お久しぶりです。
ナルトとの試合で傷ついたキバが、足元のおぼつかない状態でなんとか自力で2階に上がろうとしていた。
--しょうがないから、肩を貸してやるか。
ナルトの最後の一撃には無意識だと思うがチャクラがしっかりと乗っていた。あれを喰らったならダメージは相当深いはずだが、キバも修行で少しは打たれ強くなったということかな?
そう思いながら俺が近づくとキバは怯んだ様子を見せた。
--おいおい、いくらなんでもこんな状態のやつには俺だって優しくするっての
そんな思いとは裏腹にキバは覚悟を決めた顔で俺に言い放つ。
「先生の言いたいことはわかってる」
「?」
「俺はまだまだ弱い」
「?」
「訓練を増やすっていうんだろう?望むところだぜ。俺はまだまだ強くなりたい」
「……わかった。俺が強くしてやる」
慰めてやろうとは思っていたが、自分からやりたいというならそうしてあげよう、うん。それにキバにナルトを助けたことなんてバレないだろうし。
俺が気持ち丁寧に肩を貸して2階まで連れて行くと、ヒナタとシノが駆け寄って来た。
「キバくん……」
「へっ……ヒナタは人の心配よりそろそろ自分の心配しろよ。残るは……お前とチョウジ、ネジ、リー、音の一人に砂のヤローのたった6人だ。いいかヒナタ……」
「なに、キバくん?」
「お前も気づいてるだろうけど、あの砂の眉無しはヤバい。匂いが違い過ぎる。あいつと当たった時は……棄権しろ」
キバ達は我愛羅を見ていないはずだが、その異常さには気付けたようだ。
「それ以外のやつなら、お前だったら勝てるさ。純粋な試合形式なら俺らの班で……いや下忍の中でお前は間違いなくトップクラスだからな」
「お前こそ負けて偉そうに人の心配してんじゃないよ」
「う……先生そりゃないぜ」
項垂れるキバを見て少し場が和み、俺がキバの応急手当を済ませたところで次の対戦が発表される。
『第八試合 日向ヒナタ VS 日向ネジ』
これを見た火影を含め木の葉の上忍達は「皮肉な組み合わせ」と思ったに違いない。天才と呼ばれる日向の分家の子、片や落ちこぼれと思われている日向の本家の子の戦い。勝敗まで予想できてしまうから仕方ないのかもしれない。
だが、俺からすればヒナタを精神的に成長させられるチャンスだ。ここで勝って自信をつけさせてもらおう。
「ヒナタ、分かってると思うけど負けることは許さないぞ」
「……はい」
流石に動揺を隠せないって感じだな。こちらを下に見ているネジなら、余裕で倒せるだろうに。
「ハッハッハ!まさか本気でネジに勝てると思っているのか、ヨフネよ」
「黙れ珍獣」
俺たちのやりとりを見ていたのだろう、ガイがウザいほど胸を張りながら割り込んで来やがった。その無駄に暑苦しい胸板を見せてくんな。
「む、いつも以上に辛辣だな」
「ネジが天才だからだとか言い出したら張り飛ばすぞ。才能の優劣なんて所詮人が決めることに過ぎない。それを覆せるのが努力だろうが」
「そう!だからこそ、この俺と熱い修行を繰り広げてきたネジの勝利に揺らぎなどない!」
良くも悪くも変わらんなこいつは。だが、ここは利用させてもらおう。
「なるほどね。ということはヒナタが負けたら修行が足りないってことかな?」
「う、うむ!そういうことになる!……のか?」
「分かったな、ヒナタ?」
「はいぃ!」
「よし行け!」
ヒナタは逃げるように会場へと降りて行った。よし、これで少しはやる気になっただろう。
「あのヒナタの様子……お前はどんな修行をさせていたんだ?」
どんな修行と言われても困る。基礎体力の強化と術の修行だから特別なことはしていない……はずだ。
「そうだな。適切な運動と」
「適切?生きているのが不思議だったんだが?」
「何回呼吸が止まったんだろうな……」
「効率的な修行法に」
「確かに効率が良いだろうぜ」
「ああ24時間が修行だったのだから」
