両津勘吉がデスノートを拾った世界   作:梅酒24

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第3兆円:金餅

秋の夕暮れ、葛飾区亀有の外れ。

雑草だらけの空き地のど真ん中で、両津勘吉は地面にあぐらをかいていた。

その目の前には、山のように積み上がった松茸。

そしてその横で、真っ黒な羽の生えた妙な男――死神リュークが、松茸をかじっていた。

「ほれ、リューク。焼いたぞ。塩ふってある。味わって食えよ」

両津はドラム缶を改造した即席コンロの上で松茸を焼いている。

リュークはもぐもぐと食べながら首をかしげた。

「なかなかうまいなこれ。しかしおかしいな」

「何がだ?」

「お前、これで億万長者になるって言ってただろ」

「言ったな」

「全然なってないじゃないか」

リュークが辺りを見る。

地面には松茸。

袋にも松茸。

両津のポケットからも松茸。

だが金は一円も見当たらない。

両津は腕を組んで難しい顔をした。

「そこなんだよ…」

「何がだ」

「わしはな、最初こう思ったんだ」

両津は地面に棒で図を書き始めた。

「わしがノートに名前を書く →松茸を集めさせる→ 豚が死ぬ →松茸の売り上げがわしのものになる」

「うん」

「つまりだな、金は一次関数的に増えると思ったんだ」

リュークはきょとんとしている。

「一次関数?」

両津は得意げに胸を張った。

「中学二年の数学だ!」

「覚えてるのか?」

「一度も使ったことないがな!」

両津は地面に式を書く。

金=a×殺した豚+b

「つまりだな、1匹殺すごとに金がポンポン増えると思ったんだ」

「なるほど」

リュークは松茸を食べながらうなずく。

「だが現実は違った!」

両津は地面をドンと叩いた。

「見ろ!」

周りの松茸を指差す。

「松茸は有限なんだ!」

「何の話だ」

「山の松茸はな、取れば取るほど減る!」

「当たり前だ」

「最初は1時間で50本取れた!」

「うん」

「次の日は30本!」

「減ってるな」

「三日目は10本!」

「ほぼ絶滅じゃないか」

両津は腕を組んだ。

「つまりだな」

「うん」

「取れば取るほど効率が落ちる」

「うん」

「これを逓減という」

リュークが首をかしげる。

「逓減ってなんだ?」

両津は指を立てた。

「いいか、よく聞け」

突然、教授のような顔になる。

「最初の1杯のビールはうまい」

「うん」

「2杯目もうまい」

「うん」

「3杯目は普通」

「うん」

「10杯目は吐く」

「うん」

「これが限界効用逓減の法則だ!」

リュークは少し考えた。

「つまり?」

「うまいものでも増えると価値が落ちる!」

「それただの飲み過ぎだろ」

「黙れ!」

両津は怒鳴った。

「つまり松茸は取れば取るほど金にならん!」

リュークはふと疑問を口にした。

 

***

亀有公園前派出所。

昼下がりのことだった。

わし――両津勘吉は、亀有寮の寮母から受け取った一通の封筒を、机の上でじっと見つめていた。

差出人は不明。

だが、わしには中身が分かっている。

胸の奥が、どくどくと鳴っていた。

「先輩、さっきから何をにやけているんですか?」

後ろから中川が声をかけてきた。

「べ、別ににやけてなんかいない!」

わしは慌てて封筒をポケットにしまう。

(危ない危ない……)

中川のような金持ちのボンボンでも、この中身だけは絶対に知られてはいけない。

派出所の裏に回ると、わしはこっそり封筒を開けた。

中には――

ロッカーキー。

番号は、浅草駅南口コインロッカー102。

その瞬間、わしの口元が自然と歪む。

――成功か。

頭の中で、昨夜ノートに書いた文字がよみがえる。

 

金餅 金太郎

秘密裏に亀有公園派出所の地下室にシェルターを作り、10兆円を隠す。

シェルターに入るための鍵を全て浅草駅南口コインロッカー102にしまう。

ロッカーキーを匿名で亀有寮の両津勘吉宛に送る。

その8時間後、誰にも知られず自殺。

 

