守るべきもの、怒るべきもの、斬るべきもの、喰うべき謎 ――キラ、承太郎、カイエン、ネウロのごった煮会話劇 作:ギアっちょ
翌日。ホテル厨房の一角。
そこには昨夜とは違う意味で重苦しい空気が漂っていた。
テーブルの中央。
密閉容器。
ラベル。
検査機器。
そして。
厨房の奥には。
黄金色のソースが残った大鍋。
誰も近づきたがらなかった。
弥子が鍋を見つめる。
「…………。」
ジョーイ係長も見る。
「…………。」
シンも見る。
「…………。」
キラも見る。
「…………。」
すえぞうだけが嬉しそうだった。
「ハラへった!」
弥子。
「ダメ。」
「うまい!」
「ダメ。」
「もっとくう!」
「絶対ダメ!!」
すえぞうは不満そうだった。
キラが小声で言う。
「……ハマってる。」
シン。
「よりによってアレにか。」
◆
そこへログナーが検査資料を持って現れた。
「結果が出た。」
弥子が振り返る。
「司令!」
ジョーイ係長も駆け寄る。
「どうでした?」
ログナーは資料を見る。
「まず、すえぞうの発光反応について。」
全員が少し緊張する。
すえぞう。
「うまい!」
弥子。
「君は静かにしてて!」
ログナー。
「原因は特定できていない。」
弥子。
「やっぱり?」
「ああ。」
「ドラゴン独自の消化器官。特殊な代謝機構。体内の生体エネルギー反応。
それらが、あのソース中の何らかの成分と反応した可能性がある。」
シン。
「つまり、すえぞうだから光ったかもしれないってことですか?」
「そうだ。」
弥子が少しだけ安心する。
「じゃあ、人間が食べても平気かも?」
ログナー。
「逆だ。」
弥子。
「え?」
「人間への影響が確認できていない。
毒性。代謝作用。蓄積性。どれも未確認だ。」
弥子。
「ですよねー!!」
ログナー。
「人間への試食は禁止。」
すえぞう。
「もっとくう!」
ログナー。
「お前も禁止だ。」
すえぞう。
「ハラへった!」
「禁止だ。」
「うまい!」
「禁止だ。」
弥子。
「司令とすえぞうが会話になってる……。」
◆
ジョーイ係長が大鍋を見る。
「で。これ。残りどうするん?」
ログナー。
「廃棄する。」
ジョーイ係長。
「普通に生ゴミでええんかな。」
全員「…………。」
大鍋を見る。黄金色。
妙に艶がある。
昨夜、すえぞうを虹色に発光させた物体。
弥子。
「……生ゴミでいいの?」
シン。
「流しに捨てたら、配管光ったりしないよな?」
キラ。
「いや。」
「普通に考えたらそんなことは……。」
少し考える。
「……ないと思うけど。」
弥子。
「自信ないんだ!?」
ジョーイ係長が頭を抱える。
「排水処理施設まで光り出したら、ワシ、何て報告書書いたらええねん。」
弥子。
「そんな心配までしなきゃいけない料理って何!?」
◆
その時ソープがやって来た。
「どうだった?」
弥子。
「ソープさん。楽しそうに来ないでください!」
ソープは鍋を見る。
「まだ残ってたんだ。」
「残ってますよ!鍋一杯分!」
ソープは興味深そうに見る。
「少し取っておこうか。」
弥子。
「何で!?」
「分析用に。」
ログナー。
「小量なら必要です。」
弥子。
「司令まで!」
ログナー。
「原因の特定が必要だ。」
ソープ。
「ほら。」
弥子。
「勝ち誇らないでください!!」
ネウロもいつの間にか来ていた。
「全部残せ。」
弥子。
「増えた!!」
「次の観察に使える。」
「何を観察する気!?」
ネウロ。
「被害だ。」
弥子。
「今度は言い直しもしない!!」
◆
ログナーは資料をもう一枚めくった。
「それと。」
全員「?」
「別の結果が出た。」
弥子。
「別の?」
ログナーは少し間を置いた。
「金が検出された。」
沈黙。
弥子。
「…………。」
ジョーイ係長。
「…………。」
シン。
「…………。」
キラ。
「…………。」
ソープ。
「…………。」
ネウロ。
「ほう。」
弥子が首を傾げる。
「金?食用金箔とか?」
ログナー。
「違う。純金だ。」
弥子。
「なんで!?」
厨房に弥子の声が響いた。
◆
そこへ桂木遥がのんびりやって来た。
「あら。みんな集まってるのね。」
弥子が母親へ詰め寄る。
「お母さん!」
「何?」
「金!」
「金?」
「あれに純金出たんだけど!!」
遥。
「…………。」
少し考える。
「どこから?」
弥子。
「こっちが聞きたいよ!!」
ログナーが確認する。
