ぽっと出マスター、二人三脚で人理修復せざるを得なくなりました   作:4j

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こんにちは。
随分間が空いてしまった。すみません。
おおよそのプロットはあったんですがそこに繋げるまでの細かいところとか、キャラの特徴とか調べながらやると時間かかってました……。

FGOの話をすると、色々まさかでしたな。
初っ端ストーリーボイスでボロ泣きしたと思ったらそこから真顔展開でした。千里眼持ちが呆れるのもそらそうよ。
閻魔亭ってこんなだっけ……と思いながら女将を愛でています。
7月の新イベ楽しみ!!そしてもうことごとく冥界絡み!!もうずっと冥界!!これはやばいの待ってる予感しかねえ!!!


というところで続きをどぞ。


陽気なる闖入者

 

 地面から突き上がる茨のような槍を、身を翻して回避する。上空から矢の雨を降らしてもその二騎は難なく打ち落とした。

 その姿はどことなく戯れるように、弄ぶようにも思われ、気紛れに矛先がジャンヌへ差し向けられることから、やりにくそうに、面倒そうに目を細めていた。

 

「──マシュ、極力マスターたちとミス・ジャンヌから離れないように。彼らは君たちにちょっかいをかけるのが好きらしいのでね」

「わ、わかりました!不肖マシュ・キリエライト、全力で皆さまをお守りします!」

「…申し訳ありません、私が不甲斐ないばかりに…」

 

 使命感に燃えるマシュを他所に、ジャンヌは唇を噛み旗の柄をギュッと握る。

 サーヴァントとしては正直ジャンヌのほうが先輩だ。そもそも積み重ねた歴史も経験も違う。しかしこの場に限っては、力を失った彼女にとっては残念ながらただの丈夫な人間と言ってもいい。故にこそ、なお歯痒いのだろう。

 

 同時に襲い掛かる二騎のサーヴァントは入れ替わり立ち替わり気ままに攻撃を仕掛けてくる。一環としてこちらを揶揄うような、嘲笑うような動きだ。

 しかしマシュの盾がその刃を弾けば、どこか表情を変えた。盾越しに間近でそれを目撃したのだから、見間違いではないだろう。

 

「……なんでしょう。そこの娘、とてもイヤな感じがするわ」

 

 言葉通り、不快そうな声音でカーミラは言葉を漏らした。

 見た目は年端もいかない少女。だというのにその身体から繰り出される戦闘技術は到底この少女が積み重ねたとは思えぬ熟練さ。

 拭いされぬ違和感に何者かと尋ねればその答えは思わぬところから返された。

 

「デミ・サーヴァントでしょう。人間とサーヴァントが入り交じった異質な存在です」

 

 口を開いたジャンヌ・オルタは失策だったと息をついた。

 呆れたように二騎を諫める姿を見ながら考えるのは、当然「なぜ彼女が知っているのか」ということ。

 マシュのことをよく知るレフ・ライノール経由かなと推測はできる。ただしっかり暗躍してたのは次のセプテムだった気がしている。アルテラに真っ二つにされて呆気なさに唖然とした記憶がある。オルレアンから動き回ってたっけ。全部ジルとジャンヌが仕切ってなかったか。

 …まあそこまで問題はないと信じよう。

 

 しかし状況が変わってきた。

 差し向けて来たのはニ騎のみだったので特になんと言うこともなかったが、どうも雲行きが怪しい。

 残りのサーヴァント含め一斉に動かれるとさすがに分が悪い。計五騎、最悪ファヴニールも呼ばれたら確実に劣勢を強いられるだろう。そもそも一堂に会している時点でピンチだ。

 早々に離脱してしまいたいところだが、そんな隙を作れるだろうか。気が変わって全力を向けられたら不味い。

 

 さて、どうするかなあ。

 傍らの少年少女、そして自分のサーヴァント、もう一人のサーヴァントの様子を確認する。

 ただの一般人のペーペーが何か動いたとて、即察知されて下手すりゃ返り討ち。適当に撹乱できて、いい感じに向こうの脚や検知を掻い潜ることができたらいいが、そんな策も手段も持ち合わせていない。

 こんな時に念話とか使えたら敵に知られず意思疎通できていいんだろうなァ〜そんな技術もないしなァ〜。

 

 と、愚痴混じりにヤキモキしていたところだった。

 求めていた横槍が入ったのは。

 

 

「──優雅ではありません。この街の有様も、その戦いかたも。思想も主義もよろしくないわ」

 

 