「ククク……」

後ろで黒い影が笑った。

死神リュークである。

「ついに人間を一人やったな。もう戻れないぞ」

「分かってる」

わしは腕を組む。

「だがなリューク。わしも人の子だ」

「殺害人数は最低限で行きたい」

「だったら日本一の金持ちを一人やって根こそぎ奪うのが一番効率がいい」

リュークはリンゴをかじりながら言った。

「なるほどな」

「しかし10兆円とは控えめだな」

わしは悔しそうに言った。

「それなんだよ!」

「デスノートの厄介なところは実現不可能なことは起きないことだ!」

「金餅がいくら資産を持ってるか分からんから確実にありそうな10兆円にしたんだ!」

わしは拳を握る。

「だがな……」

ロッカーキーを見る。

「今思えば20兆はいけた気がする!」

リュークは爆笑した。

「欲深いな人間は!」

「くやしがるなよ、もう働かなくてもいいじゃないか」

「今から金を回収して辞表でも出すのか?」

わしは真顔になった。

「それがな……」

「邪悪な予感がするんだ」

「邪悪?」

「ああ」

わしは腕を組んだ。

「デスノートは便利だが、世の中が厄介なんだ」

「どういうことだ?」

「考えてみろ」

「両津勘吉が急に警察辞めて豪遊し始めたらどうなる」

リュークは少し考える。

「……疑われるか」

「そうだ!」

わしは指を立てた。

「警察辞めた!金持ってる!仕事してない!」

「絶対怪しまれる!」

「つまり」

「わしは今まで通り生活する必要がある」

リュークは感心した。

「ほぉ」

「つまり金持ち警官か」

「そうだ!」

わしは初めて帽子をかぶった。

「だから今から普通に仕事に行く!」

 

その10分後。

 

「よーしパトロールだ!」

わしは堂々と宣言した。

「珍しいですね」

寺井が言う。

「いつもサボるのに」

「バカ言うな!」

わしは胸を張る。

「警察官の基本はパトロールだ!」

(浅草駅のロッカーを回収するためだがな)

リュークは横で爆笑していた。

 

――浅草駅。

 

わしはロッカーコーナーへ向かった。

102番。

あと数メートル。

その時だった。

「せんぱ~~~い!」

後ろから声。

振り向くと

本田がいた。

「うわあああ!」

「なんだ本田!」

「バイクの部品探してるんです!」

本田はマシンガントークを始めた。

「このロッカーの中に中古パーツを預けた人がいるらしくて!」

わしは青ざめる。

「な、なにぃ!?」

102番を開けられたら終わりだ。

わしは叫んだ。

「ロッカー爆弾騒ぎだー!!」

周囲の人が逃げ出す。

本田も逃げた。

その隙に――

わしは102番を開ける。

ガチャ。

中には――

黒いケース。

「きた……!」

その瞬間。

「こら、両ちゃん!」

後ろから怒声。

中川と麗子。

「先輩なにしてるんです!」

「ロッカー荒らしは犯罪です!」

「違う!」

わしはとっさに言う。

「テロ対策だ!」

リュークは腹を抱えて笑っている。

 

そこへさらに

 

「両津のバカはどこだー!」

 

部長登場。

「げぇ部長!」

「また問題起こしたのか!」

部長が怒鳴る。

わしはケースを背中に隠す。

「違います!」

「これは国家機密です!」

部長は腕を組む。

「怪しい」

その瞬間。

リュークがリンゴを落とした。

ゴトッ。

「誰だ!」

部長が振り向く。

その隙に――

わしはケースを奪ってダッシュ!

「待て両津!」

派出所メンバー全員が追いかけてくる。

浅草駅大パニック。

 

数十分後。

 

わしは屋上で息を切らしていた。

ケースを開ける。

中には――

シェルターの鍵。

そして地図。

 

「ククク……」

リュークが笑う。

「ついに手に入れたな」

わしは震える声で言った。

「10兆円のシェルターの鍵だ……」

遠くで部長の声。

「両津ーーー!!」

わしは鍵をポケットにしまう。

そして真顔で言った。

「さて」

帽子をかぶる。

「何事もなかったように派出所に戻るぞ」

リュークは腹を抱えて笑った。

「お前最高だな両津!」

こうして――

10兆円を隠したシェルターの鍵を持つ警察官

両津勘吉の、とんでもない日常が始まったのである。

 

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