モジュロから約千年後

いつかどこかの、遥か先のプロローグ。

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──眼は四つ、口は二つ


呪々廻々

 

 

 

 

 

 

 ──私の眼は四つある

 二つの眼の下に小さく一つずつ

 

 

 普通の人は二つか額に三つ目、弟は二つだった。

 

 言ってしまえば奇形…なのだろう

 皆は私を見てぎょっとするし、なぜだか勝手にこっちを同情したりもするけど、別にそんなものは気にしていなかった。

 

 幼い頃に母に言われた「あなたの眼は特別」その言葉を信じていたからだ。

 

 あの時までは───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──────ん

 

 ────ちゃん

 

 ───姉ちゃん

 

 

「姉ちゃん!」

 

 弟の声が彼女の頭で響く。

 ──少しボーっとしてしまった。真夜中とはいえ未だ夏真っ盛りのこの気温だ、もしかして熱中症だろうか?パーカーよりもっと涼しい格好で来るべきだったか…

 そう彼女は後悔する

 

「なによ…もしかしてトイレ?」

 

「違うから!」

 

 このさっきから叫びっぱなしの少年は

 如月(きさらぎ)冰央(ひお)

 彼女より一つ歳下の弟である。

 

「じゃあなによ」

 

「さっきから言ってるでしょ!もう帰ろうよ!」

 

「あんたまさかビビってんの~?」

 

「ビビってないし!わざわざこんな真夜中に来る意味ないでしょって言ってんの!!」

 

 懐中電灯をブンブンと振り回しながら冰央が怒る。首も同時に大きく振ってサングラスがズレるのもお構い無しだ。

 

()()()()()()()()()()調()()()()って依頼でしょ!だったら昼間でもいいじゃん!!」

 

「馬鹿ね!私ら()()()()()()()は真夜中が主戦場でしょ!」

 

 彼女の名前は如月(きさらぎ)解奈(かいな)

 高校2年生、現在はオカルト研究部(非公認)で受けた依頼の調査で弟と学校の裏山に登っている真っ最中である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そもそも…今さらオカルトってなんなのさ、もう宇宙人も心霊も実在証明されてるじゃん…何がオカルト(隠秘学)だよ…」

 

 概ねその通りである

 そもそも、両面宿儺及び夏油傑(羂索)の引き起こした東京呪術テロにより呪術の秘匿は不可能との判断が下され、呪霊と呪術師の存在は公に発表される形となった。

 そして約千年前、宇宙人到来。地球人との共生が開始され、今ではそれが当たり前の形となった。

 

 オカルトとは未知に想像と空想を重ねるもの

 オカルトの二大巨頭とも言える宇宙人と霊的存在が明かされた以上、オカルトとはもはや時代遅れの産物となっている。

 具体的には

「オカルトの○○?あああれね…どうせ呪術の仕業でしょ…」

「宇宙人?UFO?何を今さら…」

 といった感じでオカルト業界そのものが消極的となってしまっている。

 

「はぁーっ…わかってないわね、いい?

真のオカルトとは自らの手で未知を見つけ出し明かすことに有りよ!」

 

「だからってさぁ…」

 

 だが、この如月解奈(オカルトバカ)は違った。

 自らオカルト研究部(部員数2人のため非公認)を立ち上げ、とにかくオカルトに関する情報を片っ端から読み漁り、オカルト研究部としての日々を送っていた。

 

「そもそもこの依頼の情報ホントなの?匿名だしまたからかい目的の嘘依頼じゃ…」

 

「どっちでもいいのよ未知が見つかれば!!」

 

「もう無敵じゃん……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「依頼によればこの辺りらしいけど───

 

「あっ!あれじゃない?」

 

 一際開けた場所に出る

 彼女が指差した先には謎の物体。

 一見すると白い箱のようだが、扉と屋根、高めの脚が付いており、見る人によっては何らかの生物が住んでいるのでは…と思う者もいるだろう。

 

「なんだこれ…家…?」

 

「…これは……おそらく()()()ね」

 

「なにそれ?」

 

「大昔に使われてた気温や湿度を測るための箱よ、これだと雨とか日射とかの影響を受けないから正確に測れるの。結局使わなくなって老朽化で撤去されて今は残ってないと思ってたんだけど…」

