セブルス・スネイプの養女に魔法はかからない   作:秋峰霧女

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シリーズ第4話

いよいよ本格始動した学校生活。波乱の魔法薬の授業。そして箒飛行訓練。

最近、某ハリポタ解説チャンネルを見たり、かの有名なハニー・ポッターを読んだりしているので、その影響が出ているようで出ていない……?かもしれません。
ごめんね、ロン!


授業のはじまり

第一巻 賢者の石②(原作沿い)

 

 

「見て、見て」

「あのメガネをかけてるやつ?」

「そうそう、額の傷も見た?」

 

「あ、あと金髪の女子の方も、ほら、組み分けで……」

「ああ、ウィーズリーの双子が……」

 

 

 不測の事態が起きたものの、なんとか乗り切った入学の歓迎会の翌日以降、寮を出ると、いたるところでささやき声が聞こえた。

 

 ヴェルは列車で出会ってから、仲良くなったハリーとロンと一緒に行動していた。三人で、授業をする教室に移動したりするのだが、その間、すれ違う生徒たちがヴェルたちを追うように視線を注ぎ、また口々になにかしらのコメントを喋るのである。

 

 ヴェルは当然疲れることこの上なかった。

 

 ただでさえ、ホグワーツの構造に慣れないハリーとロンが、階段や廊下の仕掛けに四苦八苦しているのを引っ張って誘導しないといけない。そうしないと迷子になって遅刻してしまうのだ。

 

 二人の手綱を握って御者をし、自分でも初めてのことだらけの授業をこなしながら、ヴェルは噂話に頭を抱えた。

 

 彼らの話題はもっぱらハリー・ポッターのことであった。が、ヴェルの方についても、案の定、小さからぬ噂が立ってしまっていた。(ハリーと一緒にいるから尚更かもしれないが。)

 

 やはり歓迎会でのウィーズリーの双子の挙動は誰の目から見ても異様だったのだろう。

 例の話題になると開口一番、ハリーにも、さらには、寮で同室になったハーマイオニー、パーバティ、ラベンダーにも、

 

「ヴェルは双子のウィーズリーと知り合いだったの?」

 

と聞かれる始末。

 

「え、全然?えーと、あー、でも、ダイアゴン横町で少しだけ……。ちゃんと喋ったのはあの列車に乗ってから、だけど……」

 

 双子と裏で示し合わせていないので、あまり当たり障りがない答えを言うように努めたが、疑われないように取り繕うのに一苦労だった。特に、女子の方(パーバティ、ラベンダー)は「ふーん」と言いながらもニヤニヤとしつこかった。

 

 一方で、ハリーとロンと話したときは、

「あのいたずら兄貴のことだ。どうせくだらない理由さ。君に迷惑がかかるとも考えないで、まったく。ごめんね。(まあ、ほんとは僕があいつらの代わりに謝るなんて癪なんだけど)」

とロンが切れよく話を終わらせてくれたので救われた。

 

 

 実は裏では……

 歓迎会の夜、グリフィンドールの男子寮に戻った双子はロンに会うなり言ったのだった。

『ロン、列車でヴェルのこと気に入ってただろ?』

『俺らに感謝しろよな!』

『な!なんのことだよ!』

『とぼけんなって。おれたちが玉砕覚悟であんな道化をやってなきゃ、今頃ヴェルはスリザリンの地下牢で囚われのピーチ姫になってたんだぞ!』

『ほんとほんと。いやあ、でも流石にクッパ(スネイプ)のアレは寿命縮んだわ』

『まじそれ』

と、こんな会話をしていたのを、ロンは、ヴェル本人には後ろめたかったのである。

 

 まあしかし、ハリーとロンは、ヴェルがスリザリンに入れ直しになるのではとずっと心配していた手前、グリフィンドールに変更がないことを知ると、二人して喜んだ。

 

 その内容とほとんど違わずして、噂は校内中で広まった。先述のウィーズリーが騒ぎを起こした背景、つまり、ヴェルがスリザリンに入るはずであったことが、なぜか当然のように含まれており、はじめヴェルはそれが一番厄介に思った。この話を吹聴したのはロンだったのだが。

 

「ヴェル、言ってたんだよ。列車で。死んだパパの方の血筋がゴリゴリの純血思想だったから、きっとスリザリンに入るだろうって。でもヴェルはスリザリンにはこだわってはなくて、どの寮もみんな良い寮だ、って言ってたけどね」

 実の兄関連のことなので絡まれやすいのは仕方ないのだが、ロンはグリフィンドール生と話になる度、ヴェルがいない場でも、こうやってペラペラと喋っていたらしい。

 

 列車の中で、自分は生まれた血筋上、きっとスリザリンに入るはずだと言っていたヴェル。それを阻止しようと、ウィーズリーの双子があんなはったりを仕掛けた。校内ではそうはっきり認知されるようになった。

 

 この話はグリフィンドール、スリザリン両方の寮からの印象にも難があるように思われた。

 

 グリフィンドールの頭カチコチパーシーは、監督生にも関わらず、

「君はスリザリンに入るはずだったそうじゃないか、グリフィンドールには相応しくないんじゃないかい」

 というような意味のことを言った。

 

 これにはヴェルも堪えた。

 だが、彼の弟たち(フレッド、ジョージ、ロン)によってボコボコに処された。

 

 その惨劇を目の当たりにしたからか、パーシー以外は、グリフィンドール生から角を立ててくる生徒はいなかった。もっとも、同室の女子やハリー、ロンと仲良くしているヴェルの人となりを見て、「彼女がスリザリンなんて馬鹿げてる」と正直に思った生徒が多かったようだ。

 

 問題はスリザリンだ。グリフィンドールに入るなんて、とヴェルを裏切り者として見る者が続出するだろうと思われた。

 実際、そういう見方をする純血思想の生徒は多かった。

 

 しかし、意外な意見も多くみられた。

 

 ヴェルを見かけたスリザリン生の中では、このようなささやきが時々あった。

「あの子、ほら、こっちに入るはずだったって子……」

「あー、あのウィーズリーの双子に妨害されたっていう……」

「かわいそう……」

「ずっとスリザリンの家だったんでしょ?

 大丈夫なのかしら、家に帰ったときの居場所とか……」

 

 蛇寮の仲間意識の強さ故だろう。半純血とはいえ、スリザリンが伝統の家とされる(正確には違うが)ヴェルを案じる声も、不思議なことに少なくなかった。

 

 というか、ウィーズリーへのヘイトの高まりから、ヴェルへの反感が中和しただけのようだった。

 

 ただ、もし、純血とはいえ、父がスクイブで破門同然だったことが知れ渡っていたら、スリザリンからは「出来損ないの父&マグルの母」ということで、イコール穢れた血扱いだったかもしれないが。この時には、良くも悪くも、ロンがヴェルの説明を端折ってくれていたおかげでそれはなかった。

 

 なんやかんやで、そういう具合にヴェルは収まった。自分が両サイドの確執の種になることを回避できた……?かは分からないが。

 

 しかし、たまにイザコザが起きかけると、どちらにも、ハーマイオニーがこう一喝してくれた。

 

「経緯はどうあれ、最後には『組み分け帽子が寮を選んだ』んだから、結果が全てよ。ヴェルの組み分けに間違いがあったわけはないわ。そうでしょ!」

 

 イザコザのきっかけは大抵マルフォイのちょっかいからだった。(ハリーに噛みつくこともあったが。)

 マルフォイは列車での件で、ヴェルがとんだ癇癪持ちだと吹聴しようと息巻いていたのだが、いまいち踏ん切りがつかなかった。そこで、噂の件にかこつけてヴェルに絡んだりしていたのである。

 

 

 そしてそして、話には続きがある。ウィーズリーの双子への罰則の件だ。

 

  とある朝の朝食の席、広間にて。

「ねえ、ヴェル。フレッドとジョージの罰則さ……二人ともほんとに広間に来ないんだね」

 

