星なき夜のアリア √ミト   作:朝霧 ココ

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隔週投稿できたな、ヨシ!
――冗談です。

またしても大変遅くなってしまった……すみません。
予想以上の多忙、そして筆が進まない等の問題が起きてました。戦闘シーン難しい……
次はもっと早く投稿できるように努めます……5月中にアリア編は終わらせたい(願望)
まだまだ書きたい所があるのでね。

お気に入り登録、評価、感想等々。
いつもありがとうございます。読ませて頂く度に「失踪してたまるか!!」を気合いを入れ直しております。


第7話 『蛮勇』

「あんの……大馬鹿者!!」

「ミト!? ちょっと、待って――」

 

 気付けば足が動いていた。

 アスナが静止する声や、弱音を吐きそうになる自分すらも。全部置き去りにして駆け出す。

 

 《イルファング・ザ・コボルドロード》が見せた未知の剣技に、重症を負った指揮官ディアベル。2つの絶望によって戦場全体が包み込まれた結果、プレイヤー達へ爆発的に恐慌(パニック)が広がった。

 そこへ追い打ちをかけるように、青い雷を宿した卵から《ルインコボルド・センチネル》が産声を上げる。ベータテスト時代では上限は3匹までだった。しかし、今のセンチネルの総数は8匹。それらが今にも襲い掛からんと往々に剣を構える。

 コボルドロードが使用した(カタナ)スキルもそうだったが。途中まではベータテストと同じにしておいて、気持ちが浮かび始める終盤で想定外を畳み掛けるとは。製作者の悪意が滲んだ()()()()()には苦笑せざるを得ない。

 

 ここで打つ手を間違えれば、キリトとディアベルを救う道は途絶えるだろう。

 撤退は当然、頭の中に無い。しかし、ただ継戦を選べばリソースの面で厳しくなるのは目に見えていた。センチネルの数が倍以上になった上に、此方は主力であるC隊全員がHPを半分割っている状態。処理が追い付かない以上、長引けば不利なのは明らかだ。

 つまり、選ぶべきは速攻。センチネルを相手取るのは最低限に留めて、コボルドロード1匹に絞るべきか。

 あとは現在の陣形と各部隊の残存HPから逆算して――

 

「……C隊は後退してすぐに回復! 残りはA隊,B隊の壁役(タンク)を中心にセンチネルの相手をお願い! 倒す事は優先しなくていい! 今までと同じように、スイッチをこまめに挟んで安全重視! コボルドロードの標的(ターゲット)は――私が取る!!」

 

 指示を出しつつ、センチネル達の間を突っ走る。鉄斧が左右から襲いかかるも、それらに速度を緩めず、手に持った大鎌で最小限にだけ受け流した。細かい傷によってHPバーが最大値が半分を下回って黄色に染まり、危険域へ近づく。けどそんな事は構わない。

 1秒でも早く、彼の元へ。

 コボルドロードはこちらに背を向けて、意識を失ったキリトへトドメを刺そうと歩みを進めていた。一刻の猶予も無いが、逆にいえばソードスキルを叩き込むチャンス。一撃当てればヘイトをこっちへ移せるだろうと、覚悟を決める。

 

「――やあああぁぁぁッ!!」

 

 大鎌を両手で強く握ると、手の平から淡い紫の光が溢れ出す。その輝きは私と共に一閃の雷となって、コボルドロードへ刃を叩きつけた。

 背後から想定外の一撃。攻撃の準備に夢中だったコボルドロードは大きく体制を崩される。

 そして、愉しみを邪魔されたのが気に入らないと言わんばかりに、苛立ちを募らせた瞳で私を睨みつけた。

 

「グルウウゥゥ……」

 

 歯軋りと共に、怪物の呻きが漏れ出ていた。完全にキリトから私へとタゲが移った反応だ。

 今にも飛び出してきそうな形相に、思わず私は笑みを浮かべて――

 

(……今、私は笑ったの? こんな状況で?)

 

 自分でも信じられない反応だった。

 頬を触って確かめると、焦げるような熱が指に伝わってくる。いや、頬だけでなく全身が熱かった。

 この『熱』によって私は突き動かされているのか。

 そういえば、今の状況はキリトに救われた時と良く似ている。アスナを見捨てようとして、それを彼によって遮られた時だ。

 あの時私は足に殆ど力が入らなかった。しかし、今は違う。倒れたキリトを見た瞬間に飛び出していたのだから。

 どうして私は――

 

「ガルルゥゥゥアアア!!」

「――ッ、あぶな!」

 

