なんで私⁉ 野球知識皆無のJKが戦国時代で野球を広め、信長の恋女房になってしまう件~   作:ハムえっぐ

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第194話 長谷川真昼、尼子再興軍の最期に沈黙する

 毛利両川率いる3万の軍勢に包囲された上月城で、山中鹿介らは憎悪の瞳を持って毛利軍を見下ろしていった。

 

 城壁前に吉川元春と小早川隆景が馬に乗りながら現れる。

 

「このっ! 舐めおって!」

 

 亀井茲矩が弓矢を構える態勢を取るが、元春と隆景の側を浮遊する英霊ボール『オガタ』と『コバ』の威圧と、後ろから山中鹿介に「無駄だ」と制止され、構えを解いた。

 

「何の用だ? 義久を解放し、我らに出雲を返すなら話を聞こう」

 

 総大将・尼子勝久が両川に向かって叫ぶ。

 当然、叶うはずがない夢物語と知りながら。

 

「織田が上月城、尼子再興軍を見捨てたのは周知の事実! 未だ援軍に来ぬのが証拠よ。貴様らの味方はいない!」

 

 元春が叫び返し、隆景も続ける。

 

「毛利に降れ。条件は義久を解放せぬし、出雲も返さぬ。人質を出し、毛利に忠誠を誓え。そうすれば命だけは取らぬと約束しよう」

 

 淡々と告げられた無条件降伏要求に、尼子再興軍の全員が殺気を放つ。

 

『ユキオさんよ。降ってくれ。毛利で共に日本一を目指そうじゃないか』

 

 コバの説得に、鹿介の英霊ボール『ユキオ』が城壁から答える。

 

『その日本一に儂のいる価値はないわ。そもそも日本シリーズに8度出て、いずれも負けた悲運と言われとるが、8度も出たんや。儂の誇りや』

 

 鹿介も続ける。

 

「俺が三日月に誓った七難八苦を与えたまえも、毛利は随分都合よく解釈しているそうだな。七難八苦が苦行? 我ら毛利を倒す不可能を絶望に例えた言葉? 馬鹿を言え。……七難八苦は我が復讐の誓い。憎悪に喜びは要らぬ。これは俺の美学を詰め込んだ言葉ぞ」

 

 歪む鹿介の表情を見て、両川は頬に汗を滴らせる。

 

「覚えておこう。貴様の美学、生涯、な」

 

 元春が馬を反転させ、隆景は上月城に向かって一礼する。

 

「こちらの筋は通した。尼子の真の最期、責任を持って我らが見届けよう」

 

『日本シリーズに8度出たことが誇り……わかるよユキオさん。俺もカープを三連覇させたの、生涯の誇りだから』

 

 泣くオガタと共に、隆景もまた元春の後を追った。

 

 ***

 

 やがて上月城の最期、尼子再興軍の最期の日がやってきた。

 じわりじわりと真綿の首を絞めるように上月城を孤立無援にし、物資の遮断と飢えの恐怖、衰弱した兵を淡々と討ち取っていく日々。

 ついに城外から放たれた火矢が消されることもなくなった。

 

「終わったな。全軍、突撃せよ」

 

 元春の下知に、炎に燃える上月城を悠然と進軍する毛利軍。

 迫りくる敵を、勝久は今日この日が死ぬ日か、とだけ思った。

 

「ここまでか。皆、ただの僧侶の俺に命を賭けてくれた礼、あの世ですると約束しよう」

 

 本丸にて、勝久は付き従った鹿介らににこやかに微笑む。

 

「こちらこそ、巻き込んでしまい申し訳ございませぬ」

 

「よい、鹿介。僧で生涯終えるよりも楽しかったぞ」

 

 勝久の目が据わる。

 

「聞け! 毛利! 俺はこれから切腹する! 他の者の命は助けよ!」

 

 こうして尼子勝久は14歳で尼子再興軍の旗頭として担がれ、以降12年間を毛利との戦いに費やした生涯を終えた。

 

「うっ……くっ……殿! それがしも今お側に」

 

 亀井茲矩が泣き腫らした顔で切腹しようとするのを、鹿介が止める。

 

「貴様は逃げろ。羽柴秀吉の許へ行け。それぐらいの道は俺が開く」

 

「逃げろ? 鹿介様、聞き捨てなりませぬ。それに秀吉? 我らを駒のように使い、見捨てた者のところへ行けと? 死ぬより屈辱ですぞ!」

 

「10年以上毛利を脅かした俺らを、毛利は許す気はない」

 

「だからここで切腹を!」

 

