牡丹は花火になりたい   作:ズンドロ

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天守島異能力学校の部活は、陸上部、ダイビング部、美術部、調理部、美化部、新聞部、日本伝統芸能部の7つがあります。
────天守島異能力学校広報


部活動ってこんなもんか

2052年2月2日 天守島異能力学校 

 

 牡丹は校長室に呼び出されていた。白橋が山積みの書類の向こうにいる。

 

「ああ、菅原先生。新聞部の顧問をしてくれませんか?」

「……………新聞部、立川が部長の?」

「ええ、菅原先生の前任の方が務めていましたがそれで────」

「……………わかりました」

 

 牡丹がそう答えると、白橋の嬉しそうな声が響く。

 

「受けてくれるんですか。そうですか、詳しくは立川くんに聞いてください」

「……………はい」

 

 牡丹が校長室からでて行く。牡丹は気配を探り、立川がいる部屋の前に立つ。日本伝統芸能部の部室の前に。黒い布とテープで目張りされている。

 

「……………?新聞部じゃない。立川いる?」

 

 ドドドドドドドドド

 

 扉が開き、立川が出てきた。目の下に隈ができていた。

 

「はいはいなんでしょう白橋校長。……………えっ、菅原先生?なにか用でもあるんですか?」

「……………新聞部の顧問になった」

「ようやく決まったんですか。ちょっと入ってください」

 

 そこにあったのは、校舎各所の監視映像や気象・船舶情報、校内ネットワークの状況が映し出されたモニターが数十枚。ファイリングされた生徒、教職員、部活動の資料が棚にぎっしりと詰まっている。そして、壁には寮の見取り図に、名前の書かれてあるマグネットが200枚弱貼られていた。

 

(182枚。生徒数と一致する。寮の部屋割りか……………桐山の同室の白井 時子、桐山の仲間の一年の女子じゃなかったけ?)

「……………立川は伝統芸能するの?新聞部だと思ってた」

「新聞部と兼部です。この部活は自衛隊の諜報関係に就職する人が入る部活なんで。それで白橋校長の推薦で入りました。狂言で情報を攪乱したりして、学校内の衝突を未然に防ぐ部活なんです」

 

 牡丹は壁の見取り図を指さす。立川はその先を見る、桐山の名前に向けられていた。

 

「……………なんで桐山が女子と同棲を?ダメじゃないの」

「その子は桐山に惚れていて、まあ愛の力で。まあ、男女で同じ部屋に住むのは黙認されています。寮の管理人も『デキなければいい』と言ってました」

「……………へえ」

 

 立川はお茶を淹れて牡丹に差し出した。牡丹はそれを飲みながら部屋を見る。モニターがあることは感じていたが、まさか部活動で使っているとは知らなかった。そして日本伝統芸能部という看板を見る。

 

「……………狂言をかけているのか」

「はい。白橋校長の案です。……………これが書いてもらう書類です。新聞部の部室はちょっと散らかっているのでここで書いてもらっていいですか」

「……………うん」

 

 目の前に置かれた書類には、秘密保持契約書の文字が大きく書かれていた。

 

 新聞部又は日本伝統芸能部の顧問(以下「甲」という)は、部活動の運営及び指導の過程において知り得た一切の情報(個人情報及び活動上の秘密を含む。以下「部活動情報」という)を、正当な職務遂行の目的以外に使用し、又は第三者に開示・漏洩してはならない。そして────

 

(なるほど)

 

 牡丹はその書類に名前を書く。次の書類をみる。

 

 新聞部又は日本伝統芸能部の顧問(以下「甲」という)は、新聞部又は日本伝統芸能部の部員(以下「乙」という)が情報を第三者に開示・漏洩させた場合、乙及び第三者の必要な処理を行うこととする。

 

 牡丹は名前を書いて、立川が持ってきた印鑑を押す。

 

「……………なんで印鑑を持ってるの?」

「学校にいる全員分用意してます。白橋校長が『必要な時に探す時間が一番無駄だ』って」

「……………そう」

 

 立川の足音が廊下の向こうへ消えたのを確認すると、牡丹は静かに棚へ歩いた。並ぶファイルの背表紙には、生徒だけでなく教職員の名前まで記されている。その中から、自分の名を抜き取った。この学校での活動履歴や大まかなタイムチャート、性格の分析、食の趣向まで書かれていた。

