第五次聖杯戦争は終わった。
本来であれば聖杯は破壊されるのがオチだが、この世界では聖杯は破壊されることなく浄化された。
アンリマユの穢れを浄化するという、気の遠くなるような作業を毎日欠かさず続けてくれたメディアには感謝しかない。
後々、ギャグ漫画よろしく色の抜けた燃え尽き症候群のような姿になったメディアを見た時は流石に申し訳なくなったが、葛木さんに励まされたおかげで無事に立ち直っていた。
本人も「魔術師としては貴重な経験でした」と笑っていた辺り、本当に吹っ切れたのだろう。
さて、ここでも物語の定番よろしく、お別れシーンの一つや二つあるのかもしれない。
だが、残念ながらそんなものはない。
本当に、残念なことに。
だってさ、話すことがないんだもん。
前々から「戻った時、どうせ世界の修正力とやらで、この世界の相良豹馬は元の場所に戻るだろうが、中身は外道だから、もしもの際は情とか恩とか関係無しに殺っちゃって」と伝えていたし、元々俺は途中から物語へ割り込んできた部外者だ。
これは本来は最初から最後まで士郎君の物語であって、俺の物語じゃない。
だから最後までしゃしゃり出て干渉するのも違うし、これ以上口を出す理由もない。
そういう意味では、士剣カップリングを見届けたかったという願いだけは叶わなかったな。
途中から「とにかく勝つ」方向へ完全にシフトしたせいで、それ関係のフラグを片っ端から折りまくってしまった。
その結果、恋愛事情は修羅場になるかどうか一歩手前という有様である。
‥‥‥やっぱり、他人様の恋愛フラグなんてものに首を突っ込むべきじゃなかったか。
まぁ、終わったことを言っても仕方がない。
中途半端な結果にはなってしまったが、ここから先は士郎君が何とかしてくれるだろう。
主人公なんだから、きっといい感じにフラグを立て直してくれるはずだ、多分。
サーヴァントの魂が汲まれている聖杯は破壊されていないため、サーヴァントも自主退去しない限り現界し続けられる。
そのためアルトリアやエミヤを始めとした面々は、しばらくの間は現世で生活するのだとか。
受肉を願う英霊だって存在するのだから、その辺りは倫理観さえしっかりしている英霊なら特に問題はないだろう。
少なくとも冬木の街に新たな騒動を起こさない限り、誰も文句を言うことはないはずだ。
そして、俺は大聖杯の機能を用いて元の世界へと戻った。
特にトラブルは‥‥‥なく‥‥‥だな。
あの後、大聖杯と小聖杯がどうなるのかは士郎君たちが決める事だろう。
万能の願望機と呼ぶには少々力不足かもしれないが、世界を書き換えるような無茶な願いでなければ、ある程度の願いなら叶えられるはずだ。
なら、その力を使うも使わないも彼らの自由であり、俺が口を挟むことではない。
そして数日後。
毎度の如く、俺の家では平穏‥‥‥なわけもなく、今日も朝から騒がしかった。
右ではワルキューレ四姉妹が恋愛小説を読み耽る。
左ではPS2でレースゲームを遊ぶ者達。
後ろでは女子会その一。
前では神霊━━ではなく、神性ランクを持つ者たちによる(ほぼ)女子会その二。
その周囲では瞑想に耽る者、鍛錬に励む者、本を読む者と、それぞれが思い思いの時間を過ごしている。
‥‥‥増えすぎだ。
いや、最初からこうなる可能性は視野に入れていた。
聖杯戦争を生き延びたサーヴァントを連れて帰る以上、こういう状況になることくらい予想はしていたのだ。
だが、いざ現実になると流石に手狭である。
新しく増えたサーヴァントたちには偽造書類を用意し、現代社会へ溶け込めるよう最低限の身分は整えた。
加えて、住んでいる場所も京都と滋賀の県境近くにある過疎地だ。
人の目も少なく、神秘の秘匿という意味ではこれ以上ない立地と言える。
自宅も相良家本家の邸宅を現代風へ改修し、大人数でも暮らせるようにしてはいる。
それでも、流石にこれだけの人数が一つ屋根の下へ集まれば窮屈さは隠せない。
ということでだ━━
「アパート、買ったから‥‥‥各々好きなようにカスタマイズして良いから‥‥‥住んで!」
「おお~、マスターってば太っ腹ー」
大天使が何か言っているが、
使ってしまっても、当面は問題ない。
それに過疎地だったおかげで、隣に建っていた無人のアパート二棟をまとめて購入できたのは幸運だった。
土地を買って新築を建てることも考えたが、完成までかなり時間が掛かる上、資材や手続きの手間も馬鹿にならない。
その点、既存の建物なら多少手を加えるだけですぐ住める。
結果として、アパートそのものを買うという結論に落ち着いた。
これにより我が家の窮屈すぎる住環境は一応改善された。
金銭面は‥‥‥。
ちなみにだが、俺が契約していたサーヴァントは全員連れ帰っている。
いや、正確には連れ帰ってしまったという表現の方が正しい。
ワルキューレ四姉妹は特殊召喚故に聖杯へ託す願いなど持っていなかった。
だが、四姉妹揃った今の状態で現界を続けたいという希望があったため、召喚者であるメタンヌが面倒を見ることになったらしい‥‥‥できるのかな。
周瑜や義仲は、本来なら戦いが終われば英霊の座へ帰るつもりだったそうだ。
しかし、この世界で行われる亜種聖杯戦争に興味を持ったらしく、しばらくは現界を続けることにしたらしい。*1
俺としては正直、どちらでも構わないという気持ちが半分。
もう半分は、残ってくれれば万が一の時の戦力になるという打算だった。
だから特に否定する理由もなく、「好きにしてくれ」とだけ伝えておいた。
