異世界転生しても冷笑は止められない…うおw   作:トイレレレ

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どうも、トイレレレです!
この度、本作の評価に色が付きました!
応援してくださった皆様、本当にありがとうございます。
これからも皆様に楽しく読んでいただけるよう、より一層精進して参ります!
また、評価が付いたことで、これから新しく本作を目にしてくださる方も増えるかと思います。

そこで、改めて本作をお読みいただく上での「注意事項」を記載させていただきます。
(すでに内容をご理解いただいている方は、こちらを読み飛ばして本編へお進みください!)

【お読みいただく上での注意事項】
・本作は完全なフィクションです
物語に登場する用語、人物、団体、および特定の配信者等は、現実とは一切関係ありません。万が一類似するものがあったとしても、作者は一切認知しておりません。純粋なフィクションとしてお楽しみください。

・感想欄での実名出し・推測の禁止
感想欄等において、特定の配信者様のお名前を出したり、関連する実在の人物・団体を推測して書き込む行為は固く禁じます。本作は「純粋なオリジナル・フィクション」としてお楽しみいただけますようお願いいたします。

これらの注意点は、本作が「特定の実在するネタを元に作成されている」と運営側に誤解されるのを防ぎ、この小説の連載を安全に維持していくために非常に重要なものとなります。

読者の皆様のご理解とご協力を、どうかよろしくお願い申し上げます。
それでは、引き続き本編をお楽しみください!


教師による初日の試練的展開ええてw

 正門をくぐると、そこにはすでに多くの新入生たちが集まっていた。

 

 

 貴族らしき豪華なマントを羽織った者、平民出身と思しき実用的な革鎧を着た者、様々な武器を手にした者たちがこれからの生活への期待と緊張を胸にざわめき合っている。

 

 

(……うわぁ、熱血主人公みたいな奴がいっぱいいるわ。マジできちーw)

 

 

 俺は周囲の「俺が一番になってやる!」的なオーラを放つ連中を冷笑しながら極力目立たないように端の方を歩こうとした。

 

 

 だが、俺の隣を歩くのは目立つオレンジ色のツインテールに四大公爵家とかいう超エリートの肩書きを持つレオナだ。まあさっきの会話(一方的)で知ったのだが。

 

 

 そして俺自身も士官学校の制服姿に『黒いスコップ』を担いでいるという、どう見ても不審者極まりない格好をしている。

 

 

 目立たないわけがなかった。

 

 

「……おい見ろよ。あの子、フレイムハート公爵家のレオナ様じゃないか?」

 

 

「本当だ……! ということはあの隣にいるスコップを持った平民が噂の……」

 

 

 周囲の連中はヒソヒソと俺たちを指差して噂話をしているが、直接こちらに絡んでくるような度胸のある奴はいなかった。

 

 

(なんだよ、テンプレみたいに突っかかってくる貴族とかいねえのかよ。チキンばっかだな)

 

 

 俺が内心で毒づいていると、隣を歩いていたレオナが突然「あっ!」と声を上げた。

 

 

「見ろケイ! 綺麗な蝶々が飛んでいるぞ!」

 

 

 彼女は俺の袖を引っ張りながら、ヒラヒラと舞う青い蝶々を指差して目を輝かせている。

 

 

(……お前、仮にも12歳だよな?)

 

 

 5歳児みたいな無邪気さではしゃぐ公爵令嬢を見て、俺は深いため息を吐いた。

 

 

 周囲の生徒たちもそのあまりのギャップに「えっ、あの方が本当にあの苛烈なフレイムハート家の……?」と困惑しているようだ。

 

 

 そんなこんなで俺たちは入学式が行われる『大講堂』へと到着した。

 

 

 前世の大学の体育館を三つくらい繋げたような、無駄に天井が高くてステンドグラスが輝くバカ広い空間だ。

 

 

 俺たちは指定された新入生の席へと向かい、腰を下ろした。なぜか俺とレオナの席はぴったり隣同士である。

 

 

(ここでも一緒なのやめてね[^^]b

 

 

 俺がそんなことを考えながらスコップを足元に置いている間にも、大講堂には続々と新入生たちが入場してくる。

 

 

 暇を持て余した俺は人間観察という名の『痛い奴探し』←(自分の事は一切思っていない)を始めた。

 

 

「うおw」

 

 

 まず目に入ったのは、いかにも『王道熱血主人公』といった感じの赤いツンツン頭の少年だ。背中には自分の身の丈ほどもある巨大な大剣を背負い、周りの生徒に「俺は絶対に騎士団長になる男だ!」と暑苦しく語っている。

 

 

(声デカすぎだろw 絶対関わりたくねえ……w)

 

 

 次に視界に入ったのは、取り巻きを数人引き連れて歩く金髪縦ロールのいかにもな『高飛車お嬢様』だ。歩くたびに「オーッホッホッホ!」という幻聴が聞こえてきそうなほどふんぞり返って歩いている。

 

 

(うおw テンプレの塊みたいな奴いるじゃん。きちーw)

 

 

 そして最後は部屋の隅の席で一人壁に寄りかかって腕を組み、前髪で片目を隠している『クール系暗殺者』みたいな黒髪の少年。

 

 

(いや式典中くらい普通に座れよw 中二病こじらせすぎだろ……www)

 

 

 俺は次々と現れる『いかにも』な主要人物候補たちを見て、極限まで冷めきった笑みを浮かべた。

 

 

 どうやらこの士官学校は俺の【絶対的零度(冷笑)】の魔力を高めるための『痛いノリ』の宝庫らしい。

 

 

 そんな人間観察をしていると、新入生が全員集まったのか、大講堂の正面にある立派な演壇に教師らしき初老の男が立った。

 

 

「──新入生の諸君。静粛に」

 

 