 ハリーがヴェルに言った。そしてロンも尋ねた。

 

「広間出禁と、あと君に接近禁止とかっていうのも聞いたんだけど……君がマクゴナガル先生に提案したって本当?」

 

 ウィーズリーの罰則は、マクゴナガルによって速やかに下された。授業開始日(9月2日)付けでハロウィーン(10月31日)まで「広間出禁」(解禁は11月1日から)。そして、ウィーズリーの方からヴェルへの不要不急の接触を控えること。後者は、ヴェルの意向を反映し、追加された。

 

 あのウィーズリーのことだ。翌日以降も顔を合わせるたびヴェルに馴れ馴れしく絡んでくるに違いない。そして、その様子を周囲に訝し気に見られ、さらなる要らぬ噂が立ち、厄介ごとが起きるだろう。

 

 そんなことは御免だった。

 

 ヴェルとしても、少し心寂しい気持ちがないではないが、静かな学校生活を優先したかった。それに、双子への反撃と反省への促しも込めて、マクゴナガルにそのようにお願いしたのだ。

 これらの取り決めは秘密のはずだったのだが、あっという間に噂は(多少の誤認を含めて)広がった。

 

「ううん。広間出禁はマクゴナガル先生が罰則を言ったのよ。ほんとよ。私はむしろ止めたほう。ハロウィーンまでっていうのも長すぎると思うし……。

 あと、私に近づくのは……別に嫌なわけじゃないのよ。二人を遠ざけたい訳じゃないの。仲良くしたいけど……ただ私、先生に、静かに学校生活をしたいって言ってみただけなの」

 

 ヴェルは本当のところを語った。

 

「そうだったんだ」

 

 ロンは納得したようだった。

 

「そういうことなら、まっとうだね。兄貴たちにはいい薬だよ。ハロウィーンまでってのは長いと僕も思うけど」

 

 ロンはヴェルがウィーズリー家を嫌いになったわけじゃないと知って安心したようだった。ただでさえ、お尋ね者の弟という立場で居心地が悪い上に、奴らの飛び火で、自分がヴェルから邪険にされる羽目になったらどうしようと思っていたのだ。

 それに、兄たちの邪魔が入らないままヴェルと行動できることも、ロンにとっては儲けものだった。

 

 ハリーは、そんなロンの様子を見ながら、ふと、広間の入り口を見た。すると、フレッドとジョージがのぞいているのが見えた。

 

「あ、フレッドとジョージ」

 

 ハリーが言うと、ロンも気づいてそちらを向いた。

 

 ヴェルはと言うと、一瞬顔を向けるのを躊躇った。

 二人が、どんな顔をしているのか、と思ったからだ。哀しそうな目か、もしくは恨むような目で自分を見ているのではないか、と。

 

 そして、恐る恐るヴェルは双子を見た。

 

 しかし、お互い目が合うと、彼らは笑顔だった。

 目元に手をやり、目をこすったり、涙が伝うのをジェスチャーしたりで、しくしくと泣きまねをして、ふざけだした。いかにも「ひどいよ~」とヴェルに当てつけるようなふりだ。

 

 そのあっけらかんとしている二人を見て、ヴェルも、ハリーも、ロンも、みんな理解した。

 双子にとって、今回の罰則は何ら痛手にはなっていないということを。

 

 フィルチが勇み足でやってきたところで、双子はそそくさと退散していった。

 

「でも、食事はどうするんだろう?ハロウィーンまで自分で調達しないといけないのかな?」

 

 ハグリッドからハンティングのやり方を教わるのかな、とハリーはフレッドとジョージを心配した。だが、ロンが言った。

 

「心配ないよ。兄貴たち、しょっちゅう厨房に忍び込んで色々失敬してるみたいだから。それで食い繋ぐよ」

 

 実際、ロンの言った通りだった。フレッドとジョージが広間に出禁になっても、飢え死にやしない。ただ恰好の遊び場がなくなるだけだ。それが今回の罰則の本願なのだが。

 

 一応、もう一つの目的としては、単に秩序のためだ。生徒たちの活気があることは大いに結構だが、度が過ぎたバカ騒ぎはかえって悪影響になる。マクゴナガルは、フレッドとジョージにそれを戒め、生徒たち(特にヴェル)の落ち着いた場を保てればと思って今回の罰則を採決した。

 

 それにはスネイプも、英断だと評したとかなんとか……。

 

 そんなわけで、一方のスリザリン(特に上級生)の間では……

 

「あのウィーズリーの双子、広間出禁になったらしい笑」

「あ、だから朝食のときいなかったんだ。てっきり授業初日から寝坊してんのかと思った」

「どおりで、やけに静かだったわけだ」

「広間出禁って、罰則?」

「そう。マクゴナガル先生からのお達しだと。でも提案したのはあの被害にあった子らしい」

「え、ゼノンって子? やるぅ~」

「ね~。ああ、そうだ、それでスネイプ先生も機嫌いいみたい。心なしか」

「先生、双子には散々手焼かされてたもん。そりゃあ清々するわ」

 

……と、こんな具合であった。

 

 

 

 

 

 

 波乱の予感漂う新学期に揉まれながら、あっという間に金曜日になった。これまた、波乱の予感の金曜日……。

 

 そう。スリザリンと合同の魔法薬学の授業だ。

 

 ヴェルは、一生徒としてスネイプの授業に出るワクワクを抱きながらも、ある懸念を拭えずにいた。

 

 ハリーのことである。

 

 歓迎会のとき、ヴェルは自分のことで手一杯で、周りなど見れていなかったのだが、ハリーが言うには、スネイプはハリーのことをどうも嫌っているようだと感じる、とのことだった。

 ヴェルも、なんとなく心当たりが無きにしも非ずだが、それまでは大して深刻に考えてはいなかった。

 

 ヴェルは入学前にも、スネイプがグリフィンドール生を嫌っている様子を、散々(陰から)目の当たりにしてきたので、ハリーもそれと同様だと考えていた。いつものことだと。

 なんなら、自分もグリフィンドールに入ってしまったのだから、同じ待遇になり得ることも、うっすらと覚悟していた。グリフィンドールでも、自分だけはもしかしたら……、などという幻想は、ヴェルはスネイプには一切抱いていなかった。

 

 ──しかし、魔法薬学の最初の授業で、ヴェルはハリーの言っていることが大げさではないことを思い知った。

 

 

 授業は(ヴェルにはお馴染みの)地下牢で執り行われた。教室に入った順、つまり、ハリー、ヴェル、ロン、ハーマイオニーの順で席に着いた。

 

 他の授業同様、出席確認から始まった。スネイプが一人ひとり名前を読み上げ──ハリーの名前の前で一瞬止まった。

 

「あぁ、さよう」

 

 え?

 

「ハリー・ポッター。我らが新しい、スターの登場だな」

 

 マルフォイたちが脇から冷やかし笑いを飛ばした。ハリーは顎を引き、無表情でスネイプを見上げていた。

 

 出席を取り終えると、先生は生徒を見渡した。そして語り始めた。

 

「このクラスでは、魔法薬調剤の微妙な科学と、厳密な芸術を学ぶ──」

 

 静寂の中、つらつらとスネイプは大演説の言葉を紡いでいった……。

 

 

 それを聞きながら、ヴェルは若干の動揺を否めないでいた。

 

 ──ヴェルは、こんなテンションで授業をするスネイプを初めて見た。

 

 ハリーの名前のところで出た、あの猫なで声を聞いた時点で、ヴェルは違和感を感じていた。そして今聞いている詩的な言い回しの語り口……。

 ヴェルが今までこっそり盗み見てきたスネイプの授業風景でも、こんな空気を作り上げていたことはなかっただろう。

 

 その動揺を悟られまいと、ヴェルは努めて、まわりの生徒の様子に扮した……。

 

 

 大演説が終わると、クラスが一層しん、となった。ハリーとロンが、ヴェルをまたいで互いに目配せをした。(やめときなって!)ヴェルは二人の動きに気づかないふりをした。

 ハーマイオニーは身を乗り出すように座り直した。

 