「ある程度の緊張感」
「ある程度?常に死と隣り合わせなのが?」
「人って頑丈だったんだな」
「そして栄養価の高い食事」
「栄養価と引き換えに味、食感、匂い全てを犠牲にしていたがな」
「あの料理は調理じゃなくて調合のレベルだよな」
……シノとキバ、黙ってくれ。
会場では、既に両者が対峙していた。
「まさか貴方とやり合うことになるとはね……ヒナタ様」
「……ネジ兄さん」
「試合を始める前にヒナタ様に忠告しておく。貴方は忍びに向いていない。棄権しろ!」
ネジがいきなり本家に対する不遜な物言いをするものだから、思わず木の葉の上忍はざわめいた。
「貴方は優しすぎる。調和を望み、葛藤を避け他人の考えに合わせることに抵抗がない。おそらくこの中忍試験だって他の二人に押し切られたんだろう」
ヒナタは言葉を受け止めるように目を閉じ、落ち着いて聞いていた。しかし、黙って聞いていられない奴が2階にいた。キバだ。
「なに好き勝手言ってやがんだ!そこにいるのはもうお前が知ってるヒナタじゃねえぞ!ヒナタも何か言い返せ!」
「外野は黙ってろ!」
「……キバ君ありがとう。ネジ兄さん……確かに私は流されるままに生きてきた。でもそんな自分を変えたくて私は自分からこの試験を望んだんです!」
目を閉じていたヒナタがネジを睨み返すように宣言した。しかし、どうやらネジには届かないようだ。
「ヒナタ様……貴方はやはり宗家の甘ちゃんだ。人は決して変わることなどできない。落ちこぼれは所詮落ちこぼれだ……その性格も力も変わりはしない。人は平等ではない。生まれつき足の速い者、美しい者、親が貧しい者、病弱な身体を持つ者。 生まれも育ちも才能も、人間はみんな違っている」
どこの皇帝だお前。
「変えようのない要素によって人は差別し差別され、分相応にその中で苦しみ生きる。俺が分家で、貴方が宗家の人間であることは変えようがないように!ただ生まれが違うだけで、分家というだけで忌々しい呪印を刻まれたというのに!貴方は恵まれた環境に甘えのうのうと生きている。貴方には……貴様にだけは簡単に自分を変えることができるだなんてことを言う資格はない!」
一部同意できるところはあるけどさ……ネジ、話が長いって。どんだけ溜まってたんだよ?この世界では俺がヒナタの誘拐を事前に阻止したから、ネジの父親であるヒザシさんは生きているっていうのに。
だからこそ、それほど激しい憎しみは抱えていないと思っていたんだけど、どうやら日向の宗家と分家の対立はそれほど根深いものがあるようだ。
ネジの場合は父親の死がその感情を増幅させたのだろうが、呪印が刻まれている以上、割り切れる問題ではないのだろう。
「ヒナタ様、いくらヨフネ様のところで学んだところで……自分を変えるなんてこと絶対に出来」
「出来る!!!」
ここまで我慢していたんだろうが、ナルトが唐突にキレた。同じように、しがらみの中で生きていくしかなかったナルトとこうも対照的になるのは面白いな。
「天才だかなんだか知らねえが、お前が人のこと勝手に決めつけんなバーーーーーカ!そんな奴やってやれヒナタ!」
「ナルト君……」
「ヒナタ!キバの言う通りちょっとは言い返せってばよ!見てるこっちが腹立つぞ!」
ナルトの言葉を聞いて決心したようだ。今は真っ直ぐにネジを見据えている。
「ヒナタ様、俺は別に貴方が悪いと言っているんじゃない。もう苦しむ必要はないから棄権して楽になれと言っているんだ。貴方は決して俺には勝てない」
「苦しむ?それは違うわ、ネジ兄さん。だって私には見えるもの。私なんかよりずっと日向という籠の中で迷い苦しんでいるのは貴方の方。確かに私とネジ兄さんは違う。私が使う術もすでに日向のものとも違います。だから油断しないでください。死んでしまうので」
「……いいだろう」
そして二人は同じ構えをとり、空気を読んでいたハヤテが合図を出す。
始めっ!