「使用した材料に金属金を含むものはありましたか。」
遥。
「ないと思うけど。」
ソープ。
「食用金箔は?」
「使ってないわよ。」
弥子。
「じゃあ何で出たの!?」
遥は本気で困った顔をした。
「フツーに料理作っただけなのに……。」
弥子。
「普通じゃないよ!!」
◆
ネウロが楽しそうに笑う。
「面白い。」
弥子。
「面白がるな!!」
「有機物から無機物を生成したか。
もはや料理ではない。錬金術だな。」
遥。
「まあ。」
弥子。
「まあ、じゃない!!」
ソープの目も輝く。
「再現できるかな。」
弥子。
「しなくていいです!!」
ログナー。
「陛下。」
「何だい?」
「再現実験は通行止めです。」
「まだ何も言ってないよ。」
ログナー。
「顔に出ています。」
弥子。
「司令ナイス!!」
◆
ジョーイ係長は急に難しい顔になった。
「ちょっと待ってください。」
弥子。
「何?」
「純金やろ?」
ログナー。
「ああ。」
ジョーイ係長。
「……これ。」
少し考える。
「売れるんちゃうか?」
全員「…………。」
弥子。
「係長?」
「いや!」
ジョーイ係長は慌てる。
「違うねん!会社員として一瞬だけ!金が出たら資産やろって!」
弥子。
「料理から出た金を資産計上しないで!!」
ジョーイ係長。
「せやけど監査で何て説明したらええねん!
『ハヤシライス作ったら金出ました』やぞ!?」
シン。
「絶対信じてもらえない。」
キラ。
「僕も信じない。」
遥。
「でも出たのよねぇ。」
弥子。
「お母さんが一番他人事なの何で!?」
◆
ソープは検体を見る。
「量は?」
ログナー。
「含有量としてはかなりの量です。
ですが、純金の生成過程は不明。」
遥。
「もう一回作れば分かるかしら。」
全員「やめて!!」
遥がびっくりする。
「そんなに?」
弥子。
「そんなに!!」
ネウロ。
「いや。」
全員がネウロを見る。
「やれ。」
弥子。
「ネウロは黙って!!」
◆
ログナーは淡々と処分方針を決めた。
「検体は必要最小量を密封保管。分析継続。
残りは通常の生ゴミ扱いにはしない。」
ジョーイ係長。
「やっぱり。」
「専用容器へ隔離。安全性を確認した後、適切に廃棄する。」
弥子。
「食べ物の処分じゃないよね、もう。」
ログナー。
「食べ物として扱う段階は終わった。」
弥子。
「言い切った!!」
遥。
「せっかく作ったのに。」
弥子。
「そこは諦めて!!」
◆
すえぞうが大鍋の方を見ていた。
「ハラへった!」
弥子。
「ダメだよ。」
「うまい!」
「分かってる。」
「もっとくう!」
「ダメ。」
すえぞう。
「……。」
弥子。
「そんな悲しそうな顔しないで。」
キラが小声で言う。
「完全に気に入ってるね。」
シン。
「食べたら光るのに。」
ソープ。
「本人は気にしてないみたいだね。」
弥子。
「だからって食べさせないでください!!」
ネウロ。
「また光らせれば良い。イルミネーションとして使える。」
弥子。
「ドラゴンを照明器具にするな!!」
◆
その日の夕方、
K.O.G.ハヤシライスの残りは、厳重に密閉され、
専用容器へ収められた。
ラベルには、食品試作品
ではなく、
分析中・摂取禁止
と記載された。
弥子はそれを見ながら、深くため息をつく。
「最初は、ただ、
お母さんとカレー食べに来ただけだったのに。」
ジョーイ係長。
「どこでこうなったんやろな。」
弥子。
「お母さんが料理するって言ったところ。」
遥。
「えー。」
弥子。
「そこだよ!!」
ソープ。
「でも、金まで作れたのは面白いね。」
弥子。
「まだ言う!!」
ログナー。
「陛下。」
ソープ。
「分かってるよ。通行止めなんだろう?」
「そうです。」
ネウロ。
「つまらん。」
弥子。
「ネウロが楽しみすぎなの!!」
◆
遥は、少しだけ残念そうに密閉容器を見る。
「フツーに料理作っただけなのに……。」
弥子は母親を見る。
そして、静かに言った。
「お母さん。」
「何?」
「次から。」
一拍。
「料理したくなったら、先に私に言って。」
遥。
「手伝ってくれるの?」
弥子。
「止めるため!!」
厨房に弥子の声が響いた。
その日ホテルで処分されたのは、ハヤシライスだけではなかった。
K.O.G.ハヤシライス量産計画。
錬金術再現実験。
すえぞう追加試食計画。
そのすべてが、ログナーによってまとめて通行止めになった。