 沈黙を破るように眼前に飛び出したのは硝子で出来た一輪の薔薇。

 続けて姿を現したのは薔薇を冠する大きな帽子を被った可憐な少女だった。

 そうか、この時点での介入だったか。これは状況が動く気配!ふと緊張の糸が緩むのを感じた。

 

「あ…、あなたは…!」

 

 敵方のセイバーが目に見えて狼狽える。ジャンヌ・オルタの詰問も耳に入らぬのか黙り込んだ。重ねられた詰問にその口から語られた彼女の名は──フランス王妃、マリー・アントワネット。

 真名を明かされたにも関わらず、彼女は満面の笑みを湛えスカートの裾を摘んで優雅に膝を折った。自身を知るらしい騎士に挨拶を返すように。

 

「私をご存知なのね、嬉しいことだわ!でも、残念ながら友好的にご挨拶し合える場ではないみたい」

 

 王妃は周囲を見渡して首謀たる黒いジャンヌに目を留める。

 

「貴女はそんなに美しいのに、血と憎悪でその身を縛ろうとしている。善であれ悪であれ、人間ってもっと軽やかにあるべきじゃないかしら?」

「黙りなさい。宮殿で蝶のように花のように愛でられ、何も分からぬ間に首を断ち切られた王妃に、我々の憎しみが理解できると?」

 

 鈴の音のような声を受けてジャンヌ・オルタが唸る。

 暗く澱んだ瞳で睨まれても彼女は全く気に止める様子もなく純粋無垢な表情で問いかける。

 確かにそれはわからないが、それは八つ当たりに過ぎないのだと。

 

「…よろしい、ならば貴女は私の敵です」

 

 その言葉と共に続々と魔物が出現する。空にはワイバーン、地にはゾンビたち。勢揃いである。

 オイオイありがたき助太刀かと思いきや修羅場に格が上がったぞ!やめてくれ!突然の緊張状態に付いて行けない。

 

 ガラスの馬がゾンビを蹴散らし、エミヤの矢がワイバーンを射抜いてゾンビの群れに撃ち落とす。その間を縫うように振るわれたヴラドの槍をジャンヌの旗が捉えて鈍い音が鳴り、カーミラが落としたアイアンメイデンをマシュの盾が受け止め弾いた。とうとう参戦してきたセイバーの剣をオルタが迎撃し、ライダーとジャンヌ・オルタを除くサーヴァントがフルで応戦する。

 混戦もいいところである。

 

「やはりここは戦場、お話しすることだって難しいのね」

「いやめちゃくちゃさり気ないけど喧嘩売ってらっしゃいましたよね王妃さま?」

「Non! そんなかしこまらず、ぜひマリーと呼んでくださらない?」

「わかりましたマリー王妃!」

「だめよ! もっと可愛いらしい呼び方を所望しますっ!」

「え……マリー…ちゃん、とか…?」

「まあっ!親しみを込めて呼ばれるのって、こんなに嬉しいものなのね♪ 今後もそう呼んでくださるかしら?」

「マリーちゃん!マリーちゃん!」

「うふふ、どうもありがとう!」

「……壊れていく…僕の中のアントワネット像が壊れていく…」

 

 こんな気の抜ける会話を交わす中も攻撃の手は止まないし迎撃は続く。

 ロマニが頭を抱えている気がするがこちらだって頭を抱えたい。王妃が自分で言ってたけど、ここ戦場ぞ?

 藤丸の受け答えも実に呑気だ。案外余裕あるな。そういや初期って所構わずふざけムーブな選択肢あったわ。ツッコミ入れなきゃよかったかもしれん。

 

 遠目に見るライダーの動く気配がないことが不安要素として強い。あの聖女サマ、お淑やかに見えてなかなかな戦闘力をお持ちだからなあ。数で向こうが勝る以上、今のこれは均衡とは程遠い。向こうが本気を出していないうちにまじで早めに撤退したい。

 

 粘ったおかげか、魔物を掃討し対するはサーヴァントのみとなった。

 マシュは息を切らしている。マスター二人を護りながらだ、神経も使うというもの。しかし実際敵方も決定打は与えられず、忌々しそうに舌を打っていた。上々だろう。

 ガラスの馬から降り立ったマリーは戦場を見渡す。そして最後にジャンヌ・オルタに目を留める。

 

「貴女は世界の敵でしょう?まずは貴女が殺めた人々への鎮魂歌が必要不可欠、そう思わないかしら?」

 

 変わらぬ優雅さを見せるマリーは、そう言ってにこりと微笑みウインクした。

 