 刹那の隙を縫うように、気づけばコボルドロードの巨剣が眼前に迫っていた。慌てて顔を逸らしてなんとか回避する。

 少し距離をとって、一息。少しマシになっただけで戦況は未だに劣勢だ。もう一度気を入れ直し、目の前の敵を見据えた。

 フロアボスとの1対1、と聞けば無茶な役と思うかもしれない。しかし、私には確かな勝算がある。(カタナ)スキルの奇襲には驚いたものの、繰り出されるであろうソードスキルには、ベータテスト時代に散々手こずらされた。そのお陰で相手の動作(モーション)を記憶し、対策も殆ど完成しているのだ。

 神経を研ぎ澄まし、息を吐く事も忘れて目を凝らす。見つめるのは目の前の怪物――奴が剣を握っている、その指だ。ソードスキルを発動する為には、必ず手を使った予備動作が必要になる。それを見逃さなければ、すべて捌ける。

 それがベータテスト時代に辿り着いた、私の秘策――《システム外スキル》と呼ばれる技術だった。

 

 間もなくして――怪物の指が動く。

 

「――シッ!!」

 

 コボルドロードの持つ鉄剣が、紅色の輝きを纏う。しかし、それよりも早く私はソードスキルを発動させ、同じく大鎌を薄紫の光で満たしていた。

 互いに大きく振りかぶり、大鎌と鉄剣が交差する。紅と紫のエフェクトが砕けて混ざり合い、蝶が群れるように舞い散った。互いのソードスキルが寸分も違わず重なり、効力を失う……つまり()()された。

 これが見つけた、私だけの生存経路。どんなコンボであろうと、発動する前に反応してしまえばいい。

 もう二度と負けるものか。自分にも、この現実(ゲーム)にも。

 そして――

 

「……私がいる限り誰も死なせない。来なよ、階層主(ルーキー)

 

 ただのプログラムである以上、私の挑発を正しくは理解してはいないのだろう。しかし、怪物は向かってくる私を『敵』として認め、再び剣を構えた。今度は雄叫びを上げる事もなく、ただ殺意のみを瞳へと宿らせる。

 それに私も応えた。足へ力を入れ、奴の元へと走り出す。

 隠しきれない笑みを浮かべながら。

 

 

 


 

 

 

 指が動く。大鎌を振り下ろす。大剣へ当てる。

 反射。予測。相殺。

 これを繰り返して――どれくらいの時が経ったか。

 

「はあ、はあ……まだまだ…………!」

 

 1つでも反応が遅れればゲームオーバー。そのやり取りをもう何度も交わしている。いつ集中が途切れてもおかしくない、極限の状態にまで追い込まれていた。

 幸いだったのは、コボルドロードがあれ以上の初見殺しを持っていなかった事だ。(カタナ)スキルによって繰り出されるのは、どれも既知の剣技。ベータテスト終了直前まで散々付き合わされただけあり、動きを先読みする事自体は難しくはなかった。

 しかし目の前の怪物は、あの時に相手していたモンスターよりもずっと巨体。当然扱う獲物もそれに見合った大きさであり、速度(スピード)長さ(リーチ)がとんでもない事になっていた。元々防御に向いていない大鎌では、ソードスキルの相殺を狙う難易度は更に上がる。

 

(負けてたまるか、負けてたまるか、負けて――)

 

 そんな地獄のような1対1を、私は1人で凌ぎ続けていた。

 終わりの見えない闘いの中で――ようやく待ち望んだ時が来る。

 

 

「みんな……遅くなってすまない! この騎士ディアベル、只今より復帰する!!」

 

 

 戦場に響いたのは、蒼いウェーブがかかった長髪の騎士――ディアベルの声だった。

 彼のHPバーは危険域(レッド)から、ほぼ満タンへと回復している。少し時間がかかったものの、私を含めたプレイヤー全員で慎重にヘイトを管理した事で、崩壊していた指揮を立て直す間を十分に稼ぐ事が出来たのだ。

 リーダーの復活に、プレイヤー達からは野太い雄叫びが上がった。

 

「B隊、D隊はフロアボスへ向かえ! タンクが攻撃を受けた隙にトドメを刺すんだ! センチネルの対処にはC隊(ボクら)が加わろう! 彼女らを、あの勇猛果敢な者達を決して死なせるなッ!!」

 

 騎士の鼓舞によって、戦場のボルテージは更に上がる。戦士達は絶望を忘れ、刃が弾かれる金属音がより一層高くなった。

 ディアベルの指揮は的確だった。私のその場凌ぎだった指示を受け継いで、そこから確実にコボルドロードを仕留める算段を立てている。

 意外だったのは、彼が率いるC隊がラストアタックに加わらなかった事。あそこまでLAボーマスに拘った『黒幕』は、土壇場でその権利を手放したのだ。より確実にフロアボスを倒す方向へ舵を切ったのか――あるいは、何か心境の変化があったのか。