 

(結構詳しく書かれている。隠してないから分かるだろうけど)

 

 ファイルを棚に戻して、モニターへ目を向ける。校内の誰がどこにいるのかが、一目で分かるよう表示されていた。よく見れば、必要最小限の隠しカメラだけで誰がどこにいるのかが判断できるのだろう。防音されている静かな部室にパソコンのファンの音だけが大きく聞こえる。

 

 牡丹は寮の見取り図を見た。寮の横に船の絵が描かれている。そこに何人かの一年生のマグネットが張られていた。そして船の旗には「3/1まで遠洋漁!!」の文字が。そして、船の横の付箋を見た。「1/29 推定3000万円 目標達成」とある。

 

(儲けはどうなるんだろう)

 

 そんなことを考えていると立川が戻ってきた。牡丹は船の絵を指さす。

 

「……………ダイビング部の一年は勉強はできてるの?」

「あーそれですか。遠洋漁なんで時差があるんですよ。授業時間と漁の時間がうまくずれるんで、オンラインで普通に出席してます」

「……………利益はどうなの」

「本人が9割もらって、船のレンタル代として学校が1割もらってます……………って、漁をすることに違和感とかは?」

 

 首を傾げた牡丹は、何度か瞬きをしてから口を開く。立川が何かを察した。

 

「……………ない」

「そうですか。でしょうね」

 

 そして、立川が部室に置いてあった自分のカバンから大きめの端末を取り出した。

 

「新聞部の顧問になったので、先生にお願いしたいのは、さっき書いてもらった契約書の内容を守ることと、表向きの新聞部活動にたまに顔を出してもらうくらいですね」

「……………うん」

「表向きの部員は神藤だけです。他の部員はほぼほぼ幽霊部員って思われてます。裏ではそれぞれ担当があります。新聞を書くのは神藤と僕だけで、あとは情報集めだったり、工作だったり、輸入だったりですね」

「……………へえ」

 

 端末に映し出された新聞を読む。学校の変化について事細かに書かれている。花壇の花が咲いた。

 

「顧問って言っても、ほんとやることは少ないです。一か月に一度くらいですね動くのは」

「……………わかった。じゃあ、桐山グループに用事あるから、これで」

「ついて行っていいですか?新聞のネタにしたいんで」

「……………うん」

 

 

 地下訓練場に三十人くらいの生徒がたむろしていた。雑談を楽しんでいた彼らはラフな姿の牡丹が見えると整列を始めた。桐山が軽く腕をストレッチしながら前にでてきた。

 

「先生、遅かったな。ストレッチはさせてある」

「……………うん。じゃあ走り込みから。桐山は何時もどうり」

 

 牡丹の号令と共に生徒たちは走り始めた。桐山は壁に立てかけてあった棒を手に取る。牡丹は靴を脱いだ。牡丹が掻き消えたように立川には見えた。桐山の真後ろに牡丹が現れた。

 

 ボフゥ

 

 桐山の背面から頭めがけて放たれた蹴りが、頭部だけを覆う風の球体に受け止められる。そして桐山は棒を薙ぎ払う。牡丹はバックステップをとり、射程圏内から離れた。

 

「いきなり頭か」

「……………次」

 

 正面から突撃した桐山が足に纏わりつかせた風を開放させ、ウサギのように横へ跳ねる。だが移動先には既に牡丹がいた。桐山は飛び上がって態勢を立て直────

 

「……………遅い」

 

 ボフゥゥッゥ  バァァン

 

 桐山の手首をつかんだ牡丹が地面に叩き付けた。一度目は風でショックを吸収できたが、二度目で異能の使用が間に合わず、地面に強く打ち付けられる。倒れこむ桐山の脇腹に鋭い蹴りの追撃がねじ込まれた。

 

「……………ァ……………ィ……………ッ」  

「……………よし」

 

 さらに、二度目の蹴りが撃ち込まれる、その直前に風が桐山の身体を救出する。牡丹と桐山の視線が合う。

 

「……………今何がダメだった?」

「……………ぃ……………」

 

 十数秒後、ようやく呼吸が落ち着いた桐山が口を開く。

 

