機動戦士ガンダム サナリィから盗んだ「小型化技術」で、禁断のサイコフレームを再起動させる負け犬たちの逆襲 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
「……はあ。この世で一番清々しい『無職』のなり方、知ってる? それは、巨大企業の腐った論理を完膚なきまでに叩き潰して、未練も後悔も全部シュレッダーにかけてから、晴れやかな顔で辞表を叩きつけることよ」
アナハイム・エレクトロニクス(AE)フォン・ブラウン工場、第2事業部(2事)オフィス。あたし、アイリス・オーランド(アイリス)は、段ボール箱に私物を詰め込みながら、窓の外に広がる月面の景色を眺めていた。
宇宙世紀0113年。嵐のような1週間が過ぎた。
「倍返しのプレゼン」の結果、アルバート・エルマ(専務)は背任罪と証拠隠滅の疑いで当局に連行された。バズ・ガレムソン(バズ)大尉の身勝手な強奪劇も「軍内部の暴走」として処理され、あたしたちが命懸けで守ったデータは、連邦軍(連邦軍)の厳重な管理下に置かれることになった。
代償として、AE上層部は不祥事の火消しのために2事の解体を決定した。あたしたちは文字通り「お払い箱」になったわけ。
「アイリスさん、本当にいいんですか? 本営の技術開発部から引き抜きの話、来てたんでしょ?」
隣で同じように荷物をまとめていたカール・シュトレーム(カール)が、不安げに尋ねてくる。
「冗談じゃないわよ。またあんなアゴ専務みたいなのが沸いてくる場所で、政治用の道具を設計させられるなんて真っ平ごめんよ。あたしは技術者(エンジニア)であって、企業の歯車(パーツ)じゃないんだから」
あたしは机の隅に置いてあった、ボロボロの設計ノートを手に取った。
そこには、サナリィ(S.N.R.I.)に完敗したあの日から、RX-F91……シルエットガンダム、そしてRX-99……ネオガンダムを経て辿り着いた、あたしの「答え」が詰まっている。
シルエットガンダム。サナリィのF91のデータを盗用してまで造られた、AEの恥辱の象徴。でも、あたしたちはそれをRX-F91A(シルエットガンダム改)へと進化させた。パクリを卒業し、AEが長年培ってきた重厚な信頼性と、現場の職人たちの意地を詰め込んだ、本物の「ガンダム」に。
「おーい、準備はできたか?」
ドアを叩いて入ってきたのは、テストパイロットのトキオ・ランドール(トキオ)だった。
ノーマルスーツを脱ぎ捨て、ラフな私服姿の彼は、どこか晴れ晴れとした顔をしている。
「トキオ。あんた、これからどうするのよ。フリーのテストパイロットに戻るわけ?」
「さあな。だが、お前が次に作る機体があるなら、また乗ってやってもいいぜ。……今度は、もう少し整備性が良くて、死にそうにならないやつを頼む」
「……ふん。最高の技術者に注文つけるなんて100年早いわよ」
あたしは軽口を叩きながら、箱を抱えて部屋を出た。
廊下では、ボブをはじめとする2事の老技術者や工員たちが集まっていた。みんな、会社からは事実上のクビを宣告された身だ。なのに、その顔に悲壮感は1ミリもなかった。
「アイリスのお嬢ちゃん。……ありがとな。最後に、最高の仕事ができたよ」
ボブが、油の染み込んだ大きな手であたしの頭をくしゃりと撫でた。
「……ボブさん。あたし、忘れないわ。AE本社の綺麗なラボじゃ絶対に出せない、あの下町工場の100分の1ミリの精度。……あれこそが、あたしたちの武器だった」
工場の搬入口に出ると、夕焼け……に見える、フォン・ブラウンの擬似太陽灯が、巨大なAEのクレーン群をオレンジ色に染めていた。
宇宙世紀0111年にサナリィに敗北し、巨大企業の驕りに絶望したあの日。
あたしはただの、生意気で未熟な設計者だった。
でも今は違う。
技術とは、誰かを打ち負かすための力じゃない。
誰かを生かして帰し、誰かの誇りを守るための、静かな祈りなんだ。
あたしはノートを開き、白紙のページにペンを走らせた。
そこには、ネオガンダムのG-B.R.D(ジーバード)……最強の武器でありながら最強の「脱出装置」でもあったあの兵器のさらに先、パイロットを絶対に死なせないための「循環型装甲システム」の構想が描かれ始めていた。
「アイリスさん、みんな待ってますよ!」
カールの呼ぶ声。
工場のゲートの外には、あたしたちを迎えに来たトラックが停まっている。
「……今行くわよ!」
あたしは一度だけ振り返り、そびえ立つAEの社章を睨みつけた。
あたしたちを追い出したことを、いつか後悔させてやる。
次に歴史を作るのは、巨大企業の会議室じゃない。
あたしたちみたいな、現場の意地を捨てきれない「シルエット・メーカー(影の造り手)」たちなんだから。
あたしはノートを閉じ、前を向いて歩き出した。
宇宙世紀0113年、4月。
技術者(あたしたち)の、新しい朝が始まる。