 どちらにせよ、これでフロアボス攻略は目前。諦念が蔓延る《アインクラッド》へ、ようやく小さな希望の光がが指すのだと。

 

 ――そんな風に油断したのがいけなかったのだろう。

 通算14回目となる、大鎌と鉄剣のぶつかり合い。相殺の為に発動した筈のソードスキルは――光を灯す事は無かった。

 

「やばっ……!?」

 

 ソードスキルの予備動作から防御姿勢を無理やり取ろうとするが、間に合わない。スキルの不発によって勢いを失った大鎌は、ぶつかると同時にあっさりと吹き飛ばされた。更に怪物は間髪入れず、これまでの鬱憤を晴らすように意気揚々と跳び上がり、大剣を紅く染め上げる。

 (カタナ)スキルの範囲攻撃《旋車(ツムジグルマ)》。この戦いを狂乱へと導いた紅い暴風が、再び猛威を振るわんと牙をむく。

 丸腰となった私には、範囲外へ逃げ出す時間すら与えられない。

 せめてもの抵抗で腕を使って攻撃を防ごうとするが……

 

(手が、痺れて……!? さっき弾かれた時か!!)

 

 本来、相殺はソードスキルが生み出すパワー同士がぶつかり合う事で発生する現象である。それに加え、私はソードスキルを発動する際、予備動作以外にも体を意図的に動かして技の威力と速度へブーストをかけていた。これによって巨体を誇るコボルドロードに力負けせず打ち合えていたのだ。

 しかし、一瞬だけ動きにミスがあったらしい。システムアシストを阻害した事でソードスキルは不発となり、更にモロに一撃を受けた両腕は使い物にならなくなってしまった。

 故に、私には頭上のコボルドロードを見上げる事しか出来ない。

 

(ここまでか、なのか…………!?)

 

 その一瞬は時が止まったように、全てがゆっくりに感じた。

 ディアベルやキバオウが回避を叫ぶ声が遠くから聞こえる。それに背に受けて走るのは、恐らくスイッチを指示されたB隊――斧使いのエギルが率いる壁役(タンク)の部隊だろう。しかし、彼らの重武装では距離的に間に合わない。ヘイトを引き付ける為に離れながら戦っていたのが、ここで裏目となってしまった。

 アスナは今どこにいるのだろうか。彼女の実力なら死んだという事は無いだろうが、そういえば傍を離れてからの動向が分からない。誓いを立てたというのに、酷いザマだ。

 これでは()()()の二の舞じゃないか。

 結局私は、何も為せないままだったのか?

 

「ふざけんなよ……まだ――!!」

 

 負け犬のような捨て台詞を吐いている間にも、コボルドロードの跳躍は着地寸前となっていた。アレが地にたった瞬間、鋼鉄の巨剣によって私のHPバーは全て失い……死ぬ。

 一瞬、瞼を閉じようと考えた。目の前の絶望を受け入れずに背けようともした。

 しかし結局、私は目を逸らさずに怪物を睨みつける。彼なら――キリトならば、ここで逃げるようなマネなんてしないと思ったから。死ぬとしても、彼から学んだ『強さ』は最後まで捨てたくなかったのだ。

 死ぬとしても、私は――

 

 

「よくやった。後は任せろ」

 

 

「……え?」

 

 反応するよりも先に、彼――キリトは怪物へと向かっていく。夜空を流れる彗星のように、私を抜き去る。

 手に携えた片手剣《アニールブレード》を青く輝かせると、助走の勢いを殺さないまま、コボルドロードが着地した瞬間に解き放った。《旋車(ツムジグルマ)》の回転モーションを中断されたコボルドロードは、再び体勢を大きく崩す。

 戦場のプレイヤー達が思わず足を止める中、キリトは怪物の正面に立つ。ちょうど、私との間を遮るように。

 さっきまでの私と同じ事をする気か。そんな風に考えた時――不意に、とんでもない事に気づく。

 

(HPバーが赤い……? まさか、()()()()()()()()()()()()()()()なの!? 回復すらしてないのか!!)