「まず一番初め。風玉で受け止めたあと足を止めるのが遅かった。仮に距離を作れたなら、逃げるんじゃなく追撃するべきだった」

「……………うん。横に跳ねて視界から逃れるのは良かった。でも使う時、周囲は確認する。罠があるかもしれない。それと、微弱な風で周囲の把握をするのは慣れた?」

「慣れた。だけどずっと使うのはまだきつい」

 

 桐山の返答に立川が質問を投げかける。その手には手帳とペンが握られていた。

 

「桐山くん、周囲の把握ってなに?」

「立川か、いたのか。……………あー、前に先生が異能を広範囲で弱く使うのを見せてくれたこと有ったろ」

「うん。覚えてる、それがどうしたの」

「それで閃いた。髪の毛一本揺らせない風を起こして、周囲を把握できないかって。俺の異能は風を起こすことだからな。何か物があると風が乱れる。それで位置が分かる。最初は手の届く範囲しかできなかったけどな、今じゃ数十メートルくらいは把握できるようになった」

 

 訓練場に障害物を配置した牡丹が二人の近くに来た。手をはたきながら二人の会話に混ざる。

 

「……………桐山はセンスがいい。だから乱暴なやり方で伸ばした」

「どうしたんです。一応参考までにですけど」

「視覚と聴覚ふさがれて、動けないように縛られて。石を投げられまくった。めちゃくちゃ痛かった。二度とやらねえ」

 

 桐山は腕をさする。あの訓練の最後、折れた骨が皮膚を突き破って白く覗いていた光景は、二度と思い出したくなかった。

 

「…他に、他に新しく覚えた技とかないの、こう新聞に書けるような」

「あー、風でドーム作って消毒したら、無菌室が作れる、とかはどうだ。戦場で怪我したときに役に立つらしい」

「いいね、他にはどんなのがあるの?」

「風を纏わせて荷物を軽くするとかもあるな。補給物資を運ぶとき役に立つらしい。走り込みじゃ逆に重くして使ってるけど」

 

 牡丹がおもむろに立川に蹴りを繰り出した。風が吹き、立川をのけぞらせた。蹴りが立川の目の前を通り過ぎる。倒れそうになる立川を桐山が片手で支えた。

 

「……………うん。異能の拡張性も高い。攻撃は十分だから、防御と探知とかの補助を重点的に教えてる」

「今、僕の事蹴ろうとしませんでした、先生?」

「気にすんな。俺が間に合わなくても、先生は寸止めできるから安心しろ」

「寸止めでもアウトな気が……………セーフか?」

 

 立川は首を傾げながらも、手帳に書きこみ始めた。

 

「桐山くんたちって、ここで何やってるの」

「勉強教え合ったり、体鍛えたり。最近は菅原先生が戦闘を教えてる。授業じゃやれない内容とかもな。」

 

 桐山が指を折りながら数えていく。

 

「あとは、かくれんぼとかもする、第三ブロックが模擬密林になってる、そこでやった。サーモグラフィあり、ドローンあり、通信機ありのな。サーモグラフィには泥に潜るのが有効だった。小学生ぶりにやったが意外と面白かったぞ」

「へぇー。面白そうだね」

「サバゲ―とかもやってる。銃撃つ時間よりも、シャベルで塹壕作ってる時間の方が多いけどな」

(サバゲーってそういうのだっけ?もっとこう撃ち合いとかするんじゃ)

 

 桐山は少し楽しそうにしている。立川はサバゲーの概念が頭のなかで変わっていくのを感じた。

 

「……………授業じゃ無理だけど。三日くらいかけて、最低限の食料だけ持たせて行軍させたい。戦争は戦うより、移動の方が大変」

「それって重い荷物を背負ってやる、自衛隊の訓練にもあるやつじゃ」

「……………うん。でも後方支援に回されそうな人は別の仕事をさせる。立川だったら情報を精査して移動先を決めたり、相手の場所を見つけたり」

「僕がミスしたら大変なことになりません。それ」

 

 牡丹は立川を見る。立川は思わずつばを飲み込んだ。

 

「……………上の仕事はそういうもの。判断一つで何百人も死ぬ。立川が将来なる仕事」

「先生、俺はどういう仕事になりそうだ」

「……………桐山は戦術家。後ろじゃなくて前で活躍できる現場指揮官になると思う」

「そうかい。まあ、上で書類とにらめっこは性に合わないしな」

 

 天井を見上げた牡丹はゆっくりと視線を下げた。そして自らの手を見つめる。

 

