カードキャプターさくら 〜中身が限界オタクの私は、推し(知世)を泣かせたくなくて勇気を出す〜 作:ちいさな魔女
そして今回の話は、カードを絡ませない日常回にしたいと思います。
さくらは知世と合流し、友枝小学校の教室へ入る。クラスメイトに挨拶を済ませた後、先生がやって来て朝のホームルームが行われる。いつもと変わらないホームルームの筈だったが、今回は少し話が異なっていた。
担任教師「皆さん。今日は突然かもしれませんが、5年生のあるクラスに転校生がやってきます」
さくら「転校生?」
さくらは、小狼が来るにはまだ時期が早いと思っていた。しかし、クラスが違うし一学年上である事と、一ノ瀬の言葉を考えると、やはり呪術界に関係した人物なのかと思った。
三原千春「先生ー?転校生ってどんな子ですかー?」
担任教師「それが、髪が白くて綺麗な青い瞳の男の子よ。すっごいイケメンだったわ。ただ性格に難ありだけど。名前は、五条悟君だったかしら?」
さくら「げっ!?」
知世「さくらちゃん?」
さくらは冷や汗を流す。白い髪に綺麗な青い瞳、そしてイケメンなのに性格に難あり、そして名前。どう考えてもそれは、特定のアイツだからだ。
さくら(うわーっ!よりにもよって五条悟ゥー!?家入硝子さん辺りが良かったのにー!)
五条悟が転校してくる理由等、絶対に自分絡みで間違い無しだ。呪術廻戦を全て読んだ訳では無いが、五条家が五条悟を転校させる理由なんてどう考えてもクロウカードしか考えられない。
さくら「……うん。楽しみだねー。知世ちゃん」
担任教師「では、授業に入ります。転校生は午後から来るそうだから、皆で挨拶しに行きましょうね」
生徒達『『はーい!』』
こうして、さくらだけが内心不安を抱えたまま、午前中の授業は終了した。
――――――――――――――――――――――
さくらは知世と共に中庭で弁当を食べていた。しかし、ため息を常に吐いていた。
知世「さくらちゃん?なんだか、お顔が優れませんわ?」
ケルベロス「ホンマに大丈夫か?具合悪いんやったら保健室に……」
さくら「そうじゃないの………体じゃなくて精神的な……こうなったらもう話すしか無いかな……」
さくらは弁当を食べ終えると、知世とケルベロスの方を向いた。
さくら「知世ちゃん。ケロちゃん。2人には話してない事があるの。今から言う事は全て偽りのない真実」
さくらのいつにも増して真剣な表情に、知世とケルベロスは黙って話を聞いた。
さくら「私、木之本桜はクロウカードを解放した事は話したよね?でも、この話には話してない事がある。ケロちゃん覚えてる?私がクロウカードを放しちゃったあの日の事」
ケルベロス「ああっ。さくらは床に転んで気を失っとったな。せやけど、あれがどないしたん?」
さくら「私、その時に全てを思い出した。私には、この世界で生きた自分とは別の、前世の人間の記憶が流れ込んできたの。そのお陰で、私はこの世界が前世では作品の世界でしか無かったカードキャプターさくらの世界だと理解したの」
知世「作品の、世界?」
ケルベロス「作品の世界って、どういうことや?」
さくら「……私の前世ではね。『カードキャプターさくら』っていう作品があったの」
知世「……作品……」
ケルベロス「それが、この世界のことやって言うんか?」
ケルベロスも知世も、さくらの話を真剣に聞いていく。
さくら「うん。前世の私は、その作品を知ってた。さくらちゃん……つまり、今の私が、クロウカードを集めていく物語も。ケロちゃんのことも、雪兎さんのことも、知世ちゃんのことも……」
知世「…………」
さくら「そして……これから起こる出来事の一部も、知ってる」
ケルベロス「一部……?」
さくら「そう。一部だけ」
さくらだって、全てを把握してる訳では無い。
さくら「前世の記憶にあった『物語』では、私がカードを集めていく。いろんなカードが事件を起こして、それを一枚ずつ封印していく。そして、その先には……まだ私が知らないこともある。だから、転校生のことも分かった」
知世「……あの時のホームルームで、転校生の事を聞いた途端に様子がおかしかったのも、それが理由ですの?」
