途中ネタ切れも会った中最後までお付き合いくださり誠に有難うございました。
「あ~あ畜生……、なんで竜王国くんだりまで来なきゃならねんだよクソがよ……」
クズ二人はバハルス帝国が南東、竜王国へと流れ着いていた。
現在はその道中、森の中を行脚している。
なぜに竜王国にまで逃げなければならないのか。
それにはちゃんとした理由があった。
帝国では既にクレマンティーヌの名前は指名手配済み。
王国はもう帝国に併呑され、当然クレマンティーヌの指名手配も行き届いている。
スレイン法国に向かうのは、クレマンティーヌ的にも少年的にもNG。
片方は今更古巣に帰る気は無いし、片方は異形種であることがバレたら迫害一直線。
それに法国ではどちらの趣味も楽しめるビジョンが思い浮かばない。
カルサナス都市国家連合に向かうことも考えたが、バハルス帝国に近く、指名手配が行き届く可能性が高いのでナシになった。
ローブル聖王国はアウトローの入国そのものが難しそうだったので除外。
なので人類圏で残された国は竜王国しかない、と。
そういう事なのであった。
それにしても、と少年はそう思った。
竜王国、なんて聞かされたら、いかにもスゴそうというか、立派な竜が収めている立派な国家を想像するものだが、クレマンティーヌはやけに嫌がっている。
何故にそんなに嫌がるのか、少年は不思議であった。
なので、理由を尋ねてみた。
「ん? あ~、知らなかったっけ。そっか、まぁ、それならそうか」
クレマンティーヌはうんざりしながら答えた。
「竜王国はさー、ビーストマンっつー、……なんてんだ、半獣? みたいな奴らに常に襲われてんのよ。戦力が足りないから、法国に寄進してまで兵力を援助してもらってる有様でさー。まぁ有り体に言えば詰んでる国なのね。そんなお先真っ暗な国に隠れ潜まなきゃならないなんて……、あたしらが何をしたってんのよ」
なるほど、聞けば納得できる理由であった。
それは嫌がるわけである。
常に戦争をしている、それも襲われている側の国など、おちおち食事を楽しむ余裕もなさそうだ。
戦争に紛れてクレマンティーヌの趣味は捗りそうだが、少年の趣味は逆に阻害されそうである。
それに、一度抱いた女性が次の日にはビーストマンの餌食になるなど、寝覚めが悪いというレベルではない。
少年は殺しなどは趣味ではないのだ。
あくまでクレマンティーヌの殺しを許容しているだけであり、率先して殺りたい訳ではなかった。
というか、クレマンティーヌも自分で殺りたい派であり、誰かが殺るのを見るのは趣味ではない。
そういう意味では、どちらの趣味でもない国に行かされる事になってしまったわけである。
これは困った。
何が困ったって、ここ以外に行く宛がないことが困った。
本当に何度も何度も繰り返すようだが、クズ二人の趣味は他人がいなければ成立しない。
ゆえに国家に巣食わなければならないのだが、その国家が此処だけ。
少年は思わずため息を付いた。
クレマンティーヌもため息を付いた。
「はァ……」
「はァ……」
ため息が重なった。
片方は少年のものではない。
おや? と思い、ため息のした方を見ると、やや生え際が際どい男性が手勢を引き連れて歩いていた。
「ん?」
「ん?」
今度は疑問の声も重なった。
クレマンティーヌと男性がふと顔を見合わせる。
「………………。…………! ハッ、き、貴様は!!」
「あ? 法国の意匠の服じゃん。六色聖典のどれか?」
方や大仰に後退り、方やどうでもいいのか間の抜けた声を上げている。
知り合いなのだろうか。
それにしてはクレマンティーヌは呑気しているが。
「貴様! 漆黒聖典の出奔者にして窃盗犯の疾風走破ではないか! 叡者の額冠を返せ! さもなくば陽光聖典の名において誅伐を下す!」
いわれてみればそうである。
そういえばクレマンティーヌは窃盗の現行犯真っ只中であったのだった。
誰も指摘していないからクズ二人はすっかり忘れていた事実である。
「そういえばそんなんあったな……」
クレマンティーヌが気だるそうにアイテムボックスから叡者の額冠を取り出しては半眼で眺めている。
心底どうでもいいのだろう、持つというよりは摘んでいる。
少年の方をちらりと眺めてアイサインを送ってきた。
察するに“これどうする?”と言う意図であろう。
少年はそのアイテムを使う手筈だった者のことはヤバいと思っているが、そのアイテムそのものはどうでもいいと思っているので、あごでしゃくってくれてやるよう指示した。
「はいよ~。ほい」
「おわっ! き、貴重な品を投げて寄越すな!! ……というか、随分素直だな……。それなら何故に窃盗を……」