 マイクも何もないはずなのに、その声はバカ広い大講堂の隅々にまで、はっきりと響き渡った。

 

 

(……拡声の魔法か何かか? 便利だな)

 

 

 そこから先は前世の入学式と何ら変わらない地獄の時間だった。

 

 

 校長らしきヒゲの長いジジイが出てきて、「我が校の輝かしい歴史が〜」だの「諸君らには帝国の未来が〜」だの、クソつまらない長話を延々と語り始めたのだ。

 

 

(……なげーよ。タイパ最悪だろ。早く終わんねえかな)

 

 

 俺は完全に話を聞くのをやめ、頭の中で純の過去の神配信アーカイブを再生し始めた。

 

 

 隣を見ると、レオナも完全に飽きたのか船を漕いでカクンカクンと頭を揺らしている。

 

 

 やがて永遠にも感じられた校長の長話が終わり、司会の教師が声を張り上げた。

 

 

「──続きまして、新入生代表の挨拶。代表者、セレスティア・ウィンターロード」

 

 

 その名前が呼ばれた瞬間、大講堂の空気がスッと引き締まった。

 

 

 俺たちから少し離れた前方の席から、一人の少女が静かに立ち上がる。

 

 

 腰まで届く雪のように真っ白な長い髪。

 透き通るような白い肌に氷のように冷たく、知的な切れ長の青い瞳。

 

 

 歩く所作の一つ一つが洗練されており、ただそこにいるだけで周囲の空気を凍てつかせるような圧倒的な『美』と『威厳』を放つ少女だった。

 

 

「……むむっ」

 

 

 その少女が演壇へと歩いていく姿を見て、隣で船を漕いでいたレオナが急に目を覚まし不満げな声を漏らした。

 

 

「なんだよ、知り合いか?」

 

 

「知り合いというか……あいつは四大公爵家の一つ『ウィンターロード家』の次期当主、セレスティアだ」

 

 

 レオナは腕を組み、面白くなさそうに唇を尖らせた。

 

 

「ウィンターロード家は代々強力な『氷魔法』を操る一族でな。あいつは幼い頃から『氷の神童』と呼ばれている超エリートだ。……私とは昔から何かと比べられてきたからあまり好きではないのだ」

 

 

(へぇ……氷魔法の神童ね)

 

 

 俺は演壇に立つセレスティアをぼんやりと眺めた。彼女は原稿など一切見ず、堂々とした態度で完璧な発音と抑揚で新入生代表の挨拶を始めた。

 

 

「──我々新入生一同はこの歴史あるグラン・レガリア士官学校において、帝国の剣となり、盾となるべく己の心身を極限まで鍛え上げることを誓います」

 

 

 その声は鈴を転がすように美しく、そして絶対的な自信に満ちていた。

 

 

 周囲の生徒たちは彼女の完璧な挨拶と美貌に完全に魅了され、うっとりと聞き入っている。

 

 

(……まあ、確かに優秀そうではあるけど)

 

 

 俺は彼女の『氷魔法』というキーワードに少しだけ興味を惹かれた。

 

 

 俺の固有魔法【絶対的零度(冷笑)】も結果的に冷気や氷を操る能力だ。もし彼女と戦うことになったらどっちの『氷』が強いのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……けけw」

 

 

 俺は完璧すぎる優等生を演じるセレスティアの姿を「痛いノリだ」と冷笑し、小さく鼻で笑った。

 

 

 そしてようやくかったるい入学式がようやく終わり、俺たち新入生はこれから5年間を過ごすことになる教室へと案内された。

 

 

 教室の中は木目を基調とした落ち着きのある造りでありながらも、机や椅子の材質、窓枠の装飾に至るまで隠しきれない気品と高級感が溢れ出ていた。

 

 

「ふふん! やはり私とお前は運命の糸で結ばれているようだな、ケイ!」

 

 

「……マジで最悪だわ」

 

 

 冷笑も忘れ、俺は深いため息を吐いた。

 

 

 運悪く俺はこのポンコツお嬢様と同じSクラスに配属され、しかもまたしても隣の席だったのだ。

 

 

(絶対にエレノアのババアが裏で手ぇ回してやがる……)

 

 

 生徒たちがそれぞれの席に着き、ざわめきが少し落ち着いた頃。教室の前の扉が開き一人の人物が教壇に立った。

 

 

「──席に着け新入生共。今日から貴様らの担任を務めることになったグレン・バロウズだ」

 

 

 低く、ドスの効いた声だった。

 

 

 年齢は30代後半といったところか。無精髭を生やし、ボサボサの茶髪を後ろで無造作に束ねている。士官学校の教師らしからぬ少し着崩した黒い軍服。

 

 

 そして何より目を引くのは、彼の右目から頬にかけて走る痛々しい『巨大な獣の爪痕』のような傷跡だった。

 

 

 彼が名乗った瞬間、教室のあちこちから「おお……っ」「あの『灰燼のグレン』が担任なのか……!?」というどよめきと感嘆の声が上がった。

 

 

(……なんだ? 有名人か?)

