創達、希望ヶ峰学園浄霊計画に参加している死神達が、交流会を楽しんでいたその頃、ある人物が携帯で誰かと連絡を取っていた。自室であるため、誰かに聞かれる心配はないし、念のため盗聴器の有無も確認済みだ。
「それでね、学園では……え? うん、言われた通りに、壊しておいたよ。砂時計みたいなやつだよね? 小さいから見つけるのに手こずったけど。私には見えないからよく分からないけど、これで良いんだよね?」
『超高校級の軍人』、戦刃むくろ。彼女は苗木と同じ第78期のクラスメイトである。普段の彼女は、その物騒な肩書きの持ち主とは思えないくらいに物静かな性格なのだが、今の彼女はどこか嬉しそうにその電話の主に報告していた。
「うん、うん。分かった。じゃあ、そうするよ。えっ? もう切るの? あっ……」
通話が切られて、少しがっくりと肩を落とすが、すぐに気を取り直す。
「でも、
そう呟いて、戦刃は日課である武器の手入れを始めた。
――――――――――
戦刃からの通話を一方的に切ったその人物は、携帯を無造作に放り出し、グーッと大きく伸びをする。
「ッたはー、やっと終わったぁ! ホント、アイツはいちいち電話が長すぎんだよ! 軍人の癖に!」
派手なツインテールに、ウサギとクマのヘアピン。その人物は、いかにもギャルといった風貌の少女だった。
「まっ、言ってた通りに壊しはしたみたいだし、良しとしとくか。残念だったねぇ、キミ達が残したものは壊させてもらったよ」
少女は左手に持っていたリボンに向かって、嘲笑うかのように語りかけた。このリボンは、少女がある死神と色々
そして、飽きたのかリボンも無造作に放り出し、少女はドカッと椅子に腰掛ける。
「他にいないとは言え、残姉を送り込みましたが……大丈夫でしょうか? 戦闘力だけは高いけれど、コミュ力はクソ雑魚ナメクジですので、少し心配です……」
先程までとは打って変わって、陰気な雰囲気を醸し出す少女。この光景を普通の人が見たら、情緒不安定と評すだろう。
少女はデスクの上にあったパンフレットに目を向ける。
「私立希望ヶ峰学園……『超高校級』と称された才能が集められた学校。そんな学校に大量の冴えない霊どもをぶち込んでパンクさせてやろうと思ったけど、なかなか思うようにはいかねえな。あの死神どもがマジで邪魔……どうすっかなぁ」
しばらくの間、ブツブツと呪詛を並べていたが、それで解決するわけではない。少女はおもむろに立ち上がって、壁にあるパネルに歩みを進める。そのパネルは少女の身長ほどの大きさで、輪廻の輪が描かれている。少女はそっとパネルに手を触れる。
「輪廻の輪はどんな生き物でも転生させることができる。人間でも死神でも、犬でも猫でも、なんなら蝿みたいな虫ケラでも。アタシの分析でも及びがつかない未知の存在。だからこそ萌えるのよね〜」
彼女の顔はどこか恍惚とした様子だった。
「現世の人間が大量に輪廻の輪に押し寄せたら一体どうなっちゃうのかしら……大量の霊が悪霊化すれば、大勢の希望が死んだり、精神崩壊すると思ったのに、全然そんなことにならないし。ほんっと、絶望的……」
計画通りにいかないことに苛立っているものの、どこかその呟きは楽しそうだった。
「悪霊は増えない。邪魔する死神どもはしぶとい」
一つずつ指を折っていく。
「計画は全然思い通りに進まない」
そして――ニヤリと笑う。
「だからこそ、絶望的なんだよねぇ」
普通であれば、計画が狂えば焦るし、苛立つ。予定外の障害が発生すれば、それを取り除こうと躍起になるものだ。だが、この少女は違う。
思い通りにならない。苛立ちはもちろんあるが、それ以上に彼女にとっては刺激的であった。
「それに……まだ、アタシの知りたいことは何にも分かってない」
どんな生物でも転生させる輪廻の輪。死神達にとって当たり前の存在だが、その仕組みを彼女は分析できない。
「だったら、もっと死んでもらわなきゃね」
あまりにも軽い口調だった。
「もっと人があの世に集まればいい」
そして、その先にあるものを想像する。
「もしも、輪廻の輪に、どんどん人が流れ込んだら……」
少女の目が輝く。
「そのとき何が起きるのかなぁ……」
答えは分からない。だから、彼女は知りたかった。
「処理しきれなくなる? おかしな転生をする? それとも……」
そこで言葉を切る。
「何事もなく、いつも通り転生する?」
クスクスと少女は笑う。
「まっ、それならそれで面白いんだけどねぇ」
少女はパネルから手を離した。
「だって、どれだけ追い詰めても何一つ変わらないなら……」
その顔に、恍惚とした笑みが浮かぶ。
「それこそ、アタシにとっては最高に絶望的だもん」
少女はどこからか眼鏡を取り出してかけると、髪型も少し弄った。それだけで、先ほどまでのギャル然とした雰囲気が消え、急に知的な印象へと変わる。少女は顎に手を当て、難問を前にした学者のように唸った。
「それより、次の手を考えないといけませんね」
希望ヶ峰学園浄霊計画。浄霊計画に参加している
考えることは山積みだ。それらを頭の中で組み合わせていく。やがて、知的な雰囲気を保つことにも飽きたのか、髪型を戻して眼鏡も放り捨てる。
「待っててよ、輪廻の輪」
少女がドン、とパネルを押す。すると、パネルがゆっくりと回転する。その向こうから現れたのは、白と黒のツートンカラーに彩られた、クマのような着ぐるみだった。
「アタシが絶対、アンタのこと分析してやるからさっ!」
その笑顔には、絶望を求める者の狂気と未知を解き明かそうとする研究者のような、純粋な好奇心が同居していた。
少女の名前は盾子。そして、またの名をこう呼ばれている。堕魔死神モノクマ……と。