その男、ギルド戦力につき~当方、ギルド職員。世界支配のために本日も残業中~ 作:onakatarumi
それが夢であることは、ムクロ・スパルダにはすぐに分かった。
過ぎ去った、遠い、遠い日の記憶。
◆ ◆ ◆
「どうして勝てないのかなぁ。お師様は『
つい先程転ばされ、地面に尻もちをついてぼやくムクロ。
「ムクロ! うぬは殺気が駄々洩れだからよ! 如何に強かろうと速かろうと、どこを狙うか丸わかりよ! おぬしが斬りかかる間に、ワシは身体ひとつ分動かせば良い。勝てぬが道理、勝てぬが道理!」
彼に対して呵々と快活に笑ってみせるのは、赤錆色の髪をした大柄の男であった。
男はムクロの木剣による渾身の一撃を何事もないかのように回避し、逆に蹴飛ばしたみせた彼。
見間違えようも無い。ムクロの師、ハスターである。
夢の中でのみあり得る、過去の視点とは別の俯瞰視点で。かつての自分がハスターと二人、山中で鍛錬する光景をムクロは見る。
「殺気ってなにさ。殺気って。筋肉の動きとか、視線なら分かるけどさ」
「
うむうむと訳知り顔で頷くハスター。ちぇっ、とムクロは不貞腐れる。
「使えないのに分かるって。お師様は適当なことばっかり」
「馬鹿め。うつけめ。武術とは心技体——」
「己の心を澄ませ、技を磨き、体を鍛える。相手の心を乱し、技を見抜き、体を損ねる——何回も聞いたよ、ソレ」
ムクロは立ち上がり、服についた土を払う。そんな彼の黒猫色の髪を、ハスターの大きな手のひらがクシャリと撫で回す。ムクロは服も手も、土で汚れている。ハスターの衣服にも手のひらにも。汚れひとつ見当たらない。実力の差がそのまま現れた格好だった。
だから、ムクロは甘んじる。敗者は勝者に従うもの。弱者は強者に抗えぬもの——決して、頭を撫でられるのが心地よいとか。そんなことではない。
「分かっておるなら良い! あとは
「ふん。子ども扱いしてさ。——出来るようになれば、お師様に勝てる?」
ムクロの問いかけに、ハスターは意地悪く笑う。
「そうさなぁ。百年かければあるいはうぬでもワシに勝てるやもしれん」
「真面目に答えてよ! 百年なんてさ。僕は、強くなりたいんだ」
「一人で生きられるように、か?」
「そうだよ!」
ムクロ・スパルダは、流行り病で両親を亡くし、一人、山中で生きていた。
生まれつき、彼は異能の力を持っていた。身体能力を上昇させる『魔法』。
ゆえに子どもの身でありながら獣を狩り、自給自足で生きることができた。——元いた村からは追い出されていた。両親が死んだ病の穢れが、ムクロにもまとわりついていると言われ。
そも、両親がいた頃から彼は孤独だった。『魔法』の存在は一応は知られていたものの、実際に使うものは、数村に一人いれば多い。特異なものだった。
『魔法』が使えるがゆえに追放され、『魔法』が使えるがゆえに生きていける。ムクロにとり力とはどこか疎ましく、だが必須のものだった。
そんな彼は出会った。各地を武者修行中のハスターという豪傑に。
出会ったその時、ムクロはオオカミの群れに囲まれていた。
人が住む領域とは別のもう一つの領域、森林。
獣を狩るに、木材を得るに、別の村に向かうに。人は森林という領域に入らなければならない。そこに潜み、獣を、あるいは人を狩るオオカミなる猛獣は、大陸世界にとってある意味で最大の脅威であった。一体ですら、一人の人間は武器なしでは戦えない。そしてオオカミは、群れで狩りをする。
ムクロは、それまでオオカミを殺してきた。その日も、簡単に済むと思った。
簡単だった。ムクロが危地に陥いるのは。
人の慢心を獣は見逃さず、死角からの噛みつきがムクロの腕を傷つけ、粗末な直剣が彼の手から落ちた。——当時のムクロは、『身体強化』の魔法こそつかえたものの。その強化倍率は非常に低く。オオカミの咬合力にすら抗えない身体強度だった。
