「かずピー。ダブルデート行かへんか?」
あのな、及川。俺はお前を映画に誘った積もりなんだがな。
「男2人で映画なんて、何オモロいんや?お互いカノ持ちやんか」
それはそうなんだがな…女の子連れで見に行く様な映画じゃない場合も在るだろう。
「あ~あ、この『三国志』オタが~。ええやろ、この映画で妥協してやるわ。
ただし、お前が責任持ちいや」
おい、何の責任だ。
「俺の彼女までキッチリ楽しませる責任や」
何で俺が。いや、そもそも俺は”この”映画を見に行こうと言ったんじゃ無い。人の話を聞け。
「ええわ。ええわ。やっと出来た彼女に、自分の趣味を理解して欲しいんやろ」
だから、俺は『レッド・クリフ』なんかに及川を誘っているんじゃ無い。
大体、俺自身も気持ちの整理が付いていないんだ。こんな映画は生々し過ぎる。
「何が生々しいって。まあ、ハリウッドらしい超大作やしなあ」
だから、勝手に納得するな!とか言っても話が通じなかった………。
……。
…そして、当日。
案の定だ。
上映が始まって幾らも経たないうちに、俺の隣では涙ぐみ始めている。
コイツは刺激が強過ぎる。
今は、劉備軍の退却戦の場面だ。
「スクリーン」の中では「趙雲子竜」が大立ち回りだ。
背に赤子を負って曹操軍の敵中を突破して行く。
遂に、再会した主君“劉備”に、守って来た幼君“阿斗”を差し出す場面まで来ると、俺に抱きついて大号泣だ。
BGMにすら匹敵する程の大号泣を、劇場内に響かせてしまった………。
……。
…その後。
「ぐす…ごめんなさい…ふえん」
まだ泣き止まない「俺の彼女」を、何とか映画館から連れ出し「聖フランチェスカ学園」直営のカフェレストラン「黎明館」まで連れ戻していた。
「いや、桃香にあんな映画を見せた俺たちがいけないんだ。済まない」
*
「止(よ)せ。止(や)めろ。
何が起こるのか分からんぞ。
俺たちにも「正史」にも分からん。何をしようとしているか、貴様には分かっているのか」
「俺は信じる。この「世界」は、この世界で生きている桃香たちのものなんだ。それを取り戻す」
今ひと度、桃香と頷き合う。
「1、2のチェスト――!!!」
北郷一刀と桃香が殆ど同時に振り下ろした、雌雄1対の名剣に打たれ4つに割れた銅鏡が跳ね飛んだ。
白い光が爆発して、全てを包み込んでいった………。
……。
…白光が消えた時、そこは『聖フランチェスカ学園』だった。
*
何の、かんのと言っても”この”世界は平和で豊かで便利だ。
「三国」時代の戦乱の世の中から見れば、それこそ「天の国」に他ならない。
帰って来て実感出来た。“それ”がどんなに貴重かを。
そんな幸福な世界で、1番大切な桃香と生きている。
俺自身のエゴから言えば、これ以上無い幸福の筈なのに……
……俺は、どうしたいんだ。
「貴方はどうしたいの?一刀ちゃん」
*
「ご主人様…ご主人様?お目を覚まして下さい」
その声に目を開き、突っ伏していた顔を上げた。どうやら、うたた寝していたみたいだ。
目の前に居る桃香は『フランチェスカ』の制服姿では無い。
いや「天の国」のどの服装でも無い。
そして、胸には阿斗を抱いていた。
桃香と阿斗だけでは無い。愛紗や鈴々、朱里、雛里たちも、華琳や雪蓮たちも居る。
(…そうだ。俺はあの時…)
*
白光がすべてを包み込んだ時、北郷一刀の脳内に「謎の美女」の呼び掛けが響いていた。
(…貴方はどうしたいの?一刀ちゃん…)
(…どうしたいだって?俺は桃香たちを守りたいんだ…)
(…それで好いのね…)
まるで走馬灯の様に、桃香と暮らす『聖フランチェスカ学園』での一刀の生活が、脳内を駆け巡った。
(…一刀ちゃん本人の幸せor不幸せなら、こっちの方が幸せかもよ。
それに少なくとも1番大切な桃香ちゃんだけは幸せに出来るわよ…)
(…桃香が本当に幸せだと思うか?
劉備としての使命を放棄させて。
妹たちや仲間たちや多くの人々を、阿斗まで見捨てさせて…)
(…貴方は、そう思うのね…)
(…俺は”この”世界で劉備として懸命に生きている桃香を幸せにしたいんだ…)
(…それで好いのね…)
そして、白光は消えて……
*
何も起こっていないかの様だった。白光が1瞬、爆発した後は1見して。
北郷一刀と桃香は、雌雄1対の名剣を構えたまま「間抜け面」とすら言いたい顔を見合わせていた。
「貴様。後悔していないな」
「何を後悔するんだ。
”この”世界を、桃香たちの世界を守れたんだろう。何も起こっていないみたいに見えるって事は」
「ですが、貴方からすれば『聖フランチェスカ学園』の在った”あの”世界を消したのも同然ですよ」
「干吉」が冷笑を取り戻したかの様に指摘した。
「まさか、本当にフランチェスカが無くなったのか」
微かに動揺する一刀だったが。
「向こう側の「世界」は”あの”世界で存在しているでしょうね」
ニコニコし続ける貂蝉。
「もしかしたら”この”世界の「後世」にも『聖フランチェスカ学園』が設立されるかもね」
……少しだけ迷って、だがしかし北郷一刀は言い切った。
「それなら好いさ」
「あら、向こう側では一刀ちゃんは失踪したまま戻って来れないのよ」
「俺には戻れる処が在る。桃香たちと共に戻れる。それで好い」
一刀は、何かを振り切る様に言い切った。
*
うたた寝から「現実」に戻って来た処へ語りかけて来た。
「疲れてるのかな?流石に準備が大変だったか」
”この”外史の男友達が恋人と寄り添い合っていた。
「いや、これからはタメ口もきけないですな。皇帝陛下」
「そんな。これからも宜しく頼むよ、絆(きずな)」
そう、ここは帝都「北宮」
いよいよ数日以内には「天の御遣い」が皇帝に即位する。
(…これからも宜しくな。桃香…)
蜀王にして「新」皇帝の「第1妃」でもある劉備玄徳。
そして、北郷一刀にとっては、何時までも最愛の恋人である桃香。
その桃香が劉備として生きる”この”世界で、一刀は共に生きて行く。
妄想していた短編小ネタは、取り敢えず此処までと成ります。
これまで読み続けて頂いた皆様には、改めて厚く御礼を申し上げます。