 

「──お待たせしましたアマデウス、あなたの出番よ!」

 

「やれやれ、僕の演奏は安くないんだぜ?けどマリア、君が望むなら喜んで奏でよう!──死神のための葬送曲(レクイエム・フォー・デス)!」

 

 

 突如姿を現した細身の男が、そのほっそりとした指先を指揮棒を振るように揺らした。現出した光の楽団がそれぞれ手にする楽器を操り音を奏でる。

 それはただの演奏ではない。魔力を乗せ指向性を持った旋律はその音が届く範囲の複数の敵に対し、聴覚を介してその行動を阻害する。

 

「…! 今のうちに退避するんだ!」

「了解!」

 

 耳や頭を抑え苦悶の表情を浮かべるサーヴァントたち。

 その姿を捉えたロマニの号令に従い、それぞれ離脱行動を開始する。自ら走ろうと姿勢を取り、横合いから掛けられる声に首だけで振り向いた。

 ばちり、と視線が合ったと思えばヒョイと首根っこを捕まれ脚がぷらんと宙に浮く。ん?デジャヴ?と意識が過ぎった直後、前にもあった腹部の圧迫と腰に回された腕の感触に数日前の記憶が蘇る。

 悟ると同時にドン!という音を立てて目の前の視界が急速に後方へ流れて行った。

 

 あっ、これ知ってるぅ〜。とある大阪の後ろから落っこちるタイプのジェットコースターに乗ってるみたいな感覚ぅ〜。

 いやーあれコース分かってても視界に入らない位置から落ちるの恐怖でしかないでしょと思って避けてたけど、案外乗ってみると楽しいやつね。今は楽しくないけど。

 

 なんかこう。一言言うとするならば。

 運び方ざっつ!また俵かよ!けどありがとね!酔いそうだが!!自分で走るより余程速いわ!どうもね!

 いやー絶叫系行けるタイプでよかったわ!!!

 って一言で言えなかったわ!ははッ!こんな状況だがツッコミは自由だろ!?な!!?

 

 下手に喋ると舌を噛むので何も言えねえのです。おのれ。

 

 

 

 

 

* * *

 

 

 

 

 街から離れ荒野へ逆戻り。再び地面に脚を付いたところで感謝しつつあわせてちょいと不満を垂れると「フン」と鼻を鳴らされました。

 うん、やっぱり雑だな?別にいいけどさ、一応わたくしマスターね?ご存知かもしれませんけど一応ね?もしかすると記憶の彼方に置いていかれてる可能性もありますので一応ね??

 

 ジト目で抗議はさせていただきつつ、話は戻して、とその場に集う顔を確認する。

 私と同じくアーチャーに担がれたらしい藤丸も無事、一人走ったマシュも無事。様子を見るに藤丸はお姫様抱っこだったらしい。耳まで真っ赤にして手で覆っていらっしゃる。なんでさ。

 マシュはデミ・サーヴァントなため通常の人間より体力も速度も出るということで遠慮したそう。アーチャーが、女の子なマシュを走らせるイメージがあまり無かったがまあ納得。ジャンヌはとあるサーヴァントの馬車で乗り合い。いいな、馬車。乗ってみたいよね。

 

 そして新たな顔が二人。

 大きな帽子に金の髪、可憐な容姿の女性と紫と金という派手なカラーリング衣装を纏う男性。

 

 フランス王妃、マリー・アントワネットに至高の音楽家、ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトその人だ。マリー王妃はいいとして、色んな意味でびっくりしたよね。どちらかというと"かのモーツァルト"として認知度が高い音楽家がクセありすぎて。

 とはいえ実際のところどういう人物だったのかはよく知らないのだが、今では【アマデウス】という別個の存在として認知をしている。不思議なもんだよね。

 

「キミ、失礼なこと考えてるだろ?」

「そんなことないよ、超が付くほどの有名人で面食らってるだけさ」

 

 彼の勘の良さというか、感じの良さは恐れ入る。耳がいいとか言うレベルじゃないよ。失礼な、君のことは好きだ。本当だよ?