 

「…聞いといてなんだけどホント変なことばっか知ってるよね」

 

 自分が知らないモノを一目見ただけで理解してスラスラと解説しだす姉に冰央は若干引いていた。

 それを特段気にすることもなく解奈は百葉箱へと近寄っていく

 

「まぁ相当マイナーだから知らずに謎の物体だと思われても仕方ないでしょうね…っと」

 

「じゃあやっぱりハズレか……ってなに勝手に開けてんのさ!?」

 

「開けてないわよ元からちょっと開いてたのよ」

 

「だからって更に開けて良いわけではないよ!?」

 

 慣れた手付きで百葉箱の中を物色する解奈

 特段なんの変哲もない百葉箱に過ぎないが、四つの目を駆使し入念に観察を行っている彼女は違和感を覚える

 

(やっぱり…経年劣化で勝手に開いたんじゃなくて最近開けられた形跡がある、埃の状態からして元々何か…細長い小さな箱みたいなモノを置いていて、それを誰かが持っていったのかしら───)

 

「ね…姉ちゃん…!」

 

「…どうしたのよ」

 

「あ……あれ……っ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼の視線と指の先、そこには"白"があった。

 深夜12時、手にした灯り以外全てが頼り無い深い暗夜の山中でも目につく"白"

 その白は周囲の木々を遥かに追い越す程に今尚長く縦に伸び続けており、その先は風船のように丸く膨らんでいた。

 

 ──あれはなんだ

 

 だが、それを考察するまでもなく、答えの方が先にやって来る。

 グルリとそれが回転し、こちらに向く

 

 ──それは顔であった。

 

 首だけが異様に伸びた顔。

 その表情はにたにたと笑う子供のようだった。

 

「みつけた」

 

 こちらを発見()て、そう言っている

 言葉にしていなくとも本能で理解できた。

 

 

 

 

 

 

「走るわよ」

 

 そう告げると、解奈は冰央の手をとって来た道を引き返し始めた。

 

「ねぇっ…なっなに…なにアレッ!」

 

「いいから足を動かしてっ」

 

 半端に舗装された山道が今は逆に走りづらい

 登る途中で目印代わりに記憶していた木々の形は、降りのスピードも相まって高速で過ぎ去っていく。

 駆け、走り、逃げながらも解奈は考える

 

(呪霊…?いやアレは東京にしか現れないし視認できるのは限られた人のはず。カリヤン…でもない、今は超常管理局が収容・保護してるし、52体の姿形は全て記憶してるけどあんな異形じみたモノはいなかった…!)

 

 ふと後ろを振り返ると、こちらを見つめながら移動しているソレの姿、だが足は遅いようでこのままの速度なら逃げ切れるだろう──

 

 ───そう思った矢先。

 

 

 

「──っ姉ちゃん!」

 

 冰央が全身で解奈を横に突き飛ばした

 

 

 ──解奈が振り向くと、そこには倒れ踞る弟の姿。

 

「冰央っ!」

 

 すぐさま駆け寄ると、冰央の首元に突き刺さった針と、謎の紋様の存在に気付く

 

(これは──毒!?いや…紋様からして呪いに近い呪毒(じゅどく)…!アイツが撃って来た…あの距離から…!)

 

 針を抜き、振り返ると更ににたにたと笑うソレの顔が、まるでこの状況を楽しんでいるように、無邪気に蟻を踏みつける子供の笑顔のように思えた。

 

(とにかく開けた場所はマズイ…!)

 

 解奈は冰央を背負うと、舗装されておらず未だ木々の生い茂る方向へと進みだす。

 下山する速度は下がるが、遮蔽物の多い森ならば狙撃の心配もかなり減るだろう───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───弟を背負い、木々で身を隠し、着実に下山しながらも解奈は思い出す

 

 

『あんたさぁ…ホントは怖いの苦手でしょ?なんで無理にでも私に着いてくるのよ』

 

『………お母さんに頼まれたんだ

"お姉ちゃんは元気だけど、元気過ぎて心配だから冰央が守ってあげて"って…だから姉ちゃんに何かあった時は俺が守るんだっ』

 

『そんなに震えながら言われてもあんたの方が心配だわ…』

 

 

「……昼間に来るんだったわね…」

 

