フラつく足を、前へ、前へ。周りに気取られないように。絶えず指示を飛ばし、戦況の有利を手繰り寄せていく。
空崎は────余計な指示は飛ばさないほうがいいか。あの子ひとりで好き勝手暴れてくれたほうが良い。事実、次から次へとカイザーの機械兵を薙ぎ倒してくれているし。
アヤネがゲヘナから戻って来てくれた今、アビドスと便利屋の面々の物資補給も滞りはない。
それでも俺たちの思う『解決』には繋がらない。少しずつ進んでいる感覚はあれど、今こうしている間もホシノが苦しんでいると思うと歯痒い気持ちがあった。
「早いコト、カイザーの基地を調べないと────」
でも焦ってはダメだ。視野を狭めるな。今背負っているのは、俺ひとりの命だけではない。
頰を強く叩き、フラつく足に力を込める。歩みを進める。自分を目掛けて飛んでくる銃弾を干将と莫耶で弾きながら、意識は周りへ。
その最中、目の前にホログラムの画面が割り込んでくる。……通信。知らない番号だ。
視線で応答ボタンをドラッグすると、代わって映し出されるのは知らない生徒。淡い金髪の、落ち着いた雰囲気を思わせる生徒だった。
『おはようございます。初めまして、衛宮先生』
「キミは────?」
『トリニティ総合学園、ティーパーティーの
「キミが桐藤か……!」
自然と声が弾むのがわかる。よかった、阿慈谷も上手く説得してくれたみたいで。
心の中で阿慈谷に手を合わせる。思わず笑みを浮かべて口を開きかけたところで、
『ああ、申し訳ございません。実は、火力支援の件でご連絡差し上げたわけではなく……というのも、私たちも今エデン条約のことで手が回らず』
「────ッ、……いやまぁ、そうだよな。すまない。なら、また改めて連絡をするから……」
『ですが、折り入ってご相談が。トリニティに最近、新しい固定砲台を導入しまして。その演習を行いたいのです』
ホログラムの画面に映し出された桐藤の顔に、まるでイタズラを思いついたような無邪気な笑みが浮かんだ。
『ヒフミさんの話を聞くに、どうやら先生は今アビドスにいらっしゃるようで。私の記憶が正しければ、アビドスは膨大な面積の砂漠を有している────と』
「────、────!」
『何処か広く、それでいて……そうですね。極力、
ああ、本当に。本当にありがたいよ。ありがとう、桐藤────阿慈谷。
「そうだな。じゃあ、今から位置情報を送る。そこが……今砂漠で一番人が少なくて、誰も巻き込むコトはないから。盛大にぶちかましてやってくれ」
『ふふ。ありがとうございます、先生。このお礼は、また追々』
地図を開き、マーカーを置く。そのデータを桐藤の番号に送ったその瞬間、遠方から数多の光が飛来する。
煙を伴い、戦場へと降り注ぐ雨のようなミサイルの数々。カイザーの固定砲台が爆発を生み出し、敵性反応が次々沈黙していく────。
『先生、風紀委員会も到着したから……指示を』
戦況が有利に傾いていく。音を立てて、カイザーの布陣が瓦解していく。
これなら、基地への道も開けるはず────!
