「オレァ、テメェをぶっ殺して、アニキに認められるまで…死ねねぇんだよぉ!!!」
その咆哮と共に手に持っている私が創り出したシャベルがぐにゃりと歪む。噛み跡のあったそれは鋭い穂先を持った槍となり、彼の者の剛腕をもって投げられる。
手にしていた銃をその場に捨て、すんでで躱したそれが背後にあった土の山へと突き刺さり、土煙を上げた。
「戦争に私情を持ち込むだと?!ありえん!!」
戦争とは外交の最終手段に過ぎない。
手段がどれほどに野蛮で、この世で最も愚かしく、生産性の無い行為だとしてもそれは外交という国と国との、言い換えれば他者との交流の一種なのだ。
その最中にあって個人的なものを持ち込むなど、害悪だ。それはたとえその感情の矛先が敵であっても変わらない。その人物が軍にある限り、優先されるのは軍の命令であり、国の意思でなければならない。それもできないのならばそのアホな頭を切開してやりたい。
後退り、距離を置く。土煙の中からの奇襲を警戒して、だ。
もうもうと立ち込める土煙の向こう側には幽鬼のような影が見える。
あれに銃は通用しない。
脳天に一発、体に穴が開くほどに弾を浴びせてもダメだったのだ。別ベクトルでの対応をするべきだろう。即ち接近戦である。
私は右の手にシャベルを創り出す。
最初は念のための武装だったのだ。ここまで必要になるとは思いもしなかった。僅かな時間ではあったが試験運用ができたことに心底ホッとする。
あの九五式をいきなり実戦で運用しようとすることと本質が変わらないと考えれば、その恐ろしさは計り知れない。もしそんなことをしなければならないのなら、敵前逃亡扱いになる前に機材の不調を申し出てすぐさま帰投すべき問題である。
ジャガイモの食中毒で後方に行った彼、ツイーテ・ナイカ・タイヤネン准尉は元気にやっているだろうか。
目の前にあるのは土の煙と壁、鼻につくのは私が使った銃から漂う硝煙の匂いである。
かつての世界と同じような情景に脳が刺激されたのだろう。副官のセレブリャコーフ少尉や副長のヴァイス中尉らの顔が脳裏に浮かんでは消えていく。
世界の隔たりを感じさせるような、そんな感慨が私を覆う。
私は目をまっすぐにヤツへと向ける。土煙の収まりと共に血で汚れた紫色の帷子が目に入る。まごうことなきヤツである。
煙を突き破って走り迫り、大きく振りかぶろうとするヤツの刀を受けようとシャベルを構える。
バン!!!と響く音と共に私の右手が吹き飛んだ。
血を散らしながら空を舞う腕に釘付けになっていた目を戻せば刀を持つのとは逆の手に昏い深淵のように黒い穴の開いた細長い物体があるのが分かる。
銃だ。
続けて放たれた弾丸が火薬の爆発音を伴って私の体を易々と穿つ。
あぁ。これはダメだ。
ダキア戦役で我が大隊がやったような、届かない場所からの蹂躙だ。
サラリーマンとしてのあの日々が終わった時のような、超常に手が届かない感覚だ。
あぁ、そうだ。神を名乗る存在Xは最初からこれがお望みだったのだろう。
deus lo vult.
神がそれを望まれる。
私は逃げる。勝ち目の無い戦いをするようなウォーモンガーではないからだ。
私の全ては私が生きているからこそだ。自由も、精神も、選択肢も。全ては私が生きているからこそ、私の手の届く中に用意されている。『死』とはその全てを一度に失うことに他ならない。
そんなこと、断じて、絶対に、許容できない。
翻した身に弾丸が突き刺さる。
踏み出した右足が吹っ飛んだ。
小さな傷ならば、たちまちに再生できる。だが、このような大きなものはそう簡単には再生できない。
軸を失い、正面からどうと倒れ伏す。
私に被さる影がある。
私は下に向いた体を上向きに。
被さる影の正体、紫色の帷子の男が首目掛けて刀を振るう。
剛腕で振るわれるそれを残った左手で掴み阻止。強く握った腕からメキメキと骨の折れる音が聞こえた。
私の正面に昏い深淵の黒が顔を覗かせる。
「クソッタレがあああ!!!!!!!!!」
爆発音が響き、下弦の弐の瞳を持つ男の首が吹き飛んだ。
という訳で最終回ですよ。長らくありがとうございました
ぽっとした思い付きがこうも長くなるとは。書いていて面白かったです
ラストに関しては『鬼滅の刃』最終章の無惨の最後+アニメ『幼女戦記』の二回目のアンソン・スー戦を参考に書いています。
セレブリャコーフ中尉がいたから生きたアニメと
いなかったから死んだこの作品とで対比にしました
さてさて、改めまして。
感想を送って頂いた皆様、評価をくださった皆様、お気に入り等々してくださった皆様、
改めて!
ありがとうございました!!!