アオハル☆スクールオラトリオ   作:否定の壁

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ダンまちの二次創作です。
書き溜めがないので気長にお付き合いいただけると幸いです。
discordでネッ友に監視されてるので筆を折ることはないと思います。



序章 学びの園『学区』
第一話 汝世界を知れ


「ラピ、こっちこっち!ボクのオススメの店を案内してあげるよ!」

「クリス、前を見ないと転んじゃうよ」

「クリスちょっと……!」

「まったく。騒がしいぞお前ら!」

「イグリンの声がいちばん大きい……」

「……」

 

 嬉しそうに少年の手を引いて先頭を歩く小人族(パルゥム)、クリス。

 はしゃぐクリスに手を引かれ、困ったような笑みを浮かべる兎人(ヒュームバニー)の少年、ラピ――こと、只人(ヒューマン)の第一級冒険者、ベル。

 クリスを注意しつつ、手を繋ぐ二人を羨ましそうに眺めながら後を追う半妖精(ハーフエルフ)の少女、ニイナ。

 騒がしさから、他の生徒達の注目を集めている三人を叱るドワーフの少年、イグリン。

 そのイグリンが一番騒がしいと、呆れてボヤく黒妖精(ダークエルフ)の少女、レギ。

 彼らの後ろを無言で着いて行く兎人(ヒュームバニー)の少女。

 

 洋上を行く浮遊艦『フリングホルニ』の上、売店が並ぶ学園層(アカデミック・レイヤー)の通りを賑やかに進んでいるのは、『学区』の戦技学科【バルドル・クラス】所属の第三小隊のメンバー+αだ。

 

 迷宮都市(オラリオ)の総力を挙げた【ロキ・ファミリア】救出作戦からしばらくして、ベル・クラネルは再びラピ・フレミッシュとして『学区』に通っていた。

 ――なぜこうなったのか。ベルは数日前のことを思い出していた。

 

 

 

 

「ベル、私と世界を見に行かないか」

 

 【ヘスティア・ファミリア】の本拠(ホーム)『竈火の館』を訪れた『学区』の教師、レオン・ヴァーデンベルクが開口一番爆弾を落とした。

 

 迷宮(ダンジョン)探索に行く予定のない日の朝、皆で朝食を食べ、各々が今日することをぼんやり考えていた時のことである。突然のLv.7の来訪に、目を白黒させながら応対していた【ヘスティア・ファミリア】の時間が止まる。

 

「いきなり来て何を言い出すんだ君はぁっーー!!」

 

 部屋にヘスティアの雷が落ちた。

 

「ベル君は、あの恐ろしい60階層から帰ってきたばっかりなんだぞ!しーかーも!ロキの眷属()達を助けるために、訳分かんないぐらい強い怪物(モンスター)と戦って!……だいたいっ、君はこないだベル君を『竜の谷』に連れて行った挙句、そこでベル君をボコボコにしたじゃないか!!まだ足りないって言うのかいっ!?」

「ヘスティア様の言う通りですっ!ベル様にはお休みが必要なんです!もちろん、鬼畜エルフのヘディン様に酷使されたリリ達にもっ!Lv.7だか【ナイト・オブ・ナイト】だか知りませんが、これ以上リリ達を面倒事に巻き込むと言うのなら、出るとこ出てやりますよーっ!!」

「ヘスティア様落ち着いてください……。リリスケも、どこに出るってんだ……」

 

 相手が下界最強級の冒険者ということを忘れたかのように食ってかかるヘスティアとリリ。

 そんなふたりを疲れた顔でヴェルフが宥める。

 はーっはーっと、肩で息をするふたりと、客人であるレオンに、リューがスっとお茶を出しながら尋ねる。

 

「それで【ナイト・オブ・ナイト】、世界を見に行くとはどういうことですか?ベルも今や第一級冒険者だ。そう簡単にオラリオを離れられないのは貴方も知っているはず」

 

 レオンの真意を探るようにリューが目を細め、その隣では、ヘスティア達の剣幕に慄いて出遅れた春姫が、お茶汲みの役目を奪われてショックを受けていた。

 

「僕も気になります……。レオン先生とはこの間『竜の谷』に行ったばかりですよね?あの時、先生には外の世界のことを色々教えてもらいましたけど……」

 

 当事者であるベルが困惑しながら尋ねる。

 