 

 

 俺が小声で隣のレオナに「誰あいつ」と問うと、彼女は「本当にケイは世間知らずな奴だなー」と、やれやれといった表情で肩をすくめた。

 

 

(……なんかムカつくわ)

 

 

 俺は机の下でレオナのすねを軽く蹴っ飛ばしてやった。

 

 

「いっ!? な、何をするのだ!」

 

 

「いいから教えろよ。誰なんだよあのおっさん」

 

 

 レオナは涙目で俺を睨みつけながらも、小声でちゃんと教えてくれた。

 

 

「……グレン・バロウズ。かつて帝国に数人しかいない『一級魔法使い』として最前線で戦っていた生ける伝説だ。炎と土の複合魔法を操り、一人で魔王軍の一個大隊を壊滅させたこともあるらしい」

 

 

「へー」

 

 

「だが、数年前の過酷な任務で右目と魔力回路の一部を負傷してしまってな。その後遺症が原因で前線を退き、今はこうして後進の育成に徹しているのだそうだ」

 

 

(なるほど。テンプレの『訳ありの元最強キャラ』ってやつねw)

 

 

 俺が「あぁ、そういう感じ……w」と冷笑していると、グレンがチョークを黒板に叩きつけ、鋭い視線で教室全体を睨み回した。

 

 

「自己紹介は以上だ。俺は貴様らのような温室育ちのガキ共と仲良くお遊戯会をするつもりは毛頭ない」

 

 

 グレンは懐から銀色の懐中時計を取り出し、時間を確認した。

 

 

「今から10分後。制服のまま武器を持って第3訓練場に集合しろ。……遅れた奴はその時点で退学だ」

 

 

「「「えっ!?」」」

 

 

 教室中から驚愕の悲鳴が上がった。入学初日、しかもホームルームが始まって数分でいきなり訓練場への呼び出し。

 

 

「何をしている。もう1分経過したぞ」

 

 

 グレンが冷酷に告げると、生徒たちは慌てて立ち上がり我先にと教室を飛び出していった。

 

 

「い、行くぞケイ! 遅れたら退学になってしまう!」

 

 

「……なんか見たことあるような展開だな」

 

 

 俺は黒いスコップを肩に担ぎ、パニックになっているレオナの背中を追いかけて気怠げに教室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺たちが息を切らして第3訓練場に到着すると、そこにはいつの間に移動したのかグレンが腕を組んで立っていた。

 

 

「……8分か。前に受け持った連中よりは少しマシらしいな」

 

 

 グレンは懐中時計をしまい、集まった新入生たちを値踏みするように見回した。

 

 

「今からお前たちの『魔法実力テスト』を行う。俺が定めた基準に満たない奴はその場で退学だ」

 

 

「「「……はぁっ!?」」」

 

 

 その言葉に訓練場に集まったSクラスの生徒たちが一斉にざわめき始めた。入学初日、しかもまだ授業すら始まっていないのにいきなりの退学宣告。

 

 

「ふ、ふざけるな! 我々は厳しい試験を突破してこの士官学校に入学したんだぞ!」

 

 

「そうだ! 私の父は伯爵だぞ! こんな理不尽なテストで退学など許されるはずがない!」

 

 

 中には顔を真っ赤にしてグレンに抗議する貴族の生徒も現れ始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが、グレンはそんな彼らの言葉を鼻で笑い、右目の傷跡を歪めて低く凄んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──黙れ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 たった一言。

 

 

 しかし、その声にはかつて最前線で死線を潜り抜けてきた本物の『殺気』が込められていた。

 

 

 抗議していた生徒たちはカエルを睨んだ蛇のようにビクッと身体を震わせ、一瞬にして静まり返った。

 

 

「ここは『士官学校』だ。貴様らのような温室育ちのガキがおままごとをする場所じゃねえ。魔王軍との戦いで敵が『入学初日だから』と手加減してくれるとでも思っているのか?」

 

 

 グレンは指を鳴らし、土魔法で地面から無骨な石の椅子を創り出すとそこにドカッと腰を下ろした。

 

 

「ここで過ごすなら甘ったれてる暇はねえぞ。俺は『実力』だけを見る。家柄も、親の権力も、過去の栄光も、俺にとってはクソの役にも立たねえ。……実力のない奴はさっさと荷物まとめて国に帰れ」

 

 

 その圧倒的なプレッシャーに生徒たちは完全に言葉を失い、青ざめた顔で立ち尽くしていた。

 

 

(……あー、なるほどね)

 

 

 俺は一人だけ冷めた目でその光景を眺めながら、前世で読んだある漫画のシーンを思い出していた。

 

 

(これ、完全に『僕らの異能アカデミー』の相崎(あいざき)先生がやってた『異能把握テスト』のノリじゃん)

 

 

 入学初日にいきなり実力テストを行い、最下位は即除籍処分にすると脅して生徒たちの本気を引き出すというあの有名な王道展開だ。

 

 

(……マジでテンプレ通りすぎて笑えるわw)

 

 

 俺は心の中で盛大に冷笑した。こういう『厳しいけど実は生徒想いの熱血教師』みたいなキャラは見ていて本当に「きちーw」と思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……おい、そこのスコップ担いだ平民」

 

 

 俺が一人で冷笑していると突然、グレンの鋭い視線が俺を射抜いた。

 

 

「なんだそのふざけた態度は。俺のテストが不満か?」

 

 

 グレンが立ち上がり、ゆっくりと俺の方へ歩み寄ってくる。周囲の生徒たちが「あいつ、終わったな……」という目で俺から距離を取り始めた。

 

 

「……別にw」

 

 

 俺はスコップを肩に担いだまま、気怠げに答えた。

 

 

「ただ、タイパ悪いなと思って。実力見たいならごちゃごちゃ脅してないでさっさとテスト始めればいいじゃんw 俺早く帰って寝たいんだけどw」

 

 

「………ほう」

 

 

 俺の言葉にグレンは右目の傷跡をピクリと動かし、ニヤリと凶悪な笑みを浮かべた。

 

 

「いい度胸だ。……ならお前からだ。前に出ろ」

 

 

 俺はスコップを肩に担いだまま、その冷笑するスタンスを一切崩さずにグレンの方へと歩み寄った。

 

 

「あそこの的が見えるか?」

 

 

 グレンは顎で訓練場の奥をしゃくった。

 

 

 視線の先には、頑丈そうな金属製のダミー人形がポツンと置かれている。そして俺の足元には白いチョークのようなもので引かれた一本の線。

 