 その後悔の言葉は静かな森の中で消え去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うそ、でしょ…」

 

 あと少しで下山…といった所で解奈は足を止めた……否、止めさせられた

 それ以上先へ進めなかったのだ。

 

「見えない壁、結界……もしかして呪術の帳ってやつ…?」

 

 誰が、なぜ、どうやって…は考えている時間は無い。現状で一番大切なことは、()()()()()()()()()()()()という事実だけだった。

 

 出口は…ない

 

 夜明けまで逃げる体力も…ない

 

 救助が来るかも…わからない

 

 そもそもこのまま時間が経ってしまえば夜明けを待たずに冰央は死ぬかもしれない

 

 ………即ち、詰み。

 

 

「ハハハ…は…」

 

 諦めたような乾いた笑い。

 解奈は冰央を近くの木にもたれ掛からせると、その隣に座り込んだ。姿はまだ見えないが、ゆっくりと確実にソレが近づいてきているのが分かる。

 

 …走馬灯だろうか

 かつての光景が彼女の脳裏に浮かぶ──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──幼い頃に亡くなった父が遺した古い月刊誌

 

 それが、私がオカルトに出会った最初の瞬間。

 

 

 初めは面白半分で読んでいた。

「ここは間違ってる」とか「そうはならないでしょ」とか…小馬鹿にしたような感想を呟いていた。

 

 ……だが、読んでいくにつれて「楽しそう」「面白そう」と思うようになった。

 筆者の筆が乗っていたのか、情熱的な文章と豊かな想像力で、ページを捲る手は止まらなくなっていた。

 

 ──宇宙人も呪霊も解明されてない時代はこんなにも空想とロマンに満ち溢れていたのか。

 

 ずるい、うらやましい、私も体験してみたい

 

 

 それから、未知(ロマン)を探すため弟と二人であちこちへ冒険に出かけるようになるのは、そう遅くはなかった。

 …今思えば、この時が一番楽しかった。

 

 当然、街中で見つかるハズもワケも無かったが、当時の私は空想への一歩を踏み出さずにはいれなかったのだ。

 

 

 

 

 そして、初めて見付けた…

 と言うより気付いた()()は自分自身の顔にあった。

 

 他の人たちと違って眼が四つある。

 

 もしかしたら病気なのかと怖くなって母に聞いてみたが、どうやらこれは()()なもの、自分だけのモノらしい。

 

 それを聞いた私は、えもいわれぬ優越感に満たされた気がした。

 

 ──特別。

 

 特別ならばスゴいのだろう。

 

 もしかしたら眼からビームが出るかもしれない

 もしかしたら未来を見る眼なのかもしれない

 もしかしたらあらゆるモノを見通す眼なのかもしれない

 

 そんな空想を巡らし、ある種の全能感に浸っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───母が亡くなった。

 

 

 過労死…だったらしい。

 父が亡くなってから副業の数を増やして…体調管理デバイスも切って、誰にも疲れを見せていなかったのだ──家族も含めて。

 

 葬式のことはよく覚えていない。

 冰央が泣きじゃくっていたこと、思っていたより母は人望が厚かったこと…それくらいだった。

 

 結局…母が()()と言ってくれた四つの眼は、母の苦労すら見抜けない

 

 ───人より少し涙の量が多いだけの、ただの眼であった。

 

 

 

 

 

 それからだった

 

 私が未知を探すと称して少し危険な場所にも赴くようになったのは。

 真夜中の学校、真夜中の廃病院、真夜中の裏路地…とにかく未知(特別)を見つければ、きっと()()()()()()()()()()()()()()…そう思い込んでいたのだ。

 特別になったところで、母が蘇るわけでもないのに、この眼が特別ではなくても、母の言葉が嘘になるわけでもないのに

 

 そのせいで──冰央を危険な目に遭わせてしまった。

 

 

 アレは未知のはずだ

 それなのに私の心は動かなかった。

 

 私が欲しかったのは未知ではなく、未知を探すために()()()()()()()()()だったのだと

 

 

 ──そう気付くには遅すぎた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──カラン。

 

 足元で何かを蹴った

 その音で脳裏に走る走馬灯が消え去る。

 

