古明地うつつは忘れたい   作:sea_forest

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ただの幕間なのに謎に文字数が増えてしまった…


第11話 遊びに行きます。 わくわく。

紅霧異変からしばらくたったころ。

うつつはすっかり紅魔館の常連になっていた。

というのも、フランがしきりにうつつと遊びたがるようで、定期的に地霊殿宛てに手紙が届くのだ。

お誘いの日付を確認して、都合がよければ返事をして日記に予定日をメモしておく、というのが最近の習慣になっているようだ。

今日も今日とて日記を確認したところ、メモに『紅魔館へ遊びに行く』と書いてあったので出かける準備をしている。

ちなみに今の時間は夕方。彼女ら吸血鬼の活動時間は夜なので、このくらいの時間から行くことにしている。遅くなったときは泊めてもらうこともしばしばである。

さとりからは、当初は異変の直後である上にうつつも騒動に巻き込まれた当事者であることから心配されていたが、毎回楽しそうに帰ってくるうつつを見て快く送り出してくれるようになった。

こいしは……異変以来姿を見ていない。といっても、これはいつものことだからそこまで心配はしていない。探そうと思えばいつでも探せるし、本人の気質的にじっとしてる方が苦痛だろう。

何度も通って覚えた道のりを辿ると、紅魔館へ迷わずつくことができた。

相変わらず美鈴が門番をしているが、運よく今日は起きているようだ。むしろ寝ている時の方が多い。それでいいのか門番。

 

「やぁ美鈴。今日も遊びに来たよ」

「おや、うつつさんじゃないですか。いつも妹様をありがとうございます」

「僕も楽しいから来てるんだし、そういうのは良いよ。入っても大丈夫?」

「もちろんです!ささ、どうぞ」

 

屋敷の中に入ると、咲夜が突如目の前に現れる。

おそらく彼女の能力で時間を止めている間に迎えに来たのだろう。

 

「うつつ様、お待ちしておりました」

「あ、咲夜さん。日記を読み返すたびに咲夜さんが敬語を外してくれないって嘆いてる様子が出てくるんだけど、そろそろタメ口にしてくれてもよくない?」

「ふふ、善処しますわ」

「それ絶対やってくれない奴じゃん……」

 

はぁ、とため息をつくと咲夜が上品に笑う。

咲夜からしてみれば、大事な主人とその妹の仲を取り持ってくれた恩人なので敬意を表して恭しい態度をとっているのだが、うつつは当然知る由もない。

 

「さあ、妹様がお待ちです。どうぞこちらへ」

 

咲夜にフランの自室である地下室へと案内される。

以前は実質的な牢屋として機能し、中もフランの「遊び」によって悪趣味な様相を呈していた部屋だったが、姉妹仲が改善してうつつも遊びに来るようになったことで、かわいらしい少女の部屋と言って差支えないほどに見違えていた。

尤も、その裏では「こんな部屋見せたらうつつにドン引きされちゃう!」というフランの涙ぐましい努力があったりしたのだが、それはまた別のお話。

……なお、実は部屋の片隅には綿が飛び出してズタズタになった人形が転がっていたりするのだが、これまでのことを考えるとこれくらいはお茶目なものだろう。

 

「あ、うつつだ!」

 

部屋に入るとフランが一目散に駆け寄ってくる。

小柄ながらも彼女の膂力は種族の補正も相まって凄まじいものであるが、うつつはその飛びつきを難なく抱きとめる。

 

「おっと。いきなり飛びつくのは危ないよ」

「だってうつつが遊びに来てくれて嬉しいんだもん!」

「あはは、僕もフランと遊べてうれしいよ」

 

フランからの全力の好意も軽く受け流す。普段こいしの相手をしているせいだろうか。まるでもう一人可愛い妹ができたみたいだ。

 

「今日は何して遊ぶの?」

「ポーカーしよ!今日も負けないからね!」

「フランは強いからなぁ……」

「じゃあお姉さまたちを呼んでくるね」

 

フランが勢いよく部屋から出ていく。

フランの遊びには流行り廃りがあって、少し前はチェス、その次はリバーシ、そして今はポーカーに夢中だ。頭を使うゲームが好きらしい。

ポーカーにはいくつか種類があるらしく、今やっているのはテキサスホールデムという種類のゲームだ。

うつつも最近知ったゲームだったが、ルールや戦略などは事細かにメモしているので、記憶から抜けても復習することでどうにか戦えている。最近は紅魔館に来るたびにやっているせいか、気づけばルールや基本戦術くらいは記憶として定着していた。

