デンレゼ過激派転生者   作:翁。弁当

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ブラッドバス

「ったぁ~……」

 

 すりすりと手首を擦るアサ。

 度重なる不慣れな反動制御は、その関節に鈍い痛みを蓄積させていた。

 重篤なことにならないようにジョージが適当な所で切り上げたが、回復するとしても今の痛みは変わらない。

 

「最後は結構上手くなってたんじゃないか?」

「そりゃあ、元がド素人だからね……」

 

 レベル1とレベル80で成長性を比べたら、そりゃあ前者に軍配が上がるというもの。

 そもそもの伸びしろが違うのだから。

 

「ふむ……結構良い時間帯になって来たし、ホテルに戻るか。氷嚢か何か借りられるかもしれん」

「そうしよう」

 

◆◇◆◇

 

 どうにかこうにか保冷剤を借り受け、備え付けのタオルで上手い事固定する。

 と、言う風な事ができた時には、既にアサの手首から痛みは引いていた。

 

「人騒がせな……」

「しょうがないでしょ」

「ま、そうだけどさ」

 

 この件については、これでもう終わりだ。

 

「さて……では、お風呂の使い方をちゃんと予習しておきましょう」

「へ?」

「ついて来い」

 

 さて、米国……というか日本とローマ(古代)以外の入浴文化は、大抵粗略なものである。

 この辺をすり合わせないから迷惑客になるのだ。己は異国にやって来た外様であり、郷に入っては郷に従えの心意気を忘れてはならない。

 

「まず風呂場だが……排水口は無い」

「え?」

「排水口があるのは、ここ」

 

 バスタブの中を指差して示す。

 事実、そこには確かに排水口があった。

 

 そして、そこ以外にはどこにもなかった。

 

「え……っと。これはどうやって……?」

「全部バスタブの中で済ませます。それもシャワーを浴びるだけが前提です」

「あぁ……なるほど」

「そのため、飛沫が外に飛んで仕舞わないように、ここのカーテンを使いましょう。内側に垂らす形なのがポイントです」

「へー……」

 

 アサが何か考え込むような表情になる。

 分かるぞ、これで綺麗になったと思えるのか疑問なんだろう?

 

 だがアメリカ人はこれで綺麗になったと思えるんだ。

 連中はそういう人種なんだ。悔しいだろうが仕方ないんだ。

 

「すなわちこっちの洗面所の方に出来るだけ水しぶきは飛ばさないように」

「……これって、ここ以外にトイレないんだよね?」

「無い。水回りを一極集中させるのはよくある事だ。むしろこっちが多数派だ」

 

 まあ、一応部屋の外に出てしばらくすれば共用トイレも無くはないが、たかがトイレの為に費やす程の労力なのかと疑問に思うぐらいには遠くにある。

 

「当然大浴場なんて概念からして存在しないし、総じて水回りについてはとんでもなく不便。まぁ、旅行に来るぐらいは精々だわな」

「……じゃあその、私から入って良い?」

「もちろん。色々あったからな。ゆっくり旅の垢を落としてくれ」

 

◆◇◆◇

 

「……どう思う?」

「勝ったな風呂入ってくる」

「ここお風呂」

 

 簡素なユニットバスの中で頼りないシャワーを浴びながら、アサとヨルは作戦会議をしていた。

 

「しかし、実際完璧だろう」

「そうかな?」

「ナユタはいない、クラムボンもいない、部屋の鍵は下着の中に埋めて発見不可能だから外出もできない、風呂の順番でジョージが先に寝ることも無いし他で済ます事もできない、ドアノブには『入ってくるな』の札も掛けた、当然ドア自体も施錠済み、バスローブも勝負用下着もそろえてあるし、避妊具(ゴム)もこっそり持ち込んでいる……むしろどこに瑕疵があるんだ?」

「……わ、私自身、とか?」

 

 アサの視線が行くのは、お腹周りと腰回り。

 

 ここ最近は随分と楽しいことが多かったのでご飯が進んでいたし、そもそも未だ第二次性徴期の只中にあるアサの体の肉付きはそう良いものでは無い。

 言ってしまえば、お腹がちょっと出ているし、ジョージの『タッパとケツがデカい女』という好みに合致していない気がするのだ。

 