さくら「うん」
さくらは知世の問いに迷わず答える。
さくら「前世の記憶にある作品には、あの人が出てくる作品もあったの。だから……あの人の名前を聞いた瞬間、分かったの」
前世でも人並みに読んでたから分かる、現代最強の呪術師。今はまだ小学生だが、それでも能力で言えば現代最強格なのは間違いない。
さくら「『五条悟』だって」
ケルベロス「…………なんやそれ。つまり、お前は前の人生で、その転校生のことを知っとったんか?」
さくら「うん。でも……知ってることと、分かることは違うの。私は未来を全部知ってるわけじゃない。だって……この世界は、もう前世で見た『物語』とは違ってるから」
知世「……?」
頭を打って前世を思い出した事。呪術廻戦もクロスしてた事。あらゆる予想外がさくらを襲った。
さくら「最初から違ってたわけじゃない。でも、私がクロウカードを解放して、呪いを知って、呪術師さん達と関わって……その時点から、私の知っていた未来は、ただの『可能性』になった。だから……これから何が起こるのか、全部分かるわけじゃない」
前世の知識は参考程度にしかならない。二度目の生を受けられるだけ幸運だが、その先の人生をどう歩むかはあくまで本人次第なのだ。
さくら「それでも、知っていることはある。だから怖いの」
知世「……怖い?」
さくら「うん。知ってる未来が来ることも怖い。でも……知っているはずの未来が、知らない形に変わってしまうことの方が、もっと怖い」
前世の知識や記憶通りに行かなければ、自分の知らない出来事が次々と巻き起こる。バタフライ・エフェクトと呼ばれる現象に近い。蝶の羽ばたきが巡り巡ってサイクロンに変わった。今回も、さくらが頭を打ったところから、全てが変わり始めたのだ。
さくら「……それから、知世ちゃん」
知世「はい」
さくら「私が時々、雪兎さんを見る目が変だったのも……前世の記憶が原因なの」
ケルベロス「…………」
さくら「私、雪兎さんのことが好き。それは、前世の記憶が戻る前から変わらない。でも……前世の私は、雪兎さんについても知ってた」
知世「…………」
さくら「だから、雪兎さんを見ると……好きって気持ちと、怖いって気持ちが、一緒に出てくることがあるの。雪兎さんが悪い人だって思ってるわけじゃないよ。むしろ逆。大好きだからこそ……私の知らない『雪兎さん』がいることが、怖かった」
ケルベロス「…………さくら」
さくら「うん」
ケルベロス「お前……そこまで一人で抱えとったんか」
さくら「…………うん」
ケルベロスも知世も、さくらがどれだけ重いものを抱え込んで来たのか、今この瞬間に理解していた。
一人の少女が背負うには、あまりにも重すぎる運命。過酷過ぎる責任感。
さくら「でもね。私はもう、前世の『物語』を生きてるんじゃない」
さくらは二人の手を握る。
さくら「ここにいる知世ちゃんも、ケロちゃんも、お父さんも、お兄ちゃんも、雪兎さんも……みんな本物だから。私が前世で知っていた『カードキャプターさくら』がどうだったとしても…………今ここで起きることは、私たちが生きて決めていくことだと思ってる」
今こうして触れた手は温かいし、二人の目も水分で潤い、吐息を吐いて息を吸い、肌の感触も手に伝わる。作品等ではない。今ここにある、今確かに目の前には、生きている人達が居る。これは現実なのだ。
さくら「だから……未来を知ってるからって、全部私一人で何とかしようとは思わない…………これからは、二人にも一緒に考えてほしいの」
知世「……はい。さくらちゃん」
知世は、さくらの幸せが自分にとっての幸せなのだ。今こうしてさくらの覚悟を聞き、自分の全てを恐れずに話してくれたなら、協力しない訳には行かなかった。
ケルベロス「……ったく。もっと早う言えっちゅうねん」
さくら「……ごめん」
ケルベロス「でもまあ……話してくれて、おおきに」
ケルベロスも、さくらの気持ちが今の話だけで充分伝わって来た。
2人も確かに聞いた、夜蛾との試合で確かにさくらが発した言葉が、改めて偽りではない事を理解した。