「……………でも、そんな判断はしてほしくない。まだ平和だから」

「そりゃそうだ」

「続けばいいですね」

 

 走り込みを終えた桐山グループが戻ってきた。彼らの息は絶え絶えである。猪原が牡丹に話しかけてくる。

 

「走り込み終わりました。……………次はなんですか」

「……………五分休憩。そのあとBセット3回……………途中でリタイアする人がいたらDセットやらせて」

「………はい…………………ヒュー……………おし、休憩」

「「「うす」」」

 

 猪原の号令の後、桐山グループに属する彼らは背負っていた重り入りの背嚢を外して地面に横たわったり、座り始めた。地面に置かれた背嚢を見て、立川は牡丹に尋ねた。

 

「あのカバン何キロ入ってるんです」

「……………人によって違う。30キロから80キロぐらい」

「まあまあきついぞ。俺なんて人を模した人形を担いで走らされるし。しかもそいつの分の背嚢も持たせられた」

 

 桐山がしみじみとつぶやいた。『……………戦いで歩けない人が出るのは必定』と言った牡丹が持ってきたものだ。

 

「……………戦いだけじゃない災害救助の時にも必要な技術だから。重いものを持って長く歩けるのは大事」

「使わないに越したことはないけどな」

「……………うん。でも使えないとダメ」

 

 牡丹のその言葉に桐山と立川はうなずいた。この教師の前任も良く言っていたことだ。無駄になることを祈って鍛えると。そして、軽く手をたたいた立川が桐山に話しかけた。

 

「桐山くんたちはなんで鍛えてるの」

「あー、それはな。俺らって推薦という名の隔離受けてここに来た。だから教師とか警察とか、そういう連中を信用してねえ奴がほとんどだ。一般人もそうだな。異能者差別ってマジで多いし」

 

 桐山は少しだけ自分の腕を見る。古い火傷の跡が残っていた。立川は桐山の体のところどころに見える傷跡を見た。どれも、幼少期についた傷だと、桐山は笑って言っていた。

 

「だから勉強くらい自分たちで教え合うし、鍛えるのも自分たちだ。頼れるのは結局仲間だからな。俺は一人でもどうにかなる。でも、他の奴らはそうじゃねえ。だから一緒に鍛える。それだけだ」

「強いね、桐山くんは」

「運が良かった。たまたま反骨心が強くて、たまたまそれなりに使える頭と体を持ってただけだ」

 

 桐山は至極当然のように言った。立川は『彼は異能がなくても大成する』という白橋の言葉をふと思い出した。

 

「…………異能犯罪をやるヒトは殆どが差別を受けている。異能犯罪は大きいニュースになる。だから差別がひどくなる。抜け出せる人はあまりいない。()()はその差別から抜け出せる場所の一つ」

「たしかにEUなんかじゃ、異能力学校ってないですもんね」

「じゃあ異能者はどこにいくんだ?つーか隔離用に異能力学校作るだろ」

「……………税金の無駄だと判断された。だから作らなかった」

 

 桐山の疑問に牡丹はそう答えた。困惑を浮かべた桐山はすぐに気が付いた。異能者はそう多くはないと、隔離するコストよりも差別して追い出すほうが楽であると。

 

「……………異能者は軍に入るか、犯罪組織に流れるか、異能者であることを隠して生きる。最後の方法を選ぶ人がほとんど」

「黙っていれば異能者とは気づかれないですもんね。気づかれたらやばいですけど」

「バレたらどうなるんだ?」

 

 立川の言葉に疑問を抱いた桐山が軽く聞く。立川がポケットから端末を取り出して、ニュースを桐山に見せた。炎に包まれた家の写真が大きく映し出されていた。『隣人トラブルで放火か。三人死亡(3 Dead in Suspected Arson Fueled by Neighbor Dispute)』という題名だった。

 

「題名には書いてないけど、本文を読むと異能者が住んでいると分かった直後に放火されたらしい。ちなみに燃えた家は異能者本人の家じゃない。隣の家だった」

「マジか……………確認はしろよ、いや放火すんなよ」

「……………EUに行くときは異能者だと言わないほうがいい。お店とかから追い出される」

「「あぁ……」」

 

 牡丹のその言葉が地下訓練場に消えていった。桐山と立川は天井を見つめた。

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