 大体、ちょっと肌が荒れてるかもしれないし、見えない所にほくろとかあったら恥ずかしいし、それにこんなシャワーで綺麗になったとは……などとぶちぶち言い始めたアサをヨルが喝破する。

 

「なぁにを言っとるか! ジョージがその程度で手を引く様な奴ならそもそもこんなにお熱にならないだろうが!」

「うっ……」

「それにお前の顔は私が見込んだんだぞ! この偉大なる戦争の悪魔が、向こう50年はこの顔でもいいだろうと納得したんだ。私と違って顔に傷も無いし、ちょっと頬を赤らめて潤んだ瞳で迫れば一発だ!」

「そ、そうかもしれないけど……ていうか、なんてヨルはそんなにサポートしてくるの?」

 

 今から考えてみると、ヨルの行動は結構唐突だった。

 そりゃあ千載一遇の好機というのもあるのだろうが、だとしてもそれをわざわざ提言して、行動のサポートまでしてくる理由が分からない。

 

 大体後から来た寄生者とはいえ、自分の体を『そのように』されれば不快に思いそうなものだ。

 

「特別、合理的な理由がある訳でもないんだが……アサ」

「……何?」

「お前、将来ジョージ以外で男ができると思うか?」

「……」

 

 なんだろう、かなり酷いことを言われた気がする。

 いやしかし、何と言うか、こう……説明をするのに段階を踏む必要があって、その一段がこれなのかもしれない。

 

 そう自分を落ち着けたアサは、無言で続きを促した。

 

「最初に『適当な所で離れておけ』とか言った手前、あんまり胸を張れないんだが……今更アイツ以外とくっついて同棲して結婚するって、もはや生活水準を下げるだけだろ」

「……あ、そっち?」

「いやアサが行き遅れそうってのももちろんあるが」

「ちょっと?」

 

 しかし、ジョージという男が、少なくとも『要素だけを見れば』割と優良物件なのは前述の通り。

 

 デビルハンターという危険で不安定な仕事ながら甲斐性十分。顔はなかなかでスタイルは可変(?)。気も回って愛情表現も多い。これからの時代に必要な『暴』と『知』の備えも突出しており、守られるにせよ肩を並べるにせよ頼りがいの塊だ。

 何より付き合いが長くて信頼があり、既に同棲していて特段の不便や食い違いを感じたことは無いのが一番大きい。同棲期間はそう長くないが、致命的な齟齬はこれぐらいの期間でも簡単に出てくる。

 

 遵法精神が薄い所と、よくわからない所で謎の行動力が暴発する所以外に欠点が無いのだ。

 

「この調子で行くと、仮にジョージ以外とくっつこうとしても、ジョージと比べてすぐに破局……ってのを繰り返して、最終的に処女を拗らせそうだ」

「……別にそんなことは無いでしょ。私、結構可愛いし」

「いやまあ、確かにアサは顔が良いから、ちょろっと遊ぶぐらいはされるかもしれんが……それで更にハードルが上がって結局は同じことだ。お前の七面倒臭い性格を正面から受け止めて肯定的に捉えてくれて、かつここまで相性が良くて、おまけに戦争の悪魔(わたし)なんて厄介ごとを引き受けられるのは多分ジョージしかいない」

「最後のはヨルのせいじゃん……」

「変えようがない事実だから仕方ない」

 

 で、とヨルは前置きして。

 

「そうなると肉体を共有している私も、『処女を拗らせた行き遅れ女』という事になってしまう」

「……ひょっとしてそれが一番大きくない?」

「私の利得、という意味では確かに一番大きいが……適当な所で処女を切っておけという老婆心も本音だぞ」

 

 考えようによっては、それができずに推し活で逃避していたのがマキマだったのかもしれない。

 

「私からすれば、今は核兵器復活までのモラトリアムだ。今だからこそ出来る事はしっかりやっておかないとな」

「……それ、終わったらどうするの」

「さぁな? 打倒チェンソーマンは未だに私の目標だが……核兵器復活でどれほど力が戻るかはやってみない事には分からん。結果次第で次の行動はいくらでも変わるだろう」

「私の体で変な事しないで欲しいんだけど」

「お前の体でお前が『変な事』するのはこれからなんだぞ……ん? 待てよ……」

 

