藍染惣右介のお願いで真央霊術院の見学をしに来た2人。
申請書の結果は?
観察再開。
申請書を出した翌朝。
「いやぁ…えろぅすんません京楽隊長」
「いやいや、将来有望な子が霊術院に興味を持ってくれるのは嬉しい事だからねぇ」
駄目元で出した申請書は本来なら却下される筈だったが、6回生の特別講師として実習監督をしに来た京楽が偶然居合わせ、平子達の事情を知った彼が案内役を買って出た。
「責任は僕が取るからさ」
と。
「…で、此処が食堂。此処のご飯はどれも美味しいよ。此処のおばちゃんが作る和え物は名物でさ、特に白和えは絶品なんだよ」
「そうなんですか?」
「せやで。何せウチで作っとる白和えはなぁ、昔先生が此処のおばちゃんに教わったんを、ウチが教えて貰ぅたモンやからなぁ」
「…がんそ、ということですね?いまたべられないのがざんねんです」
「それは入学した時の楽しみにしとき」
「はい」
勝手知ったる学院内を、手際良く案内してくれた京楽のおかげで見学はスムーズに終わった。
「今日はホンマおおきに。えらい助かりましたわ」
「ありがとうございました」
「いやいや、此方こそ楽しかったよ。で、霊術院は如何だったかな?」
「はい、とてもおおきくてひろくてびっくりしました。それと…ぼくみたいなこどもはいないんですね」
「あ~…そうだね。もう少し大きくなったら試験を受けやすくなるだろうね。その時は推薦状を書かせて貰おうかな」
「すいせんじょう?」
「この子は将来が楽しみだよって、先生方に教える手紙の事だよ」
…流石は京楽だなぁ、表現が上手い
「さて、それじゃそろそろ僕は失礼するよ」
「ホンマ、おおきに」
「ありがとうございました」
笠を被って京楽は去って行った。
「…さて、昼食べてひと息ついたら帰ろか」
「はい」
藍染惣右介視点。
現役の隊長、京楽春水という男の人のおかげですんなりと院内の見学が出来た。
…この人からは、あのおじさんは勿論、あの女の人とも違う
…でも、言葉に表せない〈何か〉を感じる
…隊長って、みんなあんな感じなのだろうか
「さて、お昼は何処で食べよっかなぁ~…なぁ、惣右介?」
「え?…えっと…さかながたべたいです」
「魚なぁ…ほな、あの定食屋やな。彼処の煮魚はお薦めやで」
「それはたのしみですね」
真子さんの言う通り、そのお店の青魚の梅煮はとても美味しかった。
瀞霊廷を出て、少し歩いたところで真子さんに背負われ〈滑影〉での移動を開始した。
…やっぱり、この〈魔法〉を教えて貰いたいなぁ
行きとは違う景色を見ながら改めて思った。
宿に向かう途中、とあるお店に立ち寄った。
「…かんざしや?」
「せや。この店の店主は気紛れ者で有名なんやで」
「はぁ…」
「せやけどな、その店主が作った簪や紐はどれもごっつえぇ一点物ばかりなんや」
「…お褒めの言葉どうも」
突然、真子さんの背後からぼそっと低い女性の声がかかった。
「っ!?」
「っひゃあ!?」
「…死神目指してる者が出す声じゃ無いよ。ま、今日は夕餉まで開けてるから好きなだけ見てけば良いさ」
「…お、おおきに…ビックリしたぁ…」
店主らしきその女性は、新商品を並べに来ただけだったらしい。
気を取り直して、気になった簪を手にしては、髪に当てて姿見を見遣る真子さんの邪魔をしてはいけないと思い、腰掛けに座って待とうとしたが、真子さんに呼ばれて止めた。
「…なぁ惣右介」
「あ、はい」
「惣右介はコレとコレと…ん~…コレ、どれが良ぇ思う?」
「え?えっと…」
真子さんは休暇に入る前に友人から「いつも朱い玉簪やなぁ~。偶には違う簪を挿したん見せぇや」と何度もしつこく言われ、真央霊術院に戻るまでの間に買って来ると約束したらしい。
…ここで買う事にしたのかな?
