暗殺教室 零の瞳に映るもの   作:ディーエー

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第24話 アダムの時間

 

「まさかもう一度、君から指名を受けるとは思わなかったよ」

 

梅雨の時期には珍しく雲の合間から光が差し込む早朝。人気のない路地裏で2人の男が向かい合っていた。

 

「お久しぶりです。風間さん」

 

1人は白い長髪が目を引く長身の少年。整った顔つきで大人びた雰囲気を纏っているがその顔にはまだあどけなさがわずかに残っている。

 

「こちらこそ久しぶりだね。見ない間に大きくなったじゃないか、周防くん」

 

もう1人は黒髪に全身黒ずくめの若い男。風間と呼ばれた男はタバコをくわえたまま1枚の紙切れを取り出して、白髪の少年に差し出した。

 

俺の名前は周防零二。人が寄り付かない路地裏でとある男と落ち合っている超生物学級に通う普通の中学生だ。

 

俺の目の前にいるのは情報屋の風間さん。俺が昔と(・)あ(・)る(・)事(・)情(・)で世話になった人で、どんな小さな手がかりからでも情報を拾ってくる天才だ。

 

「君の状況は把握してるよ。まさかあの国家機密の超生物学級の中に『ゼロ』がいるとはね。驚いたよ。君の依頼も“それ”絡みじゃないのかい?」

 

風間さんは穏やかな声色で言葉を続ける。

 

だが『ゼロ』という名を口にされた瞬間、俺はわずかに顔を歪めた。

 

「……その名前はやめてください。もう捨(・)て(・)た(・)名(・)前(・)です」

 

「おっと、失礼。そうだったね」

 

俺が少し視線を鋭くしながら言葉を返すと風間さんは煙を吐きながら肩をすくめた。

 

もう俺はあ(・)そ(・)こ(・)とは関係ない。二度と関わることはないのだからこの名前で呼ばれる必要もないだろう。

 

「じゃあ、依頼内容を聞こうか」

 

すると風間さんが本題に入り、空気が一瞬で張り詰める。

 

「……その前に確認させてください。ど(・)こ(・)ま(・)で(・)知(・)っ(・)て(・)ま(・)す(・)?」

 

だが、本題に入る前にまずはこの人がどこまで知っているかの確認だ。一応、あの教室のことは国家機密だ。そして俺も独自で色々と調べたことはあるが、これまで俺が得た情報を外部の人間には一切話していない。

 

普通なら外部の人間が得られる情報は限られるからこの人でも追い切れていない可能性も考えられる。だからまずはお互いの情報のすり合わせだ。

 

すると短い沈黙の後に風間さんの言葉が裏路地に響き始めた。

 

「椚ヶ丘中学校3年E組。そこで担任を務めるのはマッハ20のスピードと全世界の軍隊の兵器が全く通用しない“超生物”。その“超生物”は今年の3月12日に月を破壊した犯人とさ(・)れ(・)て(・)い(・)て(・)今度は1年後に地球を破壊すると言っている」

 

風間さんの言葉の中身は正解だ。俺の教室の状況をこの人は完璧に言い当てている。だがここまではあの教室の誰もが知っていることだ。誰かが漏らせば知ることができる情報。この人ならこれくらいは簡単に辿り着くことはできるだろう。

 

しかし、風間さんの言葉は続いた。

 

「その超生物はあ(・)る(・)研(・)究(・)によって改造された元人間だ」

 

風間さんの言葉とともに煙が細く揺れる。その煙が湿った空気に混ざっていきタバコの匂いがゆっくりと広がっていく。

 

「研究の目的は『反物質を生物の細胞に組み込み、細胞分裂の過程で反物質を自動生成して莫大なエネルギーを得る』こと」

 

ここであの教室のほとんどの人間が知らない内容の話が出てきた。風間さんの声は淡々としているがその内容はあまりにも現実離れしていた。

 