 すると、スネイプは突然、「ポッター!」と呼んだ。

 

「アスフォデルの根の粉末に、ニガヨモギを煎じたものを加えると、何になる?」

 

 ハリーは目を見開き、硬直した。ハーマイオニーの手が、勢いよく空を突いた。スネイプは目もくれなかったが。

 

 ハリーはそして、助けを求めるように、隣のヴェルを見た。

 ヴェルは一瞬ハリーから目を逸らしかけたが、辛うじて良心が引き戻し、ちゃんと見返した。

 

(わからない、でいいのよ。大丈夫よ)

 

 ハリーはヴェルの瞳の奥から、そんな言葉が聞こえたような気がした。

 

 それだけでも、少し気持ちが和らいだハリーは、スネイプに向き直って、答えた。

 

「わかりません」

 

 スネイプは口元でせせら笑った。

 

「チッ、チッ、チ──有名なだけではどうにもならんらしい」

 

(こっちも舌打ちで答えてやろうか……?)ハリーは思った。

 

「ポッター。もう一つ聞こう。ベゾアール石を見つけてこいと言われたら、どこを探すかね?」

 

 ハーマイオニーがまた、さらに高く手を挙げた。向こうでまた、スーパー・マルフォイ・ブラザーズが身をよじって笑っている。

 

「わかりません」

 

「授業に来る前に教科書を開いてみようとは思わなかった、というわけだな、ポッター。え?」

 

 ハリーはスネイプの視線から逃げないよう、自分を奮い立たせて耐えていた。

 

「ポッター。モンクスフードとウルフスベーンとの違いはなんだね?」

 

 とうとうハーマイオニーは立ち上がり、手を天井に突き刺さんばかりだった。

 

「わかりません」

 

 ハリーは落ち着いた口調で言った。

 

 ヴェルは、ここまで冷静に耐え抜いたハリーを称えたい気持ちだった。これで正解だったのだ。この場は。だが──

 

「ハーマイオニーが分かっていると思いますから、彼女に聞いてみたらどうでしょう?」

 

(ああ……)

 

 ──ハリーは余計なことを言った。

 

 何人かの生徒が笑い声を上げる。

 しかし、間髪入れず、

 

バンッ

 

 スネイプは掌でハリーの机を打った。その音は、地下牢の壁に鋭く反響した。ハーマイオニーも椅子にすっこむくらいに。

 

「嘆かわしい。所詮は名ばかりの有名人──

 どころか、一転してグリフィンドールの恥さらしとは」

 

 しばらく、スネイプとハリーは睨みあった。

 

 そして今度、スネイプは隣のヴェルを見た。

 

!!

 

「隣の、ヴェル・ゼノン。

 このままでは、グリフィンドールは減点だ。貴様に寮の名誉回復のチャンスをやろう」

 

 周囲の視線が、今度は一気にヴェルに向けられる。

 

(((ハーマイオニーは!?)))

 

 ヴェルも、ハリーたち他のグリフィンドール生も、突っ込むすんでのところで、口を開くのをどうにかこうにか踏みとどまった。

 

(勘弁してよ……)

 

 ヴェルは内心で嘆いた。

 だが、嘆いたところでどうにもならない。次の質問がきたら、何か答えなくては。事を荒立てないように。

 

 どうしたらいいか……。その答えは決まっていた。

 ハリーと同じ、「わかりません」と答えることだ。

 

 先ほどの質問の答えをヴェルはすべて知っていた。

 だが、周りの1年生は(ハーマイオニー以外)知らなくて当然の内容である。ヴェルが答えられてしまったら、彼女のようにガリ勉に見られるし、変に目立ちたがりだと思われるだろう。

 

 それに、さっき、ハリーに「分からないでいい」と伝えてしまったからでもあった。自分だけが抜け駆けしたと思われたくない。

 

 次もきっと答えられる質問だろうが、ヴェルは否が応でも、「分からないフリ」をするつもりでいた。

 

 

──しかし、スネイプはそんなヴェルの考えを裏切ってきた。

 

 質問はこれだった。

 

「真実薬について知っていることを述べよ」

 

 言われたとたん、ヴェルは痺れたようになった。

 

( 真 実 薬 ! )

 

 ヴェルはつい先ほどまで考えていたことをすっかり忘れた。

 

 そしていつの間にやら、真実薬についてスラスラ答えていた……。

 材料、調合方法、効能など。取りつかれたように、淡々と話続け、薬の起源にまで言及しそうになった時……スネイプは制すように手を上げた。

 

 ヴェルはハッとして中断した。慌てて口をつぐむ。

 だがもう遅かった。教室中が、唖然としてヴェルを見ていた。ハーマイオニーなんかは、自分とヴェルとの間にいるロンが邪魔でしょうがなさそうにしながら、こちらを驚愕した表情のまま凝視してきた。

 

(やっちゃった──)

 

 ヴェルは急激に襲ってきた恥ずかしさに耐えられず、俯いて、顔を真っ赤にさせた。

 

「よろしい。1点をやろう」

 

(……ん?なんだって……!?)

 

 スネイプは満足して笑うでもなく、静かに告げた。そして──

 

「……と、するならば、『三つの質問』に『一つも』答えられなかった、厚顔無恥なポッター。貴様は、3点、減点でないと公平ではない。そうではないかね?」

 

 ハリーは、ヴェルからスネイプへと視線を上げ、睨みつけた。

 スネイプはハリーと目が合うと、眉をちょっと上げてみせ、「なにか?」という顔をした。

 

 ハリーがそれにも無反応にメンチを切り続けるので、スネイプはやがて溜め息をついて、またヴェルを見た。

 

「ゼノン、ポッターが答えられなかった先ほどの3つの問いの答えもわかるかね?」

 

 ヴェルは、俯いたまま、ただ首を小刻みに横に振った。

 

 そんなことに答えている場合ではなかった。

 

 ヴェルの頭の中は、スネイプがグリフィンドールである自分に加点してしまったことでいっぱいだった。なんてことをしてくれたんだ、という気持ちだった。その理由は上級生なら誰しも分かるだろう。新入生しかいないこの空間では驚きの声はまだ聞こえなかったが。

 

「そうか……。

 では教えてやろう、諸君。アスフォデルとニガヨモギを合わせると、眠り薬になる。あまりに強力なため、『生ける屍の水薬』と言われている。ベゾアール石は山羊の胃から取り出す石で、大抵の毒に対する解毒剤となる。モンクスフードとウルフスベーンは同じ植物で、別名をアコナイトとも言うが、トリカブトのことだ。どうだ?諸君、なぜ今吾輩の言ったことをノートに書き取らんのだ?」

 

 ヴェルが本当は答えられるのはスネイプも知っていただろう。だが、内心を察して、そのままクラス全体に流れを持って行ってくれた。

 

 スネイプの最後のセリフを聞くとともに、教室には一斉に羽ペンと羊皮紙を取り出す音がした。

 

 ヴェルはその音に包まれながら、ゆっくり顔を上げた。そのときにはもう、翻って黒板に板書を書き始めているスネイプの背中だけがあった……。

 

 

 *

 

 

 その後も、魔法薬の授業中、グリフィンドールは散々な目にあった。ペアでおでき治療薬の簡単な調合を行ったが、お気に入りのマルフォイを除いて、ほとんどの生徒が注意を受けた。ヴェルは辛うじて助言の範疇に収まったが。

 

 ヴェルはハーマイオニーと組んで作業をやっていた。今のところ順調に。

 

 状況が動いたのは、角ナメクジを茹ででいるマルフォイの鍋をスネイプが覗いていたときだった。

 

 ヴェルは、一度教科書を確認しようと、自分の鍋から視線を動かしたとき、視界の端で、ふと気になるものが見えた。ハリーとロンのペア越しに、そのまた隣のシェーマスと組んでいるネビルがいる。

 

(まだ鍋を火からおろしてなさそうだけど……)

 

 ネビルがヤマアラシの針を掴んだのを見て、あ、まずい、とヴェルは思った。

 

「ハリー!ネビルを止めて!」

 

 慌ててヴェルはそばに居たハリーを小突いて、小声で頼んだ。自分の持ち場から勝手に離れたら怒られるからだ。

 

「え、なに?」

 

 ハリーは作業に集中していたのもあって反応が遅れた。

 

「ネビルに、ヤマアラシの針はまだ入れちゃダメって言って!ロンでもいいから!」

 

「ほっとけばいいよ、ヴェル。スネイプの()()()()()()()()()()

 

「ロン!そんなこと言ってる場合じゃ──」

 

ドカーン!!