 『都市競技祭典(オラリオピアード)』の際、レオンとニイナの三人で『竜の谷』に行ったことは、ベルにとってこれ以上ない学びとなった。故郷の村と英雄の都(オラリオ)及びその周辺しか知らなかったベルにとって、あの旅は第一級冒険者としての責務を、否応なく自覚させるものだった。

 

 英雄譚を好むベルにとって、その舞台となった外の世界の国々や名所に興味が無いかと言われると嘘になる。しかし、そういった場所に行くとなると、年単位の旅も考えられる。今や、オラリオの上位派閥である【ヘスティア・ファミリア】。その団長であるベルは、軽々しくはいとは言えない立場にあった。

 

「すまない、急な話な上に言葉が足りなかったな。私も、どうやら気持ちが逸っていたようだ」

 

 少し恥じ入るようにレオンがお茶を啜る。

 

 ふぅ、とひと息つくと改めて口を開く。

 

「『フリングホルニ』の改修が終わってね、海上公試が始まるんだ」

「海上公試、ですか?」

 

 ベルが首を傾げる。

 聞き馴染みのない言葉に皆を見回すと、リューとリリ以外はベルと同じ反応をしていた。

 

「ああ。三年に一度の迷宮都市(オラリオ)帰港、その際に船の点検と改修を行うんだが、改修部位の性能を確かめるために試運転で実海域に出るんだ。あれだけ大きい船だから、改修も公試も数回に分けて行うようになっていてね。その一回目が近々予定されている」

「試運転で船が無い間、旅に出るということですか?」

 

 レオンの説明に命が疑問を呈する。

 ベルも前回レオン達と『竜の谷』に行った時のことを再び思い出す。――あのような短い旅に出るのだろうか。

 

「いや、『フリングホルニ』のそれは特殊でね。一回の公試に数週間から数ヵ月かかるから、我々教師や学生も船に乗ったまま、通常通り授業を行うんだ」

 

 通常の船であれば数日で済むものだが、世界最大の船ともなるとそうはいかない。試運転もまた大規模であった。

 

「そして近隣のいくつかの国や地域に寄港して実習を行い、またオラリオに帰って来る予定だ」

 

 そこで、ようやくベル達もレオンが意図していることが理解出来た。

 

「つまり、その航海にベル君を連れて行きたい。――という訳だね」

 

 同じくお茶を飲んでひと息着いたヘスティアがまとめる。

 

「その通りです、神ヘスティア」

 

 レオンが首肯する。

 

「期間は?」

「今回はひと月程度を予定しています」

「ひと月とはいえ、第一級冒険者が都市を離れるんだ。『ギルド』がそう易々と許すと思うかい?」

「『学生闘争』や『都市競技祭典(オラリオピアード)』で滞っていた眷族募集(リクルート)再開の条件に、『学区』が希望又は許可した上級冒険者の一時出向が含まれています」

「抜け目ないね……」

 

 質問を重ねるヘスティアにレオンは淀みなく答える。

 

「あとはベルの気持ちと、神ヘスティアと派閥(ファミリア)の許しさえあれば」

 

 そんなレオンの言葉にヘスティアはすぐに断ることはしなかった。ソファに深く沈み込み、腕を組んで思案を巡らせる。

 ヘスティアの感情はもちろん否だ。

 フレイヤが都市を魅了して以来、『派閥大戦』、学区入学、『都市競技祭典(オラリオピアード)』、【ロキ・ファミリア】救出と、いつもの事ながら立て続けに騒動に巻き込まれ、ベルと本拠(ホーム)でゆっくりする機会が殆ど無かった。ヘスティアとしては、頑張ってきたベル達をゆっくり労わってやりたかった。ここに来てひと月もベルを都市外に行かせるのは承服しかねた。

 

 ――しかし、かつてウラノスやヘルメスと話した内容が思い起こされる。

 Lv.5へと至ったベルは、押しも押されぬ英雄候補だ。『派閥大戦』を制し、【ロキ・ファミリア】救出を成し遂げたベルの名声は最早とどまるところを知らない。

 

 ――世界を知る義務がある。

 その義務は前回の学区入学と『竜の谷』を目にしたことである程度果たされた…ように思う。しかし、ベルが未だに純真無垢なピュア兎なのも事実だ。――そこがベル君の良いところなんだけども……と、ヘスティアは思考をあさっての方向に飛ばしかける。