あの超生物はとある研究によって造られた元人間。その研究は反物質という……詳しい説明はややこしいから省略するが、普通の物質と同じ性質を持ちながら電荷が反対の粒子でできていて多量のエネルギーを発生させる物質を生物に組み込んで莫大なエネルギーを抽出するというものだった。

 

反物質のエネルギーの大きさは反物質0.1gから核爆弾並のエネルギー発生させると言われている。だが反物質の生産効率は非常に悪く、石油や原子力の代わりのエネルギーとしては注目されていなかった。

 

しかし、とある研究者が反物質の生成サイクルを生命における細胞分裂のサイクルに組み込むことで反物質の生成効率を爆発的に向上させることができる可能性を思いついた。人間の細胞分裂の回数は一日あたり1兆回行われると言われている。人間サイズになれば地球のエネルギー問題が一気に解決できるということだ。

 

だが、これはまともな人間が扱っていい領域じゃない。

 

「研究責任者は『柳沢誇太郎』。研究は順調に進んでいたが、3月に細胞が暴走して反物質のエネルギーが放出。月の7割を消し飛ばした」

 

路地の奥から少し強い風が吹き抜けた。濡れた地面に落ちていたレジ袋がかさりと音を立てる。

 

その禁忌ともいえる研究を取り仕切っていたのが『柳沢誇太郎』という男だった。柳沢の研究は順調に進んでいたが3月に月面で扱っていたサンプルのうち1体の細胞が暴走し反物質のエネルギーが放出する事故が起こった。これがあの月の爆発の正体だ。

 

「同日、椚ヶ丘近くの研究施設で爆発事故が発生。以降、柳沢とその婚約者・『雪村あぐり』、そして彼女の妹は行方不明」

 

ここでもう1人重要な人物の名前が出てきた。

 

『雪村あぐり』

超生物を造り出した反物質研究の責任者『柳沢誇太郎』の婚約者だった女だ。そしてこの女にはもう1つ別の顔がある。昨年度の椚ヶ丘中学校2年E組の担任。去年の3学期に俺たちの担任をしていた女でもある。現在はうちの学校を“退職したこ(・)と(・)に(・)な(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)”。

 

人体実験によって造られた今の担任とその実験の責任者の婚約者だった元担任。点と点が繋がっていく。

 

「……ここまでは、君も掴んでいるだろう」

 

「ええ、そこまでは把握しています」

 

だが、ここまでは俺も調べがついている。雪村先生がいなくなった直後からあの人の足取りは追ったし、月の爆発と同日に爆発事故を起こしたという研究施設も調査した。

 

問題はここからだ。

 

「じゃあ、改めて本題に入ろうか。周防くん、君は何を聞きたいんだい?」

 

風間さんは壁に寄りかかると俺に何かを含んだような視線を向けてきた。

 

しかし風間さんは相変わらずだ。国家機密だろうがノーヒントでここまでの情報を掠め取ってくる。現に内部にいる俺よりも詳しい。まさに天才の情報屋だ。だからこそ、この人が持ってるここから先の情報を聞く価値がある。

 

「……柳沢誇太郎。あの男とその一族が関わった過去の研究について教えてください」

 

「……なるほどね。そこを掘るわけか」

 

俺の言葉を聞いた風間さんはわずかに目を細めた。

 

俺が知りたいのはあの超生物が生まれるそ(・)の(・)前(・)の(・)段(・)階(・)の話だ。普通に考えて反物質のような不安定で危険な物質を体内に組み込むなんて正気の沙汰じゃない。一歩間違えれば大事故に繋がるし、現に月を7割吹き飛ばしている。生物側を弄って反物質に適応させるか何かしらの“媒体”のようなものを使って反物質を体内の細胞と安全につなぎやすくする必要があるはずだ。そしてその研究に柳沢が関わっていると俺は睨んでいる。

 

風間さんはタバコの煙を吐き出してから静かに言葉を発した。

 

