逃げるは敵へ   作:ジャーマンポテトin納豆

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閑話 新米少将の憂鬱

 

 

「兄上、何とかなりませんか……」

 

「いや、無理だろ」

 

「そんなぁ……」

 

ラインハルト・フォン・ミューゼル少将。

机に突っ伏して敬愛する義兄に助けを求めるもにべも無く無理、と言われて彼らしからぬ情けない声を上げる。

 

彼は現在同盟軍史上最年少の少将である。

今まではアッテンボローが最年少だったが、それをラインハルトが更新した形になる。(アッテンボローはこちらもまた最年少中将に昇進している)

ここまでならば本人にとっては良い事だったかもしれないが、彼にとって災いとなったのは所属する第十四艦隊が交代でハイネセンに戻された事だった。

 

そんな彼の現在の悩みの種は方々から来る見合いの話をどうやって逃げ切るか、だった。

 

 

 

イゼルローンにいた時は少なくとも中央からは離れられるし、交流も限定的。だがハイネセンに戻って来た事で彼に目を付けていた軍官民問わず、お偉方から、

 

「ウチの娘、どう?」

 

と、それはもう、毎日毎日一〇〇を超える見合い話が来る訳である。

義兄は同盟軍の双璧(本人は周りが勝手に言ってるだけとウザそうにしている)と名高い大将の一人で、しかも同盟屈指の大企業の一人息子。

更には帝国貴族の中でも名門中の名門貴族出身。

端から見れば家柄も育ちも人格も能力も必要十分以上の、何としても娘を嫁がせたい相手だ。

本来なら義兄であるアルフレートがこう言った、ある意味で戦場より過酷な戦いの一番の標的になるのだがそうはならなかった。

問題はアルフレートには意中の女性がいて、しかもお互いに相思相愛、なんなら結婚もして子供までいるというのだから流石にそんな相手に帝国じゃあるまいし、ウチの娘を第二夫人にでも、なんて口が裂けても言える訳がない。

 

そこで鉾先が向いてしまい、哀れ標的になったのがラインハルトである。

ラインハルトは今の今まで浮いた話の一つも無く、少なくとも(勝手に)調べた限りでは、よっぽど隠し方が上手いとかでも無ければ意中の人物も、付き合っている人物もいない。

しかもノルトハイム家側から何か、色々と抗議をされる訳でもない。

(因みにアルフレートの両親はラインハルトが彼女を連れてくる事も、浮いた話の一つも無い事から良い機会だし結婚はしなくとも経験にはなるだろうと静観中)

 

ラインハルトの家柄は一応貴族出身で申し分無く、能力は規格外、軍での地位もこれから先最年少記録を更新した上で大将になるのではと目されているぐらいには高い。

育ちも良い(幼少期の殴った殴られたのアレコレからは目を逸らし)。

鍛え上げられた均整の取れた肉体(オフレッサーのお陰)。

しかも誰もが認める整った顔立ち(女性的にはここ最重要)。

と来ればむしろ放って置かれる方が無理と言う話だ。

 

 

 

「兄上、一生に一度のお願いですからなんとかなりませんか」

 

その言葉に驚いたのはアルフレートだった。

ラインハルトが一生に一度の頼み、だなんて性格を考えれば絶対に言わない。そんなラインハルトがここまで言うとはかなり、キツイらしい。

 

「と言ってもなぁ……」

 

「何か解決策とかありませんか……?もう毎日毎日毎日毎日限界です。一度断った相手から何度も何度も何度も何度も見合いを申し込まれる気持ち、分かります?」

 

「理解するのは是非遠慮したい気持ちだな」

 

「だからお願いします」

 

腕を組んでアルフレートは考える。

 

「解決策として手っ取り早いのは、ラインハルトもさっさと身を固めてしまう事だな。引くて数多なんだから、むしろ良さげな相手とちゃちゃっとくっ付いてしまうのも一つの手だが」

 

まぁ、そう言うことではないんだろ、とラインハルトを見やると頷いた。

そもそもラインハルトのお眼鏡に叶う相手がまずいない。

口には出さないが、ラインハルトの本質は馬鹿を相手にするのは面倒だし関わりたく無い、である。この辺はアルフレートよりヤンに良く似た気質である。

今でこそ部下を持つからには必然的にそう言った人間とも関わりコミュニケーションを取らねばならない故に『仕事に於いては』しっかり改善されている、

しかしこれがプライベートともなれば話は別だ。

 

しかもラインハルトの女性の好みは、強いて言えば『頭の良い女性』であり、今まで見合いを申し込んできた女性方はラインハルト基準ではボーダーラインにすら達していない。

 

「仕事に支障は?」

 

「……無いと言えば嘘になりますが、そこまででは」

 

「ふむ……」

 

タチの悪いことに見合いを申し込んでくる側は、わりかし仕事の事を考慮してはくれている。

まぁだからと言って何回も何回も申し込んで良いという訳では無いのだが。

 

「下手に何件か見合いをしようものなら余計に激しくなるからなぁ」

 

うーん、と考えてもあまり良い案は浮かばないアルフレート。

アルフレート自身、今までの人生は良いか悪いかはさておき見合いなんてものからは全く縁のない人生だった。

なんせ隣にはアンネローゼがいたし、本人達も他の異性にまるで興味が無かった。両親もそれを十分に理解していたから縁談なんか一度も持って来た事がない。

そんなアルフレートに、見合いを上手く綺麗サッパリ無くすなんて方法が思い付く訳がない。

 

ヤンの事をアレコレ言うアルフレートも、こっち方面は割と役に立たない。なんせアンネローゼ一筋である。

だったらまだ、シェーンコップに相談した方がよっぽど良い案が出てくるだろう。

 

「兄上、今でこそ聞きますが、姉上以外の女性と関係を持った事はあるんですか?」

 

「無い。あ、だがハニートラップは仕掛けられた事なら何度かあるな。多分、フェザーンか帝国か、地球教辺りの差金だろうがな」

 

「どうなったんです?」

 

「反応しなかった」

 

「え?」

 

「全く反応しなかった。お陰で勃たない病気かと思ったがアンネローゼには反応したからまぁ、そう言う事なんだろう」

 

因みにアルフレートはこの一件でプライドを傷付けられた、ハニトラを仕掛けて来た女性から罵詈雑言を浴びせられている。

 

「兄上らしいですね」

 

「俺が言うのも可笑しな話だが、多分相談相手を間違えているぞ」

 

「……ですね」

 

「まぁ、そんなに嫌なら父上にラインハルトは自分の相手は自分で見つけるから見合いは必要無いって言っといてやるぞ」

 

「お願いします。いやもうほんと、興味の無い相手からこうも来られるとキツイだなんて思いませんでした」

 

はぁ、と大きな溜息を吐きながらラインハルトは言った。

 

 

 

後日、アルフレートの父から方々に対して、ラインハルトに見合い話を持っていくのを控えるようにお願いしたい、と御触れが出た事によってラインハルトの平穏は戻って来たのである(お嬢さん方が虎視眈々とラインハルトを今だに狙っているのは余談である)。

 

 

 

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