トランプメン 〜異世界で道化師プレイをつづけた結果、大変なことになったその男の末路〜 作:山下敬雄
「ギフトはお一人様につきお一つまで、ただし例外はある」
黒い頬を引っ掻き駆け抜けた、灰色の山猫に跨る道化師は驚愕する竜の耳元で囁いた。
「ギフトに嘘をつき口説くものと、盗人猛々しく奪うもの。キミは後者、そして腹の底にむかむかと溜まる盗み食いの
強奪した数多のギフトを腹の内へとストックし好きなように行使する。ツツミの持つこの暴食のギフトは、一見手放しで強大なようにも思えた。だがしかしデメリットは着々とその体を蝕み、際限ない欲でさらなるギフトの食事を求めた。
そして食事には当然好き嫌いがある。裏から手を回しミタライ支部長に命令を下し、ウッドフットの森で幾度もルーキー冒険者であったタイキ・フジを付け狙ったのも、良質な雷のギフトを求めていたからなのは明らか。
気づけばギフトに操られた〝獣〟と化していた、哀れにも当の本人はそのことに気づいていない。その巨大な竜と謳う姿もギフトに精通したアキトに言わせれば、まだ上手く力を御しきれていない証左であった。
しかし全てを一から懇切丁寧に説くつもりはない。容赦もお遊びも今はしない。刃を魔力で唸らせたアキトとタイキはこの絶好の好機に、二人して一気に切り込んだ。
「──さぁ、踊ってもらおうか今際の際まで!」
「うおおお!」
「ドぅおああああ!?」
刃を振り下ろす冒険者たちの雄叫びと、巨大な竜の絶叫が響き渡る。
次々と竜鱗を刻む青い剣筋。アキトとタイキ、二人のエースが竜の体を幾度も唸らせ打ち付けるその呪いの雷剣で支配する。
四方八方全身に轟く青い雷に、竜が苦しみ踊る度に、ジッパー状に裂けた魔法の傷口から七色に光る紙ペラが流れていく。
薄い契約書に変換され、開いた青いジッパー漏出したのは〝ギフト〟。今まで食し奪った竜の胃の中を彷徨っていたギフトたちが、光射す抜け穴を目指して飛び出してきたのだった。
「まったくとんでもない目に……ン──!? おいあの竜、なんだかさっきより萎んでねぇか? ワタァシと同じように」
「私にもそのように見えます。数多のギフトを同時に管理するリスク……そして敵の内在魔力を利用したあの奇剣……なるほど──それならば噛み合うッ。どうやら料理に失敗したのは、こちらだけではなさそうです……! もちろんお二方は〝意図的に〟それを引き起こしたのでしょうが……!」
料理人たちに不当な暴行を受けたコットンはその場を起き上がり、苦しみ悶える遠くの竜と照らし合わせ、痩せこけた自分の身を指さした。
仮面の魔術師を首を縦に頷かせ同意する。そして鉄壁を誇った竜の身に何の異変が起こったのかを、今完全に理解した。全てのピースが噛み合ったように。
「ふざけんな、俺は失敗してねえ……。だが、不味いスープは売らねぇぞ……倒せるならそのまま倒しやがれ、薄笑い……!」
「タイキ、いけーーっ!」
依然、煮える釜の前で汗を垂らし戦況を見つめるペコロは、拳を固く握りしめながら声を飛ばす。もう何でもいいからこの地獄のような時間を終わらせろ、そうとでも言いたげに。
リリスもタイキへ向けて、精一杯の声を轟かせる。
二匹の百足のギフトを従えた青髪と黒髪の冒険者が乱舞する。仲間たちの檄をもらい、鬼気迫る勢いで休みなく、竜を刻みつづけたその刃は──やがて、儚く折れる音を立てた。
それは誰もが予期していなかった。
不意に訪れた衝撃のその瞬間に、熱狂、絶叫、驚愕、唖然が、混沌と入り混じり荒れ果てた戦場を包み込む。
仲間の思いを託された鋼鉄の剣は砕け、プラスチックの奇剣が溶けていく──。竜を追い詰めた二人の冒険者に今、頭の片隅に仕舞い込んでいた不運と悪運が、唐突にも牙を剥き押し寄せた。