トランプメン 〜異世界で道化師プレイをつづけた結果、大変なことになったその男の末路〜   作:山下敬雄

96 / 96
第95話 熱狂

「ギフトはお一人様につきお一つまで、ただし例外はある」

 

 黒い頬を引っ掻き駆け抜けた、灰色の山猫に跨る道化師は驚愕する竜の耳元で囁いた。

 

「ギフトに嘘をつき口説くものと、盗人猛々しく奪うもの。キミは後者、そして腹の底にむかむかと溜まる盗み食いの罪(デメリット)を埋めるために、他者のギフトを考えなしに貪りつづけてきた……。そう、罪とは際限ない欲、欲望。肥大するばかりで飛べもしない翼のないモンスター、その滑稽な蜥蜴の姿は、強力が故のギフトに踊らされた者の末路だ!」

 

 強奪した数多のギフトを腹の内へとストックし好きなように行使する。ツツミの持つこの暴食のギフトは、一見手放しで強大なようにも思えた。だがしかしデメリットは着々とその体を蝕み、際限ない欲でさらなるギフトの食事を求めた。

 そして食事には当然好き嫌いがある。裏から手を回しミタライ支部長に命令を下し、ウッドフットの森で幾度もルーキー冒険者であったタイキ・フジを付け狙ったのも、良質な雷のギフトを求めていたからなのは明らか。

 気づけばギフトに操られた〝獣〟と化していた、哀れにも当の本人はそのことに気づいていない。その巨大な竜と謳う姿もギフトに精通したアキトに言わせれば、まだ上手く力を御しきれていない証左であった。

 

 しかし全てを一から懇切丁寧に説くつもりはない。容赦もお遊びも今はしない。刃を魔力で唸らせたアキトとタイキはこの絶好の好機に、二人して一気に切り込んだ。

 

「──さぁ、踊ってもらおうか今際の際まで!」

「うおおお!」

 

「ドぅおああああ!?」

 

 刃を振り下ろす冒険者たちの雄叫びと、巨大な竜の絶叫が響き渡る。

 次々と竜鱗を刻む青い剣筋。アキトとタイキ、二人のエースが竜の体を幾度も唸らせ打ち付けるその呪いの雷剣で支配する。

 

 四方八方全身に轟く青い雷に、竜が苦しみ踊る度に、ジッパー状に裂けた魔法の傷口から七色に光る紙ペラが流れていく。

 薄い契約書に変換され、開いた青いジッパー漏出したのは〝ギフト〟。今まで食し奪った竜の胃の中を彷徨っていたギフトたちが、光射す抜け穴を目指して飛び出してきたのだった。

 

「まったくとんでもない目に……ン──!? おいあの竜、なんだかさっきより萎んでねぇか? ワタァシと同じように」

「私にもそのように見えます。数多のギフトを同時に管理するリスク……そして敵の内在魔力を利用したあの奇剣……なるほど──それならば噛み合うッ。どうやら料理に失敗したのは、こちらだけではなさそうです……! もちろんお二方は〝意図的に〟それを引き起こしたのでしょうが……!」

 

 料理人たちに不当な暴行を受けたコットンはその場を起き上がり、苦しみ悶える遠くの竜と照らし合わせ、痩せこけた自分の身を指さした。

 仮面の魔術師を首を縦に頷かせ同意する。そして鉄壁を誇った竜の身に何の異変が起こったのかを、今完全に理解した。全てのピースが噛み合ったように。

 

「ふざけんな、俺は失敗してねえ……。だが、不味いスープは売らねぇぞ……倒せるならそのまま倒しやがれ、薄笑い……!」

「タイキ、いけーーっ!」

 

 依然、煮える釜の前で汗を垂らし戦況を見つめるペコロは、拳を固く握りしめながら声を飛ばす。もう何でもいいからこの地獄のような時間を終わらせろ、そうとでも言いたげに。

 リリスもタイキへ向けて、精一杯の声を轟かせる。

 

