ただ、ミコラーシュとかいうマジェスティックのせいで50点減点させれて100点になってしまってるだけで。
とある病室の一室で、入院中のアキのために小型の果物ナイフで慣れない手つきながらも差し入れのリンゴの皮をむいてる男、もとい、狩人はこの前のサムライソードとの戦闘を思い出していた。
突然の横やりによって殺されてしまった後、最後に触れたランタンがアキの家にあったこともあり、狩人が現場に戻る頃にはすべてことが終わってしまっていた。アキは重体を負い、姫野は死亡。デンジはかろうじて連れ去られなかったようだが、それを含んでもあまりに損失が大きすぎた。
あの敵たちは明らかにデンジを目的に行動していた。つまり、これからも奴らは攻撃を仕掛けてくるだろう。今回は不意打ちだったこともあるが、公安のデビルハンターの多が殺されてることを考えると、デンジを奪うための布石は整えられていると考えた方がいい。
狩人自身も横やりとはいえ、サムライソードの一味に敗北している。初見殺しはある程度仕方がない。喜んで殺されよう。しかし、同じ手を食らう狩人ではない。次あったときには必ず殺すと決意を固める。
思わず使ってるナイフにも力が入ってしまい、指を少し切ってしまった。この程度なら自然治癒で戻ると傷口をぬぐっていると、いつの間にかアキが目を覚ましていることに気づく。アキはまだ頭に血がめぐってないのか少しボーっとした様子のままだった。
「起きたか……」
「狩人……4課は誰が生き残ってる」
「私とデンジ、それとパワーにコベニだ。もう一人メガネの男も生き残っていたらしいが仕事をやめたと聞いた」
アキは目を大きく見開いたのち、すぐにその顔を伏せた。起きたばかりの彼にこのことを言ってしまったのは少々酷だったかもしれないが、先延ばしにしたところで意味はないだろう。
「私とデンジたちはマキマに呼ばれてるからすぐに出る。それと、私たちからの果物の差し入れだ。よかったら食べてくれ」
今は一人にしておいた方がいいだろう。アキは人前で泣けるほど器用な奴では無い。自分の気持ちを整理する時間ためにも、一人の時間は大切だ。
部屋を出ると、すぐそばには漫画を読んで待っているデンジの姿があった。普段なら楽しそうに漫画を読む彼でも、浮かない表情で眺めているだけで、何かを考えてるような様子だった。
「デンジ。どうしたんだ?こんなところで」
「マキマさんがお前を呼んできてくれって言ってたから来たンだよ」
「そうか、すまないな」
デンジとともに、互いに無言でエントランスへと向かっていると、不意にデンジが言葉を漏らした。
「なぁ狩人。人が死んでも泣かないのっておかしいか?」
「どうして急にそんなことを?」
「……姫野パイセンが死んだときも、俺の友達が死んだときも悲しかったけど泣けなかったからよ。この先誰かが死んでも一生泣くことねーのかなって」
デンジは特段、普段と変わらない表情のままそういった。その様子からはデンジは自己嫌悪してるわけでもなくただ本当に疑問を持っただけなのだろうと分かった。
「貴公がこの先、誰かが死んだときに泣けるかどうかは私にもわからない。ただ、大切な者の死に対して悲しめるなら、そこにはしっかりと感情がある」
涙を流すだけが全てではない。もし、これを否定してしまえば、夢の中、今はもう動かない彼女が覚えた微かな感情を否定することにもなる。それだけは絶対に許されない。
「……ただ、自分が死んだときに誰かが泣いてくれるのならそれは嬉しいことだろうね」
「狩人は死なねーだろ」
デンジの冷静なツッコミに対して思わず微笑が漏れる。
思えば、私も涙を流したのはいつが最後だろうか。いや、一度もそんなことはなかった。そして、それを気に掛けることもしなかった。デンジとは違い、私は──。
いや、と狩人は嫌な考えを振り払うように頭を振る。
「……ただのたとえ話さ。ほら、パワーとマキマが待ってる。急ごう」
▲▽