…正直、どれも似合うと思うけど
どう返答しようか悩んでいると、ふとある物が目に留まった。
「…惣右介?」
…これも、真子さんに似合いそう
「…それが気になるかい?」
「「…っ!!」」
…いきなり後ろから話しかけないで欲しい
「中々の目利きじゃないかい、坊や」
「え…」
「それはね、私の姉弟子が嫁入り前に作った最後の品さ。中々買い手が付かなくてねぇ…どうだい?」
「…せやな。折角惣右介が見付けたモンやし…何ぼや?」
「ほい」
女主人は棒が数本入った徳利を差し出した。
「「え?」」
「あの人も大概な変わり者でねぇ…この籤を引かせて出た数字分の支払いを求めてたんだよ」
「え…」
「ず、随分けったいな人やったんやなぁ…ほい」
「ん…3000環だね。毎度」
簪の値段としては高いのか安いのか解らないけど、真子さんの表情からして、悪い買い物では無かったらしい。
…喜んでくれて良かった
その後、無事に目的の宿で一泊した。
仲間内で度々話に出て来る簪屋で、友人ことひよ里とほぼ一方的にさせられた約束の新しい簪を入手出来た。
…惣右介のおかげで良い買い物出来たなぁ
ホクホク顔のまま宿で一泊した翌朝、早速簪を使ってみた。
…うん、色は勿論、形状もかなり違うから中々新鮮味があって良くない?
…これなら、ひよ里も納得するでしょ
…ってか惣右介、良く見付けたよなぁこの簪
…私、全然気付かなかったのに
色々な角度から簪を挿しては鏡で確認して、今の気分に最適な髪型はどれか吟味して決めた。
「…んぅ…おはようございます…」
「お、お早うさん」
「…あ、そのかんざし」
「早速使ってみてん。どや?」
「とてもよくにあってます」
「さよか。おおきにな」
場所が変わっても、同じ時間に起きる惣右介と朝食をしっかり食べてから再出発した。
「最後に泊まる宿は此処やな」
「…あのやどにはとまらないんですか?」
「…あ~…あの宿は今ちょ~っと立て込んどるみたいやからなぁ…」
「…そうですか」
私の様子から状況を察したのだろう、それ以上の言及は無かった。
宿に入って受付を済ませ、部屋に案内して貰う途中、誰かの驚いた声と物を落とした音が響いた。
「え…!?」
ガシャーン!!
「ちょ、何をしてるの!?」
「え、あ…す、すみません!手が滑って…」
「全くもう!すみません、お客様の前で粗相を…」
「あぁ、気にせんとき。失敗は誰にでもあるモンやろ。案内の続き頼むわ」
「はい」
「…っ」
私の左手を握る惣右介の右手の力が強くなった。
チラッと様子を窺うと、先程よりも俯いていて目元は解らないが、歯を食いしばっているのだけは解った。
…あの女性従業員と惣右介の様子からして、例の置き去りをした張本人かも知れないな
「此処の鍋はアッサリ塩味でなぁ、幾らでも入るんで有名なんやで~」
「…え?あ、そうなんですか?」
「はい、当宿の名物として振る舞わせていただいております。夕餉の際に是非ご賞味下さい」
「は、はい」
部屋の中をサッと確認してから、惣右介に足を伸ばして座るように言った。
幾ら〈滑影〉を併用しているとはいえ、いつも以上に歩いている惣右介の足の状態は気になるからと、マッサージを施した。
「…ふぁ~ぁ…んぅ…むぅ…」
「…やっぱり疲れが溜まっとるなぁ。無理せんと少し寝とき」
「…ふぁい…すぅ…すぅ…」
余程眠かったのか、惣右介はすんなりと寝入った。
「もぐもぐ…」
「どや?此処の鍋は?」
「…とてもおいしいです。とうふがトロッとしてて、やさいがどんどんたべられます」
「せやろ~?」
部屋の前を通る度に足を止める誰かさんの事はスルーしながら、この宿の名物を堪能した。
惣右介が寝入った頃、あの女性従業員に話があるからと呼び出された。
…やっぱり来たか
藍染惣右介視点。
「…しんじさん?」
目を覚ますと、真子さんが居ない。
荷物はあるし、ぼくの手には真子さんが大切に使っている朱い玉簪があった。
…厠かな?ぼくも行って来ようかな
厠から戻る途中、聞き覚えのある声が聞こえた。
…この声は
声が聞こえた方へと向かった。
「…だから、アレとは縁を切るべきだって言ってるじゃないですか!こんなに忠告してるのに、何で解らないんですか!」
「はぁ…そない大きな声出すなや。他の客への迷惑になるやろ」
「誰の為に言ってると…!」
「せやから言うとるやろ、余計なお世話やて。大体、惣右介をアレ呼ばわりすんの止めぇや。聞いてて不愉快やで。それに、今後ウチらがどうなろうとお宅にゃ何の関係もあらへん。放っときや」
「…貴女も私と同じなんでしょ?なら、これから何が起こるのか解らない訳無いじゃない…!アレの所為でどれだけの人が不幸になるのか知らない訳じゃ無いでしょ?」
…あの人と真子さんが同じ?
…何が同じなんだろう?
…意味が解らない
…ぼくの所為でたくさんの人が不幸になる?
…何で?どういう事?
