家事代行先は闇堕ち寸前魔法少女の家でした~貧乏一人暮らしの俺は生活力を買われて内緒の焦れ甘同棲生活を始めることになる~   作:水瓶シロン

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第89話 魔法少女が揃いも揃ってボロボロに……

「ぐっ、はぁ……はぁ……!」

 

 壁に埋まった身体を引き抜いた妃菜が、フィールドに長杖をついて体重の支えにしながらふらりと立つ。

 

 度重なる薫からの猛攻によって身体中に切り傷擦り傷が刻まれ、魔法少女装束も至る所が破けている。髪は乱れ、呼吸は荒く肩が何度も上下し、額から汗が横顔を伝って顎の先から落ちる。

 

 そんな様子を遠巻きから悠然と、されど油断なく見据えていた薫。身体から静かに立ち上って湯気のように見えていた魔力がフッと消えた。

 

 縮地を可能とする、自身の能力を爆発的に昇華させる大技の効果時間が切れたのだ。

 

 薫の魔力量的に、魔力上限値の半分の魔力のみ使用可というルール上で大技を使えるのはあと一回が限度と言ったところ。そう考えると余裕がないようにも思えるが、それを見越して一度の大技の使用でここまで妃菜を追い詰めた。

 

(ま、本音を言えばこの段階で決着をつけてしまいたかったのだけれど……)

 

 そう出来なかったのは、ひとえに妃菜が強かったから。そう認めざるを得ない。

 

「随分としぶといのね、貴女」

「っ、ふぅ……当たり、前だよ……!」

 

 身体はボロボロになっても、その淡紅色の瞳に宿す眼光は決して消えなかった。

 

「言ったでしょ……望くんを守ってみせるってワガママを貫き通すって……!」

「そんな様でまだ同じことが言えるのね」

「あはは、確かにボロボロになっちゃったけど……それでも、ボロボロ止まりだよ……?」

 

 隠し切れない疲労を表情に滲ませながらも、挑戦的に口角を持ち上げる妃菜。対する薫は眉をピクリと動かす。

 

「ここで私を仕留めておくべきだったね、日比峰さん……!!」

 

 腰を落とすなり素早く地面を蹴り出して彼我の距離を詰める妃菜。長杖の柄を両手に握って、正面から薫と斬り結ぶ。交差する長杖と大太刀が火花を散らす。

 

「私を相手に近接戦をするつもり?」

「……ふふ、まさか」

「――ッ!?」

 

 近接戦も苦手としていない妃菜だが、それでも薫を相手にすれば分が悪い。そのことを充分理解しているだろうに間合いを詰めてきたため怪訝な表情を見せた薫。しかし、意味深に笑った妃菜の周囲に魔力が集束していくのを見て――――

 

(直接掴まえて確実に魔力攻撃を当てる狙い……!)

 

 妃菜の思惑を見抜いて、捕まる前に飛び退く薫。

 

 しかし――――

 

 ダンッ……!

 

「なっ……!?」

 

 バックステップして下がった先で背中が壁に衝突した。

 

 おかしい。大きな楕円形のフィールドの壁はまだずっと向こうのはずなのに。では、何が背中に当たったのかと言えば…………

 

「掛かったね」

「魔力障壁……!?」

 

 魔力を練り固めて物質化したバリア――通常、魔法少女が防御手段として使う技だ。それを妃菜は障害物として利用した。

 

 その一瞬の隙を逃さない。

 

 バァアアアンッ!!

 

 妃菜の周囲に集まった魔力が放出される。

 それは正面への指向性を持った衝撃波となって薫を襲い、自分で展開した魔力障壁をも一緒に粉砕して遥か後方へと吹っ飛ばした。

 

 ここまでの戦闘でもそれなりに魔力を消費したが、それでも自身の最も大きなアドバンテージを忘れてはいない。大技を三回使える余力は残していた。

 

 その一回の使いどころは、ここだ。

 

 妃菜はクルリと回した長杖の柄尻を右肩に当て、諸手でライフルのようにして構える。杖の先端に幾重にも重なった魔法陣が展開され、膨大な魔力がその中央の一点に集束していく。

 