 

 そうこうしている間に、ヴェルがまさに気にしていた方向──ハリーの奥隣のペアの大鍋が爆発した。強烈な緑色の煙が上がり、鍋は溶け、中の薬が周辺にぶちまけられた。

 もちろんネビルはまともに薬をかぶってしまい、身体のいたるところに真っ赤なおできが吹きあがる。近くにいた他の生徒の何人かも、飛び散った薬の飛沫を多かれ少なかれ浴びることになり──

 

(熱っ!!)

 

──ヴェルにも少しだが腕にかかってしまった。

 

「ばか者!」

 

 スネイプの怒号が飛んでくる。

 

 それを背中に聞きながら、ヴェルは咄嗟にその場を離れて、教室の隅に置いてある水瓶に直行した。中の冷水に腕を突っ込む。

 

 スネイプはネビルとシェーマスのもとへ駆け寄り、叱り飛ばした。それにみんな釘付けで、誰もヴェルの動きには気づかなかった。

 

「おおかた、大鍋を火から下ろさないうちに、ヤマアラシの針を入れたのだろう」(そのとおりです、先生。)

 

 スネイプが杖を一振りして、あたりの薬と、生徒たちのかかってしまった箇所を拭い去る。だが、ネビルの重症は手に負えそうもなく、医務室へ連れて行くようシェーマスに言った。

 

 それから出し抜けに、隣で作業していたハリーとロンに矛先を向けた。

 

「おい、ポッター、針を入れてはいけないと、なぜ言わなかった?彼が間違えれば、自分がよく見られると考えたな?グリフィンドール、もう1点減点」

 

((どちらかというと、それはロンです!先生!))

 

 ハリーとヴェルは猛烈にツッコミした。二人は内心に留めていたが、現場のそばにいたハーマイオニーが口を開いてしまった。

「先生、それはハリーではなく、ロンです!」

 

(やめろーー!!)それまですまし顔していたロンが青ざめた。

 

「ヴェルが最初にネビルに気付いて、止めるようにハリーに頼んだんです。でも、ロンが『ほっとけばいい』って言ったんです。ね?ヴェル?

 ……あれ、ヴェルは?」

 

 ハーマイオニーが振り返ると、他の生徒もキョロキョロし出した。そして教室の隅にいるヴェルを見つけた。

 ヴェルは冷水から腕を引き抜き、もう片方の手で火傷を隠した。

 

「ご、ごめんなさい……」

 

 スネイプに眉をひそめられ、一人で何をしている?と怒られると思い、謝った。

 

 生徒たちはヴェルを怪訝に見ていたが、状況を察したスネイプは気に留めず、すぐにロンに話を戻した。

 

「ウィーズリー、貴様は10点減点」

 

 ロンはヒュッと息をのんで、殺してくれという顔をした。

 

 一方のハリーは、

 

僕の!減点を!取り消せよ!

 

と憤慨したが、「今日の授業は解散だ。片づけをしたまえ」と間髪入れずに言い放ったスネイプに、取り付く島はなかった。

 

 少年二人は拳を握りしめて震えていたが、みなと共に黙々と片づけをし、転がり出るようにして教室を立ち去った。

 

 

 

 

 

 

 教室を出て、他の生徒に紛れながら、ヴェルとハリーとロンは階段を上った。

 

「ハリー、ごめんね……」

 

 ヴェルは力なく謝った。質問の件と、ネビル鍋爆発の件だ。

 

「いや、きみは何も悪くないよ」

 

「そうだよ」

 

「ロン、きみは謝ってよ……」

 

「うん、謝るよ。ごめん、二人とも」(ハーマイオニーめ許すまじ!)

 

「ネビルにも謝らないとね……」

 

 そんな会話を静かに交わしてとぼとぼ歩いていた。

 

 そのとき、背後の階下からスネイプの怒声が響いた。

 

「ゼノン!」

 

 ヴェルは飛び上がりそうになって立ち止まった。

 

「戻ってこい!片付けをやり直せ!」

 

 ちょうどマルフォイが、ヴェルたちを追い抜きながら、ニヤニヤと嫌な笑顔を向けた。

 

「ちゃんと片付けたのに……」とヴェルは呟いた。

 

「手伝うよ」

「僕も」

 

 ハリーとロンがそっと言ったが、ヴェルは断った。

 

「いいわよ。きっと何かミスがあったんだわ」

 

「ちがうよ。()()()()()()()()()手伝いだよ」

 

 ハリーが真顔で言った。が、階下からもう一度催促の音が聞こえたので、ヴェルはもう行かなくてはいけなかった。

 

「大丈夫よ。先に行ってて。ごめんね……」

 

 ヴェルがひとり外れると、ハリーとロンは渋々寮までの帰路についた。延々とスネイプの文句を垂れ流しながら。

 

 

 

 

 

 

「先生」

 

 ヴェルは教室に戻った。部屋はもぬけの殻で、スネイプだけが扉を開いてすぐのところで待っていた。

 

「腕を見せなさい」

 

 ヴェルは荷物を近くの机に一旦置いて、スネイプに火傷しかけた方の腕を差し出した。

 

「大したことはないようだな」

 

「すぐに冷やせたからね」

 

 あの時、他の生徒の何人かにも薬がかかったが、その場所には漏れなくおできができた。しかしヴェルにとってはただの煮詰めた液体だったため、おできではなく、放っておけば水ぶくれができるところだったのだ。

 

「先生」

 

「なんだ」

 

 ヴェルはここ数日で思ったことを口にしてみた。

 

「ノウルのこと、きっとすぐにバレてしまうんじゃないかって思ったんだけど……。

 他の授業も受けて、今のところは困ったことはないけど、これから実践的になればお互いに魔法をかけあったりするし、休み時間も、廊下とかでみんな魔法で遊んでるから冷や冷やするし……」

 

 呪文学、変身術、防衛術など、今後の授業でも、魔法を自他にかける場面が遠からず訪れる。授業以外でもいたずらで不意打ちに魔法をかけられることもあるかもしれない。(フレッドとジョージしかり)

 ヴェルは自分がノウルであること──魔法がかからない身であることがバレるのは、時間の問題なのでは、と思い至ったのだ。

 

「いずれは露呈するだろうな。それまでは悟られないよう用心することだ」

 

 ダンブルドアも、他の教師たちもヴェルの懸念は承知の上だった。ヴェルが学校生活に慣れた後で、なるべく生徒たちの動揺を煽らない形で明かしていくのが一番理想的な展開ではある。バレないならそれはそれでいいのだが。

 

 スネイプがそのようなことを説明すると、ヴェルは理解して頷いた。

 

「それはそうと、」スネイプは続けた。嫌な予感がした。

 

「もう一つ、お前は用心することがあるだろう。

 先ほどの授業の冒頭、もしや開心術を使ったのではないかな」

 

 ギクッとした。

 

「ポッターに何か言い含めたな。質問の答えを伝えようとしたのか?」

 

 ヴェルは顎を引いて、恨めしそうにスネイプを見た。だが、観念して正直に白状した。

 

「いや……逆よ。『わからないままで大丈夫』って言ったの」

 

 しかし、

「同じことだ。1点減点だな」と、返ってきた。

 

 それを聞いてヴェルは眉をひそめた。そして言い返したくなって、黙っていたことを聞いてみた。

 