メモを読み返して過去のデータを見返して戦略を考えていると、やがて部屋のドアが開く。

 

「連れてきたよ~!」

「フランは元気一杯ね……いらっしゃい、うつつ」

「はぁ、あなたが来るたびに魔法の研究が中断させられるんだけど」

「そういう割にパチェはなんだかんだ断らないわよね」

「黙りなさいレミィ」

 

フランの元気さに呆れた様子のレミリアと、不満を言いつつも毎回付き合ってくれるパチュリーが合流した。

日記によると、最近はよくこの4人でポーカーを遊んでいるようだ。あと、いつもは咲夜がディーラーをしてくれるんだけど……。

 

「おまたせしました」

 

そんなことを考えていると、咲夜が突然現れる。手にはサンドイッチが乗ったお盆を携えている。

ゲーム中に皆が手軽に食べられるように配慮されている。咲夜らしい気遣いだ。

 

「本日も私がディーラーを務めさせていただきます」

「咲夜さんもたまには混ざったらいいのに」

「私はみなさんが遊んでるのを見てるだけで楽しいですわ」

「むー、咲夜さんの実力も見てみたい……」

「ふふ、女は少しくらいミステリアスなほうが魅力的ですのよ?」

「そんなことしなくても、咲夜さんは魅力的だよ?」

「……さ、さあ、早速ゲームを始めましょう!」

「あ、話題そらした」

 

耳を赤くした咲夜をみて、うつつが満足気に頷く。

可愛いというのは本心では有るが、からかい甲斐のある反応を毎回返してくれるから、いたずら好きなうつつとしてはからかわずにはいられないのだ。

 

「うつつ、あんた毎回それやってるけど、いい加減咲夜が可哀想よ」

「えー、だって面白いんだもん」

「ねー、フランは?フランは?」

「フランはとっても可愛いよ!」

「やった~!」

 

そんなやり取りをみて咲夜はため息を付く。

咲夜としても、うつつの表情や態度から察するに悪意を持っていないことはわかっているからこそ怒るに怒れない。しかも、魅力的と言われたこと自体は嬉しいのだ。だから余計に質が悪い。

咲夜は軽く頭を振って冷静さを取り戻す。カードのシャッフルも十分に終わり、いよいよ準備完了だ。咲夜が4人に声をかけ、皆適当な位置に座る。

順番は、左から順にパチュリー、レミリア、フラン、うつつの順になった。

 

「では始めますね」

 

咲夜がそう告げると、各々にカードを2枚ずつ配っていく。淀みのない手つきから、シュッと小気味よい音が卓上に響く。

改めて今回のルールを頭の中で整理する。

持ちチップは全員300枚。配られた2枚の手札と、場に順次公開される共通カードを組み合わせて、最も強い役を作った者がチップを総取りする。

プレイヤーの選択肢は主に4つ。掛け金を上乗せする「レイズ」、前の人と同額を出して参加する「コール」、掛け金を出さずに相手の出方を見る「チェック」、そして勝負を降りる「フォールド」だ。

なお、特定の席の二人はゲーム開始時に強制的にチップを場に出さなければならない。今回その役割に当たっているのがフランとうつつで、フランは1枚、うつつは3枚を出す係だ。

隣のフランに見られないよう、カードの端をそっと持ち上げる。

A♠とJ♦。

エースは全カードの中で最強の数字であり、Jも十分に強い。開幕のハンドとしては申し分ない。口元が緩みそうになるのをぐっと堪える。ここで顔に出したら台無しだ。

 

「……レイズ、9枚」

 

最初に動いたのはパチュリーだった。迷いのない手つきでチップを差し出す。

彼女の論理的なプレイは堅実で隙がない。こうして自分から掛け金を吊り上げてきたということは、相応の自信があるのだろう。

 

「コール」

 

レミリアが涼しい顔で同額のチップを場に揃える。その表情からは手の良し悪しが全く読み取れない。一体何を持っているのかがわからない気味の悪さを感じさせる。

 

「むー……フォールド」

 

フランが不満そうに唇を尖らせて、カードを裏向きのまま咲夜に返す。その仕草の素直さから見て、今回は本当に弱い手だったのだろう。

改めて自分のカードに目を落とす。AにJ、十分に戦える。

ここで更にレイズして揺さぶるか、コールで静かに次を見るか。少し考えて、うつつはコールを選んだ。序盤から掛け金を膨らませすぎても、この二人なら簡単には降りてくれない気がしたからだ。