さくら『……世界平和なんて知らない!誰かのために死ぬなんて、真っ平ごめんだよ!でもね……!私は、知世ちゃんが撮ってくれる『私』が一番好きなの!知世ちゃんが私に注いでくれる『愛』を、一滴もこぼさずに、最高のハッピーエンドでビデオに収めさせてあげたい!そのために邪魔な運命があるなら、私は地獄の底まで追いかけてでも、全部私の『カード』にしてやるんだから!!』
あの言葉が決して偽りではない事は、目の前のさくらが証明してくれた。
知世「全部話してくれてありがとう………これからは、私も一緒に背負いますわ。さくらちゃんの歩む道に、何処までもお供致しますわ」
さくら「………ありがとう、知世ちゃん」
知世がさくらを抱き締めた。さくらの背負う重荷を共に背負う。それは、彼女がカードキャプターだと分かった時から決めていたのだ。
昼休みが終わるまで、さくらは知世と抱きしめ合っていた。
――――――――――――――――――――――
午後の五時間目の授業に入る時だった。五年のクラスから女子の大歓声が響いた。
女子生徒『『きゃああああああ!!イケメンだぁー!!』』
担任教師「きゃっ!もしかして、今来たのかしら?」
上階から響く大歓声に、クラスも大騒ぎになる。
知世「さくらちゃん……もしかして……」
さくら「うん。来たみたい」
二人はヒソヒソと話しながら、五年のクラスに転校生が来た事を話す。
担任教師「まあまあ、皆さん。そんなに騒がないの。転校生が来たからって、授業はちゃんとありますからね」
女子生徒「先生、あれだけ騒ぐって事は、すっごく格好いいと思います!」
担任教師「はいはい。分かりましたから、席についてください」
教室中がまだざわつく中、さくらは机に頬杖をつきながら、なんとも言えない表情を浮かべていた。
さくら(来ちゃった……五条悟が、本当にこの学校に……)
そして隣では、知世がいつもの微笑みを浮かべている。
知世「……さくらちゃん」
さくら「なに?」
知世「先ほどのお話を聞いた後ですと、先程の歓声も随分と意味が違って聞こえますわね」
さくら「……お願いだから言わないで」
そして授業も滞りなく進み、放課後の時間が訪れた時だった。
五年のクラスがある階段の方から歓声は止まず、五年生の女子生徒達が密接した集団を形成している。
五年女子『まつ毛長ーい!』
五年女子『瞳が青くて綺麗……』
五年女子『背が高ーい!』
五年女子の集団の中心に居たのは、小学生とはいえ五年生であっても割に合わないけど、探せば居そうな高身長の男子小学生が居た。女子達にチヤホヤされて、イケメンムーブを披露している。白い髪に透き通るような青い瞳、そしてイケメン。
知世「あの人かしら?」
さくら「100%正解デス」
さくらは、前世のアニメや漫画で見た五条悟の姿に、しかし小学生故の小ささというギャップに、複雑な内心を浮かべていた。
ケルベロス(さくら………気ぃつけや。あの男子、チャラそうやけどよう周りを見とる)
ケルベロスからの念話が伝わる。
さくら(だろうね。あの眼、厄介なのは知ってたけど、もしかしたら私がいくら隠してても多分分かっちゃうんだよね)
周りを見る。それは、五条悟の持っている
さくらもその事は知っていた。前世の知識もそうだが、夜蛾先生が六眼について知っていた為、特別に教わってもらった事がある。電話越しではあるが、それでも得られた情報は有益だ。
すると、女子達に囲まれていた五条が、さくらと目が合った。さくらは視線がこっちを向いてるのに気付いてしまい、心臓が強く鼓動するのを感じた。
さくら「知世ちゃん!行くよ!」
知世「さくらちゃん?」
さくら「いいから早く!」
さくらは知世の手を握り、大急ぎでその場から逃げ出すように速歩きで移動した。階段を急ぎ足で降りていき、五条から距離を離す。
しかし、時すでに遅し。五条は周りの女子達に声を掛けられる中で、五条は六眼から得た情報を瞬時に記憶した。
五条(アイツ………呪力よりクリアな力を持ってやがる。クロウカードの契約者………WINDY、FLY、SHADOW、ウォーティ、WOOD、RAIN…………へぇ、おもしれぇ。アイツが俺の許嫁、木之本桜って奴か?)