 

 目測だが、線から的までの距離はおよそ50メートルといったところか。かなり遠い。

 

 

「線の位置から魔法でも物理でも何でもいい。あの的を壊せ」

 

 

 グレンは懐中時計を取り出し、カチリと蓋を開けた。

 

 

「制限時間は30秒。……お前なら出来るだろ?」

 

 

 ニヤリと、グレンが挑発的な笑みを浮かべる。

 

 

 入学初日の新入生に50メートル先の金属製の的を30秒で破壊しろという無茶振り。明らかに俺を試している、あるいは恥をかかせようとしているのが見え見えだった。

 

 

「あぁ、そういうノリ……w」

 

 

 俺はその安い挑発すらも冷笑で受け流し、線の方へ向かおうとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが、その時。

 

 

 

 

「ちょ、ちょっと待てケイ!」

 

 

 隣にいたレオナが慌てて俺の制服の裾をギュッと引っ張った。

 

 

「あんだよ」

 

 

「あ、あの距離は流石に遠すぎる! 私の『ファイア・ボール』でもあの距離だと威力が落ちて金属の的を壊すのは難しいぞ! ましてやお前のそのスコップじゃ届かないじゃないか!」

 

 

 レオナが必死に訴えかけてくる。

 

 

 すると、グレンが右目の傷跡を歪めレオナに向かって低く凄んだ。

 

 

「……邪魔をするな、ガキ。これはこいつのテストだ」

 

 

 本物の戦場を生き抜いた男の殺気。

 

 

「ひっ……!」とレオナは小さく悲鳴を上げ、肩をビクッと震わせた。

 

 

 だが、それでも彼女は俺の裾を掴む手を決して離そうとはしなかった。

 

 

(……マジで変なところで頑固だなこいつ)

 

 

「大丈夫だろ、これくらい」

 

 

「だ、大丈夫じゃない! もし失敗して退学にでもなったら……!」

 

 

「お前を負かしたんだから大丈夫だろw」

 

 

 俺は鼻で笑いながらレオナを見下ろして言った。

 

 

「お前みたいなポンコツお嬢様をボコボコにした俺があんなただの的当てで失敗するわけねえじゃんw 心配するだけ無駄だわw」

 

 

 諭しているのかただ馬鹿にしているのか…いや、ケイの性格からして完全に後者だろう。

 

 

「なっ……! こ、このっ、心配して損したわ!」

 

 

 レオナは顔を真っ赤にしてバシバシと俺の腕を叩いてきた。

 

 

 だが、ひとしきり叩き終わると彼女は少しだけ安心したような顔になり、俺からパッと手を離した。

 

 

「……絶対に失敗するなよ! がんばれよ!」

 

 

「うゆ」

 

 

 俺が気怠げに手をひらひらと振って線の方へ歩き出すと、背後でグレンが「……ガキがませてやがる」と呆れたように独りごちるのが聞こえた。

 

 

「ほら、さっさと線に立て。時間は待ってくれねえぞ」

 

 

 周囲の生徒たちが固唾を飲んで俺の行動を見守っている。遠く離れた席からはあの白髪の優等生・セレスティアの冷ややかな視線も感じる。

 

 

(さてと……)

 

 

 俺は白い線の前に立ち、黒いスコップ『泥土の聖刃』をだらんと下げたまま50メートル先の的をぼんやりと見つめた。

 

 

 周囲の生徒たちからヒソヒソと囁き声が聞こえてくる。

 

 

「おい、あいつ本当にあのスコップでやる気か?」

 

 

「50メートルだぞ? 斬撃を飛ばしたとして、俺ら新入生に破壊できるわけ……」

 

 

「魔法を使うにしても詠唱の構えすら取っていないじゃないか」

 

 

 誰もが俺の失敗を予想し、あるいは期待している。グレンも腕を組んだまま鋭い眼光で俺の一挙手一投足を観察していた。

 

 

(……あー、マジで馬鹿馬鹿しいw)

 

 

 俺はこの場を支配している『新入生特有の緊張感』や、グレンが醸し出している『教師のプレッシャー』、そして俺の失敗を期待する『周囲の視線』のすべてを心の底から見下した。

 

 

(たかが学校のテスト一つで何そんなに熱くなってんのw? アニメの主人公にでもなったつもりかよw…… ほんときちーわwww)

 

 

 俺の口角が自然と歪む。極限まで冷めきった対象を完全に小馬鹿にする『冷笑』。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 ──ピキッ。

 

 

 

 

 俺の足元の地面がうっすらと白く凍りついた。

 

 

「……ほう」

 

 

 一番近くにいたグレンが微かに目を細めた。

 

 

 訓練場内の空気が一瞬にして変わった。先ほどまでの熱気や緊張感が嘘のように消え去り、代わりに肌を刺すような異常な『冷気』が空間を支配し始めたのだ。

 

 

「さむっ……!? な、なんだ急に……!」

 

 

「おい、あいつの持ってるスコップを見ろ……!」

 

 

 生徒の一人が震える指で指差した先。俺が右手に持っている黒いスコップの刀身から尋常ではない量の『白い冷気』が立ち上っていた。

 

 

 俺の固有魔法【絶対的零度(冷笑)】。

 

 

 俺が周囲の熱いノリを冷笑すればするほど、その威力は際限なく跳ね上がる。

 

 

「……30秒もいらねえよばーかwww」

 

 

 俺は極寒の冷気を纏ったスコップをまるで野球のバットでも振るかのように、ただ無造作に横薙ぎに一閃した。

 

 

 詠唱もない、気合いの入った掛け声もない。ただのやる気のない素振り。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが──。

 

 

 

 

 

 

 

 ヒュゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!! 