マキマに連れていかれたのは殉職したデビルハンターたちの墓地だった。だだっ広い平原全体を埋め尽くす墓の数は、この世界における悪魔被害の深刻さを表している。
「今回のホテル事件でデンジ君が狙われてることは分かったから、4課を強化しようと思ったんだけどほとんどが死んじゃったね」
「マキマが我々を鍛えるのか?」
「いや、君たちを指導するのは彼だよ」
マキマが指をさす先には、同じデビルハンターの制服を着た男が立っていた。男は手に酒瓶を持っており、彼の発する匂いからさっきまで酒を飲んでいたのだろうということがわかる。
マキマが彼の名前を言おうとすると、男はそれを遮るように言葉を被せた。
「俺の質問に答えろ」
一つ、と指を立てながら問う。
「仲間が死んでどう思った?」
「別に~」
「死んだ!と思った」
「残念だと思った。あと、何か使えそうなものがないかとも思った」
別にヤーナムで仲間がいたわけではないのだが、知っている人物が死んでた時は残念だと思った。そして、死んでったものたちの多くは我々、狩人にとって有用なものを落としてることが多いのでそれは有効活用させてもらっている。
男は、墓の方を向いたまま二つ、と続ける。
「敵に復讐したいと思ったか?」
「復讐とか暗くて嫌いだね」
「ワシも!」
「敵だから復讐とか関係なしに殺すだけだな」
勘違いしないでほしいのだが、狩人が負けた相手に何度も挑むのは復讐心などではなく、信念である。ヤーナムでの狂気の夜を駆け抜けるためのただ一つの信念。……もちろん、負けず嫌い的な側面がないことも無いが。
最後に、と男は問う。
「お前たちは人と悪魔のどっちの味方だ?」
「俺を面倒見てくれる方」
「勝ってる方」
「狩りをさせてくれる方」
もともと、デビルハンターになったのもそんな感じの理由だった。青ざめた血はマキマから提案された思わぬ副産物に過ぎない。
「お前たち。100点だ」
我々の質問を終えた男は、実に満足といった様子で酒瓶をグイッあおる。これだけを見たらただの酒飲みの異常者であるが、彼のたたずまいからは明らかに強者の雰囲気が出ている。
「
男はそばにいたマキマを帰らせると、ゆったりとした足取りでこちらへと近づいてくる。どこか悪寒を感じた狩人は、抱き着かれる直前にその場から抜け出す。そして、その予感は当たっていたようで、男の抱擁を受けたデンジとパワーはそのまま首を折られてその場に倒れこんだ。
「よく気付いたな。警戒心が強い」
「ただの勘だ。今回は珍しく当たった」
「そこの二人よりはマシみたいだな」
懐から輸血液を取り出した男はそれをデンジとパワーに飲ませ、復活させる。
「マキマからお前たちを鍛えるように言われてる。ただ、俺は人間は鍛えたことはあっても悪魔はない。ましてやそのどちらでもなさそうな奴もな」
ただ、と男は続ける。
「俺は最強のデビルハンターだ。その最強の俺を倒せるようになるまで俺はお前たちを狩り続ける」
「コイツ頭が終わっておる!」
パワーが言えることか?とツッコミたくなったが、言ったところで無視されるだけだろうし男も大概なのでスルーする。
「じゃ、やるか。まずは変な帽子したお前からだ」
「センスがいいと言ってほしいものだな……殺す気でいいのか?」
男は肯定も否定もせず、ナイフを取り出し近づいてくる。狩人はそれを肯定と受け取ると、ノコ鉈を取りだす。
隙だらけ。そう思いノコ鉈を男の脳天目掛けて振りぬく。しかし、攻撃が届く寸前で回避されると、その一瞬で右手にナイフを2回、3回と突き刺される。想像を絶するその速さに、虚を突かれながらも、急所を防御しながらステップで後退する。ただ、これがよくなかった。恐怖にかられた獣の動くほどわかりやすいものはない。ステップで生まれた安全距離を一瞬にして詰められると今度は防御をする暇もなく、ナイフで脳天を貫かれて死亡する。
すぐそばにあったランタンに触れていたおかげですぐに復活した狩人。気が付いた時には、狩人の後に挑んだデンジとパワーも殺されており、仲良く全員殺されていた。
