魔法科高校の帰還者   作:テトマト

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九校戦編最終回です。


第32話

九校戦八日目。

達也は、競技会場とは別棟の一室に呼び出されていた。

「失礼します」

扉を開けると、室内にいた男が柔らかく手を上げた。

「よく来てくれたね、司波くん」

国防陸軍第101旅団・独立魔装大隊。風間玄信少佐。

達也が“協力者”として関わっている部隊の指揮官だ。

「今回は、どのようなご用件でしょうか」

達也が先に切り出すと、風間は早速本題に入った。

「以前話したノーヘッドドラゴンは覚えているかな?」

「もちろんです。九校戦でこちらに干渉している連中ですね」

「ああ。――それが一昨日、忽然と姿を消した」

「姿を消した……逃走した、ということでしょうか?」

達也の問いに、風間は首を横に振る。

「それがね。

連中の目的、大亜連合との繋がり、資金経路、関係者のリスト――そういったものが軍に“匿名”で送られてきた」

「……逃げたにしては、不可解ですね」

「そう。状況が整いすぎている。

何者かがノーヘッドドラゴンを“潰した”と見るのが自然だ」

達也は沈黙したまま、続きを促す。

「現場も押さえた。だが魔法の痕跡がない。

痕跡を残さず片付ける芸当ができる者は、そう多くない」

その言葉と同時に、風間の視線が達也へ滑った。

達也は表情を変えずに返す。

「……まさか、自分を疑っておられるのですか。

こちらの動向は、そちらも把握しているはずです。私にその時間はありません」

風間は、緊張を解くように小さく笑った。

「いや、すまない。

“できる”人間を探すと、君が真っ先に浮かんでね」

そして顔を引き締める。

「一応聞く。心当たりはあるかい?」

「"ありません"」

即答。

声の温度すら落ちない。

「そうか。こちらでも調べておく。何か分かったら共有する」

「了解しました」

達也は敬礼し、部屋を出る。

廊下に出た瞬間、ようやく息を吐いた。

「私達のことを黙っていた点は、評価しましょう」

横から声がした。

気配がない。

背後でもない。

“隣”に、最初からいたかのように。

達也の足が止まる。

「……モルガン、さんですか」

視線を向けると、そこに“女王”が立っていた。

「やはり、あなたがノーヘッドドラゴンを?」

「ええ」

モルガンは悪びれもせず頷いた。

「我が夫にちょっかいをかけようとしていましたので」

「……この件を、藤丸は?」

「何も知りません。ですので――あなたも黙っていなさい」

命令でも忠告でもない。

“当然の確認”として言い切る言葉。

達也は一歩も引かずに問う。

「あなたの目的は何ですか。藤丸の“使い魔”ではないのですか」

藤丸の知らないところで勝手に動く存在。

それは保護か、支配か――どちらだ。

モルガンは、わずかに目を細めた。

「それはもちろん。

我が夫に平穏な生活をしてもらうことです」

そこまで言って、嘆かわしいとでも言うように息を吐く。

「……ですが、我が夫は厄介な人物に首を突っ込む人です」

そして声が、低くなる。

「忠告しておきます。

我が夫の交友関係に口は挟みません。

我が夫が“友のために戦う”と決めたなら、私も手を貸しましょう」

一拍。

「――ですが、あなたが我が夫と敵対するというなら。容赦はしません」

圧が来た。

魔法の気配ではなく、強者による圧。

達也は、その圧に正面から言葉を返す。

「それはありません」

きっぱりと。

「俺たちは・・・友達ですから」

モルガンは一瞬だけ黙り、そして――小さく息を吐いた。

「……そうですか」

それだけを残し、女王の姿は影のように薄れ、気配が消えた。

それを見た達也はもう一度深く息を吐いた。 

 

 

九校戦・最終日

九校戦九日目。

ミラージ・バット本戦――司波深雪、優勝。

十日目。

モノリスコード本戦――第一高校、優勝。

そして。

九校戦・総合優勝校――

第一高校。

その結果は、誰もが納得するものだった。

夜。

選手と関係者だけが招かれた華やかなパーティーが開かれていた。

 

会場を歩いていた藤丸は、少し離れた場所で見知った二人の姿を見つけた。

「達也。一条。こんばんは」

声をかけると、将暉がこちらを向き、軽く目を細める。

「藤丸か。……ちゃんと話すのは初めてだな」

視線が、自然と藤丸の体へ向く。

「体は大丈夫か?」

「うん。ちょっと痛むくらいで問題ないよ」

「本当か?

最後の方、俺はかなり無茶な魔法を叩き込んだつもりなんだが……」

藤丸は一瞬考え、遠い目をした。

「……師匠たちの扱きに比べたら、あれでも優しい方かな」

死んだような目をした藤丸に、将暉は一瞬言葉を失う。

「……そうか。よく分からんが、頑張れ」

「おい」

達也が横から口を挟む。

「俺の時と、態度が違わないか?」

「気のせいだ」

将暉は即答した。

「先輩!」

不意に、聞き慣れた声。

振り返ると、少し緊張した様子のマシュが立っていた。

視線が泳ぎ、指先が落ち着かない。

「あ、あの……」

その様子を見て、藤丸はすぐ察した。

「マシュ」

一歩近づき、柔らかく声をかける。

「……俺と、踊ってくれますか?」

一瞬の間。

そして――

「はい!」

満面の笑みで、マシュは頷いた。

「じゃあ、二人とも。また今度」

そう言ってマシュの手を取り共にフロアへ向かう。

その背中を見送りながら、将暉が感心したように呟いた。

「……よく、あんな自然に誘えるな」

「そうだな」

達也も同意する。

「短い会話だったはずだが、どうして分かったんだ?」

将暉は、呆れたように達也を見る。

「……お前、本気で言ってるのか?」

「?」

不思議そうに首を傾げる達也に、将暉はため息を吐いた。

 

 

音楽が流れ、ゆったりとしたテンポでダンスが始まる。

藤丸は、ぎこちなくも丁寧にマシュの手を取った。

「大丈夫?」

「はい。先輩となら」

二人は、ゆっくりとステップを踏む。

派手な動きはない。ただ、音に身を委ねるような、穏やかなダンス。

「マシュ。九校戦、楽しかった?」

「はい。とても」

マシュは少し考えてから、言葉を紡ぐ。

「皆さんと競い合ったり、協力したり……

そういう時間が、とても楽しかったです」

そして、少しだけ照れたように続けた。

「それに、一番は……先輩の、かっこいい姿をたくさん見られましたから」

「……そう」

藤丸は、恥ずかしそうに視線を逸らした。

「正直さ。旅をしていた頃は、こんな学校生活を送るなんて思ってなかった」

マシュは静かに頷く。

「まだ半年にも満たないですが……

素敵な思い出が、たくさん出来ました」

藤丸は、少しだけ真面目な表情になった。

「ありがとう、マシュ。

ここまで一緒にいてくれて、守ってくれて」

マシュは、首を横に振る。

「いいえ。私がここまで来られたのは、先輩のおかげです」

手に、少しだけ力を込めて。

「あの時、手を握ってくださった時から……

私はずっと、先輩に助けられてきました」

顔を上げ、まっすぐに藤丸を見る。

「これからも、よろしくお願いしますね」

「うん。こちらこそ、よろしく」

音楽の中で、二人はゆっくりと笑い合った。

 

こうして九校戦は一高の優勝で幕を閉じた。

 




これにて魔法科高校の帰還者を未完で終わります。
続きは書くか分かりませんが小話を少し書こうと思っています。

ここまで読んでくださりありがとうございました。
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