「そんで━━」
「ん?」
「何で
完全に予想外だったのだが、言峰のサーヴァントだったはずのンザンビが普通に居た。
いや、理由は本人から聞いたけどさぁ。
ンザンビは、「少しばかり退屈なくらい平穏な世界というものを見てみたい。それに面白そうだから」という、実に神霊らしい理由だった。
メタンヌへ繋がった魔力パスを利用して、そのままこちらへ付いて来たらしい。
まぁついてきた以上仕方のないこととしよう。
そう言えば、メタンヌから面白い話も聞いた。
どうやらサーヴァントは、電気エネルギーを魔力へ変換して現界を維持することができるらしい。
よくよく考えれば、魔力も一種のエネルギーだ。
ならば発電した電力をエネルギー保存則の範囲内で魔力へ変換できても不思議ではない。
呪物聖杯でも魔力供給はできるが、あちらにも限界はある。
電力で補えるなら、その負担を分散できるのはありがたい。
発電所を買う‥‥‥のは流石にやめておこう。
こんな過疎地の近くに発電所なんてものはないし、あっても電波塔くらいだ。
となると、現実的なのは太陽光発電か。
幸い2004年でも、市販の住宅用ソーラーパネルも既に流通しているはずだ。
設置は自分でやるか。
業者を呼ぶにしても数か月待ちは覚悟しなければならないし、それなら自分でやった方が早い気がする。
「さてと、持ち帰った荷物を確認するとしようか」
サーヴァント以外にも、今回の聖杯戦争で得られた報酬は数多い。
その代表格と言えるのが、間桐家から回収した魔術関連の資料や物品である。
この世界では既に間桐家は滅んでいるため、それらの魔術資産も現存するものはごく一握りしか残っていない。
だからこそ、今回持ち帰った品々は魔術的な価値だけでなく、資料的価値という意味でも非常に貴重な代物だった。
手に入れた魔術関連の品々を魔術世界で売り払えば、優に億単位を超える価値が付くはずだ。
令呪の仕組みが細部まで記された研究資料に聖杯の製造工程や構造に関する記録、使う予定は全く無いが、見ているだけで生理的嫌悪感を覚える蟲の使い魔。
それにロシア、ウクライナ、北欧方面━━特に北東地域に縁を持つ英霊の触媒が大量に保管されていた。
どの触媒も簡単に入手できる代物ではなく、それなりの資金を積まなければ手に入らない希少品ばかりである。
間桐臓硯のことだから、第六次聖杯戦争が開催される可能性まで見越し、将来への備えとして収集し続けていたのだろう。
幸い、呪詛や罠の類も確認した限りでは仕込まれていないようだった。
それなら処分する理由もない。
こういう歴史や逸話を感じさせる収集品は好きだし、そのままコレクションに加えてしまおう。
‥‥‥ああ、コレクションと言えば一つ思い出した。
「これ、どうするかなぁ‥‥‥」
そう呟きながら、厳重に包装していた荷物を慎重に取り出す。
中身は鈍い金属光沢を放ち、微かに火薬の匂いを残した小さな金属片━━つまり銃弾である。
もっとも、それは一般的な銃弾ではない。
魔術師殺しとして名高い、起源弾だ。
士郎君が対言峰用として蔵の中から探し出した、起源弾が装填されていたTCA社製コンテンダー。
そのケースの隅へ予備として保管されていた弾丸が、この一発だった。
どうやってあの銃を探し出したのかって?
→金属探知機とスコップ
そして、士郎君に発見報告するギリギリで俺はしれっと手癖の悪さを発揮し、この予備弾薬を持ち帰ってしまったわけだが、さてどうしたものか。
ただ処分してしまうにはあまりにも惜しい代物である。
かと言って実際に使うとなると、ベースが7.62×63mm弾という時点で対応する銃器が機関銃か年代物のライフルくらいしか思い付かない。
俺が持っているナガンリボルバー並みに、希少性の高い代物と言っていい。
魔術協会へ売り払うという手も無くはないが、どこかから情報が洩れてここの魔術師殺しに目を付けられるリスクがある。
「‥‥‥仕方ない、保管するか」
最近、空き巣対策として購入した大型の金庫がある。
当面はあそこへでも放り込んでおき、必要になる日が来ないことを祈るのが一番だろう。
どうせ使わないだろうけど。
そう言えば余談だけど人数を大雑把にしか数えてなかったのと一部が共同で住むということがあったため、誤ってアパートを一棟多く買ってしまった。
そこそこ広いから今度壁を壊して一つの家にでもしようかな。
‥‥‥と思ってた時期が俺にはあった。
一応第五次編は終わりましたが、かなり中途半端な感じになったので時間があれば修正する予定です。
ただ受験やら何やらで今忙しいのでつぎ更新するのは早くて12月になるかなと。
今回のまとめ:
ンザンビ:実は善・混沌・天のサーヴァント。言峰にこき使われた分を取り戻すために着いてきた。なお、メタンヌにこき使われる予定。
義仲:本来ならすぐに座に帰るつもりだったが、亜種聖杯戦争で『悪鬼』が召喚される可能性に思い至り残った。ちなみに残った理由の半分が(あんなことを言ってた)相良君が説得してたりする。
周瑜:一応「生前成しえなかった主を勝利に導く(勝たせる)」という願いは(戦略をほとんど立ててないが)叶ったので帰る予定だったが、何がとは言わないが(中国あたりの)亜種聖杯戦争に興味を持った。
ワルキューレ`s:最終的にメタンヌが面倒を見ることになった。こいつらを残した理由としてはアポ世界の亜種聖杯戦争を描いた作品を番外編(本編)として描くときに北欧神話のキャラが欲しかったからっていうのもある。