あの二人も決して弱いわけではない。ただ目の前の男が異常なまでに強いだけだ。それこそ、あの時計塔のマリアやゲールマンと匹敵。もしくは超えるほどの。
「三人ともほぼ不死身で、とっさに人の頭を殴れる脳みそを持ってる」
「俺はガキの頃から力が強くてすぐにおもちゃを壊しちまう。だから壊れないおもちゃが欲しかったんだ。だから俺がお前たちを最高にイカレタ奴らにしてやるよ」
男は、そこまで言うともう一度、狩人の方へと向かってくる。それに対し、狩人はトップハットの下で小さな笑みを浮かべた。
▲▽
それから、何時間もたったのち狩人の死亡回数が約20回を超えようとしたとき、これまでほとんど一方的にやられるだけだった狩人の動きに変化が生じはじめる。
狩人の遺骨を使ってるんじゃないかと疑いたくなるほどのスピードの動きに段々と目が慣れてきたのだ。こちらから攻撃するのではなく、あくまで相手の動きをみてから攻撃をする。
男は、同じパターンの攻撃を絶対に許さない。必ず、隙を見つけられそのままナイフで急所を貫かれて終了だ。よってカギを握るのは狩人の武器が持つ特有の攻撃。変形攻撃である。リーチとタイミングをずらすことができるこの攻撃は初めて男に使った時、初めてナイフで防御という形を取らせることができた。
初見殺しを難なく対処されているのはいただけないが、急な変化には向こうも虚を突かれるということだ。つまり、
狩人が岸部の攻撃を左手で受け流すと、全身で武器を隠すように大きく腕を後ろへと引き、タメ攻撃を岸部に喰らわせようとする。しかし、ノコ鉈の射程を完璧に把握されてる男は落ち着いた動きで射程外へと逃げると狩人の攻撃の後隙を狩ろうと待ち構える。
だが、男は気づいていなかった。狩人の握っている武器がノコ鉈でないということに。狩人がタメを作る瞬間、素早く武器を変更していた。早着替え、同様、狩人の特技の一つでもある武器の即時交換である。交換した獣肉断ちは変形により巨大な鞭のような挙動で相手の命を狩る。これならノコ鉈の射程外にいるあの男にも攻撃は当たるはずだ。
そして、獣肉断ちはその遠心力により、獣をただの肉塊へと変えてしまうほどの破壊力を持つ。つまり、男はノコ鉈の時のようにナイフで受け流すことはできない。
狩人は、ビキビキと音が鳴りそうなほどの武器を握り、男へと攻撃を食らわせようとする。
もらった!と思ったその時。
男は懐からさらに数本のナイフを取り出すと、それらを一斉に狩人へと投げる。小さい動作から投げられたにもかかわらず、ナイフは正確に狩人の右半身に投げられ、攻撃の勢いを弱められてしまう。そして、ひるんでいる隙に距離を詰めてきた男に対して、なすすべもなく首を飛ばされた。
再び、ランタンから復活した狩人に男が近づく。
「今のは100点の動きだった。お前が指導に来るのは週1でいい」
「……まだ貴公を倒せてないのにか?」
「俺が教えたいことはもうできてる。週一でやるのはそれを忘れないためだ。あとお前、悪魔と契約してないだろ。マキマがお前にちょうどいい悪魔を見繕ってくれるらしい。明日、公安に行ってこい」
確かにデビルハンターは悪魔と契約して戦うはずなのに、私はいまだに誰とも契約していなかったな。秘儀のように使いやすい悪魔と契約できればうれしいのだが。
「それはそれとして、また今日みたいに戦おうじゃないか。貴公と戦うのは実に楽しい」
「これ以上やったら殺されそうだ。それより、そこで伸びてる二人を抱えて今日は帰れ」
男が指さす先を見ると、目の焦点が合わないまま月を眺めているデンジとパワーの姿があった。
血は飲ませてあるから怪我は治ってるはずなのだが。頭がやられてるのか揺さぶっても起きる気配がしない。
仕方がなく、狩人は二人を背負ったままアキの家まで歩いて帰った。明日、マキマが用意する悪魔のことを考えながら。
2部で岸部隊長出てこなかったのまじで悲しいんすよね。
また、タツキ先生が続編を書いてくれたら嬉しいんだけど……こればっかりはBloodborneの新作を祈るぐらい難しいだろうね。