ーーー八門遁甲の第一門 開
日向の柔拳は強いが、ヒナタの性格を考えれば相性が悪い。その戦い方とは、白眼によってチャクラの流れを見ることができるため、恐ろしくうまい防御を活かすのが第一だ。そこから相手の攻撃をいなしつつ、カウンターの機会を狙うというのが基本的な戦い方だ。
一見すると相性が良いように見えるかもしれないが、訓練をつけてみてそれが間違いだと気づかされた。相手の攻撃を捌くにつれ、手数が増えれば増えるほど考える時間が生まれ、優柔不断なヒナタには迷いが生まれてしまう。
ならばどうするか、俺が出した答えは単純、柔拳と剛拳を合わせた一撃必殺による戦闘だ。
試合開始と同時にヒナタは一足飛びでネジに迫り、その拳を振るった。
ネジはヒナタの拳を日向流体術の基本通りにいなそうとする。しかし、ヒナタは八門遁甲の第一門だけだが解放した状態で、さらにチャクラによる身体強化を行っている。いなそうとした手を無視して、ヒナタの掌底が振り下ろされる。その一撃は確実にネジに直撃し大地をも砕いた。
そして叩きつけた瞬間にヒナタの拳からチャクラが放たれ、ネジの経絡系にダメージを残す。ヒナタの家庭訪問をした際に俺が見せた技の改良だ。身体強化にはまだまだ改善の余地はあるが、俺よりチャクラ量のある白眼使いがこの技を使うことでより効率的に、そしてえげつない攻撃へと変貌をとげた。
「勝者、日向ヒナタ!医療班早く!」
会場が静まり返る中、ハヤテが勝者を宣言し、医療班を手配しつつ、なぜか俺に非難の視線を浴びせる。
解せぬ。
俺の教え通り、『相手が自分と同等以上の実力を持っている時は最初から全力を持ってこれを叩く』を実践した結果だが、次は厳しいだろうな。
会場が慌ただしくなる中、後ろからガイに左肩を掴まれた。
「全くお前は何ちゅー技を教えるんだ。それにあれは八門遁甲を使ったな」
そして反対側からカカシに肩を掴まれる。
「君はもうちょっと限度ってもんを覚えなさいな」
「待てよ。みんな揃いも揃って顔が怖いぞ」
「下忍に教えていい技じゃないでしょ」
「そうだぞ。いくら生徒が可愛いと言ってもやすやすとあんな技を教えて、甘いな弟弟子よ」
「なに言ってやがる。甘いのはお前らだ」
そう言って俺は二人に向き合う。
「俺たちは忍だ。生徒たちもな。敵に殺されるくらいなら危険な技だって教える」
「だが、もし生徒たちが暴走したらどうするんだ」
「俺の生徒が俺の意思に反して暴走すると……思うか?」
「「それはないな」」
納得してくれたようでなにより。
「だが八門遁甲を第一門とはいえ使えるとはね。どんな無茶をさせたんだ?」
「ヒナタは白眼を持っているんだ、俺が使うところをじっくり見せてあげた後、コツを教えれば使えるようになったぞ」
まあこればっかりは素質の問題だけどな。自分でリミッターを外すなんて死を覚悟せざるをえない状況に追い込むか、どこか壊れている奴じゃないとできないだろう。ただ、これ以上は俺では教えることがないが。
「それにお前の生徒……リー君も使えるんだろう?昔のお前そっくりじゃないか」
「……まあな」
その時、ヒナタが2階へと上がって来た。
「ヒナタ良くやった」
「あ、ありがとうございます……」
浮かない顔をしている。ネジが心配なのだろう
「お前のことだ急所は避けたんだろ?
「……はい。すみません。」
「いや、いいさ。さすがに身内を殺せなんてことは俺でも言わん」
そう言って頭を撫でてやる。
「おい、シノ。なにさりげなく寄ってきてやがる」
「……お前も撫でて欲しいのか?」
「別にそういうつもりはない、何故ならば……」
「そっかまさかのツンデレかと思ったぜ」
「たまには最後まで話を聞いて欲しい」
第九試合は我愛羅対ロック・リーとなった。リーが八門遁甲を開いたものの、こちらも原作通りの結果となってしまう。再起不能に近いような怪我を負う前に止めてしまいたかったが、ガイがそれを許さなかった。
「お前はよく俺にあんなこと言えたな」
「まったくだな。だが、男にはやれねばならんことがあるんだ。俺もあいつも後悔などせん」
「わかったよ。タシには話通しておくから、早く医療室に運んでしまえ」
「……すまん、恩にきる」
そして、最終試合の第十試合は秋道チョウジ対ドス・キヌタとなったが、ヒナタとネジの試合並みに短かった。簡潔に言うなら焼肉に釣られたデブが一撃で沈んだ、以上。今までの対決に比べるとあっけなさすぎて、試合についての感想は特に浮かばなかった。
でも、ドスは改めて見ると良い能力を持っていた。応用がかなり効くし、木の葉にはいない探知タイプで戦闘もこなせそうだ。確か、大蛇丸に対して憎悪を抱いていたはずだし、我愛羅にむざむざ殺させるのはもったいないな……これは狙ってみるか。
ちなみに、予選の全てが終了し、決勝のくじ引きとなったのだが。
「え……ナルト君と?」
「ええええええぇぇぇぇぇぇ!俺ってば死んだらどうしよう」
ヒナタは勝ったっていうのに、ナルトが抱くイメージが悪くなっている気がする。
……うん、すまん。
ボルトは楽しみなのですが、プロットが狂ってしまう……
結果、組み直しの作業で行き詰まってました。
今後はせめて月1では更新致します