 それはさておき、神としての直感と理性は、ベルは『学区』で外の世界を見て来るべきだと主張している。

 前回、『学区』で学んだ時は、『迷宮(ダンジョン)』での動きが格段に良くなっているとリリ達から報告を受けている。視野が広がり、パーティの司令塔としての役割もこなせるようになっていると。『経験値(エクセリア)』獲得という観点から見れば、より上位の『経験値(エクセリア)』を獲得出来る『迷宮(ダンジョン)』の方が良いのだろう。しかし、『恩恵(ファルナ)』に現れない技術体系の修得、読み合いの感覚の体得、人としての成長の可能性がレオンの誘いからは感じられた。

 何より、Lv.6のリューが加わったとはいえ、Lv.5のベルが迷宮探索でより上位の『経験値(エクセリア)』を獲得するには、ベルとリュー以外は第三級冒険者しかいない【ヘスティア・ファミリア】だけでは難しく、他派閥の力を借りなければならない。

 黒竜戦を見据える以上、成長の機会はあればあるほどいい。今、ベルを引き止めて手元に置くことで成長の機会を奪ってしまい、来たる戦いでベルを喪う事になれば、自分(ヘスティア)自分(ヘスティア)を未来永劫許せないだろう。

 

「……ベル君はどうしたいんだい?」

 

 ヘスティアが尋ねる。

 

「僕は……」

 

 ベルは逡巡するように目を伏せる。

 しかしそれもつかの間、すぐに顔を上げ、意を決した瞳でヘスティアを見つめ。

 

「僕は、世界を見に行きたいです」

 

自身の希望をはっきりと口にした。

 

「『竜の谷』への旅で思いました。僕は、世界のことを全然知りませんでした……。僕達冒険者が背負わないといけない責任、怪物(モンスター)に怯える人達、世界が今何を求めているのか」

 

 最後の三大冒険者依頼(クエスト)、『黒竜』の討伐。

 迷宮(ダンジョン)の最奥。

 ウィーネ達『異端児(ゼノス)』の未来。

 そして自身の憧憬(あこがれ)

 それらの答えを見つけるためには、より広い世界を知らなければならない。――そう思ったのだ。

 

「ベル様……」

 

 春姫から、想い人(ベル)が不在となることへの不安が漏れる。

 

「ごめんなさい、春姫さん……僕またわがまま言っちゃって……」

 

 申し訳なさそうにベルが謝る。

 団長なのにいつも皆に迷惑を掛けてばかりだと。

 

「まっ、いいんじゃねえか?ベルだって、半端な気持ちで言ってる訳じゃないだろ」

「ヴェルフ……」

 

 そう言ってベルの決意を肯定したのはヴェルフだ。

 ポンッと、ベルの肩を叩きながら笑いかける。

 

「俺もクソッタレな故郷(ラキア)を出て、剣製都市(ゾーリンゲン)で修行して、迷宮都市(オラリオ)に来るまでそれなりに旅したもんだ。自分の知らない世界を知るってのは大事だ」

 

 そうだろ?と、ヴェルフは他の皆を見回す。

 

「そうですね。自分も、タケミカヅチ様達と極東から旅をして迷宮都市(オラリオ)に来ました。道中見聞きしたことはどれも新鮮で…驚きに満ちていました。あのような経験も必要だと思います」

 

 命も、かつての自分を懐かしみつつ同意した。

 

「ベル。あなたが不在の間、派閥(ファミリア)運営と迷宮攻略は私達で何とかしましょう。あなたはこの機会に【ナイト・オブ・ナイト】から大いに学ぶといい」

 

 リューもベルの背中を押す。旅を終えたエルフは、誰よりも旅の重要性を分かっていた。

 

「皆さまがそうおっしゃるのでしたら……」

 

 皆の言葉に春姫も不安を和らげる。

 

「みんな……!」

 

 ベルが顔を輝かせる。

 

「可愛い子には旅をさせよって言うしね……。ひと月ならまあ……。ボクも許可するよ」

「神様…!ありがとうございます!」

 

 ヘスティアからの許しに喜ぶベル。

 

「ただし!本当にひと月だけだからな!それ以上は絶対ダメだ!ちゃんと一ヶ月後、ベル君を無事に帰すんだぞ!」

「もちろんです。必ずベルを無事に帰しましょう」

 

 指を差しながら念押ししてくるヘスティアにレオンは泰然と返す。

 皆がベルの遊学を認め、話がまとまったかに思われたその時。

 

「リリは反対です」

 

 最初の激昂以来、沈黙を保っていたリリが異を唱えた。

 

「リリ……」

 