「じゃあ柳沢の過去の研究について話そう。結論から言うと、現在表(・)に(・)出(・)て(・)い(・)る(・)範(・)囲(・)では柳沢本人やその関係者が反物質や人体実験に関わっていたのはあの研究以外にはない」

 

だが、俺の予想に反して超生物を生み出した研究以外には関わっていなかった。あくまで表(・)に(・)出(・)て(・)い(・)る(・)範(・)囲(・)では。

 

風間さんはここまで言うと少しだけ視線を逸らした。

 

「……だけどね。1つだけ気になる“噂”を聞いたことがある。それもかなり眉唾なやつだ。まあ、ここから先は確かな裏取りが取れてる話じゃないんだけど……」

 

煙がゆっくりと空気に溶けていき空気がわずかに重くなる。

 

柳沢が関わっていないのはあくまで表(・)に(・)出(・)て(・)い(・)る(・)範(・)囲(・)の話だ。表に出せないような裏側の話ではどうやら心当たりがあるようだ。

 

風間さんは少し微笑んでからその裏側の話を始めた。

 

「数年前、この国でとある研究が行われていたらしい。名は……」

 

 

 

——『プロジェクト・アダム』

 

 

 

静かな声だったが早朝の人気のない路地裏にはその声が大きく響いたように感じられた。俺はその名を頭の中でなぞりながら風間さんの話を頭の中で噛み砕く。

 

「人間の細胞を強化して身体能力を爆発的に引き上げる。戦争用の兵士を作る計画だ」

 

『プロジェクト・アダム』

人間の細胞を弄って身体能力を爆発的に強化させ戦争用の兵器として運用する計画だそうだ。人間の細胞を弄るという点や兵器すら通用しないような身体能力の人間を作り出すという部分に関しては例の超生物に通じるものがある。

 

風間さんは軽く肩をすくめる。

 

「ただし柳沢が関わっていたかどうかは不明だし、その実在を示す確かな記録は残ってない。断片的な証言とごく一部の裏の人間が口にするだけの話だ。結果として被験者は“全員死亡”。研究は凍結された……とされている」

 

それを俺はわずかに目を細めた。

 

「……それでは辻褄が合いません」

 

「ほう?」

 

「“全員死亡”で終わっているならそれで研究は閉じるはずです。ですが反物質の研究はその先に進んでいる」

 

これはあくまで裏の人間がしている噂だ。信憑性もないし、証拠もない。だが、仮に実際にこれが行われていたとしても、これの被験者が全員死んでいるなら生物の細胞に反物質を組み込むなんて真似はできないはずだ。組み込んでもすぐに死んでしまうなら実用化には大量の人間が必要になるはず。それではあまりにも回収コストが悪すぎる。

 

「もしや、この話自体が不完全か、もしくは意図的に伏せられている……?」

 

「……いい線いってるね」

 

俺は脳内で一歩だけ思考を進めてこう漏らすと風間さんはわずかに口元を歪めた。

 

「実はね。その“噂”の中でもさらに興味深い話があってさ」

 

風間さんは煙を吐きながら声のトーンを少しだけ落とした。

 

「1例だけ生き残った成功のサンプルが出たんじゃないかって言われてるんだよ。ただしそれが本当だとして、そいつが今も生きているかは分からないけどね」

 

この言葉でもう一度空気が張り詰めた。

 

これは噂だ。確証はない。絵空事の可能性も高い。だが万が一、生きたまま適合できた人間のサンプルがあるのなら反物質研究の欠けたピースが一気に埋まる。

 

「そもそもその成功例の話自体が二次情報の寄せ集めだ。本当に存在するかどうかすら怪しい」

 

「……なら、その成功例とやらも含めて調べます」

 

風間さんは少しため息を吐いていたが、俺はすぐにこう返した。

 

「『プロジェクト・アダム』に関する噂、関係者、記録の断片。その噂の信憑性も含めて全部洗います」

 