「よし……! これからカイザーの基地に侵入する。三手に分かれよう。今地図にマーカーを落とす! 一箇所は俺が。もう一箇所はシロコたち。最後は────、」
『戦線維持は風紀委員の子達で事足りるわ。最後の一箇所は、私が向かうから』
「────ありがとう空崎、頼んだ!!」
───√ ̄ ̄Interlude 18
……戦場に風紀委員会が到着。さっきのミサイルは多分、トリニティからの支援砲撃かな。
戦場において、『あり得ない』はあり得ない。あぁは言ったけど、結局こうして誰もが先生のために動いているのは、先生の人柄とか人望があってこそかな。
「……認識を改めないと」
とはいえ、別に先生のことを警戒していたわけでも低く見ていたわけでもない。あの人の人柄や態度は多くの人を引き寄せる────『また』があるなら、そこも組み込んでもいいのかもしれない。
さて。おかげで
例のカードに生み出されたヘルメット団。空崎ヒナは特に気にすることなく蹂躙していたけど……消失した側から、
倒しても倒しても無限に湧き出てくる。一回一回は大したことないかもしれないけど、弾薬はその分使わされてしまうし。カイザーにとって都合の良いことしかない。
戦況がこちら側に傾き始めた以上、少しでも不安因子は取り除かないと。
「……まあ、なにより」
先生のことだから、ヘルメット団の子たちも助けたいって言うだろうし。これ以上痛めつけられるのも可哀想だ。
PMC理事は社長との電話で、消失したヘルメット団を『全員戻ってきている』という言い回しをしていた。
なら────という仮説はある。でもその為には、この戦場を走り回れる〝足〟が必要だ。
「ねえ、社長」
「? なにかしら」
「良い感じの装甲車とか見当たらないかな」
隣でスコープを覗く社長に声をかける。しばらく戦場を見渡した後で、視線を私に向けて首を傾げた。
「カイザーの基地に、『
うん。なるほど。それならちょうど良いかも。タイミングよく、空崎ヒナが基地のひとつを攻略しに行く旨の通信も入った。
「じゃあ────ムツキ、ハルカ、社長。それ、貰っちゃおっか。迷惑かけられたんだし、装甲車のひとつくらい貰ってもバチは当たらないでしょ」
火事場泥棒するにはタイミングもバッチリ。ちょっと社長の顔が引き攣ったけど、まあそれは横に置いておこう。
◇Interlude out◇
外から聞こえてくる爆発音。戦況が未だに続いているその証拠が、徐々に遠のいていく感覚があった。
カイザーの基地は防音設備がしっかりしてるらしい。奥に進むにつれて、世界から隔離されていくような。
『────ごめん、先生。私の方はハズレ』
「早いな、さすが空崎。そしたら前線に戻ってくれ」
『……先生の方を手伝わなくて平気?』
「大丈夫だよ。こっちはこっちでなんとかするから」
何より、前線から空崎が長く離れることは避けたかった。桐藤や他の風紀委員会の面々のおかげで有利には傾いたものの、未だに不安は残っている。
────戦場において、『あり得ない』はあり得ない。
常に最悪の想定をしなければ。俺たちのワガママに付き合ってもらってるんだから尚のこと。
手当たり次第に扉を開く。資料室や食堂、生活スペースが視界に映る度思わず舌打ちを漏らして、扉を開いたそのままに駆けていく。
徐々に奥へ、奥へ。とうとう外から聞こえる音が完全に遮断され、目の前の扉が────最後の一枚。
ずっしりと佇む、両開きの鉄製の扉だった。今まで開いて来た他の扉に比べてしっかりしているものだから、思わず息を呑む。
ノブに手をかけゆっくり押し開く。ぎ、ぎ、と不快な音を立て、俺の両手に重さを返しながら。案外、すんなり扉は口を開いてくれる。
その向こうに広がっているのは一面の闇。懐から懐中電灯を取り出して、壁に沿って歩きながら電気のスイッチを探す。
「……?」
────何かを蹴り飛ばす感覚があった。かつ、かつーん、と。部屋の奥へと転がっていくような音も聞こえてくる。
その音の方角へ向き直るように、懐中電灯の光を向けた、その瞬間。
「────、────」
光に照らされ、視界に映ったその光景に絶句する。
急いで壁を探り、部屋の電灯のスイッチを入れる。視界を光が塗りつぶし、露わになったその部屋には────、
「……ふざけるなよ」
床に横たわる、ヘルメット団の子たちの抜け殻。その全員が穏やかに、眠っているように胸を上下させているものの、なんの配慮も思いやりもなく、まるで道具のように無造作に転がされていて。
その中心には、何かの機械に拘束されているホシノが────青白い顔のまま、項垂れていた。