 派閥運営において、常に慎重かつ冷静な判断を下す派閥(ファミリア)の頭脳は、情に流されやすい主神(ヘスティア)団長(ベル)制止役だ。

 とはいえ、賢い彼女は己の分を弁えているため、【ファミリア】の代表であるふたりの意志を無下にしたりはしない。浮き足立たないように釘を刺し、少しでも【ファミリア】のためになるよう調整するのだ。

 

「団長不在時の派閥運営や春姫様の警護、この辺りはリュー様や旧フレイヤ・ファミリアの皆様がいますので、まあ良しとしましょう」

 

 ですが!とリリが指を立てる。

 

「ベル様を一人都市外に出せば、必ずや騒動に巻き込まれ、必ずや新しい女性を引っ掛けて来るに違いありません!」

「リリー!?」

 

 ズビシッ!とベルを指差して断言するリリに、ベルが驚きの声を上げる。

 

 ――訂正。【ファミリア】のためでなく己のためだった。

 しかし、ベルに恋する乙女が過半数を占める【ヘスティア・ファミリア】において、ベルの女性問題は【ファミリア】の問題かもしれない。

 傷付いた顔をするベルに目もくれず、【ファミリア(恋する乙女達)】のためリリは更に言い募る。

 

迷宮都市(オラリオ)の中でさえ、あちこちで女性を落とし回ってるベル様です!『学区』から帰って来る頃には、一体何人の女性を侍らせていることやら!」

「そんなことしないよっ!『学区』をなんだと思ってるのっ!?……そもそも落としてないし!」

 

 (ベルの中では)謂れない言葉にベルは取り乱す。

 味方を探すように皆を見回すと。

 

「確かに……」

「神様っ!?」

「ベル様……そんな……」

「誤解です春姫さんっ!」

「ベルなら有り得ますね……」

「リューさんまでっ!?」

 

 ベルに落とされた女達がリリの言葉に同意していた。

 

「ベル殿の女難は筋金入りですからね……」

「まあ……都市魅了(あんなこと)もあったしな……」

「二人までっ!」

 

 命とヴェルフまで懸念を示す。

 ベル唯一人を手に入れる。そのために派閥(ファミリア)が襲撃され、神すら巻き込んで都市全てが魅了され、前代未聞の派閥連合による『戦争遊戯(ウォーゲーム)』が行われ、結果、都市最強派閥が崩壊するに至った。

 

 ――謂れ、すごくあった。

 自分が街娘(シル)の告白を断ったことに端を発する一連の騒動を思い出し、ベルは青褪める。

 美神を狂わせ、派閥はおろか都市すら傾ける少年が世に出ればどうなるか。国すら傾けて帰って来るのではなかろうか。

 雲行きが怪しくなり、冷や汗が止まらないベル。

 

「むむむ……やっぱり考え直すべきか……」

 

 神に二言はない。と言いたいところであるが、ベルの周りに女性が増えるのは処女神的にも恋する乙女的にもNGだ。

 ヘスティアは再び悩み始める。

 

 ――機は熟した。

 唸るヘスティアを横目に見たリリは確信する。

 

「とは言え、ベル様が『学区』で学ぶことの利点は理解出来ます。今後の迷宮(ダンジョン)攻略にも役立って来るでしょう……。なので!お目付け役を同行させるなら賛成します!」

 

 リリが条件を提示する。

 

「お目付け役、とは?」

 

 レオンが言葉の意味を問う。

 

「ベル様のように『学区』に変装入学し、ベル様のお傍で悪いむ……ゴホン、騒動に巻き込まれないよう見張るのです」

「『募眷族官(リクルーター)』ではダメなのかい?」

「いけませんね。【ヘスティア・ファミリア】は今回眷族募集(リクルート)を行わないと宣言してますので」

 

 レオンの代案もリリは却下する。

 成長著しい【ヘスティア・ファミリア】が、他派閥からこれ以上反感を買わないよう、今回の眷族募集(リクルート)を辞退している以上、その方法は取れなかった。

 

「では、どなたが入学を?」

 

 春姫が問う。

 

「もちろん。変装が出来て、周りから疑われないよう演技もそつなくこなせる人材……このリリです!」

「ふざけるなぁーー!!」

 

 胸を張るリリにヘスティアが詰め寄る。

 

「最もらしいことを言って、結局キミがベル君に着いて行きたいだけじゃないかー!なぁーにがお目付け役だ!キミがベル君とアオハルスクールライフを楽しみたいだけじゃないか!そんなのボクだってしたいやい!」

 

 私欲を隠そうともしない提案に猛抗議するヘスティア。

 いつもと立場が逆転した光景に命達は目を丸くする。

 