予備の武器——というより血抜きと解体に使う短剣を抜いて、一匹のオオカミに斬りかかろうとして。今度は別の一体による、足への噛みつきが迫る。
ムクロはオオカミの群れに完全に翻弄されていた。直視したくないが。直感としてムクロはこのままでは死ぬと感じていた。森林に潜むその種族が本気なったらば。人はやはり勝てぬのか。瞳に、潤みを感じる。しかし、ムクロの身体はまだ動いた。
「なんだ童よ。面白い戯れをしておるの。しかし——
声が響くのと同時に、オオカミたちは距離を取っていた。獣の直感か。
その後の光景は。一瞬と錯覚するように短かった。使うまでもないと木の柄をとりつけた槍を地面に突き刺すと、ハスターはそのまま群狼に向かって飛び込む。
手刀。蹴り。あるいは首を抱え込んでの関節技。ハスターの手刀はオオカミの肋骨の隙間から心臓を抉りぬき、蹴りは頭蓋を割り、関節技で頚椎がねじられた。
殺したオオカミの毛皮で手についた返り血を拭い、そうしてから、何も出来ずに立ち尽くしていたムクロへとハスターは笑いかけた。
「未熟者め。しかし、見込みはある。死が迫ると理解しながら、抗おうとしたな? 良し。良し。その意気や良し。——泣くでない。そんな顔で」
「泣いてなんて、ないよ」
「そうか? ではこのハスターの姿が見えるな」
「ハスター……」
「そう、家名は無い。ただハスター。しかし、ハスターと聞けば誰もがワシのことを思い浮かべる。そうなるつもりで武者修行中よ。さて童。名は?」
「ムクロ。ムクロ・スパルダ」
「ではムクロよ! 今日からワシの弟子となれ!」
——こうして。ハスターとムクロは師弟となった。なんでも、一流の豪傑には、そばに未熟ながら見込みのある弟子がいるべきだとか。そんな理屈で。
ムクロは、ハスターの強さを求めた。その庇護ではない。身体ひとつでオオカミの群れを蹴散らす、その孤人にして懸絶した強さを。——それがあれば一人でも生きていけると思って。
「ムクロよ。お主は一人で——」
夢の中の追想。その中での更なる追想から、場面が戻る。
夢の光景を俯瞰するムクロ。夢の光景の中、一人称でハスターを見るムクロ。
そのどちらもが、ハスターの続く言葉を聞き取ることが出来なかった。
百年どころでなく五〇〇年を経て。ムクロ・スパルダはハスターに勝利し得た。
だから、ハスターの脚は切り裂かれている。ハスターの喉にも、剣が突き刺さっている。
「——、——よ」
だから、ハスターの言葉を、ムクロは聞くことは出来なかった。
多くを教えてくれた師匠は死んでしまった。ムクロが殺してしまった。
◆ ◆ ◆
そして。夢の中の場面が移り変わる。
今度はもっと時代が下っていた。俯瞰する視点のムクロはすぐにそれに気づいた。
一人称の視点のムクロ・スパルダが、目の前に立つ男と出会ったのは。そう、賢者ローゼンクロイツ・パラケルススによる魔法使い招集の後だからだ。
「もっとも哀れなのは、忘れられた女です、か。ローゼンクロイツ老の書き記す、異世界の詩歌は興味深いね、ムクロ。翻訳のせいか、音韻が悪いものもあるけれど」
椅子に座って微笑んでいるのは男。名を、グラウと言う。
灰雪色の髪に、白晶色の瞳。身にまとうのは、当時にはまだ着るものが多かった法衣。グラウ・ウル・ルルケと、名と姓の間に「ウル」という神の使徒であることを示す法名が入っていることからも明らかなように。かれは法神教の法師であった。——現在、ローゼンクロイツの企みにより、その影響力が急速に削がれ、解体され、『冒険者ギルド』なる組織に吸収されつつある宗教。
ある種、敵対者であるローゼンクロイツの招集に、法神教から唯一応じたのがこのグラウという変わり者の法師だった。