その研究の成功例——『アダム』の存在があればあの超生物に関する疑問が一気に解決するのは事実だ。もし、その『アダム』のことを調べれば来年3月に起こるとされているあのタコの爆発を防ぐことやタコの機能を停止させるヒントも見つかるかもしれない。

 

わずかでも可能性があるなら調べる価値は大いにあるだろう。

 

「ああ、それともう1つ」

 

すると、風間さんが思い出したように口を開いた。

 

「これも同じく根拠の薄い話だけど、被験者の遺体はまともな形では見つかっていないらしいよ」

 

この言葉で一瞬の沈黙が流れる。風間さんは気にせず話を続けた。

 

「回収されたのは“身体の一部”だけ。他の部分は崩れ去ったみたいだ、なんて話もある」

 

人気の無い通りに風間さんの声が木霊する。

 

「もちろんそれが事実かどうかも分からない。ただの尾びれかもしれない」

 

もちろんこれも噂だから真相はわからない。だが、真相が不明な話にしてはさっきから具体的でリアリティがある。

 

「……十分です」

 

俺はそれだけ答えると踵を返して歩き出した。

 

今回はこれで十分だろう。一度この噂の真偽も含めて徹底的に洗い流す。この方針が決まっただけでもこの人の話を聞いた価値があった。

 

(しかし、“人間の身体能力を向上させるための人体実験”ね……)

 

このとき、俺は確かに“答え”に近づいていた。だが、後から考えるとその答えは決して知るべきものじゃなかった。

 

『プロジェクト・アダム』

 

その成功例と言われるサンプル……

 

それは俺にとって最悪の真実であり、開けてはいけないパンドラの箱だった。

 

 

***

 

 

その日の昼休みの職員室

 

イリーナside

 

「速水と千葉は基礎ができている。なら静止目標じゃなくて移動目標に切り替えるべきです。ここまで来たら実戦想定の方が伸びる」

 

「……なるほど。確かに射撃精度は十分だ。あとは実戦での状況判断か」

 

本来なら教師たちだけがいる空間のはずの場所なのに今日は教師ではない人物がさも当然のように存在していた。

 

烏間と周防。私はこの2人が向かい合って話し合っている光景を職員室の自分の席から眺めていた。

 

だけどこの光景を見て私はこう感じてしまった。

 

(……いや、おかしいでしょ)

 

周防は教官である烏間と同じ立場かのように話している。しかも、当たり前のように他の生徒たちの訓練メニューまで考えていた。

 

確かに周防は強いしあのタコのことや他の子たちのこともよく見ている。それでも周防はただの中学生のはずだ。それなのにその口から出てくる言葉はまるで現場を知り尽くした人間のそれだった。生徒一人一人の特性を見抜いて足りない部分を補いながら実戦を前提に組み立てている。

 

そして周防の立てる訓練メニューはまるで“殺し屋組織の育成メニュー”のようなものだった。こんなの普通の暮らしをしている中学生が到底思いつくはずもない。

 

(なんなのよ、コイツ……)

 

「ねえ、周防」

 

気づけば私は口を開いていた。私の声で2人の会話が止まる。

 

「それだけできるのにどうして暗殺に参加しないの?その知識も実力もあるなら、あの子たちと一緒にやった方がいいでしょ?」

 

周防は暗殺に参加しないと言いながらも誰よりも暗殺のことを考えて行動しているように見える。本当に興味がないのなら烏間の話も無視すればいいだけだし、体育の時間だってわざわざ他の子たちの様子を見なくてもいいはずだ。

 

だけど、ここまで考えているのならむしろ他のみんなと共に積極的に暗殺に参加するべきだろう。どうしてこんな周りくどいことをしているのか私には理解できなかった。

 

「……今入っても確実に殺せないからだ。それにまだ情報が足りない」

 

