トランプメン 〜異世界で道化師プレイをつづけた結果、大変なことになったその男の末路〜 作:山下敬雄
(対象の魔力に
熟練の冒険者は戦いの中でも冷静。アキトは【百足エレキジッパー】を正確に分析しその使い心地をレビューする。
(なんということだ……まるでジブン好みの……いや、ジブンすら想像の及ばない! それを分かち合う喜び。やはりジブンの直感は、間違っていなかった。タイキ、あぁタイキ。嘘偽りのない名を持つキミこそが! ふふふふふふふ)
最後の最後まで切り札に伏せていた自身の能力【悪戯門番】で、対価のカードを全て支払いタイキのギフトを仮想示現したアキトは、今この瞬間も内心に歓喜愉悦を募らせる。これこそが生きた本当のギフト。冒険者タイキの道き出した答え。そんな共有した予想を遥かに凌駕する答えに、この男が喜ばないわけがない。
青臭いギフトが開花するこの瞬間のために、実を捻じ曲げ虚のコピーを排出するアキトのギフトはあると言っても過言ではない。しかし、余計なアレンジなどいらない。この時ばかりはその一人の冒険者がたどり着いた境地を、四島彰人はただ純粋に骨の髄まで味わいたかった。
竜の腕を滑るように斬り裂いた手応えに、道化師が依然、歓喜に打ち震えていると──。八つの銀の煌めきが、空に墨を描くように走った。
「今は及びません……ならば一世一代の髪芝居を! 微力ながらも僕の全力を、お二人に送ります!」
四方八方に途切れることのない黒髪が伸びて、パーティー会場に張り巡らされた立体的な足場となる。八つの髪飾りの魔装具と【髪芝居】のギフトで、今できる最大の全力をもって援護する。闘志と魔力を燃やす美楚羅の機転が、竜と闘う二人へと届けられた。
タイキとアキトが気の利いたそれをさっそく利用して、竜に空中三次元の攻撃を仕掛ける。コシのある強靭な艶髪はその一本とて、冒険者たちの体を支える足場となる。交差し飛び交う目で追いきれない二人の冒険者の影が、竜を翻弄しその竜鱗にさらなる青い傷を刻んだ。
「おまけも目白押し! 今日はギフト日和か、やるじゃないか。そういう機転は、ゾクゾクするね! アハハハハ」
積み重なる興奮の連鎖に道化師は狂ったように笑い、水を得た青髪は電光石火の舞をする。黒いワイヤー髪の上を巧みに跳ねる二人の剣は加速し、闘いはヒートアップする。
「っがぁ……!? チッ……蜘蛛男の真似で、ちょこまかといい気になるな! 飛んで火にいる羽虫どもっ!」
しかし、いつまでも好きにはさせない。竜の怒りの咆哮と共に、張り巡らされたワイヤー髪は振動し、一斉に赤い雷電が通り走った。
美しい黒から威圧的な赤に塗り替えられるように染まる蜘蛛の巣。そして不幸か、その髪の一本までも余すことなく共鳴させ支配する電撃を、足元から浴びてしまい、千切れた足場を踏み外し落ちていく道化師──。
真っ逆さまに落ちていく道化師をまずは仕留めんと、ツツミが戟を突き刺したその時──微笑する道化師は、軽快に指を弾いた。
すると、その呼び鈴を聞いて飛んで駆けてきた一匹の大きな灰色の山猫。空中で緑のマントの布端を咥えると、そのまま向かう戟の上をすり抜けて、山猫は横から道化師をかっさらっていった。
「ちょっと誰がおまけよー! 危なかったじゃないッ!」
「あはは失礼……でも頼んだよララ! 『一人でできるもん』と言いたいところだが……騎士様が少々気張りすぎてね、今はキミがジブンの足だ!」
「それも嫌なんだけどー! 腹の毛がひどく焼けちゃったじゃない! 最悪……!」
「あとでごろんと、ブラッシングをしてあげよう!」
「イッ!? いいからそろそろ、戦いに集中しないよっ!」
「もちろんっ、あぁ……手加減はなしだ! ここが気張り時、ジブンも全力をお約束しよう!」
足を挫いた道化師は、賢い山猫を呼び寄せ侍らせる。ララ・リンクスに跨り騎乗した冒険者アキトは、負傷し万全でなくともそう簡単に後れを取らない。青髪の主人公と共に描くこんなに楽しいショーのつづきがあるのに、今ここで舞台袖にはけるわけにはいかない。人馬一体ならぬ人猫一体となり、再び手に取るプラスチックの剣を向け、悪しき巨竜へと立ち向かった。