亀有という街は、昼間はのんびりした下町だが、夜になると別の顔を見せる。
商店街の灯りが消え、居酒屋の赤提灯が揺れ始める頃、表の人間は家に帰る。そして残るのは裏の人間だ。闇金、半グレ、ヤクザ、借金で首の回らなくなった連中……金に取り憑かれた人間ばかりである。
わしは派出所の机に足を乗せながら新聞を読んでいた。
「ふむ……」
記事にはこう書いてある。
「亀有周辺で裏社会関係者が相次いで心臓麻痺で死亡」
ヤクザ、闇金、半グレ。
死んでいるのはろくでもない連中ばかりだ。
そしてわしは気づいた。
「ククク……これは使えるぞ」
わしは元来、金の匂いに敏感な男だ。
普通の人間が「事件だ」と思うところを、わしは「ビジネスチャンス」と思う。
なぜなら、世の中の人間は二種類しかいないからだ。
金を取る側と、取られる側。
そしてわしは当然、取る側である。
最近裏社会では妙な噂が広がっているらしい。
「カウカウファイナンスの丑嶋に逆らうと死ぬ」
闇金の丑嶋。
わしも名前くらいは聞いたことがある。
だがそんなことはどうでもいい。
重要なのは――
人間が怖がっていることだ。
人間はな、恐怖を感じると金を払う生き物なんだ。
わしは机を叩いた。
「よし、決めた」
「この噂で一儲けする」
その日の夜、わしはサングラスをかけ、安物のスーツを着て亀有の裏通りにあるバーへ向かった。
店の中には半グレや闇金の連中が集まっている。
わしはカウンターに座ると、わざと大きな声で言った。
「最近のニュース見たか?」
男たちが振り向く。
「何だよ?」
わしはニヤリと笑う。
「丑嶋だよ」
その名前を出した瞬間、空気が少し凍った。
ほら見ろ、やっぱり怖がっている。
わしはさらに声を落とした。
「実はな……」
「警察の内部情報なんだが」
男たちが身を乗り出す。
「次に死ぬ連中のリストがあるらしい」
「な、なんだと?」
わしは肩をすくめた。
「本当は言っちゃいけないんだがな……」
「お前らの名前、何人か入ってる」
店の中がざわつく。
「ふざけるな!」
「そんな訳あるか!」
わしは平然としてグラスを回した。
「信じないならいい」
「ただしな」
わしは警察手帳をちらっと見せた。
「わしは警察だ」
「警察の保護対象になれば、そう簡単には手を出せなくなる」
男たちの顔色が変わった。
「ど、どうすればいい?」
わしは心の中でガッツポーズをした。
かかった。
表面上は渋い顔をして言う。
「仕方ない……」
「安全管理費だ」
「一人100万円」
「警察ルートで守ってやる」
最初は疑っていた連中も、数日後にまた一人心臓麻痺で死ぬと態度が変わった。
「払う!」
「俺も頼む!」
「俺もだ!」
わしは内心で笑い転げた。
「いやあ、ありがたい」
「警察も忙しいからな」
こうしてわしのポケットにはどんどん金が入ってきた。
だがわしはここで止まらない。
金というのはな、一度稼ぎ始めるともっと欲しくなるものだ。
わしは別のグループの連中にこう言った。
「お前ら、丑嶋が勢力拡大してるぞ」
「このままだと縄張り全部取られる」
男たちが慌てる。
「どうすればいい!」
わしは静かに言った。
「情報だ」
「情報料200万」
こうしてわしは、恐怖と噂だけで次々に金を巻き上げていった。
裏社会ではいつの間にかこう言われるようになった。
「やっぱり丑嶋が黒幕だ」
「逆らうと死ぬ」
「怖い奴だ……」
そしてその頃、派出所の奥では――
わしが畳の上で札束を並べていた。
「一千万……二千万……三千万……」
もう笑いが止まらん。
「いやあ、人間というのは恐怖でよく金を出すな!」
そこへ部長が入ってきた。
「両津!何をしている!」
わしは慌てて札束を隠す。
「な、なんでもありません!」
部長は怪訝そうな顔をしたが、まさか警察官が裏社会から金を巻き上げているとは思わないだろう。
その夜もまた一人、裏社会の男が心臓麻痺で死んだ。
そして裏社会ではこう囁かれる。
「丑嶋に逆らうと死ぬ……」
だが本当の勝者は別の場所にいる。
派出所の畳の上で札束を抱えながら、わしは高笑いした。
「ワハハハハハ!!」
「闇金より儲かる商売を見つけてしまったぞ!!」