「先生はハリーのことほんとに嫌いなようね。どうして?英雄って言われてるのがいけ好かないから?」

 

「……」

 

 スネイプは答えず、しばらくヴェルを睨むように見下した。

 

 その後、小さくため息をつくと、踵を返して教卓の方へ向かった。

 もう話す気はないから戻れということなのだろう。しかしヴェルはまだ動かなかった。

 

「……()()()()()()()、お前はどうも、流されやすいところがあるな」

 

 スネイプは今までの会話が何もなかったかのようにそう言った。

 悪意を感じて、ヴェルはムッとして顔をしかめた。

 大方、組み分けの件と、真実薬の質問につられたことの嫌味だろう。やはり前者の事件をスネイプは根に持っていたのだ。質問もその仕返しだろうか。

 

(だとしても、つけこまないでよ!)ヴェルは悪態をついた。

 

 そして追い打ちに、「そろそろ戻ったらどうだ。『グリフィンドールに』」と言われたのを皮切りに、ヴェルは机の荷物を荒々しくかき抱いて教室を立ち去った。

 

 怒って出て行くヴェルを目で追いながら、スネイプはふっと鼻を鳴らした。

 

「流されやすいとはそういうところだ……」

 

 

 

 そうして、慣れた手つきでスネイプは授業の残りの後片付けを始めた。

 

 だが、その背後の陰で、今までの一部始終を見ていた老人の姿があった。

 

(はぁ、やれやれじゃ、まったく……)

 

 静かにため息をつくと、ダンブルドアは風のようにふっと消えた。

 

 

 

 

 

 

 ヴェルが寮に戻ると、ハリーとロンがまだ昼食に行かずに談話室で待ってくれていた。

 

「おかえり、ヴェル。スネイプ先生の[[emphasismark:始末 > ﹅]]はできたかい?」

 

「うん……。ちゃんと減点されたわ」

 

「なーんだ」

 

 ハリーとロンは一度肩をすくめてみせた。

 

「お昼の後、一緒にハグリッドのところに行かないかい。朝に手紙を貰ったやつさ」

 

 そういえば朝食時にハリーは、ハグリッドからのお茶のお誘いの手紙を受け取っていた。ヘドウィグが運んできた初めての手紙だ。

 ヴェルはハリーの提案を喜んで受けた。

 

「うん。行きたいわ。一旦部屋に荷物を置いてくるね。お昼、先に行っててもいいよ」

 

「いや、待ってるよ」とハリーたちが言うので、ヴェルは急ぎ気味に女子寮の部屋へと向かった。

 

 

 部屋に入ると、静かだった。もうラベンダーとパーバティはお昼に降りたらしい。ただ、ハーマイオニーだけが残っていた。

 彼女はヴェルに気付くと、さっそく声をかけてきた。

 

「ヴェル、さっきの魔法薬学の授業だけど、やっぱりあなたも入学前に猛勉強してきたのね。スネイプ先生の質問へのあの回答は素晴らしかったわ」

 

 ヴェルは苦い気持ちになったが、自分の机に向かいながら答えた。

 

「たまたま、よ。入学前、暇で適当に教科書読んでたら、あの薬がなんだか気になって、調べてみた知識がちょうど聞かれただけ」

 

「そんなこと言って隠せないわよ。

 ヴェル、あなたの教科書どれもボロボロじゃない」

 

「えっ」

 

「入学前に一体どれだけ勉強したの?」

 

 ハーマイオニーは目ざとくヴェルの持ち物を見ていた。ヴェルはたじろぐまいと慌てた。

 

「あ……ちゅ、中古で買ったから、ボロボロで……恥ずかしいから見ないでよ!」

 

 実際、ヴェルの教科書は入学の2、3年は前から使っていたものだったので、かなり使用感があった。ハーマイオニーはふーんと言ってまた喋り出した。

 

「それにしても、やっぱり気になることがあるのよね。スネイプ先生の質問には。

 ハリーが一問一答の問題だったのに対して、あなたのは自由論述だったわ。不公平よ。しかもあんなにたくさん述べたのに、1点なんて。10点くらいくれても良かったと思うわ」

 

(分かってないな~。その1点でさえも大問題だってことに……)

 

 ヴェルは手早く荷物を自分の勉強机にしまうと、部屋の出口にまた向かった。

 

「それにスネイプ先生、私を完全に無視して、あなたを指名したわね」

 

 扉に手をかけて、ヴェルはハーマイオニーをちらと振り返った。

 

 ハーマイオニーもこちらを見ていた。その視線が、なにやら疑わし気な視線だったことに、ヴェルは気づかないふりをした。

 

「お昼、行かないの?」

 

「ちょっとだけ今週の復習計画を立ててから行くわ。忘れないうちに」

 

「そう……じゃあ、お先に。ハーマイオニー」

 

 ヴェルは気まずさを感じながら扉を閉め、ハリーとロンの元に向かった。

 

 

(スネイプ先生とのやり取りからして、やっぱりスリザリンと何か関りがあるのかしら、あの子……。

 でも、ウィーズリーがあんなに親しくしているし……)

 

 ハーマイオニーはひとり、そんなことを考えていた……。

 

 

 

 

 

 

 ハリーとロンと昼食に向かう途中、廊下を歩いていると、背後から数日ぶりの声が聞こえた。

 

「「ヴェル!」」

 

 案の定、フレッドとジョージだ。罰則のことはどこへやら。すっかり忘れてしまったのか、守る気が完全に失せたのか、どこか興奮気味にヴェルに話しかけてきた。

 

「あのスネイプから加点をもらったんだって!?」

 

 ついさっきの授業のことなのに、話はもう出回っていた。

 

「そうさ。1点プラスさ」ロンが言った。

 

「その後1点減点されたから変わらないわ」

 

 ヴェルはあまり話を大袈裟にしないでほしいとそっけなく言った。しかし、ウィーズリーには通じない。

 

「すごいよ!前代未聞だよ!」

「スネイプがグリフィンドールに加点するなんて!」

 

「だから、1点だけだし、減点もされたんだからプラマイゼロよ!」

 

「減点がなんだよ。デフォだろ、減点は。一度だって加点されたことがすごいって言ってるんだよ」

「その加点が1点だろうが0.0000001点だろうが負の数じゃないだけで天変地異さ!君もよく知っているだろう!?」

 

(そりゃ知ってるけど!)

 

「マクゴナガル先生に報告はしたかい?スネイプから加点をもぎ取ったことを讃えてきっと100倍に加算してくれるよ」

「魔法界特別栄誉賞最高勲章とかもらえるよ、きっと」

 

「そんなことになったら、マクゴナガル先生がスリザリンに加点するときには向こうも100倍に追加加算するようになるに決まってるじゃない!」

 

「その通りです」

 

 ヴェルがつい声を張り上げたとき、鋭い口調の声が響いた。

 

「「マクゴナガル先生!」」

 

 フレッドとジョージが後ずさる。

 

「ウィーズリー、罰則をお忘れですか?」

 

 先生は双子へにじり寄り、罰則を差し置いてなぜヴェルと喋っているのかと問い詰めた。

 

「いや、だって、一大事件が起きたんですよ?」

「スネイプがグリフィンドールに加点したんだ」

 

「それは聞きました。加点を得たのがもし貴方たちでしたら、諸々の罰則を撤回して差し上げようかと思いましたがね。そうでないのでしたら、やるべきことは取り決めに従うことです。今すぐ立ち去らなければ期限をハロウィーンからクリスマスに延長しますよ?」

 

 そう畳みかけられ、フレッドとジョージは泣く泣く退散していった。

 

 ヴェルは胸を撫で下ろした気分だった。ちょうど昼時で、廊下に人気があまりなかったのも幸いだった。これが人がいっぱいのタイミングだったら野次馬だらけになっていただろう。

 

 ヴェルはマクゴナガルに助かったと礼を込めて目配せすると、ポカンとしているハリーとロンと共に広間へ向かった。

 