「いろいろあったんよ」
「は、はぁ……」
よくわからないままよくわからないものを渡された男性は、大事そうに叡者の額冠をしまい込むと、咳払いを一つして話し始めた。
「えー、あー、それで貴様……、いや、返すものは返したから……貴殿……? でいいのか……? は、こんなところで何をしている」
「さんぽ」
「嘘をつけ、嘘を!!」
「嘘じゃねーし」
実際クズ二人は森の中を宛もなくふらふら歩いていただけなので、散歩と言えば散歩だったりする。
確かに嘘ではない。
国外逃亡の最中という、事実でもないが。
「逆に聞くけどあんた、陽光聖典っつったっけ……。確か……。…………サングン?」
「ニグンだ! ニグン・グリッド・ルーイン!! 間違えるならせめてイチグンの方にしろ!!」
それでも二軍止まりなんだな、と少年はそう思った。
どうでもいいことだった。
それより、一軍だか二軍だか三軍だか知らないが、こんなところで何をしているのだろうか。
少年は気になったので、そう尋ねた。
「誰だ、この者は」
「あたしのご主人サマで~す☆」
「は、はァ……?」
困惑されるのもいつものことである。
慣れきっているクズ二人は、さっさと話すようニグンを促した。
「な、なんなのだ一体……。まぁいいか……。我々は竜王国が女王、ドラウディロン・オーリウクルスより嘆願を受け、ビーストマン撃退のために進軍している最中である」
「あー、お仕事か。ご苦労さーん」
「軽い! 労いの言葉が軽い! もう少しこう……、命がけで人類を守る我々に掛ける言葉はないのか、元漆黒聖典として!!」
最初のため息はそういうことだったのかと、少年はそう納得していた。
髪がやや退行しているところを見るに、ニグンはかなりの苦労人なのだろうことが伺える。
初対面でそんなことをするとあまりにも不躾なので、内心だけで肩に手をやっておいてあげた。
「……なんだ少年、その慈愛の目は」
「気にしないで。たまに意味わかんないことする人だから」
「そ、そうか」
ニグンはやや混乱しているようだった。
無理もない。
窃盗犯を見つけたと思ったら即座に返されるし、ちょっと仕事の愚痴を零したら初対面の少年から慈愛の目で見られるし。
混乱するなという方が無理であろう。
それでも流石は国のエリートなのか、“ええい”とぼやき無理矢理正気に戻り、話の流れを戻してきた。
「それで、物は相談なのだが、仮にも元漆黒聖典ならば我らの業務に助力してもらいたい」
「…………えぇ~~?」
「嫌とは言うまいな。上層部に通報するぞ」
「げぇ~…………」
思いっきり肩を落として全身で嫌気をアピールするクレマンティーヌ。
対して少年は別にいいんじゃないの、と思っていた。
ここいらで少しは良い所を見せないと、どこの国に行くにもやりにくいったらありゃしないものである。
法国からも良い目で見てもらえるかも知れない。
竜王国にも恩を売れるチャンスではないか。
考えれば考えるだけ、渡りに船と言えた。
というわけで、クレマンティーヌの背中を叩いてここはやるべきだ、と少年は説得した。
「うぇ~~……、やれっていうならやるけどさぁ~……」
「主導権はそちらが握っているのか……」
やや引かれた目でニグンに見られてしまった。
これも慣れっこなのでクズ二人は気にしないが。
何はともあれ、そうと決まれば話は早い。
ニグンのビーストマン討伐軍とやらに加わると、一行はビーストマンの軍隊がやって来ているという方面を目指して進軍していった。
◆
「あれだ」
「うわ、うじゃうじゃいるし」
「むう……、確かに、思ったよりも数が多い」
しばらく歩き、開けた場所に出ると、ニグンが指さした方角を見やる。
そこにはビーストマンの群れがいくつも大群をなして侵攻してきていた。
未だ竜王国に接敵はしていないが、あれだけの数が襲いかかったら被害は甚大だろうということが一目でわかる。
そうなる前に少しでも数を減らすのが、今回ニグン達、およびクズ二人に与えられた使命なのだということも。
それにしても。
「……んどくせぇ~……」
少年も同じ思いであった。
まさかあれだけの数がいるとは思わなかったのである。
一匹一匹ちまちま倒していたら、どれだけの時間がかかることやら。
往年の【YGGDRASILL】のレベリングでもあるまいし、そんなこと長時間やってられるだけの忍耐力というものは既に無かった。
流石にあれだけの数が纏まった狩場は【YGGDRASILL】にはなかったが。
というか、あったら恐らく処理落ちでものすごく重くなるか、鯖が落ちると思うが。
「各員戦闘準備、私は
え? そんなザコを?