 

 何はともあれ、一気に二騎もサーヴァントが味方になってくれたのはありがたい。どちらも戦闘系ではないけれど、機動力のあるライダーと感知にも長けたキャスター。

 

 アマデウスって魔術齧ってたっけ…?いやでも確かこの時代における魔術王の器だったしその影響で行使できそうな気がする。当人からすると不快な実績かもしれないが、音で攻撃とか普通の人間だとできなさそうよね。

 

 「音とか武器にして闘ってそう!多分後衛のバフ要員!銀河の歌姫的な!」と無辜の民的な偏見で理想を押し付けられてる可能性も…なくはない。無辜の怪物だっけ。

 ド偏見で役割を押し付けられた例でパッと思い浮かぶのはアンデルセンだけど…ああ、直前に対敵したヴラド公とカーミラもそうだった。

 

 役割を押し付けられた例は妖精王オベロンもあるけど、あれは違うんだっけ。当人も苦労するややこしい性質が強烈すぎて正確なところはよく分からない。ふむ、やはりあまり覚えていないものだな。

 この特異点をクリアしたら改めて記憶の掘り起こしをしたほうがよさそうだ。

 

 

 

 

 

* * *

 

 

 

 

 

 夜が明けてから、深い森を抜けて次の街を目指す。

 昨晩はあまりよく眠れなかった。というのも、やはりというか、襲撃にあったからだ。

 現れたのはワイバーン、骸骨兵のスケルトン。そして、昼間に遭遇し姿を見せていたライダー。

 

 真名、聖女マルタ。

 狂化されてはいたものの聖女なだけあって、な彼女はギリギリのところで理性を保っていた。敵対こそ免れなかったものの、有力な情報を得ることができた。

 大量のワイバーンをけしかけてくることからも察するように(私は記憶からもわかっていたが)強力な竜種が敵に回っている。

 それはファヴニール。並大抵のサーヴァントでは傷一つ付けられない。竜殺しの異名を持つサーヴァントでなければ。

 つまるところ、すまないさんを探せ!である。

 

 

 

 味方サーヴァントが二騎増えても、この特異点を解消させるにはまだまだ駒が足りない。

 情報収集には人手が増えたので、竜殺し含め他にもはぐれサーヴァントがいないか捜索のため二手に別れることとなった。

 向かうのは、リヨン。編成は藤丸、マシュ、ジャンヌ、エミヤ組(そしてフォウくん)と私、オルタ、マリー、アマデウス組だ。まあ妥当というかこうなるよね。

 

 道中寄った町での調査で、既にリヨンが滅んでいることがわかっている。かつてリヨンに住んでいた住人曰く、大剣を持つ騎士が守り神として親拝されていたと。

 セイバーなのに剣を持たないとか、別クラスなのに剣が武器だとか、セイバーってなんでしたっけを地で行くのであまり頼りにはならないが、この第一特異点で大剣を持つサーヴァントはジークフリートくらいしか思い浮かばないのでジークフリートであることを願おう。

 

 

 

 

 

「…こりゃ酷い。尽く破壊されて跡形もないじゃないか」

 

 脚を踏み入れたリヨンの街を見て思わずと言ったようにアマデウスが声を漏らす。

 アマデウスが言うのももっともで、街は見るも無惨に破壊されていた。

 日本では見慣れない石造りで、歩く道一つにしても丁寧に積み上げられた石畳だ。これぞ中世、というべきか(中世を知るわけはないのだけど)歴史を感じる荘厳な街なのだろうと伺える。さぞ、綺麗で美しい街だったのだろうけど、人の気配はおろか瓦礫の山となった街を見るのはなかなか心に来るものがある。

 

 敵の巣窟かと思いきや、案外静かだ。

 てっきり踏み込んだ途端にワイバーンやらスケルトンやらに襲われるかと思ったのに。

 

「サーヴァントの気配はあるの?」

「…そこら一帯を走査してはいるけど、それらしい魔力は感知できないね」

「ここにはいないのかしら…」

「どうだろうね。僕も探ってはいるけど引っ掛からないな」

 

 サーヴァントたちと辺りの様子を確認しながら街の街の奥へと足を踏み入れる。

 奇妙なほどに静かだ。ここのところ、街といえば廃墟に加えて敵だらけがデフォルトだったもので。静かすぎる廃墟っていうのは一気に不気味さが増す。夜じゃないだけマシか。

 

 

 

 

「──?」

 

 

 耳が音を拾う。

 この戦場の喧騒に似つかわしくない音。なんだろうと耳を澄ませた。

 ……声だ。柔らかく滑らかで、それでいて力強さも感じる美しきテノールボイス。

 

 ──これは歌だ。

 声音には甘やかさが潜んでいる。どこまでも届き、いつまでも聞いていたくなる。

 うた。ああ、なんて美しい。これほどまでに心惹かれる歌声は聴いたことがない!

 嗚呼。なんて、なんて、なんて素晴らしい!!!