全員の判断が出揃う。咲夜が場の合計28枚のチップを集めながら、中央に3枚のカードを並べる。

J♣、8♣、4♥。

手札のJと場のJでペアが揃った。場の最高のペアであり、しかも手元にはエースが控えている。現時点ではかなり有利なはずだ。

だが、それを顔には出さない。うつつはチェックを選択した。

 

「ベット、18枚」

 

パチュリーがチップを押し出す。紫の瞳は本の活字を追う時と変わらない無機質さで、思考を一切漏らさない。

 

「コール」

 

レミリアが再び自然な動作でチップを滑らせる。涼しい表情と気軽さからはその手の強さを読み解けないが、どことなく確かな自信を感じさせる。

さて、二人とも降りる気はないようだが、こちらは場の最高数字のペアにエース。負けているとは考えにくいと判断し、うつつもコールを選択。

三人分のチップが場に積み上がったところで、咲夜が4枚目を開く。

6♣。

うつつの目が一瞬だけ細くなる。

場に並んだカードはJ♣、8♣、4♥、6♣。4枚のうち3枚がクローバーだ。もし誰かの手札にクローバーが2枚あれば、同じマークを5枚揃える「フラッシュ」が完成する。ペアよりもずっと強い役だ。

嫌な可能性が頭をかすめるが、まだ確定ではない。うつつはチェック。

パチュリーも腕を組んだまましばらく沈黙する。目を瞑りながら考えている姿は、はたから見ると寝ているようにも見える。最終的に彼女が下した判断はチェック。

先ほどまで強気だったパチュリーが様子見に回った以上、この場は静かに進行するかのように思えた。

 

「ベット、55枚」

 

その沈黙を破ったのはレミリアだった。にやりと口角を上げながら、積み上がったチップの山の半分以上に相当する額を押し出してくる。

本物なのか、こちらの逡巡を見透かしたブラフか。彼女はどちらも平然とやってのける。

うつつはちらりとフランの方を見る。既に降りた彼女は、テーブルに頬杖をつきながら興味津々と盤面を見つめている。目が合うと、にぱっと笑われた。何の参考にもならない。

視線を盤面に戻す。何度見てもクローバーの3枚がどうしても気になる。だがJのペアはまだ強さを主張できるし、手元のエースも心強い。ここで降りるにはもったいないように思える。

 

「……コール」

 

パチュリーはそれを聞くと、ほんの一瞬だけうつつとレミリアを交互に見て、フォールドを告げる。そのままあっさりとカードを返した。

卓にはうつつとレミリアだけが残る。二人の間に張り詰めた空気が漂う。

咲夜が最後の1枚に指をかける。

2♠。

状況は変わらない。うつつはチェック。自分からは動かず、レミリアの出方を待つ。

 

「ベット、165枚」

 

間髪入れずだった。

残りチップのほぼ全てに等しい額を、紅茶のおかわりを頼むかのような気軽さで告げる。

フランが小さく「わぁ」と声を漏らした。パチュリーの眉がぴくりと動く。咲夜も「あらあら」と口元に手を添え、微かな驚きの表情を見せる。

レミリアの赤い瞳がまっすぐにこちらを見据えている。そこに動揺は微塵もない。

本当にフラッシュを持っているのか?

4枚目が開いた時、パチュリーが急に慎重になった。もし彼女がクローバーの手札でフラッシュを狙っていて、それでも降りたのだとしたら。レミリアの手にクローバーがある可能性は、少し下がるのかもしれない。

だとしたら、これはブラフ? いや、その考え方すらも可能性の一つでしかない。そして、このAJが勝っているのも可能性でしかない。その可能性に、自分のチップの大半を投資できるのか?

自分のカードをもう一度だけ見る。Jのペアにエース。決して弱い手ではないが……。

 

「……フォールド」

 

断腸の思いで、カードを伏せた。

 

「あーっ、うつつ降りちゃった!」

 

フランが残念そうに声を上げる。レミリアはふっと笑みを浮かべると、手元のカードを1枚だけ表にする。

Q♣。

もう1枚がクローバーならフラッシュは本物だ。だが、残りの1枚を見せるつもりはないらしい。

 

「レミリア、もう1枚は?」

「さあ、どうかしらね? 」

「むぅ……」

 

優雅に微笑むレミリアに、うつつは唸りながら睨み返す。本当にフラッシュだったなら降りて正解だし、ブラフだったなら完全にしてやられた形になる。真実はどうあれ、彼女の掌で弄ばれたのは事実だ。厄介な相手だなぁ、とうつつはレミリアへの対抗心を露にする。

夜は、まだまだこれからだ。

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