私の問いかけに周防は少しだけ間を置いてから淡々と答える。

 

暗殺に興味がないから参加しないのではなく、今入っても殺せないから参加しない。その言い方は“やる気”ではなく“殺せるかどうか”だけで判断しているように聞こえた。

 

「情報?どういう——」

 

「リサーチ不足で挑んで自分の手の内だけを晒した殺し屋はどこの誰だったかな?」

 

私はさらに踏み込もうとしたけど、私の言葉を遮るように周防はこう言い返したことでその言葉が止まってしまった。それが誰のことか、そして何を言いたいのかを全て理解できてしまったから……。こう言われると何も言い返せないのが正直悔しい。

 

「……じゃあ、どんな相手なら殺せるのよ」

 

私は意地を張るように言い返した。

 

自分でも少しだけ大人気ないと思う。だけど、この子の考えにも興味があったのも事実だ。この子は暗殺に参加していないと言いながら誰よりも標的のことを観察して誰よりも深く考えている。この少年なら他の子にはないような考えが浮かんでいると私は確信のようなものがあった。

 

しかし、軽い気持ちで聞いたこの質問で周防の雰囲気は大きく変わった。その目つきがギラリと鋭いものに変わる。

 

「身(・)体(・)能(・)力(・)を(・)強(・)化(・)し(・)た(・)改(・)造(・)人(・)間(・)。例えば空を飛べたりとか、永久エネルギー炉を持った人造人間とかだな」

 

「……は?」

 

だけど返ってきた答えはどれも絵空事のような答えだった。バカにしてるとしか思えない。

 

「ふざけてるの?真面目に答えなさいよ」

 

「至って真面目だ、クソビッチ。あのタコが存在するならこの思考も普通だろ」

 

こう言い返した周防の声はとても低く冷たく感じた。部屋の温度が一気に下がった気がする。

 

でも、確かにこの話を聞くとさっきの周防の答えも絵空事ではなかったと納得する。あのタコはどう見ても普通の生き物ではないし、仮に人工的に造られた生き物なのだとしたら同じようなもので対抗するのは合理的な考えだと思う。

 

でも……

 

(……なんでそんな顔するのよ)

 

そう言って私を睨んだ周防の顔は正直怖かった。元々冷たくて怖い印象はあったけど、今はそれ以上だ。さっきまで烏間と普通に会話していた人間と同じ人物とは思えない雰囲気を醸し出している。その目はまるで狩りをする猛獣のようだった。

 

周防はその雰囲気のまま私から視線を外して烏間へ向けた。

 

「烏間さん。国の方では人間を改造して……兵器にとかにしてあいつに対抗する作戦とかは考えないんですか?」

 

すると、周防の口からとんでもない内容の話が飛び出した。ぞくりと嫌な感覚が背筋を走る。いくらタコを殺すためとはいえ「人間を改造して兵器にしませんか?」なんて正気の沙汰ではない。でもこれはただの質問や提案ではなく、まるで何かを探っているような感じもした。

 

周防の心の奥底を覗き込むかのような鋭い目を向けられながら烏間は一瞬だけ考えるかのように黙ってから口を開いた。

 

「……ないな。人道的観点から見て、国がそのような作戦を取ることは絶対にない」

 

当たり前だ。殺し屋の私が言うのもあれだけど、そんなことをするのは誰であっても許されることではないと思う。

 

「……なら、死体でも改造してやればいいのでは?」

 

「——っ!?」

 

でもわずかな間の後に周防の口から出た言葉はさらに衝撃的なものだった。

 

 

「ちょっと!何言って——」

 

「黙れビッチ。俺は烏間さんと話している。お前の言葉は聞いていない」

 

思わず私が口を挟むも周防は私の言葉を遮る。

 

(……死体を改造する?)

