第五十ニ話 見習い探偵士と新しい日々
『良かったね夏目くん!! 毛利小五郎大先生に弟子入りするなんて!! 羨ましいったらありゃしない!! きぃぃ!!』
石川 元気は相変わらずだ。
「アイツの代打だ。それに俺はタクシー運転手だからな。移動手段として最適だろ……」
俺が隠れ公安に成ってから、時間は過ぎた。
『デイヴィスさんか……良い人だったよね』
デイヴィス……エルダーが星になった後、評価は真っ二つに分かれた。
アイツに呪いを掛けられた者、アイツの計画に気付いた者、アイツの作った盤面の上で踊らされた者、アイツを信じ続ける者、パターンは人其々、それこそ星の数程あったが、俺はアイツを大悪党だと確信している。
エルダーはテロメアリスの服用で脳が摩耗し、爆発事故を二回受けた影響で身体はボロボロになっていて、いつ事切れても分からない状態であったとガリアーノが秘匿していた医療記録から自分自身でも分かっていたはずだ。
警察病院にかかったタイミングでガリアーノから予備の薬剤を受取り、自身がニルズ監督から一服盛られたのがテロメアリスと説明をされた時点から自分の残された命の使い道を決めたんだろう。
もしアイツが善人だったなら、梓を骨抜きにした上で死地に赴く前に避妊せず孕ませるような事をしなかっただろう。
梓の話からすると『自分は消える』と宣言していたらしいから、孕ませて消える事を了承させた……父親の居ない状態になることを同意させた。
なによりミサンガや初心者マークのバッジ、本や遺言めいた話をして心に楔を打ち込み、一人になる梓を自分自身に縛り付けるような事をするはずがない。
「アイツは悪党だった」
それにアイツが安室に対して行った刷り込みもそうだ。
黒田のオッサンや風見相手に立ち回る武力、拳銃を取り扱うスキル、暗号解読と爆発物処理能力に……人心掌握術。
組織から単体で明らかに拘束尋問される危険性がある『記憶喪失として警察の懐に入り込む』という高難易度ミッションを命令される信頼性のある諜報員。
この現状から評価の目を濁らせたのは偏に『喫茶ポアロで間の抜けた同僚として』振る舞われてしまったことだろう。
毎日刷り込みのように頼り無い様を見せつけられては『どうしようもない弱者』という視点でしか見ることができなくなってしまう。
『……悪党だったら、あんなに皆に惜しまれないよ。夏目くんは天の邪鬼なところがあるよね。……デイヴィスさんと古いお友達だったんでしょう? ……それくらい分かるよ』
『タクシーのお兄さん!! 学校裏の山に来て!!』
少年探偵団の子供達からの探偵バッジからの呼び出しが入る。
「報告は5W1Hを使えて言ってるだろ!!」
エルダーについて、二つ訂正するとすれば、ポアロで安室と殴り合い『守り抜ける』と豪語された日に、もし本気で安室を殺そうとすれば状況は違ったはずだ。
ただ防戦一方だったのは、安室という安全地帯に梓を預けるために梓を意識させ『守り抜ける』という言葉を引き出したんじゃないか、ということ。
自分自身が死んで護り手が消えた後、梓を託す相手に安室を選んだのは紛れもなくアイツ自身だ。
梓を愛していたという一点においては嘘偽りが無かったのではないか。
そして、アイツが例え弱者の演技の補強として関わっただけにせよ、少年探偵団や周りの奴らに向けた恩情や差し伸べた手は嘘で塗り固められていたとしても本物だった。
やらない善よりやる偽善の如く、真偽は外側から見えるものではない。
『今!! 学校裏の森でカラスが猫を嘴でつついて虐めてます!! 助けてください!!』
正直言って、子供達の面倒事に好き好んで首を突っ込むトリプルフェイスが居るとしたら、まるで異常だ。
「待ってろよ!! お前達は何もするな!!」
、、、
「……で? お前らがやったのか?」
現場に着くと、黒いカラスが一羽足から血を流して地面に落ちていた。
「ちげーけど……上級生が『悪者は成敗してやる!!』って石を投げたんだ。それがカラスに当たって……」
元太が下を向いている隣で灰色に俺とエルダーと同じ緑と黄色のオッドアイをした猫が何食わぬ顔をして毛繕いをしている。
「で? お前らは満足か? 『悪者が成敗された』って?」
嗜めるように聞くと歩美が服の裾を握った。
「思ってない……でも、カラスさんが猫さんを……」
仕方なくトランクから救急セットを取り出してカラスの状態を確認した。
「カラスも猫も鳥獣保護の範疇で本来同列。そこに悪と善のレッテルを貼るのはお前達だ。もしカラスがカエルをつついていたらお前達は何をした? 何もしなかったろ」
カラスは右脚が折れているようだったので、消毒液を掛けて添え木をした。
「……あら、子供達にずいぶんと手厳しいのね。見習い探偵士の夏目 安慈さん。アナタに手当なんて出来るのかしら?」
横目を見ると灰原が冷たい目を此方に向けていた。
アイツが再構築した『ミニ・パシフィック・ブイ』は俺に託された。
テロメアリスの成分情報、テロメアリスだと気づいてからの体調変化の記録、副作用による心理変化を綴る日記まで。
そして『ミニ・パシフィック・ブイ』には老若認証システムの構造を模倣した設計図案と仮組みされたデモ版があり、そこには『アポトキシン』の副次的効果についての## //ヒントが記載されていた。
……つまり、老若認証とアポトキシンには重要な繋がりがあり、元が破壊されたのなら意味があるはずだ。
考えられるのは老若認証がスルー、またはチェックしてしまう事象、例えばアポトキシンにより老若が反転し、それが分かってしまう為に施設を壊した。
「俺はシャルトルーズ、エリクサーだぞ? 舐めるなよ」
俺は組織に所属しながら、タクシー運転手をしている。
そして、隠れ公安でもある。
「夏目さん、シャルトルーズって名乗ってもいいの?」
コイツは江戸川 コナン、探偵だ。
アイツが何故、アポトキシンに副産物があると推測を立てることが出来たのか。
江戸川は毛利 小五郎の元に住まい、アイツは工藤 新一の家に住んでいた。
なによりワープターミナル東都での服部 平次とのやり取りから察するに……コイツは……コイツが。
「あ? ああ。俺は女王と呼ばれるシャルトルーズの愛称で呼ばれる見習い探偵士、夏目 安慈だ。隠すもんなんて何もねえよ。……探偵の江戸川コナン」
探偵士、少年探偵団と出会う。 完
あとがき
おしまい
★ < ジョーヌ、ブランの章は?
☆ < ひみつ
デイヴィスって
-
善人
-
悪人