「いいか、俺は死ぬ。何せ再興軍を結成させた張本人だ。が、貴様は違う。まだ21歳、これからの男よ」

 

「年齢など関係ない!」

 

「関係あるわ!」

 

 鹿介は殴り、茲矩が吹っ飛んだ。

 

「俺らが全滅し、誰が俺らを後世に伝える? 生き証人は必要だ。尼子を……出雲の国に尼子があったことを世に伝えるのだ!」

 

『鹿介の言う通りよ。儂もな、儂は日本一になれんかったが、教え子は日本一になったんよ。これがまた嬉しいもんでな。……日の本一の男になるんじゃぞ』

 

 ユキオの優しい声色に、茲矩の視界が水たまりしか映らなくなっていく。

 

「うっ……っく……」

 

 そこに毛利兵がたどり着いた。

 

「いたぞ! 山中鹿介だ!」

 

「おう! 鹿介よ。さあ、最期の一勝負と行こうじゃないか」

 

 槍を構え、毛利兵に突撃していく鹿介の姿を見ながら、茲矩は走り出す。

 上月城から落ち延び、姫路城の羽柴秀吉の許に向け。

 

「鹿介殿。最期だ、私と勝負を」

 

「隆景か。ありがとうよ」

 

 空腹、疲労困憊の鹿介VS万全の隆景では勝負になるわけがない。

 一撃で、鹿介は気絶した。

 

「ユキオは貰い受ける」

 

 隆景が敗北で眠りにつくユキオを手にし、コバVSユキオの戦国版はここに決着した。

 

「おい隆景! 鹿介は俺の獲物だと言っただろうが!」

 

 元春が息を切らして走ってきて弟に愚痴を零すも、鹿介が死んでないのを見てホッとする。

 

「10年以上も手こずらせやがって。……必ず俺の部下にしてやる。おい誰か! 吉田郡山城まで運べ! 輝元様も鹿介に会いたがってるんだ。功績は弾むぞ!」

 

「ならばそれぞれにお任せを」

 

 福間元明が名乗りを挙げ、鹿介は縄で厳重に縛られ、籠に乗せられた。 

 

 ――その道中。

 

「どうだ? 見捨てられた気分は? 織田に助力を求めず、最初から毛利に媚びれば生き残れたものを」

 

 毛利の護送責任者、福間元明は手足縛られている鹿介に問う。

 

「フハハハ。見捨てられた? ……バカを言え。我ら尼子遺臣! 元より織田に頼るつもりなし! 愚かだな、元明。『見捨てた』『媚びれば』などと武士にあるまじき言葉を使うとは」

 

「あ?」

 

 元明の脳裏に、尼子を滅ぼしたら亡霊に苦しむ10年間が走馬灯のように流れる。

 こいつ一人で何人の仲間が犠牲になった? 俺の友も、家族も。なのになぜこいつはまだ生きている? 尼子勝久は自害したというのに。

 

「此奴を斬れ」

 

 元明は淡々と命じた。

 命令違反? 知るか。輝元様も元春様も隆景様もきっと分かってくださる。

 こいつは悪霊だ。生きている限り、毛利に災いしか引き寄せない。

 

「茲矩……あとは任せた」

 

 籠に四方八方から刀が刺さり、山中鹿介もまた34年の短い生涯を終えた。

 

 ***

 

 上月城落城の報せが届き、姫路城の空気は期末テストの授業中よりも静かになっていた。

 三成ちゃんの書類を片付ける音、キセル室に入る秀長の音、正則君や清正君に混じって素振りする小六さんと小右衛門さんたちの音。

 センイチとドンデンが浮遊しながら、素振りチェックだけしてるのが不気味だよ。

 それと秀吉さん、官兵衛さんの筆を走らせる音のみが響く。

 半兵衛君は縁側でずっと腕組みして目を閉じてるけど、大丈夫かな? 風邪はもう治ったって言ってるけど、元々少なかった口数がさらに少なくなっている。

 まだ具合悪いなら無理しないでほしいけど、モリミチに『小娘、お前オカンか。半兵衛は儂に任せい』なんて言われたしなあ。

 でも、ここは私が動かないと。オカンじゃなく、JKとして。

 

 そう、気合を入れた私だけど、さらなる悲報が飛び込んでくる。

 

「申し上げます! 摂津国、有岡城の荒木村重殿が織田家に反旗を翻しました! 茨木城の中川清秀、高槻城の高山右近らも同調!」

 

 播磨だけでも絶望的な状況で、背後の摂津国が敵に回ってしまったのだ。

 

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