが伺えた。

 

(結果がどう転んでも、今の石上くんならいい方向に向かえるだろう)

 

耀は少しだけ口元を緩めた。

そして数瞬後にはそれを引き締めて、再び答案用紙に目を落とした。

 

 

 

 

迎えたテストの順位発表当日。

耀はミコに連れられて順位の確認に向かった。

 

既に順位表は張り出されており、人集りができている。

 

しかし、生徒会役員であり、上位ランカーである耀とミコが近づくと1年生達は少しだけ順位表の前を開けた。

 

『一位 伊井野ミコ 四八二』

 

一番最初に目に飛び込んできたのは、学年1位を死守した女王の名前である。

 

「やったぁ!!」

 

ミコは思わず声を上げる。

そして隣にいる耀に遠慮して、掲げていたガッツポーズを静かに下ろした。

 

『二位 出雲大介 四七九』

 

「えっ?」

 

ミコは耀がいると思っていた2位の位置にその名が無かった事への驚きに声を漏らした。

 

5位まで確認しても耀の名前は無い。

 

必ず五位以内に入っていた耀が定位置にいない事にミコは更に驚いた。

 

『十一位 杉原耀 四五九』

 

11位にようやくその名を見つけた。

 

前回2位から大幅に順位を落とした事になる。

 

「どこか苦手な所でもあったの?」

 

「ふぅ...ヤマ勘が外れたようだね。改めておめでとう、伊井野さん!」

 

耀は一息吐いてから、1位を死守したミコを称賛した。

 

「次は1位を目指してもっと勉強してよね。杉原くんが2位にいないと私も張り合いが無いじゃない」

 

「善処するよ」

 

ミコの斜め上からのエールに思わず耀は苦笑いを浮かべる。

 

耀は視線の端に石上とかぐやを捉えた。

石上の表情は淡々としながらもどこか暗い気持ちを隠しきれていない感じがした。

 

(そうか...石上くんは50位以内に入れなかったのか...)

 

トイレに入った石上をかぐやが追っていくのが見えた。

 

「僕、生徒会室に戻るよ」

 

耀はかぐやに石上を任せて、作業を続けるために生徒会室に足を向けた。

 

 

 

 

耀が生徒会室に入ってから1時間程度経った。

その間、誰も生徒会には来なかった。

 

地獄のテスト期間を終え、今日くらいは羽を休め、その余韻に浸りたい気持ちが耀にも分からない訳では無かった。

 

耀がパソコンのキーボードを叩いていると、石上が入っていた。

自身のタスクをこなすつもりなのだろう。

書類を取り出し、ボールペンにて書き出した。

 

室内には耀がキーボードを叩く音だけが響く。

2人の間に特別な言葉は無い。

 

石上の入室から数分が経ってから、作業の手を止めて石上が口を開く。

 

「テストの結果、聞かないんですか?」

 

「...順位表には目を通したから、石上くんが50位以内に入っていないのは知ってるよ」

 

耀はキーボードを叩きながら石上の質問に答える。

 

「自己採点の結果は150位くらいだったと思います。期待に応えられなくてすみません」

 

「謝る事じゃないよ。それに...」

 

耀はパソコンから目を離し、石上の目を見た。

 

「テスト勉強前の君と違って、ちゃんと前を向けてるじゃないか」

 

「そうですかね。四宮先輩の期待にも応えられなかったですし、順位も20位くらいしか上がらなかったですから」

 

「上手く行かなかった結果は気にしなくていいよ。それよりも、正しい努力の過程を完遂できたことの方が僕はよっぽど価値があると思う。正しい過程さえ身につけば、望む結果なんて後から必然的についてくるものだからね。だからこそ、改めてお疲れ様、そして良く頑張りました」

 

『まぁ、結果がいいに越したことはないけどね笑』と補足してから耀が微笑む。

石上は少し涙が出そうになったのをグッと堪えた。

 

「ありがとう...次は絶対50位以内に入るから」

 

「ふふっ、高みで待ってるよ」

 

耀は笑いながら石上から貰ったブルーライトのメガネを持ち上げる。

 

