***回想***
――さて。
あの黒いノートを手に入れたはいいが、いきなり人間で試すほどわしもバカではない。
いや、正確に言えばバカではないというより、給料査定と懲戒免職のリスク計算が頭の中で瞬時に弾き出されたのである。
最初はこう思った。
「部長で試すか」
だがすぐに計算した。
もし本物だった場合――
大原大次郎死亡
↓
警視庁大騒ぎ
↓
わし真っ先に疑われる
↓
退職金ゼロ
↓
金儲け計画終了
――うむ。
これは割に合わん。
金儲けの鉄則は、リスクより利益が大きいことだ。
そこでわしは考えた。
まずは動物で試す。
人間より安全で、しかも金にもなる。
完璧な計画だ。
そこでわしは千葉県の市場へ行き、食用の豚を一匹買った。
値段は9万円。
品種はデュロック種。
鼻が利くということで有名らしい。
わしはその豚に名前をつけた。
「Q太郎」
なぜQ太郎か。
ジャンプの漫画で呼んだ気がする名前だったからだ。
さて、ここからが本番である。
わしは例のノート――
『デスノート』
を取り出した。
そしてこう書いた。
Q太郎
得意な嗅覚を使い松茸を可能な限り集めた後、心臓麻痺で死亡
書きながら、わしの頭の中では電卓が鳴っていた。
松茸。
松茸といえば高級食材。
特に長野県や岩手県の天然物なら一本数千円から一万円もする。
もし仮に――
100本取れれば大儲けだ。
しかし。
結果は、わしの予想を遥かに上回った。
数日後。
長野県の松本市近くの山。
そこにいたQ太郎は、驚くべき働きを見せた。
なんと。
松茸500本。
500本である。
山中を嗅ぎ回り、鼻をフガフガ鳴らしながら、次から次へと掘り出した。
そして――
500本目を掘った直後。
ぱたり。
心臓麻痺で死亡。
見事なまでにノートの指示通りだった。
わしはその松茸を全部回収した。
さて、ここからが重要だ。
金儲けは感覚ではなく、計算である。
まず売値。
松茸の平均市場価格を一本3,000円とする。
500本 × 3,000円 =
1,500,000円(150万円)
次に経費。
豚購入費
9万円
長野までの交通費
新幹線往復+レンタカー
約3万円
山の入山料や雑費
約1万円
合計
13万円
売上
150万円
経費
13万円
差し引き。
137万円の利益。
わしは電卓を見て、しばらく黙った。
そして言った。
「……すごい」
これはつまり。
ノートは死ぬ直前の行動を操れる。
そして。
その行動を金儲けに使える。
ということだ。
137万円。
たった一回でこれだ。
もしこれを10回やれば
1,370万円。
100回やれば
1億3,700万円。
わしは空を見上げた。
人間というのは不思議なもので、金の匂いを嗅ぐと脳が急に冴える。
今、わしの頭の中では銀行の残高が指数関数的に増えていた。
そう。
このノートさえあれば。
わしは無限に金を増やせる。
ただし条件がある。
それは。
コストより売上が大きいこと。
つまり。
死ぬまでの行動で、金を生み出せればいい。
その後、わしはさらに実験を重ねた。
鶏。
牛。
猪。
様々な食用動物で試した。
そしてもう一つ気づいた。
このノートが本物なら――
コピーして売ればいい。
そう思って、わしはコンビニでコピーを取った。
だが。
結果は――
効果なし。
コピーした紙では、何も起きなかった。
しかし。
ノートのページを破いて使うと。
ちゃんと効果が出た。
つまり。
コピーは無理。
だが。
ページ販売なら可能。
闇オークションで一枚100万円で売れば――
いや、待て。
世界の富豪なら1000万でも買う。
わしの脳内電卓がまた唸り始めた。
そしてわしは言った。
「ふむ……」
「とりあえずこんなもんだな」
だがこのとき、わしはまだ知らなかった。
この金儲け計画が。
やがて日本中を巻き込む
とんでもない騒動
になるということを。