かぐやは激怒した。
かの邪智暴虐のヤチヨを除かねばならぬと決意した。
かぐやにはKASSENがわからぬ。
かぐやは、駆け出しライバーである。
歌を歌い、ゲーム配信をして暮らしてきた。
けれどもヤチヨに関しては、人一倍敏感であった。
きょう未明かぐやはツクヨミプライベートルームを出発し、ロードを越えロケーション越え、十里ほど離れたこのヤチヨのファンルームへやってきた。
歩いているうちにかぐやは、ルームの様子を怪しく思った。
ひっそりしている。ルーム全体が、やけに寂しい。
のんきなかぐやも、だんだん不安になってきた。
路で逢ったオタクをつかまえて、何かあったのか、前このファンルームに来たときは、夜でも皆が歌を歌って、ファンルームは賑やかであった筈だが、と質問した。オタクは、首を振って答えなかった。
しばらく歩いてオタクに逢い、こんどはもっと、元気よく質問した。
オタクは答えなかった。かぐやは両手でオタクのからだをゆすぶって質問を重ねた。
オタクは、あたりをはばかる低音で、わずか答えた
「ヤチヨ様は、人を殺します」
「なぜ殺すのだ」
「彩葉に求婚している、というのですが、それは、一握りです。」
「たくさんの人を殺したのか」
「はい、この頃は一層手加減がなく、きょうは、六人殺されました」
聞いて、かぐやは激怒した。
「呆れたヤチヨだ。生かして置けぬ。」
かぐやは、単純な月人であった。どじょうハンマーを、背負ったままで、のそのそヤチヨのプライベートルームにはいって行った。
たちまち彼女は、ミニヤチヨに捕縛された。
かぐやの背負ったハンマーが見えたので、騒ぎが大きくなってしまった。
かぐやは、ヤチヨの前に引き出された。
「このハンマーで何をするつもりであったか。言え!」
暴君ヤチヨは静かに、けれども威厳を以て問いつめた。そのヤチヨの顔はにこやかで、しかし目は笑っておらず、とても暗かった。
「オタクをヤチヨの手から救うのだ。あと彩葉はかぐやのだもん!」
とかぐやは悪びれずに答えた。
「お前がか?いやいや、彩葉はヤッチョのだよ〜」
ヤチヨは、憫笑した。
「仕方の無いやつじゃ。おまえには、ヤッチョの彩葉愛がわからぬ。」
「かぐやだって彩葉好きだもん!」
とかぐやは、いきり立って反駁した。
「求婚は悪いが、容赦なく殺すのは最も恥ずべき悪徳だ。ヤチヨは、オタクの忠誠をさえ疑って居られる。」
「疑うのが、正当な心構えなのだと、ヤッチョに教えてくれたのは、オタクたちだ。」
暴君は落着いて呟き、ほっと溜息をついた。
「ヤッチョだって、平和を望んでいるのだが。」
「なんの為の平和だ。彩葉を守る為か。」
こんどはかぐやが嘲笑した。
「求婚するのはダメだけど、関係ないオタクまでを殺して、何が平和だ。」
「だまれ、恋敵の者。」
ヤチヨは、さっと顔を挙げて報いた。
「口では、どんな清らかな事でも言える。ヤッチョには、神々のみなの腸の奥底が見え透いてならぬ。かぐやだって、いまに、磔になってから、泣いて詫びたって聞かぬぞ。」
「ああ、ヤチヨは悧巧だ。自惚れているがよい。かぐやは、ちゃんと死ぬる覚悟で居るのに。命乞いなど決してしない。ただ、ーー」
と言いかけて、かぐやは足もとに視線を落し瞬時ためらい、
「ただ、かぐやに情をかけたいつもりなら、KASSENまでに三日間の日限を与えてください。かぐやいろPファンルームでかぐやは彩葉と結婚式を挙げ、必ず、ここへ戻って来ます。」
「ばかな。」とヤチヨは配信には載せれない声で低く笑った。
「…いやヤッチョがわざわざ許すわけないよね。いくら彩葉と結婚するのが自分とは言え。逃した小鳥が帰って来るというのか。」
「そうです。帰って来るのです。いやそう言うなら別にかぐやが結婚してもヤチヨは損ないじゃん。」
かぐやは必死で言い張った。
「かぐやは約束を守ります。かぐやを、三日間だけ許してください。彩葉が、かぐやの帰りを待っているのだ。そんなに私を信じられないならば、よろしい、このツクヨミにミカドヌンティウスという彩葉の兄がいます。三日目の日没まで、ここに帰って来なかったら、あの帝を締め殺して下さい。たのむ、そうして下さい。」
「願いを、聞いた。その身代りを呼ぶがよい。三日目の日没までには帰って来い。おくれたら、その身代りを、きっと殺すぞ。ちょっとおくれて来るがいい。かぐやの罪は、八千年ゆるしてやろうぞ。」
「まぁ別に帝だからいいけど、彩葉を10年支えてくれた恩があるし、絶対ハッピーエンドにするよ!」
「はは。まあそれもそうだね〜。でも約束は約束だし、おくれたら容赦しないよ〜。」
竹馬の友、ミカドヌンティウスは、即座にプライベートルームに召された。
かぐやはその夜、一睡もせず十里の路を急ぎに急いで、かぐやいろPファンルームへ到着したのは、翌る日の午前。
陽は既に高く昇って、オタクたちはツクヨミに出ていた。
彩葉は、よろめいて歩いて来るかぐやの、疲労困憊の姿を見つけて驚いた。
そうして、うるさくかぐやに質問を浴びせた。
「なんでも無い。」
かぐやは無理に笑おうと努めた。
「ヤチヨに用事を残して来た。またすぐヤチヨの所に行かなければならぬ。あす、彩葉と結婚式を挙げる。早いほうがよかろう。」
彩葉は頬をあからめた。
「うれしいか。綺麗な衣裳も課金で買って来た。さあ、これから行って、オタクたちに知らせて来い。結婚式は、あすだと。」
オタクたちは二つ返事で了承した。オタ公は牧師を任され、泣いて喜んだ。
結婚式は、真昼に行われた。
実に多くのオタクたちに加え、芦花、真実、ヤチヨ、縛られた帝が、心からの祝福をかぐやと彩葉へ注いだ。
陽気にうたい、手を拍った。
かぐやは、一生このままここにいたい、と思った。その日の晩、結婚式は終幕を迎え、ツクヨミをログアウトし、彩葉とのEx-Yotogibanashiを日事を忘れて楽しんだ。
帝はヤチヨに殺された。
めでたし めでたし