 

 いくらなんでも無茶が過ぎる。あれじゃあコボルドロードの攻撃が1つ掠っただけでゲームオーバーだ。

 それでも戦っているのは、私を助ける為なのだろう。

 彼は目覚めると同時に状況を把握し、殆ど反射的に飛び出したに違いない。お人好しとか、そういう話ですない愚行――蛮勇の戦士に他ならなかった。

 ああ、チクショウ。

 貴方のそういう所が、本当に――

 

「こら、あかんわ……割って入れへん」

 

 キバオウがそう呟くのも無理がない程に、彼の闘いぶりは凄まじいモノだ。

 コボルドロードが繰り出す剣技を、限界ギリギリまで引き付けて躱す。あるいはブーストさせたソードスキルを当てて相殺させる。片手剣使いにも関わらず盾無しというあり得ない軽装が、本来生まれる筈のない加速を生み出し、それが変幻自在のステップへと繋がっている。恐らく現アインクラッドでは模倣が不可能な、彼だけの武器になっていた。

 私はというと、それを見ているだけ。いや、私だけではない。キバオウやエギル、ディアベルでさえ――キリトとコボルドロードを遠巻きに眺めていた。誰も『スイッチ』の一言を発せなかったのだ。

 セオリーどころの話ではない。キリトのHP残量を考えれば、今すぐにでも交代すべきだろう。しかし、逆にその少なさ故にスイッチのタイミングが1つでも噛み合わなければ、彼は攻撃を喰らいポリゴンの欠片となってしまうのである。

 つまり、キリトは自分の命を人質にして私達を怪物から遠ざけようとしている。

 そういう風にも考える事が出来てしまうのだった。

 

 何度も刃をぶつけ合った末、ついに決着の時がやってくる。

 痺れを切らせたコボルドロードは、グッと力を溜め込んだ。あの予備動作は恐らく《緋扇(ヒオウギ)》だ。本来は《浮舟(ウキフネ)》とのコンボで使用するソードスキルを、トドメの一撃として放つつもりか。

 しかし、その隙をキリトが見逃すはずが無かった。

 振り上げられた大剣に合わせるように、垂直斬りのソードスキル《バーチカル》を繰り出す。大技をキャンセルされた怪物に、ようやく致命的な隙が生まれる。

 そして。片手剣使いの剣士は、ラストアタックの為に最後の一歩を踏み出した。

 

「あ……」

 

 その後ろ姿に、封じ込めていた記憶が――ベータテスト終了直前の闘いが呼び起こされる。

 確かに私は(カタナ)スキルへと対策を組んでいたが、それは完璧なモノではなかった。数々のソードスキルを操ってきた蛇型の侍モンスター。ヒト型mob特有の変則的な動きに、最後まで対応出来なかったのである。

 結局、当時最高峰だったプレイヤー達が束になって挑んでも、最後まで突破する事は叶わなかった。ベータテストは終了し、あとは本実装でリベンジを待つしかない。そんな屈辱の記憶。

 ――しかし、1人だけいたのだ。

 そのプレイヤーは戦況を読み切り、僅かな突破口を見逃さなかった。行く手を阻むモンスター達を切り伏せて、足止めを喰らう私達をよそに、1人で扉の向こうへ消えていく。その光景を、当時の私は見つめるしかなかった。

 

 

(そっ、か……)

 

 その背中が、キリトと重なる。

 盾無しの片手剣に、正確無比なソードスキル。

 出会った時から感じていた既視感に、ようやく合点がいく。

 そして、何故私がさっきまで戦えていたのかも。

 

(私は、貴方を守りたいんじゃなくて――()()()()()()()())

 

 

「はああああああ――――ッ!!!」

 

 彼の握る剣がV字の軌跡を描き、コボルドの王を抉った。

 片手剣の二連撃技《バーチカル・アーク》。

 怪物の巨体が大きくよろけ、力を失い、やがて後方へと倒れる。恐怖の象徴だった獣顔を天井へ向けると、一際大きい咆哮をあげた途端――体中にポリゴンのヒビが入った。

 直後、アインクラッド第1層フロアボス、プレイヤー達に最初の絶望を齎した怪物《イルファング・ザ・コボルドロード》は、その体を無数のガラス片へと変えていく。

 同時に、彼の従者だった《ルインコボルド・センチネル》も霧散していくと、静寂が包むボス部屋虚空に1つのメッセージが表示された。

 

 【Congratulations!!】、と。

 

 それは、アインクラッド初の攻略作戦が成功した事を示すメッセージであり。

 プレイヤー達を包む暗闇を晴らす、一筋の光のように思えた。




Q.ミト強くない?
A.本作品の主人公ですからね。補正をかけて活躍させたつもりです。
 ただ、彼女に関しては元から実力はあったと解釈しています。
 致命的に巡り合わせが悪かったのが本編というだけで。
 今後も強くなってもらいますが、明らかにおかしい部分などは指摘して下さると助かります。

Q.キリト強すぎじゃね?
A.《黒の剣士》ならこれぐらいできる。

この時点での『強さ』は、【キリト≧ミト>アスナ】というイメージで書いています。
今後どうなっていくかは彼ら次第。


次回、ボス戦後の一幕。
アリア編の最後話になる予定です。
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