「また詩を読んでいるのグラウは」
「こうして温かな陽の光のもと、いまだ知らぬ文字の群れを追って。それを書いた者のことを思う。それよりも素晴らしい瞬間は存在しないよ。ムクロ」
グラウが法神教の法師となったのは、そこが大陸世界においてもっとも多くの書物を有する組織であったからだ。そしてローゼンクロイツ・パラケルススの招集に応じた理由もまた、書物。
本当に、変わった男だった。そして、いつも優しげに微笑む人格者でもあった。
「でさ。話なんだけど。こんどの調査の長としてグラウが——」
「ハスターには断られたのかい?」
「うん……僕がやるべきだって」
「同意見だね。ムクロ・スパルダ。僕らを率いるのには君こそが相応しい」
「なんでさ! 強さと経験ならハスターしかいない! 冷静さと知識量ならグラウだ! アルギッタは——まぁ、あんな感じだし」
グラウはやれやれとかぶりを振った。優しげな声で、ムクロへと言い聞かせる。
「それこそが理由だよ、ムクロ。四人の中で、他の者のことを一番良く見ているのが君で。そして大切に思ってるのも君だからだ。——意欲がないわけじゃないんだろう?」
「そうだけどさ。……調査する先は、都市国家ギーデインで、アルギッタの故郷だ」
「重責に耐えられそうにない?」
グラウが優しい声のままで聞いてくる。ハスターがムクロの武術の師であるとするならば。グラウは心の師であった。別に、法神教の教義を説いたりはしない。ただ、良く聞き、良く考えて、言葉を尽くして答えてくれる。
「もしも長になったなら。責任から逃げるつもりは無いよ。でもさ、アルギッタがからかってくるんだ。ムクロ隊長! どうしたら良いのでありますか! とかってさ」
「おや? いま僕は惚気話を聞かされてるのかな?」
「結構大変なんだよぉ、アルギッタのからかいはしつこいから」
「それはこの間のキミの浮気が原因なんじゃないのかな」
「アレは浮気じゃない!」
ムクロは先日、街で足をくじいて歩けなくなっている男性を、背負って家まで送り届けた。その男には娘がいて、是非お礼に食事をと誘われて。二回謝絶した後に、三回目で折れた。当時珍しい、まともな食事と酒を提供する店で食事をした。
「でも、胸の大きな子だったらしいね。ムクロはずっとチラチラそこばかり見てたって」
「み、見てない!」
「でも、ムクロは胸の大きい子が好きだろう?」
「うるさーい! もうっ! グラウまでからかってさ!」
グラウのからかいを受けて、自分の嗜好を指摘され、ムクロは身悶えする。真面目な雰囲気は消散していた。ところで、やや声の調子を真面目にして。グラウが言う。
「もう一度、ちゃんとアルギッタと話してごらんよ。きっと今度は——」
夢の光景を俯瞰するムクロ。夢の光景の中、一人称でグラウを見るムクロ。
そのどちらもが、グラウがどんな表情でそれを言ったのか。見取ることが出来なかった。
優しいグラウの腕が落ちている。心臓は破壊されている。その顔面に剣が突き立てられ、無惨にもねじりによる更なる破壊がもたらされている。
だから、グラウの表情を、続く言葉を、ムクロは知れなかった。
常に優しく諭してくれた友は死んでしまった。ムクロが殺してしまった。
◆ ◆ ◆
夢の中で。茫洋としながらも俯瞰する視点を持つムクロは再びの切り替わりを感じる。どうせ夢を見るなら、マルグリテやレイテの夢を見たかった。いや、ファラキア。ファラキア・エルフの夢が良いと、ムクロは思う。
過去の、制作初期。情緒育成用に幼体状態で活動していた時期のファラキアはコロコロとよく笑い、ムクロに懐く愛らしい幼女だった。明るい髪を押し付けて「ムクロお兄ちゃんと結婚するの!」と笑っていたファラキア。彼女の夢ならば良い。なにせ、ファラキアはまだ生きているし。斬るべき相手でもない。かつての、かつての仲間の中で。唯一。生存し、傍らにい続けてくれる相手。