 

 

 

 

 スコップの軌跡から放たれたのは視界を白く染め上げるほどの『絶対零度の吹雪』だった。

 

 

「うおぉぉぉっ!?」

 

 

「きゃあああっ!!」

 

 

 あまりの冷気と風圧に、周囲の生徒たちが悲鳴を上げて吹き飛ばされそうになる。

 

 

 だがグレンは微動だにしなかった。彼は腕を組んだまま、吹き荒れる絶対零度の風を正面から受け止めただ静かにその威力を値踏みするように見つめていた。

 

 

 放たれた絶対零度の斬撃は50メートルの距離など存在しないかのように一瞬で空間を駆け抜け、金属製のダミー人形を完全に飲み込んだ。

 

 

 そして、吹雪が晴れた後。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………は?」

 

 

 誰かの間抜けな声が響いた。50メートル先にあったはずの金属製の的は分厚い氷の塊に閉じ込められ、太陽の光を反射してキラキラと輝いていた。

 

 

 だが、驚くのはそこではない。

 

 

 ピキッ……。

 

 

 静まり返った訓練場に小さな亀裂の音が響く。絶対零度によって極限まで冷却された金属はその分子構造を破壊され、ガラスのように脆くなっていたのだ。

 

 

 

 

 パキィィィィィィィィィンッ!!!! 

 

 

 

 

 次の瞬間、氷漬けになった金属の的は自らの重さに耐えきれず粉雪のように細かく砕け散り跡形もなく消滅した。

 

 

「…………」

 

 

「…………」

 

 

 訓練場は水を打ったような静寂に包まれた。生徒たちは信じられないものを見るような目で、砕け散った的の残骸と俺を交互に見比べている。

 

 

 俺はスコップを再び肩に担ぎ直し、グレンに向かって気怠げに声をかけた。

 

 

「……これでいいっすかw? 先生。タイム何秒っすか? まさか30秒過ぎてないっすよねw」

 

 

 俺の冷笑混じりの問いかけにグレンは手元の懐中時計に目を落とし、パチンと蓋を閉めた。

 

 

「……11秒だ」

 

 

 グレンの声は落ち着いていたが、その右目の傷跡が微かに歪み、口角が吊り上がっていた。歴戦の猛者である彼から見ても、俺の一撃は『予想以上』だったらしい。

 

 

「合格だ。……どこか適当に座ってろ」

 

 

「うーっす」

 

 

 俺が欠伸を噛み殺しながら列に戻ろうとした時、ふと、遠くの席からの視線に気がついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 白髪の優等生、セレスティア・ウィンターロード。

 

 

 

 

 

 

 彼女は他の生徒たちのように驚愕して取り乱すことはなく、静かに腕を組み、氷のように冷たい青い瞳で俺を真っ直ぐに見据えていた。

 

 

(……なんだよ。文句あんのか)

 

 

 俺が視線でそう返すと、彼女はふいっと興味なさそうに顔を背けた。

 

 

 だがその横顔には明確な『対抗心』のようなものが浮かんでいるように見えた。

 

 

 周囲の生徒たちが未だにざわめきを引きずっている中、俺が列に戻るとレオナが満面の笑みで待ち構えていた。

 

 

「ふはははっ! 見たかお前ら! 流石は私の専属騎士だな、ケイ!」

 

 

 バシバシバシッ! と、レオナが遠慮のない力で俺の肩を叩いてくる。

 

 

「痛ぇよ。調子乗んなポンコツ」

 

 

「なんだと!? 褒めてやっているのにその態度はなんだ!」

 

 

 俺はギャーギャー騒ぐレオナを「はいはい、うゆうゆ」と適当にあしらいながら、訓練場の隅にある手頃な木箱を見つけてそこにどっかりと腰を下ろした。

 

 

 ここからなら残りの連中が必死こいてテストを受ける様子を安全圏から高みの見物ができる。

 

 

 そして、グレンによる地獄の魔法実力テストが本格的に始まった。

 

 

「あの平民にデカい顔をさせるな! 我々貴族の力を見せつけてやるぞ!」

 

 

「おおーっ!」

 

 

 俺の規格外の一撃に触発されたのか、あるいは平民に負けたくないというプライドからか、貴族の生徒たちが次々とやる気を出して前に出始めた。

 

 

「喰らえ! 『ウインド・カッター』!」

 

 

「『ロック・バレット』!!」

 

 

 流石は超難関の士官学校に合格したエリートたちだ。

 

 

 彼らが放つ魔法はどれも詠唱が早く、威力もそれなりに高い。放たれた魔法は次々と50メートル先の金属の的に命中し、鈍い音を立てて的を大きく凹ませたり焦げ跡をつけたりしていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが──完全に『破壊』するまでには皆あと一歩及ばなかった。

 

 

「くっ……! あと少しだったのに……!」

 

 

「ちぃっ、距離が遠すぎる……!」

 

 

 制限時間の30秒が過ぎ、悔しそうに顔を歪める生徒たち。最初に「基準に満たない奴は即退学だ」と脅されていた彼らは青ざめた顔でグレンの宣告を待った。

 

 

 だが、グレンは手元のバインダーに何かを書き込みながらただ淡々と告げた。

 

 

「……ほら、次のヤツ」

 

 

「え……?」

 

 

「退学、じゃないんですか……?」

 

 

 恐る恐る尋ねる生徒にグレンは鋭い視線を向けた。

 

 

「俺は『基準に満たない奴』と言っただけだ。的を破壊しろとは言ったが破壊できなかったから即退学とは一言も言っていない。……さっさと次に行け」

 

 

 その言葉に生徒たちは安堵の息を吐きながら列に戻っていく。

 

 

(……なんだよ、結局ただの脅しかよ。マジで相崎先生じゃん。きちーw)

 

 