少年は思わずそう思った。
名前を聞くのも、ものすごい久しぶりであった。
そんなザコでカタがつくような相手なら、もっと手っ取り早い方法があるのではないか。
少年は在庫のアイテムを適当にまさぐってみた。
末期はガチ勢相手に需要のあるアイテムばかりを仕入れていたため、こういう時なにか役に立つアイテムがあるはずである。
そうして探したら、出てくるわ出てくるわ。
第十位階の魔法を封じ込めた“魔封じの水晶”が。
適当に掴んでは放り出す少年。
「なっ、それは……! 法国の秘宝……!? 何故貴様のような者がそれを……!」
思わず、といった風にニグンが懐を確かめている。
「ある……。で、では何故……それは……?」
ニグンは こんらん している!
混乱を尻目に、魔封じの水晶を手にした少年はスタコラ走ってビーストマンの大群に近づいていく。
「あ、おいッ! 何をしている! 死ぬ気か貴様ッ!?」
「まーまー、ここで見てなって。ラク出来そうでよかった~」
「何を言って……!?」
やがてビーストマンの大群が、無防備にも走って近寄ってくる少年を見つけた時、少年はおもむろに魔封じの水晶の効果を発動した。
封じられている魔法が解放される。
何が封じられているか、アイテム欄のステータスバーが表示されないため、少年もうろ覚えだったが、とにかくなんとかなるだろうと思って発動したら。
どこからともなく隕石が召喚され、ビーストマンの大群の真ン中に落っこちた。
とてつもない形容しがたい衝撃と共に、ビーストマンの大群が吹き飛んだ。
「は?」
呆然とするニグンを尻目にビーストマンは宙を舞っている。
隕石に直接潰されたもの、衝撃波で吹き飛んだものなどを数えると、大群の半分は死亡しているようであった。
それでも十分な損害を与えたのだが、そこはそれ、【YGGDRASILL】プレイヤーの少年である。
敵は文字通り一人残らずブチ殺して初めて全滅と言えるのだ。
それが【YGGDRASILL】のおきて。
容赦なく二個目の魔封じの水晶の効果を発動する。
今度は
逃げ惑うビーストマン達を溶岩の濁流が飲み込み、周囲の木々をもなぎ倒し、文字通り残滅して行った。
「……………………は?」
恐らくだが、陽光聖典が想像していた撃退とは、こういったここまでの残滅ではなかったと思う。
もっとひどい何かであった。
やがて魔法による溶岩が収まり消滅すると、そこにはビーストマンの姿は一つも残っていなかった。
少し訂正すると、それっぽい形を残したナニカは若干数残っていたが、命と呼べるものはなにもなかった。
少年は満足そうに頷くと、ビーストマンが進軍してきた方角へ向けてまたもスタコラ走っていった。
これ以上何をしでかそうというのか。
少年はビーストマンを文字通り全滅させただけでは飽き足らず、その総本山にめがけてなにか一発食らわせてやろうと考えていたのだ。
実際にダメージを与えなくても良い、示威行動になるなにかを一発。
【YGGDRASILL】では、ナメられたら負けである。
なので、ナメられないようにカマさなければならない。
ノリと勢いで生きるのも【YGGDRASILL】プレイヤーのサガである。
ビーストマンがやってきた方角、なんとなく遠目に国っぽいものが見える方向に向けて、魔封じの水晶の効果を発動した。
二回目の
ダブった。
ガチャ気分でもういっちょう、おかわりの隕石が無人の野に落下した。
心無しかさっきよりも大きい気がした。
気のせいだろうか。
「 は ? 」
音が消えたんじゃないかと思えるほどの超爆音と衝撃波。
立派な二個目のクレーターのできあがり。
ビーストマンの国にも、竜王国にも確かに届いたはずのそれは、命を奪うことはしなかったが、示威行動としてはこれ以上ない効果を発揮したことであろう。
少年は“あいかわらずうるさいなコレ”くらいにしか思っていなかったが、満足したのか、スタコラとニグン達のいるもとへ戻っていった。
「なんかすごいの連発してたじゃん。おつ~」
クレマンティーヌと気軽にハイタッチする少年。
