ショッピングモールの喧騒の中。
再び合流した一夏と山田真耶は、どこか不思議そうな顔をしていた。
「いやー、ごめんね織斑くん! 急に付き合わせちゃって」
「いえ……まあ……」
頭をかきながら答える一夏。
だが、その視線は自然と一花へ向く。
何事もなかったかのように、いつもの微笑みを浮かべている。
先ほどまで千冬と何を話していたのか――
それを感じさせるものは、一切なかった。
「買い物は終わったのか?」
千冬が短く問う。
「ええ、問題なく」
一花は自然に頷く。
その仕草一つにも、違和感はない。
「じゃあ、帰ろっか!」
山田の一言で、その場の空気は完全に日常へと戻った。
――――
帰り道。
夕焼けが街を染めていた。
並んで歩く三人の影が、長く伸びる。
一夏は途中で何度か一花の方を見たが、結局何も聞かなかった。
聞けなかった、という方が正しいのかもしれない。
一花は、いつも通りだったからだ。
あまりにも、変わらなすぎた。
そして――
一夏は、知らない。
隣を歩く少女が、
どれほどのものを背負い、
どれほどのものを握っているのかを。
――――
流星一花。
その名は、表の世界ではほとんど知られていない。
だが裏では――
『スターレイル社』CEO。
IS三大企業の一角にして、
ISスーツ開発の元締め。
現存するISスーツ開発企業は、すべてその傘下にある。
つまり。
この世界のISというシステム、その“根幹”を握る存在。
その頂点に立つ少女。
それが――流星一花だった。
超が付くほどの名家。
いや、それを通り越して、“世界を動かす側”の人間。
そんな彼女が、かつて通っていたのは――
織斑一夏と同じ、中学校。
ごく普通の学生が通う、何の変哲もない学校だった。
世界の頂点に立つ存在が、
なぜそんな場所に身を置いていたのか。
なぜ、一夏のすぐ傍にいたのか。
その理由は――
織斑千冬ですら、知らない。
そして。
当の一夏本人もまた、
何一つ知らされてはいない。
――――
夜。
自室。
シャワーの音だけが、静かに響いていた。
温かい水が、一花の身体を伝い落ちる。
長い髪が濡れ、肌に張り付く。
だが、その表情は――どこか思索に沈んでいた。
(……織斑千冬)
昼間の会話が、脳裏に蘇る。
あの問い。
――どこまで知っている。
一花は、目を閉じる。
(クラス代表戦)
あの時現れた、所属不明のIS。
その“出処”。
「……ウサギ」
小さく呟く。
水音に紛れて消える声。
(タッグマッチトーナメント)
ラウラ・ボーデヴィッヒの異変。
あれは、偶然ではない。
技術でもない。
「VTシステム……」
その名を、静かに口にする。
禁忌に近い領域。
人とISの境界を曖昧にするもの。
シャワーの水が止まる。
静寂。
タオルを手に取り、濡れた髪を拭きながら、一花は鏡を見る。
そこに映る自分の姿。
そして――
(臨海学校)
これから訪れる予定の行事。
だが、それはただのイベントではない。
知っている。
その先に、何が起こるのかを。
「……来るわね」
ぽつりと呟く。
静かに。
確信を持って。
「――また」
その言葉には、恐れはなかった。
むしろ。
どこか楽しんでいるような響きすらあった。
タオルを肩にかける。
そして、ゆっくりと微笑む。
「大丈夫」
誰に言うでもなく。
ただ、自分に言い聞かせるように。
「今度は、全部守るから」
その言葉の“全部”に含まれるものは――
一つしかない。
織斑一夏。
彼を中心に回る、この世界すべて。
静かな夜の中で。
少女は、確かに“次”を見据えていた。