八幡海鈴。
バチイケ。顔面黄金卿レズブレイカー。
本日は仕事が忙しいとかいう芸能人ぶった様子で、五時限目に登校。
何気ない顔してるのはいつものことで、我々凡百が死にそうな顔になりながら五限六限を乗り越える中、奴は一限二限を越えるテンションで乗り切った。チートだろ。中学の時に見たアニメでモブが叫んでたぞ。
そのまま颯爽と立ち去り、今日もどこかへレッツゴーかと思いきや、死にかけの金魚みたく口をパクパクさせながらスマホの通知を確認する私の前に仁王立ち。
「彼女ができました」
「えっ」
横にどすんと指定バックを置き、ぐるんと首をふって正面切ってはっけよーいと思って第一声がこれだ。一割も残っていない私の午後ティーが3㎜くらい中に浮いたぞ。ラスト二時間しかいなかったのに、何がそんなに詰まってるんだよ。
「彼女ができました」
「いやいやいやいや」
飲みこむもなにも飲み込めない。口に腕ごと突っ込まれてそのままフルパワーで行かれている。童貞?
二回おんなじこと言われても何も変わらないから。苦手な食べ物教えた後に『これだったら食べられるから! 騙されたと思って!』で押し通されて食べたもんが美味しかったことはないでしょう? 一緒なの。
「何かご不満でも」
「ご不満も何もなんで私に」
「立希さんがいなかったもので」
「最低の理由だな」
いつも後ろで構っている本命ちゃんは非番日。
それこそがこのスパダリ女と叩き合いで差すか差し返すかのデッドヒートを繰り広げる、我がクラスの気性難二名のうち一人、椎名立希ちゃんその人である。
面こそ死ぬほど怖いが、話してみると案外優しい。そういう子って結構いるよね。こういう女がギャップでモテるんだろうな。なんてったって彼女も面が良いもんな! ガハハ!
「私は二番目のキープと」
「誤解を恐れない言い方で言うのならば」
「クソ男ムーブ?」
「まぁ、顔が良いので」
こなくっそ……表情が動かないのかドヤ顔かわかりやしない。
いや、これはドヤ顔だ。目元からドヤの二文字が浮かび上がって来てる。うっわ顔が良い。パーツが素晴らしい。バランスも良い。両親に感謝してほしい。自分の顔の良さに驕っていてほしい。
ただでさえ顔の作りが良いのにメイクが上手いのはなんなんだよ。この自前の良さに上乗せされたナチュラルメイクをしやがって。
プロだよな?(疑問)
プロがやってるんだよな?(再確認)
プロがやっていてくれ(祈祷)
「気になりますか」
「えっ」
「気になりますか」
「その二回聞くのは何?」
「念押し、意思の疎通はコミュニケーションにおいて重要でしょう」
「念押しじゃなくて押し売りじゃないのかい」
「気になりますよね」
「押し通すな横綱か」
横綱でも押せ押せごり押し一辺倒な相撲取る人はいないと思うよ。にわかだから張り手で殺されるかもしれないけどさ。
眉間に少ししわを寄せるんじゃないよ。不満か。不満なのか。不満って顔に書いてあるなぁもう。
押せば勝手に相手がメロがって折れるってもう成功体験積んじゃってるもんね。その経験がこれだもん。
誰だよ。顔面至上主義でこいつに良い思いをさせてきたのは。この社会か! 現代か! 開国した西郷どんもお天道様で泣いてるよ。顔面ガ良イノデモーマンタイデース! って言ってる。これペリーだな。全部違うや。
「もうタクシー回しているんですよ。早く準備してください」
「八幡さんポジショントーク得意でしょ?」
「校門で待たせているので、あまりかかるようですと目立ちます。私は構いませんが。慣れているので」
「おいおいおいおい」
残った教科書の山の奥から充電器等を突っ込んで取り出しカバンに詰め込む。なんで早く準備しないんですかとかほざいてくる後頭部を五発くらいスマホで殴打したい気持ちを窓から投げ捨てて、小走りで正門に向かう。