 突如、ヨルがいきなり何事かを考え始める。

 アサは何か嫌な予感がするが、それでもひとまず待つことにした。

 

「……いや、今は良いだろう」

「……何だったの?」

「大したことじゃあない。情けは人の為ならず、という言葉を実感していただけだ」

「……?」

「なぁに、痛い目を見るのはジョージだけさ……」

「なお気になるんだけど」

「大丈夫だ、私を信じろ」

 

 自分で自分の事を信じろという奴ほど信じるに値しない存在もいないが、しかしヨルは色々とサポートもしてくれていたし、多少なりとも付き合いがある。

 

「……まぁ、良いけど」

 

◆◇◆◇

 

 乏しい設備ながらも、アサとヨルのダブルチェック体制で全身を磨き上げ、バスローブと勝負下着で風呂から上がった。

 

「よ、ヨシ……!」

「気を鎮めろ、アサ。その調子だとジョージが上がってきた時にはまた汗をかいているぞ」

「後の方が良かったかな?」

「それだとジョージが先に寝る可能性がある」

 

 詰将棋の如く逃げ道を封殺していくヨルは、実に手慣れた風(・)であった。

 

「……ていうか、ヨルはどうするつもり? まさかずっと横で監督するなんて言わないでよね」

「するわけないだろ……適当に眠っておくさ」

「ならいいけど……」

 

 ヨルは敢えて言及しなかったが、仮にアサが後から『事』を回想した場合であれば、ヨルは普通にそれを覗き見できる。

 そもそも直近……具体的には、一両日ぐらいの記憶であれば割と簡単にアクセスできるので、ぶっちゃけライブで見るかDVDで見るかぐらいの差しか無かったりする。

 

 もちろんこれらはヨルだけの特権ではなく、アサにも可能な事でしかない。

 だからこそ、水族館デートの事をアサも知っているわけで。

 

 幸か不幸か、アサがその事実に気付くことは無かったが。

 

「……いや待って、そもそも私ってどうしてたらいいの?」

「大体わかるだろ」

「分かるけど! それでも不安じゃん! 模範解答が知りたいじゃん!」

「めんどくさい奴だな。ジョージの事だし、全部お任せで大体イイ感じにやってくれるだろ」

「なにその投げやりな感じ!」

「事中の女なんてそんなもんで良いんだよ」

「大体ジョージだって知らないんじゃない!? そりゃあ知識ぐらいはあるだろうけど、実践経験が無くない不安じゃない!?」

「多分あるだろ」

 

 ぴし、とアサの体が固まる。

 

「い、いやいや……冷静に考えてよヨル。ジョージがあの姿になってから一ヵ月も経ってないんだよ? それ以前のジョージって8歳とか、成長して14歳とかだったじゃん! そんな状況で一体誰と……」

「それは私もそう思うが、そうじゃないとああはならないと思うんだが」

「……」

「うぉっ」

 

 アサは戦争の悪魔みたいな目をしていた。

 なんならヨルよりも戦争の悪魔らしい目だった。

 

「べ……別に? ジョージが誰とそういうことしてても私には関係ない……とまではいわないけど、それはジョージの勝手な訳だし? 私が口出しするのはちがうっていうか?」

「まあ英雄色を好むと言うしな」

 

 千人殺せば英雄なので、ジョージも多分英雄だろうとヨルは雑に考えていた。

 

「ふ、不潔……」

「お前が言えたことじゃないぞ」

「うっさい!」

 

 それでもアサは、『臨戦態勢』から着替えることなく風呂場から上がった。

 

◆◇◆◇

 

「あ、あがったよ~……」

 

 おずおずとドアから身を乗り出しつつ、ジョージに声をかける。

 しかし待てど暮らせど、返答は無かった。

 

「……?」

 

 首をかしげるアサを尻目に、ヨルは玄関のドアを確認する。

 やはり鍵は掛かったままだ。特に服の中に埋めた鍵が持って行かれた気配も無い。

 