(さっさと食べてハグリッドに会いに行こう……)

 

 

 

 

 

 

 昼食後、三人は城を出て校庭を横切り、禁じられた森の脇にある小屋を訪れた。

 ハグリッドより先に犬のファングが現れ、彼はその首輪を押さえつけながらヴェルたちを中に招き入れてくれた。

 

「よお。ハリー、ヴェル。よく来たな。くつろいでくれや」

 

「あれ、ヴェルのことは知ってるんだね。ハグリッド」

 

 つい素が出てしまったハグリッドの発言に、ハリーは聞き返した。

 

「あ、ああ……そ、そうなんだ」

 

「前にダイアゴン横町でお友達になったの。魔法動物のペットショップでね」ヴェルはさも平然と言った。

 

 ハグリッドのおっちょこちょいは当然知るところだったので、すぐに適当に取り繕った。

 

「ハグリッド、こっちはロンよ」

 

「そうか。ウィーズリー家の子だろ。え?」

 

 ロンはファングに顔中舐め回されながら、「ふぁい」と言い、押し倒されそうになっていた。それを横目に、ハグリッドは大きなティーポットに熱いお湯を注ぎ、ロックケーキを皿に乗せた。

 

「おまえさんの双子の兄貴たちを森から追っ払うのに、おれは人生の半分を費やしているようなもんだ」

 

 ロンがファングから解放されると、ハリーとヴェルとともに毛皮のソファに座った。

 

「フレッドとジョージ、今は『広間』からも追っ払われてるんだ。森だけじゃなくて」ハリーが言った。

 

「ああ、知っちょる。マクゴナガル先生の罰則のことだろう。あの二人なら心配いらんよ。そのくらい、どこ吹く風だな」

 

「うん、そんな感じだった」

 

 三人はロックケーキに手を付けたが、歯が折れるくらい堅かった。そして美味しそうなふりをしながら、ハグリッドに新学期の最初の一週間にあったことを色々話して聞かせた。

 ハリーが今日の魔法薬学の授業のことを話したとき、ハグリッドは愚痴をこぼすハリーとロンに、「気にするな。スネイプは生徒という生徒はみんな嫌いなんだから」と言った。

 

「そのようだね。スリザリン以外には。

 でも、ヴェルだけは質問に良い回答ができたから1点をもらったよ」

 

 そうハリーが言うと、ハグリッドは目を丸くして真剣な驚きをあらわにした。

 

「それは……本当か?」

 

 ヴェルは居心地悪く思った。

 

「うん……でも、ちゃんと減点もされたわ。授業の後。いちゃもん付けられて」そっけなく言った。

 

「そうか……。いやはや、滅多なこともあるもんだなあ」

 

 ハグリッドは唸ったが、ヴェルはもう早く切り上げて他の話題に移れる言葉を探していた。

 

「フレッドとジョージも言ってたけど、スネイプがグリフィンドールに加点するってほんとに凄いことなんだね」ハリーが言った。

 

「ああ、そうさ。おれもいままで聞いたことがねえ。スネイプはグリフィンドール生がどんなにうまくやっても絶対に点はやらないんだ。くれてやるのはマイナス点だけだ」

 

 「一体どんな質問に答えたんだ?」と聞かれ、ヴェルはとうとう、「もういいでしょ。この話は」と言ってしまった。

 するとロンが返してきた。

 

「ヴェルはなんでそんなに嫌そうなんだい。もっと誇ればいいじゃないか」

 

「そうだよ。僕の敵を取ってくれたと思って、正直スカッとしたんだよ。あのとき」 と、ハリー。

 

「ハーマイオニーの、鳩が豆鉄砲を食ったような顔も見物だったしね」

 

 ヴェルは二人を見た。

 ハリーは、今度は目線を落として言った。

 

「それにしても……君に引き換え、僕は絶対スネイプに憎まれてるよ。本当に憎まれてる」

 

「ばかな。なんで憎まにゃならん?」ハグリッドは返した。

 しかし、言いながらハリーの方をまともに見なかった、とヴェルはそう思えてならなかった。

 

「で?何の質問だったんだ?」

 

 ハグリッドはヴェルにまた聞いてきた。わざと誤魔化したのはバレバレだったが、しつこかったので渋々答えた。ハリーも、ハグリッドが何か後ろめたさを隠しているのではと勘繰った。

 

 ヴェルがハグリッドと喋り、ロンも別の話でハグリッドと世間話を始めた頃、ハリーはテーブルの上に置かれたトレーの下から、1枚の紙きれを見つけた。「日刊預言者新聞」の切り抜きだった。

 そこには7月31日に起きたグリンゴッツ侵入事件について書かれていた。そして、ロンが汽車で話していたことを思い出した。

 

「ハグリッド!グリンゴッツ侵入があったのは僕の誕生日だ!僕たちがあそこにいる間に起きたのかもしれない!」

 

 ヴェルはそれを聞いて、一瞬何のことかと思った。

 ハグリッドはというと、ハリーからすぐさまはっきりと目を逸らし、うーん、と言いながら三人にまたロックケーキを勧めてきた。

 

 ハリーはその後もしばらく新聞を読んで考え込んでいるようだったが、ハグリッドにおもむろに促され、小屋をあとにすることになった。

 

 城へ帰る道中、ヴェルはハリーの言ったことを少し考えていた。列車で話したことも思い出しながら、やがてハグリッドがハリーの入学案内に出かけた日が7月31日だったことに思い当たった。あの日にハリーとハグリッドはグリンゴッツに訪れたのだ。何かの用事で。

 その日のその後に、強盗未遂事件が起きたのだろう。ハリーはそのことを言っているの違いない。

 

 また一方で、やはりスネイプのことも気になった。スネイプ本人も、ハグリッドですらも、ハリーとの間にある何かを隠しているような気がした。ハリーもなぜ自分が目の敵にされているのか、さっぱりわかっていないのは明らかであった。一体どういうわけなのだろうか……?

 

 

 

 

 

 

 数日後、寮の談話室に「お知らせ」が貼り出された。掲示板には、飛行訓練がスリザリンと合同で行われるという予定が書かれていた。

 

 ここ最近鉢合わせていなかったマルフォイと一緒に、箒に乗る訓練をすることになる。ハリーとロンはもちろん、ヴェルも気が重かった。

 

「そらきた。お望み通りだ。マルフォイの目の前で箒に乗って、物笑いの種になるのさ」

 

 ハリーは飛行訓練を楽しみにしていたらしく、かなりがっかりしたようだった。

 

「そうとは限らないかもよ。あいつ、いつも自慢ばかりしてるけど、口先だけかもよ」ロンが励ました。

 

 マルフォイも確かによく長ったらしい自慢話をするが、他の1年生も大概だった。シェーマスも、ロンも、魔法族生まれの子は入学前から箒に乗っていた話をする。ネビルは乗ったことがないようだったが。

 マグル生まれのディーンは当然クィディッチよりもサッカーの話をしたがったし、ハーマイオニーは、文武両道というはけではないらしく、ネビル並みにピリピリとしてクィディッチに関する本を読み漁っていた。

 

 ヴェルはと言うと、フレッドとジョージの影響もあり、箒にこそ乗ったことはあったが、どうも向いていないらしかった。飛べなくはないが、クィディッチ選手には到底なれないだろうという体感だ。

 それに、当然だが高く飛ぶと万が一の怪我の元なので、先生たちからも箒飛行することに良い顔をされなかった。ヴェル自身も、いざという時に魔法で助けてもらえないという点で、若干の怖さも実はあった。

 そういうこともあり、ヴェルは箒の話には周囲ほどあまりグイグイ()()()()ようにしていた。

 

 飛行訓練の日の朝食時、ハーマイオニーが周囲に『クィディッチ今昔』を講義していると、フクロウ便がやってきて、ちょうどお開きになった。

 

 メンフクロウが一羽、ネビルに届け物をした。

 

