霧の悪魔   作:甘党派

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3話

 

木々が鬱蒼と茂る森の中。

 

シンは息を潜めて標的を待つ。

 

暁の構成する一人一人の強さは影クラスとも言われている。

 

されど、それは失敗の理由にはならない。

 

相手がどれだけ強くても、

 

それが標的となった時点で、

 

研ぎ澄まされた牙で、

 

獲物の喉元を噛みちぎる。

 

それが霧の悪魔の役目である。

 

 

 

霧が、濃い。

 

足音は、二つ。

 

湿った地面を踏む、わずかな音。

 

「……先が見えねェな」

 

デイダラは不機嫌そうに呟く。。

 

濃い霧が辺りを覆い尽くしている。

 

その後ろで、

 

トビが軽く肩をすくめる。

 

「なんか気味が悪いっすよ〜、先輩」

 

間延びした声。

 

先が見えない中で

 

一歩一歩

 

前へ進む。

 

目的地に向かって

 

確かに一歩ずつ。

 

「……?」

 

違和感。

 

デイダラは言いようのない

 

奇妙な感覚に襲われた。

 

まるで何かに囚われているような

 

そんな感覚。

 

デイダラは立ち止まり、声をかける。

 

「なぁ、トビ」

 

返事はない。

 

「おい、ト.....」

 

振り返る。

 

そこには誰もいない。

 

「なっ!?」

 

驚いたデイダラは、

 

辺りを見回す。

 

そこにあるのは深い霧だけ。

 

その濃霧を、デイダラは知っていた。

 

「コイツは...まさか!?」

 

慌てたデイダラに生じた一瞬の隙。

 

それだけで十分だった。

 

デイダラの背後。

 

音もなく。

 

気配もなく。

 

されども、そこは既に悪魔の間合い。

 

霧に浮かぶ白い仮面。

 

キラリと光った刃が水平に走る。

 

「っ」

 

デイダラは咄嗟にガードするも、

 

肩から深く切られ血が飛び散る。

 

「クソッ!?」

 

即座に飛び退き、

 

粘土をばら撒く。

 

ーーパチャン

 

デイダラ水溜まりの上に着地した。

 

「芸術は、爆発だァ!」

 

起爆のために、デイダラ印を結ぼうとした。

 

しかし、

 

「なんだァ!?」

 

デイダラの体に、水流が絡みついていた。

 

「これで詰みっス」

 

動けないデイダラに向かって

 

シンは刀を構えて突進する。

 

心臓目掛けて一直線。

 

迷いはない。

 

シンの刀がデイダラを貫いた。

 

「.......まずは1人」

 

そう呟くと、体が崩れ、周囲に水が飛び散った。

 

それを追うようにして、

 

周囲の木々の後ろで、幾つもの水が弾ける音がした。

 

 

 

刃が当たることなくすり抜ける。

 

それでもシンは止まらない。

 

そのまま踏み込む。

 

下からの切り上げ。

 

だが――

 

結果は変わらない。

 

刃がすり抜ける。

 

手応えがない。

 

「……なんスかこれ?」

 

小さく呟き、距離を取る。

 

高速で結ばれる印。

 

「水遁、水龍弾の術!」

 

水の龍がトビに向けて放たれる。

 

直撃。

 

勢いよく水が弾ける。

 

「いやぁ、怖いっすねぇ〜」

 

無傷。それどころか暁の衣すら濡れていない。

 

物理、水遁、ともに無効。

 

全く効いていない。

 

(.....困ったっス)

 

なんらかの術が発動していることは確実。

 

しかし、それがなんなのか全く検討がつかない。

 

トビを注視しつつも、悪魔の思考は高速で回転していた。

 

(時空間忍術ってやつっスかね?)

 

物理も忍術も無効。当たることなくすり抜ける。

 

幻術ではないことは確か。

 

(情報が足りないっス)

 

シンは手裏剣を放った。

 

「手裏剣影分身!」

 

無数の手裏剣がトビへと降り注ぐ。

 

「わぁ!?」

 

わざとらしく倒れ込んでいるが

 

その体には傷ひとつ無い。

 

(...."奇襲"は失敗っスね)

 

印を結ぶ。

 

現れるのは3体の水分身。

 

タイミングをずらしながらクナイを放つ。

 

それをトビは避けずにただ立ち尽くす。

 

そして、

 

クナイがすり抜ける。

 

すり抜けたクナイを掴む手。

 