本当に真正面に止めていやがる。運転手さんもほんの少しだけ気を使って欲しかった。でもわかりやすいもんね近くの方が。全ては今この時も表情がほとんど動かない顔面国宝女が悪いんです。
小走りからスムーズに大走りに移行。この女、足も速い。運動神経もいいんかい。じゃあ何ができないんだよコミュニケーションか。
女子高生らしからぬ全力ダッシュで、タクシーの後部座席に殴り込み。いわゆるラッシュ。
「すみません。よろしくお願いします」
「ぜぇ……いや……行き……」
「あぁ。行き先についてはご心配なく。事前にお伝えさせて頂きました。貴方に伝わってはサプライズの意味がないでしょう」
今そのドヤ顔辞めな。普通に殺意が上回る。JKの中でも出不精寄りに分類されるんだぞ、私は。自分の肺に酸素を取り込むので精一杯なんだから余計なことをしないで欲しい。キレそう。
こういう時にできる女感を出さないで欲しい。男だったらイケムーブかもね。こいつは明らかに捕食者側の人間なので別に違和感はないが。
して、五分間。臨月のお母さんのような浅い呼吸から、少しずついつも通り戻ったあたり。
とりあえず生! をイッキした後の第一声ばりにッカァ~! と奇声を発してみる。いえ、ちょっとだけキチゲが溜まって。深い意味はないんです。この状況に納得がいかず。上手いこと乗せられていることに腹が立ちけり。
隣にいた君よりも、運転手さんの方がびっくりしていて涙。ひゃっ、て言ってた。女子力高いんだね。うち、泣きそ。
「え、これって椎名さんいたら、椎名さん連れて行ってたの?」
「勿論」
「勇気あるんだねぇ~」
「……そう言われたのは初めてかもしれません」
褒めてねぇんだよ。遊んでる人間って深いこと考えてないから一歩立ち止まるネジとかがないよね~って意味での勇気なんだよ。これを無謀というのは違う気がしているけど、勇気というのも違うよ。でも無策ではないから、なんなんだろうな。本当に何を考えてるんだろうな。
「貴方の頭の中を覗いてみたいよ」
「私をもっと知りたいと」
「そう言うと嫌だよね」
「嬉しいですよ。私も、貴方の事をもっと知りたいので」
スッと手を取ってくるやん。何。
ちょっと顔覗き込んでくるやん。何。
えっ、抱きに来てるの?
やめてよ、こちとら膜パンパンなんだけど。女嫌いではないけど、レズの自覚もバイの自覚もないし、将来的には普通にイケメンの大学生を食い散らかしたいと思っているんだけど。
ジャ〇ーズみたいな男を戦国無双でざっくばらんにしてやりたいところなんだけど。
「みんな最初は戸惑います。でも大丈夫。身を任せてください。良い思い出にして見せますよ」
えっ、抱きに来てるやん。
だってもう指絡めに来てるもん。これが四月入学直後サークル歓迎会で先輩の男にやられたくない行動ランキング第一位なんだけど。まだ見ぬタイプのホテルへの入り口パカパカなんだけど。
このままだと気まずいというか普通に無理。顔が良いにしても限度がある。この雰囲気は耐えがたい。
「で、結局どこに向かっているわけよ。ヒントくらいは頂戴よ」
「……ヒントですか」
会話に慣れて無さすぎる。あまりにも急な話題変更だけど、なんか乗ってくれた。ありがたや~。車に乗っててこのレベルの方向転換されたらキレるもんな。もっと緩やかにカーブしろって。
「ホテルです」
「ヒントっつったよね」
答えじゃん。下心も丸見えにしてしまえばただの心ってか? フルパワー理論にもほどがあるだろ。
「勘違いしないでください。健全なホテルです。休憩、もしくはサービスタイムするだけです」
「普通のホテルは休憩って言わなくない?」
「そんなわけありません。我々は高校生ですよ?」
「ほな、普通のホテルかぁ」
思わず疑っちゃった。
普通のホテルに休憩なんてものは無いからね。大学生の先輩達の口からしか出てこないようなワードなんだから。っていうかサービスタイムするってなんだ? 私の知らない間に新たな動詞が流行語大賞にノミネートでもされたんか?