真横で呆然としているニグンや、気絶している隊員を余所目に気楽でいられるのは、レベル100になった影響であろう。
実際ガチ装備に着替えたクレマンティーヌがあれらの魔法を全て真正面から受けても、HPは10%も削れないだろうから気楽なのは間違いなかった。
“なんかすごいの”止まりなのも納得である。
ちなみに擬態姿のままの少年が一連の魔法を食らったら乱数次第では20%くらい削れる可能性がある。
ガチじゃないので仕方がない。
「な……、な、な……」
そんなことは知る由もないニグンはひたすら狼狽するばかりである。
「……♪」
それをみたクレマンティーヌは、イタズラを思いついたように口角を上げた。
少年になにやら耳打ちをすると、少年も同じように口角を上げる。
そしていつもの首切りGOサインを出した。
クレマンティーヌがゆっくりとニグンに近寄る。
「今の見てたらわかったと思うけどさァ……。ウチのご主人サマ、神サマなんだよねぇ~」
「か…………、神ィ…………?」
「陽光聖典なら知ってると思うけどォ、プレイヤーってやつ?」
「ぷ、ぷれ…………、か……神……」
クズ二人は非常ににんまりとしている。
してやったり、という顔だ。
「だからほら、ねぇ、あんまり逆らわないほうがいいっていうかぁ」
「な、そ…………」
「出来るだけ内緒にしてくれたほうが得っていうかぁ?」
「な…………しょ……」
そこで待ってましたとばかりに少年がずずいと前に出る。
蹲るニグンの懐に、ガチ装備のアクセを放って渡した。
有り余る在庫の中で売れ残った商品である。
「法国にも竜王国にも報告しないでいてくれると、
「か……………………」
ニグンはガチ装備のアクセを手にガタガタと震えている。
どういう効果だったかは、少年も覚えていないが。
多分“この世界”基準で見ると、国宝を遥かに超えているんじゃないかとは思った。
「我が神ィ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
実際、ニグンは狂喜乱舞していた。
その後なにやら長ったらしい言葉をつらつらと少年に投げかけていたが、少年は聞き流していたので良く覚えていない。
一つ分かることは、帝国を逃亡してきた先は、案外居心地がいい場所になりそうだということだけだった。
◆
「はっ、はっ、はっ…………!」
一人のビーストマンが必死に逃げている。
本来は“捕食する側”であるビーストマンが何故、と内心は疑問で一杯であった。
物音が聞こえた気がして、慌てて後ろを振り返る。
誰も追ってきている物陰はなかった。
それに安堵してビーストマンが立ち止まる。
「つ~かまえたァ♪」
「ひィッ!?」
と、途端に押し倒され、背中を強かに打ち据えられる。
“こいつ”だ。
何故か、捕食するはずの自分が餌にされている。
「いやぁ~、最初はケモノなんてって思ったけど、殺ってみると、ねぇ? 意外とねぇ、いいもんよねぇ~♪」
「な、なにを……?」
馬乗りになっている
ビーストマンにはそれがわからなかったが、恐怖心だけは膨れ上がっていた。
なので、命乞いをした。
「た、たす、助けっ」
「ん~? 助けてほしいィ?」
「ほし、ほしいッ、助けてほし」
「だ・め♪」
「あがッ」
そのまま脳天を一突きされ、ビーストマンは絶命した。
殺害した張本人は、次の獲物を探しに行ったのか、既にその場にはいなかった。
◆
竜王国にあるとある一軒家。
最近ビーストマンによる襲撃が無くなっているとは言え、恐怖で眠れぬ夜を過ごしている一家がいた。
もし未だ幼い我が子が襲われたら。
そう思うとろくに睡眠も出来ない、見目麗しい母親がベッドに横になっている。
すると、窓を叩く音が聞こえた。
最初は風の音かと思ったが、周期的に聞こえてくる。
ビーストマンはこのような人情のある真似はしない。
誰か人間の仕業だろう。
そう思った女性は、窓を開けた。
すると、そこには小柄で愛らしい風貌の少年がいた。
「誰……?」
思わずそう尋ねる。
“ヘイそこの彼女、怖がってないでいいことしない?”