 俺は木箱に座って欠伸をしながらその茶番を冷笑して眺めていた。

 

 

 そして、次々と生徒たちのテストが消化されていき──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「次。レオナ・フレイムハート」

 

 

 グレンの声が響き、いよいよ俺の隣でずっとソワソワしていたポンコツお嬢様の番が回ってきた。

 

 

「……っ」

 

 

 名前を呼ばれたレオナはビクッと肩を揺らし、不安そうな表情でチラリと俺の方を振り返った。いくら四大公爵家の令嬢とはいえ、まだ12歳の子供だ。他の優秀な生徒たちですら的を破壊できなかったのを見てプレッシャーを感じているのだろう。

 

 

「…………」

 

 

 俺は木箱に座ったまま、そんな彼女に対してアドバイスを送ることも気の利いた励ましの言葉をかけることも一切しなかった。

 

 

 ただ、極限まで冷めきった対象を小馬鹿にするような『冷笑』の笑みを浮かべて彼女を見つめ返しただけだ。周囲の生徒たちからすれば主君が不安がっているのに鼻で笑うだけの冷酷で薄情な専属騎士にしか見えなかっただろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが──。

 

 

 

 

 

「……ふっ」

 

 

 俺のその冷笑を見た瞬間、レオナの顔から不安の色がスッと消え去った。代わりに彼女の瞳に強い光が宿りパァッと自信に満ちた表情へと変わる。

 

 

(……は?)

 

 

 俺は内心で首を傾げた。俺はガチで「けけw 四大公爵家の令嬢がビビってらw」という意味を込めて冷笑したつもりだったのだが。

 

 

 どうやらこのポンコツお嬢様は俺のいつものふてぶてしい態度を見て「お前なら余裕だろ」という信頼の証だとでも勝手に勘違いしたらしい。

 

 

「……ふんっ! 見ておれケイ! 私の真の力を見せてやる!」

 

 

 レオナはマントを翻し、自信満々な足取りで白い線の上へと立った。

 

 

(……マジで変なやつだな、あいつ)

 

 

 俺は勝手に元気を取り戻したレオナの後ろ姿を見ながら呆れ半分でため息を吐いた。

 

 

「準備はいいか」

 

 

「いつでもいいぞ、先生!」

 

 

 グレンの問いかけにレオナは杖を構えて力強く頷いた。

 

 

 俺は木箱に座って頬杖をつきながらレオナがどの魔法でこのテストをクリアするつもりなのか、ぼんやりと予想してみた。

 

 

(……俺との決闘で見せた魔法の中であの50メートル先の的に届いて、かつ破壊できそうな魔法か)

 

 

 本人が先ほど「私の『ファイア・ボール』では威力が落ちて壊せない」と言っていた通り、初級魔法では距離による減衰が大きすぎる。

 

 

 となれば、威力もスピードも上位互換である『フレイム・ランス(炎の槍)』あたりが妥当だろう。貫通力に特化している分、魔力消費は激しいだろうが、今のレオナの魔力量なら数発くらいは撃てるはずだ。

 

 

(決闘の最後に撃ってきた紅蓮の火竜(クリムゾン・ドラゴン)なら確実に消し飛ばせるだろうけど……)

 

 

 あんな大魔法ポンポンと撃てるわけがないし、何より範囲がデカすぎて訓練場の壁まで巻き込みかねない。それとも俺との戦闘ではまだ見せていない別の強力な魔法を使うつもりなのか。

 

 

 俺がそんなことを考えていると、グレンが懐中時計の蓋を開け開始の合図を送った。

 

 

「始め」

 

 

 その声と同時、レオナは杖を両手で強く握り締め深く息を吸い込んだ。

 

 

「──ファイア・ウォール!」

 

 

 レオナが杖を振り下ろすと、50メートル先の金属の的を囲むように円筒状の炎の壁が出現した。

 

 

(……なんだ? 的を直接狙わないのか?)

 

 

 俺が訝しげに見ていると、周囲の生徒たちも「外したのか?」「いや、わざと囲んでいるぞ」とざわめき始めた。

 

 

「ふふん、ここからが本番だ! 炎の円環(フレイム・サークル)!!」

 

 

 レオナは続けて、的を囲む炎の壁の周囲をなぞるように高速で回転する炎の輪を放った。二つの魔法が交わり、炎が凄まじい勢いで回転を始める。回転は周囲の空気を巻き込み、瞬く間に巨大な『炎の竜巻(ファイア・トルネード)』へと成長した。

 

 

 

 

 ゴォォォォォォォォッ!! 

 

 

 

 

「なっ……炎で竜巻を!?」

 

 

「熱対流を利用して風の刃を生み出しているのか……!」

 

 

 生徒達が驚愕の声を上げる。

 

 

 竜巻の中心は極端な低気圧となり、凄まじい風の刃(カマイタチ)が生み出される。炎の熱で柔らかくなった金属の的にその風の刃が容赦なく襲い掛かった。

 

 

 

 

 ギギギギギギッ!! 