混乱するぼくに気付いていないあの人と真子さんの言い争いは止まらない。
「…未来は誰にも解らへん。なるようにしかならへんようなっとるもんや。お宅の言う藍染惣右介とウチの惣右介は別人や。勝手に一緒くたにせんとき」
「…アレはみんなの…ギンと乱菊にとって邪魔者以外の何物でも無いの!確かに居なくなったら困るけど、傍に居る人を不幸にする最低な存在なのよ!」
…ギンとランギクって人の名前かな?
…そんな名前の人達なんて知らない
…ぼくの存在は誰かを不幸にしかしない?
…真子さんも不幸になるの?
…ぼくは疫病神?
パンッ!!
一度も見た事が無い、怒りに満ちた目であの人を睨み付ける真子さんにぼくは驚いた。
「…っ…何するのよ!?」
「えぇ加減にせいや」
…真子さん?
こんなに冷たくて低い真子さんの声は知らない。
…凄く、凄く怒ってる
「惣右介の未来は惣右介のモンや。惣右介を手放したアンタがどうこう言う権利も義務も無い。勿論、ウチが決める権利も無い。ウチに出来るのは、惣右介自身がこれから経験して身に付ける知識や人間関係からどんな未来を選ぶかを見守り続けるくらいや」
「っ何言って」
「アンタの出した結論に文句は言わん。でもな、ウチの遣り方にケチも付けさせん。大体、明日にゃサイナラする宿の従業員と客でしか無いんやでウチらは。この宿に嫌な思い出は作りたない。今夜の事は忘れるさかい、お宅もただの従業員としてお仕事してや」
スタスタスタ…
…真子さん
…やっぱり、貴女はおばあちゃんが選んでぼくを託した人だ
…あの人は自分と同じだと言っていたけど、全然違う
…真子さんをあなたと一緒にするな
…偶然とはいえ、此処の宿に泊まって良かった
ぼくが部屋に居ないと真子さんが心配するからと、急いで戻った。
先に戻っていた真子さんには、厠に行っていたとだけ告げて直ぐに布団に入った。
…あの人、やっぱり私と同じ転生者だったなぁ
…しかもギン×乱CP推しの
…なら、あんな態度になるのも解らなくは無いけど
…大丈夫かなぁ、惣右介
…こんな形でトラウマと遭遇とか
…精神的負担、半端無いだろうし
幸いにも、惣右介は一度も魘される事無くしっかり眠れたようだ。
翌朝、宿を出る直前になって惣右介が部屋に忘れ物をしたと言い出し、部屋へと戻って行った。
…部屋を出る前に確認したのに忘れ物?
…ちょっと遅くない?
…見に行った方が良いかな?
「おそくなってごめんなさい!ありました!」
「お、そら良かったわ。さ、帰ろか」
「はい!」
とても晴れやかな表情の惣右介と手を繋いで帰路に着いた。
藍染惣右介視点。
宿を出る前の手続き中に、あの人を見かけた。
真子さんに忘れ物をしたと言い訳をしてあの人を追い掛けた。
呼び止めたあの人は嫌悪に満ちた顔を隠しもしなかった。
「…何か?」
「ずっと、おれいがいいたかったんです。ぼくをあのおいしゃさまにたくしてくれてありがとうございました。おかげでぼくをかぞくとよんでくれるひととあえました。ぼくはもうひとりではないので、あんしんしてください。では、しんじさんをまたせたくないのでいきますね。おしごと、がんばってください」
では。と、立ち去ろうとしたぼくに怒鳴って来た。
「…何が家族よ!アンタなんて、独り善がりのコミュ障野郎のクセに!」
…こみゅしょう?って何だろう?
「…あなたがぼくのなにをしっているかはしりません。きょうみもないです。ぼくはぼくをちゃんとみてくれるひとをがっかりさせないようにがんばるだけなので」
「…っ!」
「しんじさんがまっているので、これでしつれいします。おせわになりました」
憎悪に染まった表情のあの人をその場に残して、ぼくは真子さんの待つ玄関へと急いだ。
その後は、問題無く帰宅した。
…疲れたけど、行った甲斐はあったな
…良く解らないけど、あの人なりの理由があって、ぼくを置いて行ったのが解っただけでも十分だから
…さて、お風呂は湧かしてあるってフミさんが言ってたな
…お言葉に甘えて、一番風呂に入らせて貰おう
漸く苦手意識が薄れて来たお風呂へと向かった。
観察記録XXX
藍染惣右介、ひとつの壁を乗り越える事が出来た模様。
彼の精神面を心配する平子真子(♀)だが、何処か吹っ切れた表情の藍染にひと安心したらしい。
観察継続。
2人だけのちょっとした旅が終了。
次回、平子(♀)は真央霊術院へ戻り、留守を預かる藍染はどんな生活を送るのか、次の帰省で再会した時、藍染はどんな変化を遂げているのか…。
このシリーズ初、物理的に離れ離れになる2人がどうなるのか…。
観察は続きます。