 

言葉の意味を理解するのに少し時間がかかった。普通はそんな残虐な発想は出てこない。私は裏の世界に生きる殺し屋だけど、殺し屋でもこんなことを考える人はいない。そんなことを本気で考えるのは残虐なマフィアやギャングくらいしかいないだろう。だけど周防はそれをまるで当然の選択肢みたいに何の躊躇いもなく口にした。

 

(……なによ、それ)

 

背筋がぞくりとした。

 

こんなの平和な国で育って、裏の世界のことも全く知らないようなただの中学生が思いつく内容じゃない。なのに、目の前のあいつはあまりにも自然にそれを語っていた。

 

まるで、そ(・)れ(・)が(・)現(・)実(・)に(・)存(・)在(・)す(・)る(・)も(・)の(・)みたいに。

 

「……それも同じだ。あり得ない」

 

「……そうですか。いい考えだと思ったんですけどね」

 

だけど烏間が少しだけ目を伏せて静かに答えると周防の声がふっと元に戻った。自分の考えが否定されたからなのか、さっきまでの空気が嘘みたいに消える。

 

(……何だったの、今の)

 

そしてその後は何事もなかったかのように、再びE組の生徒たちの訓練の話へ戻っていった。けれど、私はもうさっきみたいに聞いていられなかった。

 

目の前の少年の顔を見て少しだけ悪寒のようなものを感じながら私は心の中でこう呟いた。

 

あいつ……本当に何者なのよ

 

 





あとがき

ここまで読んでいただきありがとうございます。

今回は色々と重要な情報が明かされた話でした。まずは1人オリキャラが出てきましたね。天才情報屋の風間さんです。修学旅行で零二くんが心の中で思っていた知り合いというのがこの風間さんです。武闘派極道といい天才情報屋といい、どうやら零二くんは裏の人間とのつながりが多いみたいですね。ちなみに国家機密漏洩じゃないの?と思う人もいるかもしれませんが、零二くんのコンタクトがなくとも風間さんはE組や殺せんせーのことを知ってしまっていたのでセーフです。

それと原作のネタバレになるので深くは触れませんが零二くんと風間さんはもうすでに原作レベルの核心に近いところまで迫ってしまっています。時期的にはまだ殺せんせーがE組に来てから2ヶ月ほどのタイミングでですよ。この2人はとんでもないですね……。

そして、今作では殺せんせー周りの事情に関してはオリジナル設定を多めに盛り込んでいます。主に殺せんせーの誕生までの前段階についてですね。今作では反物質を安全に体内に取り込むためには何かしらの方法で反物質と身体の細胞をつなぐパイプのようなものが必要という設定にしています。そして、そのヒントになるのが『プロジェクト・アダム』です。

もちろんこの話はあくまで噂。しかも、本当でもそれを施された人は全員亡くなっているという都市伝説のような話です。現に後半パートで零二くんが烏間先生を相手に探りを入れていましたが、烏間先生もビッチ先生も心当たりがないような反応を示していました。それだけ表に出てきていない裏の世界の奥底にあったかもしれないレベルの話です。

この作品はその中で『プロジェクト・アダム』から1例だけ生還したとされる存在、通称『アダム』を探し出すという物語になります。果たしてその計画は本当にあったのか。そんな存在はいるのか。零二くんの今後の調査に注目です。

さて次回はビッチ先生のあの話です。ビッチ先生といえば、零二くんのことは理解しつつもその零二くんから相当厳しい態度を取られていますが、果たして分かり合える日が来るのでしょうかね……

では、次回もよろしくお願いします。


【次回予告】

それでもこの1ヶ月間、俺たちはビッチが変わる姿を見てきた。あいつは確かに変わったし、変わろうと努力しているのは事実だ。

だが……

「……変わることと“存在価値”を示すことはまた別だ」

いくら努力しても結果を残して“存在価値”を示さなければ何の意味もない。それはこの学校でもそうだし、プロの世界で命のやり取りをしていたビッチはこのことをよくわかっているだろう。



次回 『Lの時間』


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