「そういえば、杉原くんも順位落ちてましたね」

 

「そうなんだよ。僕ももう少し頑張らないとなぁ。今回のような順位だと張り合いが無いって伊井野さんからも言われちゃったし」

 

「伊井野はちょっとアレだから気にしなくていいですよ」

 

「今の発言、録音したから伊井野さんに伝えておこうか?」

 

「めんどくさい未来しか見えないんで勘弁で」

 

2人は顔を見合わせて笑いながら、再び作業に戻る。

この他愛ないやり取りが2人にとっては心地よかった。

 

 

 

 

テスト結果発表の翌日、ミコは奉心祭準備期間の早朝見回りのために早い時間に登校していた。

 

まだ薄暗い早朝ではあるが、チラホラ生徒がいるのを確認する。

 

奉心祭の準備に取り組むのはいいが、そこでハメを外す生徒がいて夜中や早朝に騒ぐと、校区内の近隣住民の迷惑となるため、風紀委員が巡視しているのである。

 

そんなミコがふと生徒会室の方向に目を向けると、生徒会準備室の電気が点いていることに気づいた。

 

「電気の消し忘れかな?」

 

ミコは生徒会準備室に足を向けた。

 

 

 

ミコは準備室の扉を開いた瞬間、言葉を呑んだ。

 

準備室のデスクには規則正しく寝息をたてる耀がいたからだ。

 

室内とはいえ、季節は晩秋の早朝。

 

ミコは耀が風邪をひかないように、生徒会にあったブランケットを持ってきて、耀の肩にかけた。

 

作業しているデスクにはPCの他に、ゼリー飲料や栄養ドリンクのゴミが袋に纏められていた。

 

深い眠りについているようで、隣に立ったミコに気づく素振りが全くない。

そして耀の耳には、先日ミコが贈ったノイズキャンセルイヤホンが付けられている。

 

耀の制服や頭髪の乱れ、そして周囲のゴミなどから早朝に来て作業している訳では無いことをミコは察した。

 

そもそも耀が早朝に来て作業をしているなら、彼はこんな所では寝ていない。

 

夜通し作業をして、作業の区切りに寝たか途中で寝落ちてしまったかのどちらかであろう。

 

そしてミコはこの現状を目の当たりにして、二つの疑問を持ってしまった。

 

『先日のテストは本当に彼はベストを尽くしていたのか?そもそも勉強する時間などなかったのでは無いか?』

 

机の白紙の余白には、沢山のコードと思われる数式とメモが無造作に書かれて散らばっていた。

 

耀は以前、白銀との会話で奉心祭における生徒会業務の全てを一任された際に

 

『会長や四宮先輩、藤原先輩は奉心祭のクラスの出し物に全く関われなかったとお伺いしました。ですので、今年は事前準備からクラスの出し物に加わっていただきたいと思っています』

 

と話していた。

 

もちろん、白銀は耀が無理をしないことを条件に耀へ奉心祭における生徒会業務の全てを一任した。

 

そして、耀は困った際は自分と石上に頼ると言っていた。

 

何故、自分はその言葉の本質を見抜けなかったのだろうか。

 

耀のモノサシで言う所の『困った際』というレベルが、自分の差し出せる時間の全てを差し出しても終わらないレベルの事を指すということを。

 

一般常識レベルの『困った際』という基準は彼にとって困ってすらいないレベルであるということを。

 

その証拠がこの家にも帰らず、満足に休息も取らずにこの場で眠っていることと、先日順位を落としたテストの結果が如実に証明している。

 

彼はいつもそうだ。

 

誰かのために行動を起こすのに、賞賛や感謝の言葉は受け取らない。

 

誰かのために責任を負うことになっても、『自分自身が決めたうえで実行したことだから』などの言葉を重ねて、責任は全て自分が被る。

 

今回もそうだ。

 

自分や他の役員のテスト勉強時間を確保するために、誰にも頼らず、相談せず、自身の身を削った。

 

そして大きく順位を落としても、『ヤマ勘が外れたようだね』などと嘘をつく。

 