「考えてもみてくださいヘスティア様。他の方にお目付け役が務まるとお思いですか?」

「むっ」

「まずはリュー様。場数を踏んでいて適正は高いですが、年齢が『学区』の入学資格を超えていて、何より第一級冒険者が二人とも不在になるのは危険過ぎます」

「くっ」

「次に命様。潜入なら向いていますが、真面目過ぎて演技が出来ません。学生に溶け込むのは無理です」

「忍の技で潜入は得意なのですが……」

「そしてヴェルフ様。こちらも演技が出来ません」

「悪かったな」

「最後に春姫様。論外です。話になりません」

「こんっ!?」

「以上を踏まえ、変装(シンダー・エラ)得意(使える)かつ、長年冒険者様達に気付かれないよう、その懐に潜り込んできたリリが一番向いているのです!」

「むむむむむむむむーー!」

 

 力説するリリにヘスティアは反論出来ないとばかりに唸る。

 確かにリリの言う通り、彼女以上の適任はいない。お目付け役としても潜入役としても申し分なかった。

 しかし、ベルを巡る好敵手(ライバル)であるリリをベルと一緒に『学区』に行かせるのは処女神(ヘスティア)的にアウトだった。

 

 ベルの成長的には『学区』に行かせた方がいい気がするし、何より本人の希望なので叶えてあげたい。だがベルに悪い虫がつくリスクは無視出来ないし、リリに抜け駆けされるのも嫌だ。主神権限でリリの反対を押し切ることも出来るが、そんな事はしたくなった。リリは確かに好敵手(ライバル)であるが、それ以上に可愛い眷族(こども)であった。

 頭から煙が出そうなほど悩むヘスティアを見て、リリの表情が真面目なものになる。

 

「お目付け役以外にも、『学区』に入りたい理由があります……」

「サポーター君?」

「リリも……リリも世界を知りたいです」

 

 そう、心情を吐露した。

 

「リリは迷宮都市(オラリオ)で生まれて、ずっと迷宮都市(オラリオ)で生きてきました。前の【ファミリア】の方針もあり、物心ついた時には迷宮(ダンジョン)に潜って、その日を生きるためのお金を稼いでいました……。リリにとっては知識も技術も迷宮(ダンジョン)の中で生き残るためのものでしかありませんでした」

 

 でも。と言葉を切るリリ。

 

「この【ファミリア】に入って、色んな冒険を乗り越えて、果てはフィン様やヘディン様の代わりに冒険者様達の指揮を執って思ったんです……。もっと色んなことを知りたい。ベル様のため、皆様のために、もっともっと役に立てるよう、多くのことを……世界を知りたいんです!」

 

 そう言って、リリはヘスティアに向かって勢いよく頭を下げる。

 

「お願いします!リリを『学区』に行かせてください!!」

 

 ――嘘ではない。

 (こども)の嘘を見抜く(ヘスティア)の目には、リリが紛れもなく本心を語っていることが分かった。

 眷族(こども)の願いを聞いたヘスティアは、一度目を瞑ると、表情を緩めながらレオンに向き直る。

 

「ベル君を連れて行くことを認めるよ。それに条件が一つ……サポーター君も連れて行ってあげて欲しい」

「ヘスティア様!」

「神様!」

 

 顔を上げたリリが目を輝かせ、つられてベルも喜びの声を上げる。

 ヘスティアは2人に向かって微笑むと、改めてレオンに問いかける。

 

「元々ベル君を変装させて強引に入学させたのはそっちだ。だったら、ちょっとした裏口入学(ワガママ)を聞いてくれたっていいだろう?」

 

 強請るような口振りのヘスティアに、レオンが苦笑する。

 

「いいえ、その必要はありません。『学区』は学びの園。私は角杯(さかずき)知泉(いずみ)の番人として、彼女の『学ばんとする意志』を聞き届けました」

 

 スっと目を細め、レオンがリリを見つめる。

 

 『現代の英雄』に見据えられ、リリの背中に緊張の汗が伝う。

「学ばんとする者に『学区』の門は開かれる。裏口(ふせい)ではない。正式に彼女の入学を認めましょう」

 

 ――『小生意気な小人族(ブレイバー)』にも認められた頭脳に、『俺』も興味がある。

 レオンはそう言って悪戯っぽく笑った。

 

「――!!」

 

 『竈火の館』に歓声が上がる。

 ベル・クラネルとリリルカ・アーデ。二人の『学区』入学が決まった。




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