「おかしいな、部屋の中には居るようだが」

「だよね?」

「……まさか先に寝たか?」

「お風呂も入らずに? 今日は結構動いたし、汗もかいたでしょ」

「それもそうか」

 

 スリッパでペタペタと廊下を歩く。

 今アサが装着しているのは、だいぶ攻(・)め(・)た(・)下着とバスローブ、そしてこのスリッパだけだ。

 

 あまりにも頼りない。

 エアコンで冷えた空気が、スカスカなアサの体表をするりと撫で、背筋を震わせる。

 風呂上がりとはいえ、シャワーだけでは芯まで温まらない。

 

 僅かな心細さがアサの胸中にそろりそろりと忍び寄って来た頃、ようやくリビングに辿り着いた。

 奇妙な心臓の高ぶりに任せてドアを開ける。

 

 明るい照明に照らされた部屋の中で、見覚えが無くはない女がジョージを押し倒していた。

 しかも、その女はジョージの首元に食らいついて、かなり激しく体を身もだえさせていた。

 

「……誰よその女!!」

 

 アサが上げた絶叫に反応して、女が紫色の髪を揺らして反応する。

 ちゃらりと揺れる耳飾りと、ヨルと同じ同心円状の瞳が特徴的なその女は、感情を感じさせないのっぺりとした面持ちで、アサに振り返った。

 

 その顔を見て、ヨルが声を上げる。

 

「お前は、死の悪魔!」

「あ、ちょっとぶりだね。戦争……じゃなくて、ヨル」

「……死?」

 

 あまりにも突拍子が無い話に、アサの中が一瞬疑問で埋め尽くされる。

 

 悪魔は名前を冠して生まれ、その名が恐怖されているほどに力を増す。

 であれば『死』なんてものは最も力ある悪魔と言ってもいいだろう。一体どれほど恐ろしく醜悪な見てくれなのか興味が無くもないが、目視できるほどの距離にいればそのまま死んでしまうこと請け合い。

 

 目の前にいる、ともすれば自分と同年代かもしれないこの女が、それ?

 

 いや、そんなことよりも。

 

「ちょっとそこどいて」

「アサちゃん、あの時は上手くできなかったね」

「いいからどいて!」

「うん」

 

 割と素直にジョージからどいたシーちゃん。

 遮蔽が無くなったので、アサはジョージに銃を向けようとして……ジョージがずっと沈黙しっぱなしな事に気付いた。

 

「……ジョージ?」

「……」

「……えっ、あれジョージ死んでない!?」

「おぉ、またジョージが死んでいるぞ!」

「そんな頻繁に死ぬものだっけ?」

 

 死の悪魔が言う事ではないが、確かにジョージはそうそう死なない。

 

 単純な生命力が強いのもそうだが、何よりも再生力が高い。

 銃の悪魔のそれらをほぼ丸ごと持って来ている上に、武器人間としての蘇生まであるのだ。

 輸血パックが1つあれば、それだけで残機が5つは増える。

 

 そのジョージが死ぬという事は、よほど滅茶苦茶なダメージを受けた以外に他ならない。

 

 そんな大ダメージを出せるのは、そしてそもそも状況からしてほぼ確定で犯人なのは。

 

「死の悪魔……ジョージに何をしたの?」

「シーちゃんって呼んで欲しい。けど、今言う事じゃないか」

「……」

「話をしよう。アレは今から36分……」

 

◆◇◆◇

 

 アサが風呂に入っている間、ジョージはナユタと電話をしていた。

 日本はもう日も昇ってしばらくした頃合いで、岸辺はすっかり眠っているらしい。

 

 かくいうナユタはずっと起きていた。

 知らない場所で知らない人、それも異性とひとつ屋根の下で眠るには、ナユタはまだまだ弱いのだと自認していたからだ。

 実情はともかく、岸辺を相手にするなら戦力的には妥当な判断と言える。

 

 ナユタに限って言えば、別にそこまで睡眠が重要と言う訳でも無いのだし。

 

 ちなみに、携帯は岸辺から借りているらしい。勝手に。

 もちろんジョージも延々長電話ができる訳でもないのもあって、アサが風呂から上がってくるまでの暇潰しみたいなものだ。

 