 二匹の百足のギフトを従えた青髪と黒髪の冒険者が乱舞する。仲間たちの檄をもらい、鬼気迫る勢いで休みなく、竜を刻みつづけたその刃は──やがて、儚く折れる音を立てた。

 

 それは誰もが予期していなかった。

 不意に訪れた衝撃のその瞬間に、熱狂、絶叫、驚愕、唖然が、混沌と入り混じり荒れ果てた戦場を包み込む。

 

 仲間の思いを託された鋼鉄の剣は砕け、プラスチックの奇剣が溶けていく──。竜を追い詰めた二人の冒険者に今、頭の片隅に仕舞い込んでいた不運と悪運が、唐突にも牙を剥き押し寄せた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

ブラック企業にすり減らされた社畜が主人公になれるアプリを手にしたらどうなるか→(作者:ぱちぱち)(オリジナル:現代/冒険・バトル)

タイトル変更しました▼【旧題:最安10円レンタルチート ブラック労働で過労死数歩前だった俺の心の癒しだった動画アプリがマジモンの神アプリだった 】▼山里一也は金がない。時間も無ければ彼女もない。健康診断結果も20代とは思えない。▼唯一の娯楽は通勤退勤時にスマホのアニメ視聴。このまま会社の社畜として緩やかに死に向かって進んでいくだけだった一也の人生は主人公をレ…


総合評価:5238/評価:8.58/連載:162話/更新日時:2026年10月05日(月) 07:08 小説情報

面倒なので黙っていたら天才参謀と誤解されました(作者:濃厚とんこつ豚無双)(オリジナル:ファンタジー/戦記)

後年、ノルトマルクの軍史家たちは、クラウス・フォン・ライフェンベルクを「沈黙の天才参謀」と記した。▼諸邦の利害を束ね、敵国の思惑を見抜き、ただ一言で戦役の方向を定めた男。と。▼だが、その大半は誤解である。▼確かにクラウスは名門ライフェンベルク家の嫡孫にして、陸軍高等軍学院首席、若くして統帥府(参謀本部)に配属されたエリートだった。▼とはいえ本人に言わせれば、…


総合評価:14079/評価:8.92/連載:83話/更新日時:2026年10月04日(日) 20:54 小説情報

私、ヴィランを目指します!(作者:Sano / セイノ)(原作:僕のヒーローアカデミア)

人生二週目の女の子。彼女の瞳に映るのは、ヒーローたちが華々しく活躍し、悪逆非道なヴィランたちが跋扈するヒロアカの世界。これは、彼女が最強で最凶で最恐のヴィランになるまでの物語。▼※pixivでも閲覧できます(https://www.pixiv.net/users/1542351)


総合評価:987/評価:7.11/連載:80話/更新日時:2026年09月26日(土) 18:50 小説情報

メイド、勤務先の大敗北で将軍になる(作者:メカバレ)(オリジナル:ファンタジー/戦記)

没落貴族のゼフォルは運よく最高位貴族であるウィルベート公爵家でメイドとして働いていた。しかし仕事はつまらなく退屈な日々を送っていた。▼だがまさかの勤め先が戦争で大敗北、当主は討ち死に、主だった家臣も戦死か逃げ出す始末。▼巻き込まれたらかなわんと逃げようとするゼフォルだが唯一残った主である公爵家の不義の子エスメルに将軍になりなさいと言われ残った敗残兵を率いる羽…


総合評価:3949/評価:8.73/完結:112話/更新日時:2026年08月23日(日) 11:32 小説情報

俺の彼女がまさかの魔法少女(作者:愛板将軍)(オリジナル:現代/冒険・バトル)

俺の彼女は、魔法少女だ。そして――魔法少女は死ぬと、世界から“存在そのもの”が消える。他の魔法少女達の記憶からは消去されないが魔力を持つ者以外からは忘れ去られる。▼誰も彼女のことを覚えていない。最初からいなかったことになる。写真すら残らない存在を抹消される。▼そんな魔法少女は恋をすると、その相手に“魔力”を発現させてしまうという性質があった。そして魔力を持っ…


総合評価:9431/評価:8.54/連載:54話/更新日時:2026年06月01日(月) 09:13 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>