 見るとそこには小さな箱

 …形状と大きさからして、おそらくあの百葉箱の中にあったものだろう。

 何故ここに──は今はいい。

 手に取って見ると、箱の上に文字が書いてある。

 

 

【力求むるならば、喰らえ】

 

 開くと、そこには「人間の指」があった。

 

 

「…………」

 

 

 

 

 

 ガサリ、と音がした。

 

 未知(ソレ)が来た

 ゆっくり、ゆっくりと…恐怖心を揺さぶるようにわざと大きく音をたてて歩いてくる。

 捕まればどうなるか…わからない、わかりたくもない。

 

 

 

「……未知と対峙するんだもの、()()()()()()くらい…やってみせなきゃね」

 

 

 

 私は隣の冰央の頭を一度だけ撫でると、箱の指を掴み…自らの口の中へと放り投げた。

 

 

 

 

 

 

 

 ───ゴクン。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

──ソレが最初に感じたモノは恐怖であった

 

 

 いつものように仕留め、甚振り、食らう。

 それだけの仕事、そのはずだった。

 

 だが、予想外の事態。

 

 身体や顔のあちこちに浮き出た紋様

 そこに佇んでいるだけで誰もが理解する、圧倒的な力の流れ。

 

 追い詰めたはずの目の前の()が一瞬にして()に変貌した事実に、ソレは恐怖していた。にたにたと常に笑みを浮かべる顔からも表情が消えるほどに──

 

 

「──なるほど」

 

 

 奴はそう一言だけ呟くと、もう一方の餌に触れる。獲物の動きを止めるための呪毒が、奴が触れるだけで解除(なお)し、治療(なお)されていった。

 

 

 ソレは瞬時に判断する

「コイツを今ここで排除しなければ、己の身の安全は未来永劫保たれない」と。

 

 ──出し惜しみはしない、己の最大出力の呪毒を喰らわせる。

 

 

 

 

「呪霊…じゃあねぇよな、まぁいい」

 

 

 ──その判断は正しかった

 

 だが、一つだけ誤算があったとすれば

 

 

(かい)

 

 

 自分自身が未だ()()ではないと思い込んでいたことだろう──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──大規模な呪力行使により崩壊する帳

 

 裏山より少し離れた高台から、何者かがその様子を観察していた。

 

「素晴らしい…!まさか帳ごと一撃で消し去ってしまうとは…」

 

「流石は()()…"()(えい)"《ダブラ・カラバ》と並び、呪術界に大きく名を残した"老兵"!」

 

 何者かは嗤い、嘲笑う、声も姿も形も闇夜に紛れて残らぬままに──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 ───い

 

 ──おい

 

 

「おい起きろー」

 

 姉の声が頭で響く。

 ──首の痛みが無くなっている、いったいどういうことだろうか…

 そう思い、冰央は声のする方へ目を向ける。

 

「おっ起きたか」

 

「姉っ!…………?」

 

 ───違和感。

 

 それは姉ではなく何かが混じっているような違和感があった。もっとよく()れば、違和感の正体が分かるかもしれない。そう思い、冰央はサングラスを外しながら尋ねた。

 

「…姉ちゃんじゃない…ですよね」

 

「あー…そうだな──ッ!?」

 

 すると目の前の彼女(?)は、何故か驚いて固まってしまった。

 そして一言だけ呟く。

 

 

六眼(りくがん)…?」

 

 

 その瞬間、いきなり彼女の右腕が動いたかと思うと、彼女自身の首を絞め始めた。

 

「ッまだ主導権は渡してねぇはずなんだけどな」

 

「いや、私の身体だから」

 

 そう解奈が言い放つと、ゆっくりと紋様が薄れていき、やがては完全に消え去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「姉ちゃん!今のって…」

 

「冰央「…あーまずは自己紹介からだな」!?」

 

 どこからともなく響く声。

 冰央が取り出した手鏡を確認すると、解奈の頬には先ほどの声を発する口が現れていた。

 

 

 

 

 

 

「俺の名前は(いた)……いや──

 

 

 

 

 

 

 ──()()()()だ」

 

 

「気軽にコジョー先生とでも呼んでくれ」

 

 

 

 

 これは、新たに廻る呪い

 

 

 ───その始まりのお話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




みたいな続編を妄想してる

続かない!

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