 射線の先では、薫が吹っ飛ばされた衝撃を殺すように下駄の底を滑らせながら体勢を立て直し、地面に大太刀を突き立てて制止。

 すぐに顔を上げて、妃菜の長杖の先端に集う並々ならぬ魔力の気配に紺碧の瞳を細めた。

 

 刹那――――

 

「はぁっ!!」

 

 ズバァァアアアアア――と、妃菜が一筋の眩い光の軌跡を宙に真っ直ぐ迸らせた。長杖の先端から射出されたそれは射線を通過する地面を捲り上げ、すさまじい勢いと速度で狙い違わず薫へと駆け抜ける。

 

 薫に思考している暇などなかった。

 

「くっ!!」

 

 ラスト一回の大技の使用。

 全身に魔力が滾り、湯気のように可視化されたものが溢れ出る。

 

 爆発的に昇華された身体能力、肉体強度。

 通常時であれば対応が間に合わずここでなすすべなく撃ち抜かれていただろうが、動体視力と反射神経も強化されたお陰でかろうじて対処が間に合う。

 

 とはいえ躱している時間はない。

 大太刀を振るって相殺させる。

 

 が――――

 

「なんて重さっ……!?」

 

 ズパァアアアンッ! と、しばしの拮抗ののちに弾くことに成功したが、振り抜いた大太刀がカタカタと震える。柄を握る手の握力が削られたのだ。

 加えて、切り払った箇所の刃が熱せられて変色し、切れ味も落ちている。

 

 しかし、だからと言って悠長に構えることは出来ない。最後の大技を行使した以上、この強化状態が切れる前に妃菜を倒さなければ敗北が確定する。

 

 そして、それは妃菜も重々承知。

 

(強化が切れるまで時間稼ぎ……ううん、日比峰さんも決着をつけに来るだろうし、縮地で詰められたら終わる。出し惜しみなしで攻めないと渡り合えない)

 

 妃菜にはまだ二回分の大技の余力が残されている。もう後がない薫に対して有効打は充分だ。

 

 

 意図せず、しかし必然に両者の呼吸が重なった――――

 

 

「行くよっ!!」

「行くわっ!!」

 

 妃菜は長杖を掲げ、頭上に星屑を思わせるほど膨大な数の魔力を練り固めた欠片を浮かび上がらせる。それら一片一片がシャドウを容易に刺し穿つ威力を誇る。

 

 それを見ても臆しない薫。

 身体の輪郭を掻き消す速度で疾走する。

 

 見開かれる妃菜の瞳。

 ビュン、と振り下ろされる長杖。

 それをトリガーとして、宙に漂っていた星屑らが一斉に流星群となって眼前一面に降り注ぐ。

 

 ハヤブサの如き薫を点や線で捉えることは出来ない。であれば面で制圧すればいい。単純にして強力な物量作戦であり、妃菜が最も得意とする戦法だ。

 

 が、当のハヤブサは更に加速する。

 降り注ぐ雨にある程度濡れるのを覚悟しているのか、巧みに白刃を煌めかせて魔力の欠片を弾きながらも、身体の端々に被弾する。

 

 しかし、それでも足を止めない。

 カッカッ――と下駄の鳴りを置き去りに、グングンと彼我の距離を詰めていく。目指すは縮地の間合い。

 

 流星群が止む。

 穿たれた地面から舞い上がった土煙が視界を覆う。それは互いに姿が認識出来ずどちらにも得のない状況に思えるが、妃菜からすれば元から素早い薫の姿を捉えるのは難しい。縮地などされればまず見えない。

 

 そう考えると、薫にのみ不利に働く状況とも言える。

 

 だが、相手の姿が見えないくらいで方向感覚を見失う薫ではない。足を止めれば再び面制圧される恐れがあるため、速度を落とさずそのまま土煙の中を駆け抜ける。

 

(視界が開けたその瞬間、縮地で詰めて終わりよ)

 

 バッ! と狙い通りすぐに土煙が舞う範囲の外に出る。同時に薫の目が妃菜を捉えた。何やら胸の前で長杖を両手で握り締めているが、縮地で先手を打てれば問題はない。

 

 

 妃菜の、薫の、最後の一手が打たれる――――

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