だが。夢の中の情景は急速に固定されていく。
俯瞰する視点を持つムクロ・スパルダは恐怖する。
その光景を、夢であれ追想することを。同時に、どうしても甘い感情もまた湧き上がるのを抑えられない。アレは夏の日。間違いなくあの、完璧な夏の日。
都市国家ギーデイン。木造の家よりも石造りの家が多い、当時最も発展した都市国家のひとつ。
その大通りの路上には屋台が軒を連ね、近隣の農村から買い取った野菜や、絞めて吊るした肉を売っている。——新鮮な肉が売られるのは温かいその季節に限った。冬になれば、家畜の多くは種となる番を除いて潰され、売られる肉はひどく濃い塩味の腸詰めばかりとなる。冬の間に多くの家畜を育てられる飼料を得る術を大陸世界は未だ持たなかった。
人が行き交うその路地を、ムクロは歩いていた。
賢者ローゼンクロイツ・パラケルススなる男からの呼び出し。それを受けて彼はギーデインを訪れ——そして、目の端で陽光色の髪をとらえる。
すぐに、その髪は視界から消えた。
その髪の持ち主である女と、ムクロがすれ違ったからだ。
だがなにか気にかかり、ムクロは背後を振り返る。
長く、美しい髪を翻した女の後ろ姿が見えた。彼女も振り返ってくれないだろうか。何故か、ムクロはそんな風に思い。出どころの確かならぬ感情ゆえに、すぐに前を向き、歩みを進める。
——ムクロの見ていないところで。女が振り返った。黒猫色の髪を、視界の端で捉え、どうしてか気になったからだ。彼も振り返ってくれないだろうか。何故か、女はそんな風に思い。出どころの確かならぬ感情ゆえに、すぐに前を向き、歩みを進める。
数歩進んだムクロは、なにか心残りを感じて、もう一度振り返る。女の陽光色をした頭頂が、遠ざかっていることを淋しく思い。また、前を向く。
——ムクロの見ていないところで。数歩進んだ女は、なにか心残りを感じて、もう一度振り返る。ムクロの黒猫色をした頭頂が、遠ざかっていることを寂しく思い。また、前を向く。
ムクロと女、二人はともにまた数歩進んだ。距離が遠ざかる。二人の間には人混みがあり。どんどん、どんどん、隔てられていく。
たが、だが、だが。
次の瞬間に。
何かにひかれるように。
同時に、二人は振り返った。
人混みと、人混みの隙間。奇跡のように、ふたりの視線が絡み合った。
ムクロ・スパルダの黒猫色の瞳が、女の黄玉色の瞳と、見つめ合う。
人混みの中で、引き寄せられるようにムクロは女の元へと歩み寄っていた。
同じく、女の側も、ムクロのもとへと歩み寄る。
「僕は、ムクロ・スパルダ」
「私は、アルギッタ・ギーデイン」
陳腐な。とてもとても陳腐な一幕だった。男女の出会いとして。一組の恋人が、誕生する理由として。
ひと目見て、ムクロ・スパルダはアルギッタ・ギーデインを好きになった。
——ひと目見て、アルギッタ・ギーデインはムクロ・スパルダのことを好きになった。
そして。夢の中の場面が移り変わる。
ムクロがいるのは寝台の中。藁の上に布を敷いた、粗末で、一般的な寝台。
愛する女とお互いの裸体を合わせて、お互いの体温を感じる。相手の鼓動を感じる。最初は、高鳴りに過ぎる鼓動をお互いに聞かれて、とても気恥ずかしかった抱擁。
いまは、その抱擁に強い胸の高鳴りはともなわない。かわりに、とても安らかな気分をお互いに抱く。
抱き合うムクロとアルギッタ。
「明日にはつくわね、ギーデイン」
「里帰りだね、アルギッタにとっては」
「そして、ワタシたちが出会った場所」
「うん。あの時、振り返って良かった。アルギッタの綺麗な髪がさ——」
「おや? どこでそんなお世辞を覚えてきたのかなムクロくんは? 私は教えてないぞ~?」