 

 

 

 

 熱と風の複合攻撃により、金属の的はまるでバターのように切り裂かれバラバラに崩れ落ちた。

 

 

「ふははははっ! 見たか! これが四大公爵家である私の真の力だ!」

 

 

 レオナは杖を天に高く掲げ、ドヤ顔で高笑いをした。

 

 

 周囲の生徒たちからは「おおっ!」「あんな方法があったのか!」「炎魔法だけであそこまで……!」と感嘆の声が上がる。

 

 

(……へぇ、ただのポンコツかと思ってたけど意外と頭回るじゃん)

 

 

 俺は木箱に座ったまま少しだけレオナを見直した。炎魔法だけで風の刃を作り出すとは。力任せに大魔法をぶっ放すのではなく、手持ちの魔法を工夫して効率よく目的を達成する。俺の好きな『タイパの良さ』を感じる戦い方だった。

 

 

「……合格だ」

 

 

 グレンも少しだけ感心したように頷き、バインダーにチェックを入れた。

 

 

「ふふん! どうだケイ、私の雄姿を見たか!」

 

 

 意気揚々と戻ってきたレオナが俺の前に立って胸を張る。

 

 

「まぁ、悪くなかったんじゃね? 脳筋かと思ったら意外と器用なことするし、タイパもそこそこ良かったわ」

 

 

「た、たいぱ……? よく分からんが、褒められているのだな! ふはははっ!」

 

 

 俺の適当な返事にもレオナは上機嫌で笑っていた。

 

 

「よし、次。……ガレス・アイアンフォージ。前へ出ろ」

 

 

 グレンの声に呼ばれ、一人の少年が前に進み出た。入学式の時俺が人間観察をしていて密かに目を付けていた奴だ。

 

 

 燃えるような赤いツンツン頭に見るからに暑苦しそうな熱血漢といった顔つき。そして何より目を引くのは彼の背中に背負われた身の丈ほどもある無骨な大剣。

 

 

(……あいつ魔法のテストだってのにあんなデカい剣持ち込んでどうするつもりだ?)

 

 

 俺は木箱の上で頬杖をつきながら少しだけ興味を惹かれていた。

 

 

 ガレスは白い線の前に立つと、背中の大剣をゆっくりと引き抜いた。

 

 

 

 

 ズンッ……! 

 

 

 

 

 大剣の切っ先が地面に触れただけで重い地鳴りが響く。

 

 

「準備はいいか」

 

 

「おうっ!」

 

 

 グレンの問いかけにガレスは気合いの入った声で応え、大剣を上段に構えた。

 

 

「始め」

 

 

 その合図と同時、ガレスの全身から凄まじい魔力が立ち上った。

 

 

 だがそれは炎や氷といった属性魔法の魔力ではない。彼の魔力はすべてその巨大な剣へと注ぎ込まれていく。

 

 

「……剛力(ごうりき)!!」

 

 

 ガレスが叫んだ瞬間、彼を包む魔力が赤黒いオーラとなって大剣に纏わりついた。

 

 

 身体強化魔法。それも極限まで筋力と武器の破壊力を高めることに特化した純粋な物理強化だ。

 

 

「うおおおおおおおおっ!!」

 

 

 ガレスは雄叫びを上げながら50メートル先の的をカッと睨みつけた。

 

 

 そして、その太い腕の筋肉を限界まで膨張させ大剣を思い切り振り下ろした。

 

 

「──飛空斬(ひくうざん)!!」

 

 

 

 

 ブォンッ!! 

 

 

 

 

 大剣が空気を切り裂く轟音と共に赤黒いオーラを纏った巨大な『飛ぶ斬撃』が放たれた。それは地面を抉りながら一直線に進み、50メートル先の金属の的に激突した。

 

 

 

 

 ガァァァァァンッ!! 

 

 

 

 

 凄まじい衝撃音が響き渡る。土煙が晴れるとそこには──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……おぉっ!」

 

 

「すげえ! 的が真っ二つだ!」

 

 

 周囲の生徒たちから歓声が上がった。金属製の的はガレスの放った飛ぶ斬撃によって見事に縦半分に両断されていた。

 

 

「へへっ、どうだ!」

 

 

 ガレスは大剣を肩に担ぎ満足げに鼻をこすった。

 

 

(……なるほどな。魔法で直接攻撃するんじゃなくて魔法で強化した物理攻撃を飛ばしたのか。脳筋に見えて意外と理にかなってるわ)

 

 

 俺は木箱に座ったまま少しだけ感心した。身体強化と剣術を極めればあそこまでの破壊力を出せるということだ。珍しく冷笑せず、素直に見習う部分があるとケイは考えさせられる。

 

 

「……合格だ。席に戻れ」

 

 

 グレンも少しだけ感心したように頷き、バインダーにチェックを入れた。

 

 

「おうっ!」

 

 

 ガレスは元気よく返事をし、列に戻っていった。

 

 

「よし、次が最後だ。……セレスティア・ウィンターロード。前へ出ろ」

 

 

 その名前が呼ばれた瞬間、訓練場の空気が先ほどとは違う意味でピンと張り詰めた。

 

 

 名前を呼ばれたセレスティアは静かに列を抜け出して前へと歩み出た。その際、彼女の視線が一瞬だけ木箱に座る俺の方へと向けられた。

 

 

 氷のように冷たく、見下すようなその瞳。それはまるで「あなたとは格が違うのよ」とでも言いたげな絶対的な自信と傲慢さに満ちていた。

 

 

(……なんだあの目。腹立つな)

 

 

 俺は一瞬だけ苛立ちを覚えたが、すぐに「あぁ、そういうテンプレお嬢様のノリね……w」と心の中で鼻で笑いいつもの冷笑スタンスを取り戻す。いちいちあんな挑発に乗ってやるほど俺は熱血じゃない。

 

 

 俺が口角を上げて小馬鹿にしたような笑みを返すと、セレスティアは微かに眉をひそめすぐに興味を失ったように前を向いた。

 

 

 そして、彼女は白い線の上に立つ。一切の無駄がない洗練された立ち姿。それだけで周囲の生徒たちが思わず息を呑むのがわかった。

 

 

 グレンが懐中時計を確認し、静かに開始の合図を送る。

 

 

「始め」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──氷獄の薔薇(ニブルヘイム・ローズ)

 

 

 セレスティアが静かに、しかし凛とした声で紡いだ。彼女が杖を軽く振るうと、そこから放たれたのは一本の極細の氷の針だった。

 

 

 

 

 ヒュッ……

 

 

 

 

 風を切る音すらほとんど立てず、その氷の針は50メートル先の金属の的に向かって一直線に飛んでいき──カチンッ、と小さな音を立てて突き刺さった。

 

 

「…………」

 

 

「…………」

 

 

 訓練場が静まり返る。爆発も、轟音も、派手なエフェクトもない。ただ的に小さな氷の針が刺さっただけだ。

 

 

(……なんだ? それだけ?)