「それで、アサがいきなり射撃場に行きたいと言い出してな。大方、ヨルに何かしら入れ知恵されたのだろうが」

『まあ、日本じゃ撃てないからね』

「俺がいれば撃てない事は無いが、まあ面倒だしな」

 

 なんの事は無い、今日あった出来事ぐだぐだと垂れ流し合うだけの時間だ。

 それだけの事が奇妙に心地よいので、明確な区切りが無ければ、本当に朝まで電話していたかもしれない。

 

 しかし、奇妙な闖入者によって突如として電話は突如として打ち切られる。

 

 ガチャ。

 

「ん?」

『? どうしたの?』

 

 ドアの音がした方を見てみれば、なんと最近やたらと見慣れた地獄へのドアが。

 そして中から、シーちゃんこと死の悪魔が歩み出てくるではないか。

 

「……ナユタ、一旦切る」

『分かった。気を付けて』

 

 恐らくナユタは何も分かっていないが、ジョージの声色からただならぬ事態だと察したのだろう。

 素直に自分から電話を切った。

 

「……久しぶり、って程でも無いか」

「そうだね。私からすれば刹那ですらないよ」

「まあ、なんだかんだで……あー、1週間ぶりぐらいか?」

「そう、それ」

 

 どれ?

 

 という疑問がジョージの顔にありありと現れていたのだろう。

 シーちゃんは言葉を繋ぐ。

 

「あれから1週間強の時が過ぎた……今の私は、まさにベストコンディション」

「あ? たかが1週間でなにが……」

 

 1週間。水族館。ベストコンディション。

 色々な単語がジョージ脳内を駆け巡り、そして1つの結論に至る。

 

「……もしかして、血ぃ吸いに来た?」

「そう。たーべちゃーうぞー」

 

 これが物理的な意味でなければもう少し色気もあるのだが。

 

 シーちゃんはダウナー系のスタンスを一切崩さず、しかし両腕だけを持ち上げて威嚇する様な、『がおー』とでも言わんばかりの姿勢でジョージに寄って来た。

 

「あー、わかったわかった。死なない程度に加減しろよ?」

 

 左手で銃撃の創造を発動し、右掌に小さく穴をあける。

 たらたらと血が流れて落ちて行く掌をシーちゃんに向けるが、シーちゃんは一瞥もしない。

 

「私は、こっちから飲むって言った」

 

 するりと寄って来たシーちゃんはジョージに抱き着いて、そのまま思いっきり首筋にかぶりついた。

 

「ぐおっ!? ……あー、ったく……分かったよ、死なない範囲で好きにしてくれ」

 

 もはやシーちゃんを止めることも引き剥がす事もできぬと諦め、ジョージは力を抜いてシーちゃんからの吸血を受け入れた。

 

「……」

「ちうちう」

「……シーちゃん?」

「チウチウ」

「あの、ちょっと?」

「ちうちう」

「ねえ? へいへーい?」

「チウチウ」

「……あの……」

「ちうちう」

「……おん」

「チウチウ」

「……」

 

◆◇◆◇

 

 とまぁ、そんな調子で、結局ジョージが死ぬまで血を吸い続けたのが事の顛末であった。

 

「ジョージ君の血が凄く美味しかったのもあるけど、やはり空腹は最高の調味料……」

 

 などとほざくシーちゃんに反省の色は全く無い。

 

「ヨル、本当だと思う?」

「本当だろうな」

「うーん……」

 

 ひとまず自分が懸念した様な事が無くてよかったというべきか、それともジョージを害されたことについて文句を言うべきか。

 

「しかし、こうなると……」

「? ……あっ」

「え? ……あー、ゴメン。今日で決める気だったんだ……?」

 

 流石のシーちゃんも少し気まずそうだ。

 無理もない。仮にも『横恋慕はしない』宣言はしておきながら、恋路のジャマだけはしっかりした形なのだから。

 いや、確かに横恋慕ではないのだが。

 

「負けたな風呂食ってくる!!!」

 

 ヨルの清々しい敗北宣言が、今日のアサの頑張りが徒労に終わったことを象徴していた。

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