「『思い出し玉』だ!ばあちゃんは僕が忘れっぽいのを知ってるから、この玉がいつも教えてくれるんだ。こういう風にギュッと握って、もし赤くなったら──あれれ……」

 

 思い出し玉はとたんに真っ赤になった。

 

「──なにか忘れてるってことなんだけど……」

 

 がっくりしているネビルの脇をマルフォイが通りかかった時、彼はその玉をすかさずひったくった。

 

 ハリーとロンがはじけるように立ち上がった。二人とネビルの間に座っていたヴェルは動かなかったが、ため息をつきそうになった。

 二人はマルフォイと喧嘩をする口実を心のどこかで待っていたらしい。

 

 ところが、案の定、マクゴナガル先生がすぐに現れた。

 

「どうしたんですか?」

 

「マルフォイがネビルの『思い出し玉』をかっぱらったんです」ヴェルが静かに言った。

 するとマルフォイはしかめっ面で、すばやくヴェルの方に玉をよこしてきた。

 

「見てただけですよ」

 そう言うと、マルフォイはクラッブとゴイルを従えて逃げ去った。

 ヴェルはネビルに玉を返してあげた。

 

 

 その日の午後、ヴェルたちは初めての飛行訓練を受けるため、正面階段から校庭へと急いだ。スリザリン生はすでに到着していて、20何本かの箒が地面に整然と並べられていた。

 そわそわしていると、マダム・フーチがやって来た。

 

「何をぼやぼややっているんですか」

 

 ガミガミしているが、ヴェルにとってはいつもの彼女だった。

 

「みんな箒のそばに立って。さあ、早く」

 

 ヴェルはハリーたちとともに並んで、自分の箒を見た。授業用の、いつもの使い古した箒だ。そろそろ新しいのを仕入れても良いと思う。

 

「右手を箒の上に突き出して」

 

 フーチが掛け声をかけた。

 

「そして、『上がれ』と言う」

 

 そして一斉に全員が「上がれ!」と唱え始めた。

 ハリーの箒はすぐさま彼の手に収まった。ヴェルも穏やかに浮かんだ箒を掴んだ。だが、実際、箒が浮いたのは意外と少ないようだった。ハーマイオニーも、ネビルも上がっていない。

 

 次にフーチは、箒の端から滑り落ちないようにまたがる方法を教えた。生徒たちが取り組んでいるのを見て回り、時々注意した。

 

 マルフォイの箒の握り方が間違っていると先生に指摘されると、ハリーとロンが嬉々とした。ヴェルはそれを横目に見ていただけだったが、まんざらでもなかった。

 

「さあ、私が笛を吹いたら、地面を強く蹴ってください。2メートルくらい上昇して、それから前かがみになってすぐに降りてきてください。笛を吹いたらですよ──1、2の──」

 

 ところが、ネビルが一呼吸早く地面を蹴り上げ、飛び上がった。

 

「こら、戻ってきなさい!」

 

 先生の大声をよそに、ネビルはコルク栓のようにポーンと飛んでいった。悲鳴を上げたかと思うと、ネビルは箒から落ち、真っ逆さまになった。そして──

 

 ドサッ、バキッ!

 

 ──地面に叩きつけられた。

 

 箒ははるか空の彼方に飛んでいき、禁じられた森に消えた。

 

 フーチはネビルと同じくらい真っ青になって(ヴェルもだったが)、彼の上にかがみ込んだ。

 

「手首が折れてるわ」先生がつぶやいた。

 

「さあさあ、ネビル、大丈夫。立って」

 

 先生は他の生徒の方に向き直った。

 

「この子を医務室に連れて行きます。その間、動いてはなりませんよ。箒も触らないこと。さもないと、ホグワーツから叩き出しますからね」

 

 ネビルは先生に抱きかかえられるようにして、ふらふらと歩いて行った。

 

 二人が城の中に入って姿が見えなくなると、マルフォイが大声で笑いだした。

 

「あいつの顔見たか?あの大まぬけの」

 

 他のスリザリン生もはやし立てた。

 

 ヴェルはマルフォイを、ただ冷ややかに見つめていた。

 特に嫌味を言ったわけでもないのに、その視線が目に留まると、彼はヴェルに突っかかってきた。

 

「おや、なんだい、その目は。組み分けで入り損ねたスリザリンに今更入りたくなったのかい?」

 

「あら、羨ましいの?だったら、スネイプ先生に加点をもらった時みたいに、いかさまでも媚売りでもして入れ直してもらえば?

 ま、もう、あんたの席なんてないけど」

 

 マルフォイだけならいざ知らず、今回は横にいた、物言いがやけに鼻につく女がしゃしゃり出てきた。たしか、パンジー・パーキンソンとか言ったか。

 

 ロンが一歩前に出て口を開きかけた。

 しかし、それを遮るようにヴェルはそっぽを向いて──

 

「……売女と同じ寮なんて御免だわ」

 

 相手に聞こえるか聞こえないかの声でつぶやいた。

 

「あ?バイタって何よ」

 

 パンジーの他に聞こえた生徒もいたが、グリフィンドールもスリザリンもみな一様に、意味が分からずポカンとした。それもそのはず。ここにいるのは11歳の子供たちだ。ヴェルのように、かつて劣悪な里親の元で、耳を疑うような汚い言葉を浴びせられ続ける幼少期を過ごしていれば別だが。

 

 マルフォイも理解できなかったのだろう。ヴェルの反応が面白くなく、あたりを見回すと「見ろよ!」と声を上げた。

 

 草むらの中から何かを拾い上げて見せた。

 

「ロングボトムのばあさんが送ってきたバカ玉だ」

 

「マルフォイ、こっちへ渡してもらおう」

 

 今度はハリーの静かな声が響いた。だれもが話を止めて二人に注目した。

 ヴェルもハリーを見た。

 

 マルフォイはニヤリと笑った。

 

「それじゃ、ロングボトムがあとで取りに来れるところに置いておくよ。そうだな、木の上なんてどうだい?」

 

「ハリーに渡しなさいよ」

 

 ヴェルも痺れを切らして強く言った。マルフォイは一度ヴェルを振り返ったが、ひらりと箒に跨ると、飛び上がった。

 腕は口先だけではなかったらしい。マルフォイは立木の梢の高さまで舞い上がり、浮いたまま呼びかけた。

 

「ここまで取りに来いよ!ポッターでも、ゼノンでもいいぜ!」

 

 ヴェルは挑発に乗らなかったが、ハリーが箒を掴んだ。

 

「だめ!フーチ先生がおっしゃったでしょう、動いちゃいけないって。私たちみんなが迷惑するのよ」ハーマイオニーが叫んだ。 

 

 ハリーは無視した。ヴェルも止めはしなかった。

 

 ハリーはそのまま、箒に跨り、地面を強く蹴って急上昇した。風を切って、髪とマントを靡かせ、気持ちよさそうに滑空した。

 ハリーがみるみる高くに上っていくのを見上げて、地面では女の子がキャーキャー言い、ヴェルとロンが感嘆の声を漏らした。

 

 ハリーはくるりと箒の向きを変え、空中でマルフォイと向き合った。マルフォイは唖然としている。

 

「こっちへ渡せよ」などと上の二人が言い合っているのが遠くに聞こえ、ハリーが途端にマルフォイに向かって飛び出した。マルフォイはそれを危うくかわし、ハリーは一回転。そして、また向き合う。

 ロンや他のグリフィンドール女子に混ざって、ヴェルも拍手を送った。

 二人はまた何言か言い合って、マルフォイが叫んだかと思うと、思い出し玉を空中に放り投げた。ハリーに「取ってみろ!」とでも言ったのだろう。

 

 ハリーは玉が落下するのを追って、すごいスピードで急降下した。無茶な!地面にぶつかる!と周りが悲鳴を上げて騒ぐ中、ハリーは玉に手を伸ばし──

 地面スレスレのところでそれを掴んだ。そして急いで箒を引き上げて水平に立て直し、草地に滑るようにして降り立った。

 