 興奮して体温が上がる。声が上擦る。熱が籠り涙がこぼれ、息が上がる。

 

「おい、マスター」

「…なんてこった。これは攻撃だ!オイオイ、この僕を前に歌で勝負してくるなんて!」

 

 ああ、もっとひたっていたい。

 どこ?どこにいるの?すてきなあな た。

 うたって。きかせて。とろかして。もっと、わたしに。うたをきかせて。

 

「……てめえ、易々と懐に入れると思うなよ」

 

 鈍い不協和音。

 素晴らしき舞台に相応しくない異音。ああ、じゃましないで。うたがとぎれてしまう。

 

「…ったく、世話の焼ける」

 

 バチィン!

 鋭い痛みが額に走る。衝撃に、星が瞬く。

 

 

「──目ェ覚ませ、悠月」

 

 

「………っ、い、っだァァアーーー!!!?」

 

 

 激しい痛みに思わず額を覆う。

 あまりの痛みに涙が出てきた。ジンジンどころか頭がガンガンする。なに!?めっちゃ痛いんだけど!?なんか刺さった!!?

 

「ふむ、確かに有効な手段だ。魅了には物理的なインパクト!しかし強烈過ぎるデコピンだ、僕は味わいたくないなあ」

「もう、アマデウス!そうやって茶々を入れるものじゃないわ! 悠月さん、しっかりなさって」

「悠月ちゃん!意識はあるかい!?」

「……はあ…?一体どういう……」

「……フン、とっとと正気に戻れ。…敵だ」

 

 涙を拭い辺りを見渡せば、マリーに顔を覗き込まれアマデウスは横目でこちらを窺い、傍らのオルタは槍を正面に向けていた。

 そしてその槍の矛先には、黒いマントを纏う仮面の男がいた。

 

「──ッ、ファントム──!」

 

 思わず口をついて出たがハッとする。

 しまった、オルレアンで初対面だよね、真名看破すぎた!!

 すぐさま誤魔化すようにどういう状況なのか問いただせば、アマデウスがどこからともなく流れるメロディを検知した傍から私の様子がおかしくなり、攻撃を察知したオルタが槍で薙飛ばしてからデコピンを食らわせたらしい。

 デコピンなのに痛すぎる。ケルトは指先にかける力すら強烈なのか?にしてもみんなには心配とご迷惑おかけしました。

 

「それにしても、彼方の音も拾える僕が感知できないとはね」

「…大方気配遮断だろう。直前まで接近を悟らせんところからアサシンか」

「ああ、クー・フーリンの見立て通りだ。敵はアサシンのサーヴァント。魅了スキル持ちだから、充分注意してほしい」

 

 各々の見解が飛び交う。

 確かにファントム・ジ・オペラには魅了のスキルがあった。宝具の効果は…弱体ダウンだっけ?

 油断した。恐らくファントムの魅了スキルにやられたんだろう。

 

 ファントムはゆっくり顔を上げくつくつと笑う。

 

「ああ、憐れな。あのまま心奪われていれば楽に死ねたろうに。無粋な輩がいたものだ」

「うるせえ。正気を失うのがオチだろうが」

「歌に震え歓喜で狂気に堕ちるなら、それは幸せなことだろう?」

 

 淀みなくそのサーヴァントは言葉を交わす。

 …待て待て、ちょっと待て。ファントムって歌うように会話して意思疎通不可だったはず。なんで会話できる。ファントムじゃないのか?

 

 仮にファントムだとして。彼がまともに会話できるときって不味くなかったか。

 

「…ここは私が黒き聖女より任された町。ここは既に私の支配下だ。…さて、どうする?」

 

 仰々しくお辞儀をし、顔を上げて嗤う。

 仮面の歪んだ笑みと同じく、本当の顔でもそれは弓なりに歪む。

 

「…これは好機かもしれない」

 

 ロマニの声がする。構えを解かぬまま続きを促す。

 戦力であるサーヴァントを野放しにしておくとは思えない。それはつまり、この街に目当てのサーヴァントないし潰しておきたい何かがあるのでは。

 

「…そうだとしたら、撃破以外ないよね」

「そうだわ。彼には申し訳ないけれど、ここで倒れてもらいます」

「おお、珍しくマリアもやる気だね」

「当然よ!悠月さんが襲われたのだもの!お返ししてあげなくちゃね!」

 

 マリーの目配せとウインクで、少し緊張が緩んだ。

 藤丸サイドでも敵に襲われてるかもしれない。早めに合流したほうがよさそうだね。

 

 

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