冬木アクターズ・ラプソディ ~観光に来た演劇バカの女子大生、うっかり龍之介を轢いてしまったので、キャスターの「ジャンヌ役」として聖杯戦争を完遂します~ 作:斉宮 柴野
共感の舞台は、降りた。
停滞の神は、いまだ繭の中で眠っている。
かつて正義を掲げた者も。
悪として裁かれた者も。
誰かを救い、誰かを傷つけ、それでも生き残った者たちも。
今はただ、あるがままを少しだけ歪めながら、穏やかな日々を過ごしていた。
聖杯戦争は終わった。
人理を巡る物語も終わった。
役者たちは衣装を脱ぎ、舞台から降りた。
――そのはずだった。
だけど。
世界は、それを許したとは言っていない。
世界は、それを許さないとも言っていない。
そして世界は、彼らを赦すとは――ただの一度も言っていない。
人■悪。
■■の外。
日■の闇。
複合階層宇宙。
可逆世界。
エミヤ。
資格■限。
起源簒奪。
そして――■の理。
封じられていた言葉が、一つずつ冬木へと帰還する。
存在しなかったはずの罪。
まだ起きていないはずの結末。
誰も選ばなかった未来から届く、判決なき召喚状。
「もう、十分でしょう?」
声は優しく、だからこそ残酷に響いた。
「役目を終えた役者たち。あなたたちはあの時、とっくに舞台から降りていたのだから」
ならば、これは誰のための物語なのか。
観客の消えた劇場で、誰が幕を上げようとしているのか。
さあ、今一度踊ろう。
舞台はすでに去った。
客席は空で、喝采も罵声も聞こえない。
それでも劇場だけが、彼らの帰還を待っている。
そして真樹は知る。
これは再演ではない。
救済でも、復讐でも、裁判ですらない。
かつてすべてを■■■■にした、
あの過去――あるいは未来へ辿り着くための、最後の開廷なのだと。
「その時にこそ、私は貴女を――――」
届かなかった言葉の続きを告げるため。
愛した世界を、今度こそ終わらせるため。
あるいは、終わりそのものから奪い返すために。
役者たちは再び、空席の劇場へ呼び戻される。
その夜、冬木の空に七つの亀裂が走る。
死者は生者の名を呼び、生者は忘れたはずの死を思い出す。
聖杯に選ばれなかった英霊たちが、あり得ざる座から手を伸ばす。
「問おう。貴様はまだ、人間のつもりか?」
その問いに、答えられる者はいない。
英雄も、怪物も、獣も、ただ一人の少女さえも。
やがて冬木の地に巨大な法廷が顕現する。
被告席に立つのは、■■。
原告席に座るのは、世界。
そして裁定者の席には――誰もいなかった。
だから彼らは、自ら判決を選ばなければならない。
『冬木アクターズ・ラプソディ stay night編』
Bringer / Let / Serenade――開廷。
もう、十分でしょう?
役目を終えた役者たち。
あなたたちは、もう一度舞台へ戻る必要などなかった。
――それでも世界は、まだ幕を下ろしていない。