シンは、トビの背後に回っていた。

 

「……アンタはここで仕留めるっス」

 

低い声。

 

クナイを振り下ろす。

 

「うわぁ危ないですねぇ!」

 

今度は避けられた。 

 

軽い雰囲気に見合わない、

 

かなりの反応速度である。

 

だが、シンは止まることなくその勢いのまま回転し、切りつける。

 

トビは大きく跳び退いた。

 

(変な術だけじゃなく、体術もなかなかっス)

 

トビが辺りをキョロキョロと見回した。

 

「もしかして、僕..囲まれてます?」

 

トビが呟く。

 

シンのサポートを受け持った忍び達。

 

彼らが気配を殺しながら

 

シンとトビの戦闘を見ている。

 

シンから指示があれば、

 

いつでも参戦できるように。

 

奇襲は失敗に終わった。

 

それでも、トビに逃げ場はない。

 

この場は逃れることのできない処刑場。

 

(そのはずなんスけどね)

 

シンは軽々しい態度を崩さないトビに、気味の悪さを感じていた。

 

シンの手が、懐に伸びる。

 

(使うべきっスかね?)

 

それはシンの切り札であり、

 

諸刃の剣。

 

忍小刀<黒雨>

 

リスクは大きいが、

 

それでもかなり強力なのは確かである。

 

(いや、やめとくべきっスね)

 

"見られている"

 

シンはそう感じていた。

 

こちらを見るトビの目に殺意は感じられず、

 

代わりになにかを探るような色が見える。

 

故に、シンは手札を晒すことを警戒した。

 

そして、シンは問いかける。

 

「もしかしてアンタ、いつでも逃げれたりするっスか?」

 

それは疑問というよりも、ほぼ確信しているような声音だった。

 

その問いにトビは軽い声で答える。

 

「あらら、バレちゃいました?ぴんぽ〜ん!」

 

そう言ったトビの姿が歪み始める。

 

そして、、、消えた。

 

「まじっスか....」

 

驚きはある。

 

飲み込みきれないほどの。

 

それでも、

 

トビが消えた空間を睨みながら、

 

シンは周囲の忍びに指示を出した。

 

「.....僕は念のため周囲を捜索してから行くんで、皆さんは先に撤退しててくださいっス」

 

背の高い木へ飛び乗る。

 

「しくじったっス」

 

白い仮面の裏側で、

 

シンはその目を細めた。

 

彼は気づいているのだろうか?

 

"しくじった"という言葉とは裏腹に、

 

その顔には薄らと笑みが浮かんでいることに。

 

そんな悪魔の想いに呼応するように、

 

懐の中で、黒雨が煌めいた。

 

 

 

 

水影室。

静かな室内。

机の向こうで、照美メイが静かに目を上げる。

「……」

忍は姿勢を正す。

「奇襲は完全に成功しました」

「デイダラは開始直後から防戦一方」

「そのままシンが仕留めました」

 

そこまでは、予定通りだった。

「問題は、その後です」

一拍。

 

「仮面の男に対し、シンは即座に攻撃しました」

「ですが――」

言葉を選ぶ。

 

「攻撃が、当たりませんでした」

メイの目が細くなる。

 

「避けられたの?」

「いいえ」

即答。

「……すり抜けました」

静かな沈黙。

「刃が」

「水遁も同様です」

報告している忍自身、

まだ信じ切れていない声音だった。

「実体は?」

「存在はしていたはずです」

メイは黙る。

続きを促す。

「シンは戦い方を変え、忍術も数度試しました」

「ですが、結果は同じ」

「当たらない」

「……最終的に、時空間忍術と思われる忍術によって離脱されました」

「シンは?」

メイが問う。

「現在、逃げたトビを捜索中です」

短く答える。

「……何か言っていた?」

忍は一瞬だけ迷い、

それでも正直に答えた。

「……『気味が悪い』と」

短い沈黙。

メイは、小さく息を吐く。

視線が鋭くなる。

「すべて記録に残しなさい」

「はっ」

「それと――」

一拍。

「この情報は、他里にも共有するわ」

「暁に、“当たらない”忍がいる」

「知らずにぶつかれば、大きな被害が出る」

「シンに戻り次第水影室に来るように言っておいてちょうだい」

「承知しました」

報告は終わる。

忍は頭を下げて、水影室から退出した。

扉が閉まった後、

照美メイはため息をつく。

窓の外。

濃霧の向こうを見つめながら、

水影は静かに目を細めた。

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