五条はさくらと目が合っただけで、さくらの周囲に残っているカードとの繋がり・呪力とは異なる魔力の性質・カードの契約痕跡などを六眼で解析し、そこからカードの正体を推測した。
女子生徒『『五条くーん!一緒に帰ろー!』』
五条「悪いが俺、今から行かなきゃならない所があんだよ。お前等の相手してる暇なんかねぇんだよ」
五条はそう言うと、階段の手すりを飛び越えて階段を降り始めた。アクションスター顔負けのアクションと、五条のイケメンぶりが、女子達を更に歓喜させた。
女子生徒『『カッコいい〜!!!!』』
初日で五条悟の伝説が更に盛り上がったのは、言うまでもない。
――――――――――――――――――――――
一方その頃、さくらはローラースケートを装着して、知世とケルベロスを連れて公園まで逃げて来た。知世を途中からお姫様のよくに抱えて、公園まで走って来たのだ。知世を降ろした後に、さくらは知世やケルベロスと共にベンチに座る。
さくら「はぁ……心臓が保たないよ……」
知世「さくらちゃん、まるで王子様見たいですわ。私を運んでくださる姿は、正に王子様のようで………素敵ですわ!」
さくら「そうかな?逃げる事に夢中だったから……知世ちゃんが狙われてた訳じゃないのに気付いたら運んでたよ……」
ケルベロス「ホンマ夢中で運んどったわ〜」
さくら「だって、五条悟だよ?六眼持ちだよ?私が何持ってるか、何処まで見抜かれたか分からないんだよ?」
さくらはベンチの背もたれに体を預けるように座る。すると、少し考えた知世が口を開く。
知世「ですが、さくらちゃん」
さくら「?」
知世「先ほど、五条さんと目が合った途端に逃げてきてしまいましたけど…………あれではかえって怪しまれるのでは?」
知世が微笑む。
さくら「あ」
ケルベロス「…………」
言われてみれば、その通りだ。あの時は怖くてつい逃げ出してしまったが、もし自分が五条悟の立場なら自分と目が合った途端に逃げ出したりする等、自分だけでなく相手も何か知ったと思うのが自然だ。
さくら「……どうしよう」
ケルベロス「どないもこないも……」
ケルベロスは額に手を当てる。
ケルベロス「もうバレとる可能性、高いやろ」
さくら「だよね……」
知世「さくらちゃん」
さくら「なに?」
知世「その場合、先ほどの私を抱えて逃げた行動も……」
さくら「……」
知世「五条さんからすれば、とても怪しい行動だったのでは?」
さくら「…………」
ケルベロス「…………」
それもそうだ。もしその光景を何処かで見られていたならば、益々確信に迫られる。
さくら「……帰りたい」
ケルベロス「現実逃避すなや!」
その時だった。
五条「へぇー。帰りたいんだ?」
さくら「…………え?」
聞き覚えのある声が、背後から聴こえてきた。
さくらの身体が固まる。
知世も、ケルベロスも、同時に振り返った。
そこには――白い髪の少年が立っていた。五条悟だ。視覚の情報量抑止の為にサングラスをしているが、さくらには分かる。あのサングラスの向こうには、好奇心に満ちた目がある。
五条「でも、もうちょっと話していこうぜ?」
さくら「…………」
さくら(来たァァァァァァァ!?)
さくらは内心で叫ぶ。
この状況をどうしようか、そうさくらは悩むのだった。