 

 

 俺は拍子抜けして思わず首を傾げた。レオナの炎の竜巻やガレスの飛ぶ斬撃を見た後だとあまりにも地味すぎる。威力が高そうにも見えない。

 

 

(あんなんで的が壊れるわけ……あぁ、そういう見掛け倒しのノリね……w)

 

 

 俺が「その程度かよ」と鼻で笑い、いつものように冷笑してやろうとしたその瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──咲け」

 

 

 

 

 セレスティアが冷たい声で短く命じた。

 

 

 

 

 

 

 ピキッ……ピキピキピキッ!!

 

 

 

 

 的に刺さっていた小さな氷の針から突如として無数の氷の蔓が爆発的に伸び始めた。蔓は金属の的を内側から食い破り、外側へと巻き付きながら瞬く間に巨大な蕾を形成していく。

 

 

 

 

 そして──。

 

 

 

 

 

 

 パァァァァァンッ!! 

 

 

 

 

 美しいガラスが弾けるような澄んだ音と共に的のあった場所に見上げるほど巨大な『氷の薔薇』が咲き誇った。

 

 

「なっ……!?」

 

 

「さ、寒っ……!?」

 

 

 周囲の生徒たちが悲鳴を上げる。

 

 

 巨大な氷の薔薇が咲いた瞬間、訓練場全体の気温が一気に急降下したのだ。吐く息は白く染まり、肌を刺すような極寒の冷気が吹き荒れる。

 

 

 そして肝心の金属の的は──巨大な氷の薔薇が内部から咲き誇った影響で完全に粉々に砕け散り、氷の破片と同化してしまっていた。

 

 

「……ふぅ」

 

 

 セレスティアは杖を下ろし、白く染まった息を小さく吐き出した。

 

 

 その表情には誇るような色もドヤ顔もない。ただ「当然の結果だ」と言わんばかりの静かな自信だけがあった。

 

 

(……マジかよ。内部から凍らせて膨張する力で破壊したのか)

 

 

 俺は木箱に座ったまま少しだけ目を見開いた。

 

 

 俺の【絶対的零度】は冷笑することで際限なく冷気を放つ「暴力的なまでの温度低下」だが、彼女の魔法は違う。精密な魔力操作と氷の特性を完璧に理解した上での「芸術的な破壊」だ。

 

 

「……見事だ。合格」

 

 

 グレンも今日一番の感心したような声で告げ、バインダーにチェックを入れた。

 

 

 周囲の生徒たちからは歓声というよりもその圧倒的な美しさと威力に対する「畏怖」の溜息が漏れていた。

 

 

「……凄い」

 

 

 隣で見ていたレオナも、先ほどまでの自分のドヤ顔をすっかり忘れたようにポツリと言葉を失っていた。四大公爵家としてライバル視しているはずの彼女ですら素直に圧倒されてしまうほどの魔法だった。

 

 

 すると、的のあった場所から戻ってくるセレスティアが再び俺の方へと視線を向けた。その氷のように冷たい瞳の奥には、「どう? 私の力を見た?」とでも言いたげな強烈な自負と誇示の色が浮かんでいる。

 

 

(……確かにすげーよ。芸術点なら間違いなくトップだわ)

 

 

 俺は心の中で素直に評価した。

 

 

 だが、だからといって「俺も負けてられない!」なんて熱血な感情は微塵も湧いてこない。そもそも俺は誰かと競い合ってトップを目指すつもりなんて毛頭ないのだ。適当にやり過ごして楽に生きていければそれでいい。

 

 

 だから俺は、彼女の挑発的な視線に対してただ口角を歪めて笑い返した。

 

 

「けけw」

 

 

 声に出して、ただ小馬鹿にするように冷笑してやった。『お前のその無駄に高いプライド、コスパ悪そうだな』という煽りを込めて。

 

 

「………っ」

 

 

 俺のその態度を見た瞬間、セレスティアの切れ長な目が微かに見開かれすぐに不快そうに細められた。自分の圧倒的な魔法を見せつけてやったのに驚きもせず、悔しがりもせず、ただ薄気味悪く笑っているだけの平民。それが彼女にとってどれほど「面白くない」反応だったかは想像に難くない。

 

 

 セレスティアはフイッと顔を背けると、無言のまま訓練場の壁際へと歩いていき腕を組んで冷たい壁にもたれかかった。

 

 

(……あーあ、完全に嫌われたなw まぁ、関わり合いにならなくて済むなら好都合だけどwww)

 

 

 俺は肩をすくめ、再び木箱の上でだらんと姿勢を崩した。

 

 

「よし、これで全員終わったな」

 

 

 グレンがバインダーを閉じ、パンッと一度だけ手を叩いて生徒たちの注目を集める。

 

 

「それじゃあ、今から『退学』してもらう奴の名を上げる。呼ばれた奴は荷物をまとめて即刻ここから立ち去れ」

 

 

「……は?」

 

 

「え……?」

 

 

 グレンの口から放たれた冷酷な言葉に、生徒たちの間から驚愕の声が漏れた。

 

 

 的を破壊できなかった者もいたが、グレンは「次」としか言わずその場で退学を言い渡すことはなかった。だから全員なんだかんだで合格したのだと思い込んでいた。

 

 

 その甘えにも似た勘違いは、この男の前では通用しないのだった。

 

 

 

 

 

 

 




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