「もうっ。アルギッタが言ったんじゃないか。もっと私を褒めて! って」
「ふふふ。褒められるともっと可愛くなっちゃうアルギッタちゃんなのでした。——もっと褒めてもよいぞよ?」
「アルギッタはすごい魔法使いで」
「そういうのじゃない。分かるでしょ」
「アルギッタは、アルギッタの黄玉色の瞳は、とっても綺麗だ。吸い込まれそうになる。ずっとずっと見てたい。そんなアルギッタの瞳が、僕のことを見てくれてるのが嬉しい。アルギッタの声も綺麗で、いつまでもいつまでも聞いてたくなる。アルギッタと話せてる僕は、なんて幸せなんだって。いつも思うよ……アルギッタ?」
「ムクロくん、お姉さんをあんまり骨抜きにしないで、可愛いヤツめ。襲っちゃる!」
「あっ、もっ、アルギッタ! もう寝ないと!」
ムクロの身体から、アルギッタの身体が一度離れ。寝台の上掛けを剥いてムクロの腰の上へと跨る。そのままもう一度身を寄せ。ムクロの筋肉に包まれた胸と、アルギッタの双丘が重なり合う。ムクロの鼓動が高まる。血液の流れが加速し、その一部が特定の場所へと流れ込む。
「ふふふ。そんなこと言って。ぼうやもすっかりその気じゃない。ほーら」
「んっ——、仕方ないでしょ。そんな風にされたら誰だって……」
「わたしはムクロにしかしないから分かりませ~ん。——ねえ、ムクロ?」
「なぁに、アルギッタ」
「私の夢、聞いてくれる?」
「どんな夢?」
大陸世界において。眠りながらみる夢と、将来もとめる光景をさす夢。二つの言葉は同一の
それは、そのふたつが。人が眠り見るそれと、人が未来に見るそれがともに、どちらも儚きが故か。
「ムクロとずっとずっと一緒にいること。丘の上に、小さなお家を立てて。犬や猫も飼いましょう。犬の名前はハスターで、猫の名前はグラウね」
「ハスターはいつも駆け回って、グラウは日向ぼっこして?」
「そうそう! それとね。それとは別の、私の夢。それは——」
夢の中。俯瞰する視点を持つムクロ・スパルダは知っている。
その先の言葉を、知っている。
そのために起こった苦しみを。
彼は——。
◆ ◆ ◆
「ムクロ・スパルダ殿! 到着しましたよ!」
声をかけられ、ムクロは目を覚ます。
慄然とする。夢の内容も恐ろしかったが、自分自身が
身体的にはダンジョンの『端末』であるムクロは、望まない限り眠る必要が無い。正確には、数瞬で熟睡と同等の脳休息を得ることが可能で、また眠っている場合にも周囲に異常があればすぐに目を覚ます。そういう身体機能を持っていた。
そのはずであるのに、だ。
彼は眠っていた。
(近頃、頭痛も酷い……『端末』にも限界があるのか? それとも、グラウとハスターを殺したことで心が弱りでもしたか? この俺が?)
成すべきことを成せないまま、果てるかも知れない。それを思い、ムクロは動揺し——。
「お疲れですか。ムクロ・スパルダ殿」
起こしてくれた
「ああ、そうだな。このところの
ムクロともう一人は、馬車に乗って揺られていた。そのもう一人の見た目は、なんとも現実的——有り体に言ってしまえばみすぼらしかった。
名前をダーエ・エルマールという。丸顔で反りっ歯、そうして短躯。その情けない見た目の男は、ムクロの現在の同僚であり。王国総軍司令部司令長官という肩書を持っていた。
対して、ムクロは王国近衛騎士団団長という肩書を持っている。
至尊たるマルグリテ・セヴェリナを除いた、王国軍の最重要人物の二大巨頭と言える二名。
彼らが馬車に揺られて向かっているのは、
===作者からの連絡===
両名の出会いの場面は小林恭二氏の作品『宇多川心中』のオマージュであることをここに明記します。
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