なぜいつも、自分の利を優先しないのだろうか。

 

これでは、テストで1位をとってはしゃいでいた自分がとても幼く、とても滑稽に感じてしまう。

 

それと同時にいつか自分の手の届かない所に行ってしまうのでは無いかという、謎の不安感に襲われた。

 

ミコは無意識に耀の袖を掴んでいることに気づいた。

 

ハッとして手を離した衝撃で耀のPCが動き、スリープ状態になっていた画面が点灯した。

 

画面には何かの動画再生が終わって、グレーアウトした状態であった。

 

ミコは数秒の葛藤を経て、少し顔を赤らめながら口を開いた。

 

「ふ、風紀を乱す動画かどうか検閲する義務があるから...」

 

ミコは耀の耳についているイヤホンをそっと外して自分の耳に装着した。

イヤホンは耀の温もりを残しており、そのイヤホンを装着したミコは更に顔を赤らめながら、動画の再生ボタンを押した。

 

その瞬間、パッヘルベルの『カノン』が流れ出した。

 

「なんだ、ただのクラシックか」

 

ミコはそっと停止ボタンを押そうとした瞬間、暗転していた画面が変わった。

 

画面には新生徒会が発足し、耀が戻ってきた後に役員全員で撮った記念写真が写っている。

 

どうやら、動画の内容は5分程度のフォトムービーのようである。

ミコはモニターに映し出される、写真たちに釘付けになる。

 

生徒会役員のチェス大会で耀が優勝し『初代王者』と書かれたタスキをかけてピースしている所。

 

耀以外の役員が巨大な風船を膨らませるチキンレースをして、風船が割れた音が騒動となり、生徒指導主任から説教を受けている所。

 

石上が謎の女装をして額に『果肉入り』と書かれている所。

 

体育祭で石上と白銀が100m走で1位を取った所。

 

かぐやがスマホを購入した記念日に撮った所。

 

などなど、様々な思い出の写真がフォトムービーとして流れて来る。

 

写真の中のみんなはいつも笑顔だ。

そんな写真につられて、ミコも暖かい気持ちになって笑みが零れる。

 

フォトムービーの最後の写真として、先日の誕生日の際に耀に贈られたプレゼント達が映る。

 

そしてその写真の前に1つのメッセージが現れる。

 

『苦しい事も悲しい事も全てはみんなで笑って未来を迎えるために。手を足を脳を動かせ!』

 

耀が自身を鼓舞するための言葉だった。

 

きっとミコが今日、耀のこの姿を見つけるまでに何度もしんどい事があったのだろう。

その度に、このフォトムービーを観て自分を奮い立たせていたのだと思うとミコの胸がギューッと締め付けられる気がした。

 

『トクンッ...トクン...』

 

その瞬間、ミコの中で奇妙な音がする感覚がした。

 

ミコは褒められたり優しくされるとその人に対して好意的になってしまう、俗に言うチョロさがあった。

しかしこの感情は今までに感じた、好意的な感情とは全く違う感覚だということを直感的に理解した。

 

ミコ自身がこの音を自分自身の言葉を使って表すとすれば、『恋に落ちる音がした』と例えるだろう。

 

今この瞬間、目の前で眠るこの男に恋してしまったのだと気付かされてしまった。

 

ミコの中で気づかなかった頃にはもう戻れない、何かが動き出してしまった感覚から来る不安と、形容しがたい高揚感が彼女を包み、ミコは逃げ出すように準備室をあとにした。

 

 





いかがでしょうか?

本編がいよいよ大きく動き出しましたね!
ミコちゃんもついに自分の気持ちに気づき、石上くんも想い人にアプローチを始めました。

その中で耀はどう変わっていくのか、引き続きご愛読いただけると幸いです。

では、好評・お気に入り登録・感想をお待ちしております。
特に感想は執筆のモチベーションに大きく貢献しますので、明るい感想などいただけたら凄く嬉しいです( *´꒳`* )

ではまた次回!!ヾ( ˙꒳˙  )
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