 手の中にしっかり握った思い出し玉をヴェルとロンに笑って見せた。ヴェルもみんなも大興奮だった。しかし──

 

「ハリー・ポッター!」

 

 マクゴナガル先生だ。走ってこちらにやってくる。ハリーも、周りの喜んでいたヴェルたちも、今しがたの気持ちの高ぶりがみるみるうちに急降下するのを感じていた。ハリーはぶるぶる震えていた。その背後で、マルフォイはほくそ笑む。

 

「まさか──こんなことはホグワーツで一度も……」

 

 マクゴナガル先生はショックで言葉も出ないようだった。

 

「よくもまあ、こんな大それたことを……下手をすれば首の骨を折っていたかもしれないのに」

 

「先生、ハリーだけが悪いんじゃないんです……」

 

「お黙りなさい、ヴェル!──ゼノン……」

 

「でも、マルフォイが……」

 

「くどいですよ。ミスター・ウィーズリー。

 ポッター、さあ、いらっしゃい」

 

 明らかに取り乱しながら、マクゴナガル先生は大股に城に向かって歩き出した。ハリーは、ネビルのようにふらふらと付いて行った。

 その背中を、マルフォイたちスリザリンは嘲笑いながら見送った。

 

 ヴェルとロンたちは呆然として立ち尽くした。

 

 

 

 

 

 

 マクゴナガル先生に連行されるハリーと入れ替わりで、フーチ先生が戻ってきた。

 

「私がいない間にポッターも何かやらかしたんですか!まったく、グリフィンドールは何たることです!」

 

 フーチの剣幕に、みな口をつぐんだ。ただ、スリザリン生はグリフィンドールに、ニタニタと嫌味な笑みを送った。

 ロンとハーマイオニーはマルフォイたちを睨み返し続ける一方で、ヴェルは見向きもしなかった。

 

 ハーマイオニーが「マルフォイも──」とフーチに告げ口しようと口を開いた時、フーチはその場で授業をお開きにしてしまった。

 

「二人も抜けてしまってはお話になりません。また次回の授業ではじめからやり直します。

 今日はここまでです。ロングボトムの箒も回収しないといけませんし」

 

 そして、全員解散となり、各自城に戻って行った。ロンはハリーのことが心配で、ひとり真っ先に城に向かった。ヴェルはハリーも心配だったが、ネビルの方にまずお見舞いに行こうと思った。

 

 他の生徒とともに校庭を歩き出したが、ふと立ち止まって振り返った。

 

「フーチ先生。ネビルの箒、禁じられた森の方に飛んで行ったから、ハグリッドに頼んでみよう──みましょうか?回収してもらえるように」

 

 ヴェルは、箒を呪文で片付けているフーチに尋ねた。(ついタメ口になりそうだった)

 

「ゼノン。ありがとう、大丈夫です。あとでアクシオをやってみます。でも……そうね、もし上手くいかなかったらハグリッド案件ですね」

 

 禁じられた森では何が起こるか分からない。アクシオも使えないことが多いらしく、森で無くしものをしたら二度と見つからないというのが大概らしい。ウィーズリーの双子曰く。

 

「あなたももうお戻りなさい」とフーチに言われ、ヴェルは城に向かってまた歩き出した。他の生徒の姿はもうほとんど見えなくなっていた。

 

 城の正面玄関に入った時だった。

 

「きみ、ちょっといいかい」

 

 入ってすぐの階段の脇にある柱に寄りかかっていた人物が、ヴェルが来たのを見てゆっくりと近づいてきた。ヴェルの知らない、背の高いスリザリンの男子だった。

 

「だれ?」ヴェルは聞いた。

 

 1年生ということは分かった。今の授業の解散後、ヴェルのことを待ち伏せしていたらしい。

 

「僕はセオドール・ノット。きみは、ヴェル・ゼノン、だよね」

 

 ヴェルは戸惑いながらも、頷いた。

 

「きみのことで、聞きたいことがあるんだ」

 

「私のこと?」

 

「ゼノン家のことだ」

 

 ヴェルはセオドールの視線に射抜かれているような気分になった。

 それはあまり聞いてほしくないことであった。純血に煩いスリザリン生なら、もしかしたら聞いてくる生徒はいるかもしれない、とは思っていたが。

 

 適当に一言二言言えなくもなかったが、この時は、セオドールの様子がどうも胡散臭く感じたのもあって、断ることにした。

 

「……ごめんなさい。できれば、話したくないんだけど」

 

 というか、自分はその家では育っていないので、人づてに聞いていることしか『話せない』が正しいのだが。

 しかしそれを伝える前に、セオドールが口を利いた。

 

「僕の方も、できれば、君がパンジー・パーキンソンに言った『聞くに堪えない言葉』を、先生たちに話したくはないんだけど、ね……」

 

 それを聞いてヴェルは、黙り込んだ。弱みを握られていた。

 

 セオドールは先ほどのやり取りを聞いていて、それでもって理解していたのだ。よく見ると、立ち居振る舞いからしても、ただの子供じゃない。スリザリン生の中でも、相当良い家柄の出身なのだろう。純血一族なのは明らかだ。それでいて頭も切れる。

 

「パンジーのことは、謝るわ。口が滑ったにしても、よくなかったと思う。もう彼女、寮に行っちゃったかしら──」

 

「それは殊勝だね。お好きにどうぞ。

 ──話はここじゃ目立つから、ついてきて」

 

 話題を逸らそうとしたヴェルの思惑はへし折られ、自分の勝ちだと思ったセオドールは歩き出そうとした。

 

「えっと、私、このあとは──ネビルのお見舞いに行くつもり、だったんだけど」

 

 ヴェルは慌てて言った。

 

「今度でもいい?」

 

 セオドールは振り返った。

 しばらく、頼み込むようなヴェルの顔を見つめていたが、やがて口を開いた。

 

「……そうか。『ロングボトム』の見舞いなら、仕方ないね。またの機会にしよう。彼によろしくね」

 

 それだけ言うと、セオドールはスリザリン寮へと去って行った……。

 

 

 

 

 






賢者の石③へ続く……



 ちなみに、魔法薬の授業ですが、私の薬理学の教授も、スネイプよりひどい、性悪捻くれイカれクソジジイでした。あれは白髪の禿げ散らかりでしたが。魔法薬学の授業は薬を「作る」ことがメインみたいだから楽しそうだなと思います。「薬理学」は薬の「作用機序をひたすら覚える」授業なのです。実習でも調合はないのです、スネイプ教授……(泣)。「魔法薬理学」なんかあったら、即自主退学するでしょうね!
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どうも、ハリーの叔母のペチュニアです。(作者:Ψ( 'ω'* ))(原作:ハリー・ポッター)

なんか気付いたらハリーの叔母に転生していた!▼とりあえずセブルスとシリウスは拳で分からせました。出会いはそれぞれ違うけど失礼だったからね!!▼※愛情注がれてるハリーが爆誕します٩( ˙꒳˙ )วウェイウェイ


総合評価:68/評価:-.--/連載:2話/更新日時:2026年05月20日(水) 07:40 小説情報

銀髪美少女お嬢様(ワケあり)のホグワーツ生活実践編(作者:トリスメギストス3世)(原作:ハリー・ポッター)

激重過去持ち半吸血鬼美少女▼カティア・アシュリーが、元気にホグワーツ生活を送るだけの話▼主人公はハリーと同学年です


総合評価:2747/評価:8.83/連載:21話/更新日時:2026年05月25日(月) 23:00 小説情報

TS転生ポッター妹(作者:一死二生)(原作:ハリー・ポッター)

気が付いたらTS転生した上にハリーポッターの妹だった。▼なってしまったものは仕方ないので、せっかくだし魔法界を楽しもうと思う。▼ドラゴンとか飼いたいよね。▼※クロスオーバーは念のためです


総合評価:2700/評価:8.21/連載:7話/更新日時:2026年05月02日(土) 14:19 小説情報


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