「いや、待たんかい。女子高生が二人仲良くホテル行ってる時点で怪しまれるだろ。アウトでは?」
「この程度で百合……アニメの見過ぎですよ」
「こいつ……」
いつにも増して冷たい目つきになりやがって……急に梯子外されて死ぬほどムカつく。キレそう。状況が状況なら手が出ていた。
巷ではラブホ飲み会なるものも流行っているとか定番化したとか廃れたとか言われているが、我々はゴリゴリの未成年なので。飲みもクソもない。そのうえでその梯子の外し方は無法だろ。
「まぁ、ただのホテルではないのは事実です」
「おっ、ついに白状する気になったか。そうと分かったら、さっさとUターンして……」
「最近はご飯が美味しいと評判なんですよ」
「……いや、弱い」
「わざわざスイーツを目当てに……」
「行く」
えっ、何その顔。いや、表情自体はあんまり変わってないんだけど。その空きっぱなしになったクチ閉じな。舌しまい忘れた猫みたいになってるから。
ホテルのご飯って舐めちゃダメなんですよ。それを目当てに止まるホテルを決めることだって当然あるんだから。
日常生活とSNSが密接にランデヴーしてる昨今、やっぱり綺麗な部屋とエモい景色に美味しい飯が揃ってれば、若い男女は誰でも食いつくってもんでしょう。私がチョロいんじゃない。この世界の構造自体が、私をチョロくしている。
正直、エモい景色はおまけで付いてこればラッキーぐらいなんだけど、甘くて美味しいものなんてどんだけあってもええですからね。
「あと、話によるとフロントの人の顔が見えないようなんですよね」
「行かない。フロントの人の顔が見えないホテルなんて、ラブホでしか聞かないんだから」
「でも、当日利用は基本不可の予約必須のホテルなんですよ」
「ほなラブホちゃうか。当日利用できないラブホなんて聞いたことないんやから。お持ち帰りする前提でラブホ予約してる男とか聞いたことないんよ」
基本的にあぁいうホテルなんて、ナンパで引っかけたり、飲み会終わりに女を持ち帰ろうと企んだゲスがその場限りのワンナイトで連れ込む前提なんだから。当日利用オンリーで予約する方が珍しいんだから。
なんかこの会話してると、そのうち自然に私の頭が角刈りになってそうだなこれ。
「ただ、室内に変なものが置いてあるって言うんですよ」
「変なもの?」
「世界驚愕! 恐竜の交尾映像!」
「待って、日本語?」
君のその顔面から出てきたと思えない単語なんだけど。日本語だよね? あんまり聞き馴染みのない単語すぎてびっくりしちゃった。
変なものっていうか変な日本語なんだけど。置いてあるって何? ジュ〇シックワールド? 部屋内でジュ〇シックワールドでも始まるの? Xレックスに食われて終わりなんだけど。肉付きの良くない女を二人食ったところで旨味もないだろうからガチ勘弁。
「そんなこと言ってる間に着きましたよ」
「ねぇ、ごまかさないで? あなたから言ったよね? ずっと頭の端っこに引っかかって取れないんだけど。もやしのヒゲとかより悪質だよこれ」
「降りますよ」
何事もなかったように手を引いて降りようとしますけどね、貴方。
もうずっと強引ですわよ。乙女はちょっと強引に引っ張られるくらいがキュンとくるとか言うけど、全然人によるんじゃないのそういうのって。知らんけど。
おい勘弁してくれよ。人生16年歩んできたけど、五本の指に入るレベルの奇怪な熟語がずっと残ってるよ。国が国なら精神的苦痛って適当ぶっかまして女の子パワーで訴えることだって出来るだろこれ。
「ここです」
ホテルだな。
いや、ホテルではあるんだけど、ビジネスホテルにしては華やかだし、高級ホテルにしては路線が違うような。
「……いや、ここってさ。私、こういうところ来たことないからわかんないんだけどさ」
「私は来たことあるので。大丈夫です。本当にさきっ」
「イヤーッ! ってか、彼女出来たとか言ってたじゃん!」
「適当な口実です」
「本当か嘘かわからんけど、最低なことはわかった。スイーツは?」
「ルームサービスでハー〇ンダッツが」
「乙女心弄びやがってこんちくしょうが。誰かタスケテーッ!!!」
詐欺罪にもほどがあるだろうが! 最高裁に叩き込んだら無期懲役確定演出だろこれ。
何人たりとも、私のVirginを勝手に散らせると思うなよ! 例え貴様のようなありえん顔面暴力スパダリ女だとしてもだ!
その面でこっちを見るな。キメ顔をするな。あらやだ……カッコイイ……ファンクラブが乱立しそうになって校内大戦争になりかけてるのも納得……
って言うか力強い! 手首をつかんだまんま、全く動かん。体幹どうなってるのよ。
ベースだっけ? 意外と重たいし、力もいるって言うもんね。ギャップ萌えってヤツ?
それはそれとしてイヤーッ! 椎名さんオタスケーッ!!!
三日くらいの遅刻のつもりだったんですが、周りを見たら皆様本当にしっかりとした小説ばかり書いていて、自分の愚かさに泣きそうになり封印していました。
誠に勝手ながら、この意味のわからないタイミングで供養します。南無。