生まれたばかりのへその緒がつながっている赤子が考えたかのような、クソみたいなセリフが返ってきた。
「?」
ある意味では恐怖が薄れたのかも知れない。
女性はとても訝しげな表情で半ば少年を睨みつけていた。
その反応を見て、少年はどうしていつもこうなるんだと悔しげにしている。
意味がわからないので帰ってもらおうかと女性が考えていると、少年がじっと女性を見つめた。
その瞬間、何故だか女性は少年のことがとても愛おしく思えてきた。
そして、あれよあれよという間に、窓から寝室に少年を迎えて居れてしまい────。
後は、家族に内緒のお楽しみが始まってしまったようだ。
◆
「かんぱぁーーい!!」
クズ二人は竜王国のメシ屋で酒盛りをしていた。
「いやぁ~、逃げてきた先だけど、こんなに上手いことハマるなんてねぇ~え」
全くである、人間万事塞翁が馬とはこの事だと、少年はそう思った。
少年がビーストマンの大群を消し炭にして、あれから。
ニグンは竜王国の女王であるドラウディロン・オーリウクルスにこう説明したらしい。
“あれは法国の秘宝による奇跡である”と。
“これからも法国を頼りにしてくれれば何も問題はない”と。
そして法国に帰った際にはこうも説明したらしい。
“攻め寄せていたビーストマンの大群は……なんか……死んだ”と。
“なんか……よく、わかんないけど、あんま侵攻しなくなったっぽい”と。
雑極まりなかったが、実際にコトが起きていたので、上層部はそれで納得せざるを得なかったらしい。
そう、尻尾を振っている姿が幻視されるニグンが喜色満面で報告に上がってきたのを、少年は良く覚えている。
女性ならともかく、男性にそんな真似をされても気色悪いだけだと、少年はそう思っていた。
ニグンはビーストマンの動向の監視という名目でちょくちょく少年に会いに来ては忠誠を誓ってくるので、鬱陶しい限りである。
しかし「キモい」の一言で忠誠を誓う人間を殺せるほど人間性を失っていない少年からすれば、困ったものだ。
かといって、今の過ごしやすい状況を作ってくれたのは半分はニグンのようなものなので、無碍にも出来ないのが少年の目下の悩みである。
ともあれ、そうでない時はこうして酒盛りに興じられるのは喜ばしいことであった。
「っぷはぁーッ! やっぱり殺った後の酒は美味えーッ!」
クレマンティーヌもクレマンティーヌで、ビーストマンがしっかり恐怖心など人間“らしい”側面を持っていた所が気に入ったのか、大いにイジメ倒して満足しているようだった。
国の敵をイジメ殺して国のためになるとは、クズらしからぬ結果になったが、それもまた一興である。
大いに趣味を楽しみ、大いに料理を楽しみ、大いに酒を楽しむ。
その後にすることは決まっている。
「ん? もう宿行く? おっけー♥」
後は、もうただひたすら。
クレマンティーヌを愛でるだけ。
「チクショオオオオ! くらえシャルティア! 新必殺武技超疾風走破!」
「さあ来いクレマンティーヌ! わらわは実は女神アクアのターンアンデッド一回で死ぬぞオオ!
グアアア! この“トゥルーヴァンパイア”と呼ばれる階層守護者のシャルティア・ブラッドフォールンが……こんな小娘に……、バ、バカなアアアアアア、グアアアア」
「シャルティアさんが」
「やられたようだね」
「フフフ……彼女は階層守護者の中でも最弱……」
「ニンゲンゴトキニマケルトハナザリックノツラヨゴシヨ」
「くらええええ!」
『グアアアアアアア』
「やった…ついに階層守護者を倒したぞ……、これでアインズ・ウール・ゴウンのいるナザリック地下大墳墓玉座の間の扉が開かれる!!」
「良く来たなクレマンティーヌ……」
「!!」
「待っていたぞ……」
「(こ……ここがナザリック地下大墳墓玉座の間だったのか……、感じる……アインズ・ウール・ゴウンの魔力を……!)」
「クレマンティーヌよ……戦う前に言っておくことがある。お前は私を倒すのに“ワールドアイテム”が必要だと思っているようだが……、別に無くても倒せる」
「な、何だって!?」
「そして激辛ちくわぶさんはやせてきたので最寄りの街へ解放しておいた。あとは私を倒すだけだなクックック……」
「フ……上等だ……あたしも一つ言っておくことがある。あたし以外に第二ヒロインがいるような気がしていたが、別にそんなことはなかったぜ!」
「そうか」
「ウオオオいくぞオオオ!」
「さあ来いクレマンティーヌ!」
「あたし達のクズ道はこれからだ!!」
よっしゃあああッ
THE ENDォオ!!