Muv-Luv OPERATION:LAST KISS 作:ババンババンバン
この世界へ来てから、私は幾度となく“敗北の空気”を見てきた。
死を受け入れるように出撃していく兵士たち。
そして、生き残ることそのものが奇跡である戦場。
彼らはあまりにも長い間、絶望と共に戦い続けていた。
だからこそ、今日の勝利には意味がある。
それは単に敵を打ち倒したというだけではなく、“人類は勝てる”という事実を、この世界へ示したのだ!
...そして、次起こるであろう戦いにも勝たねばならない。
この勝利を、一度きりで終わらせないために。
AD.2004.01.17
【日本帝国/佐渡島ハイヴ内】
坑道を進む第六軌道降下兵団、ウォー・ヘッド隊、ゴースト・タッチ隊。
閉鎖空間にも関わらず、周囲では絶え間なく銃声と爆発音が反響していた。
『右坑道より戦車級!』
『前方、突撃級多数!』
降下兵団の衛士たちは、36mm突撃砲を連射しながら後退射撃を行う。
さらに、一部のウォー・ヘッド隊も亜空間潜航を解除。
光子バルカンやミサイルによる猛烈な面制圧を開始し、坑道そのものを削り飛ばす勢いでBETA群を薙ぎ払っていく。
だが、それでも数が減る気配はなく奥の暗闇からは、まるで無限に湧き出るかのようにBETA群が押し寄せ続けていた。
『ウォー・ヘッド隊、カウボーイ1よりゴースト・タッチ隊メジェドへ』
『ウォー・ヘッドを数機選抜し、共に先行せよ。こちらはシューティングスターと連携しつつ、徐々に前線を押し上げる』
『メジェド1了解。カウボーイ4、5、続け。先行するぞ』
直後、ゴースト・タッチ隊数機と選抜されたウォー・ヘッドが再び亜空間潜航を開始。
機体周囲の空間を歪ませながら、BETA群をすり抜けるように坑道深部へ高速侵攻を開始した。
そして、ゴースト・タッチ隊による高精度マッピングの結果、部隊は間もなくハイヴ中枢――大広場付近と思われる深度へ到達しようとしていた。
《前方大広間確認》
《高熱源反応多数》
UIへ浮かび上がった警告表示を確認し、メジェド1は僅かに速度を落とした。
『...恐らく、大広間に超重光線級がいる。護衛のBETA群も相当数いるはずだ』
成層圏攻撃を可能とした、あの怪物。
もし地下空間で照射を許せば、坑道ごと蒸発しかねない。
『全機、警戒レベル最大。先行隊は接敵と同時に散開しろ』
『了解』
狭い坑道内へ、殺気にも似た重苦しい空気が満ちていく。
その時、暗闇だった坑道の先に、突如として巨大空間が広がった。
────大広間だ。
その中央で、90mを超えるであろう巨体。無数の光線照射器官をもつ光線級がまるで砲台のように鎮座していた。
さらに周囲には、通常の光線級と要撃級群まで密集している。
近、遠に対応した地下空間最悪の待ち伏せ陣形だ。
カウボーイ4が吐き捨てる。
眼下の大広間では、超重光線級を中心に無数の護衛BETAが展開していた。
まるで、この空間そのものが巨大な迎撃陣地だ。
『どうする? 波動砲で先制攻撃を仕掛けるか?』
『いや...得策ではないな』
メジェド1は、超重光線級を中心に展開する膨大なBETA群を見据えながら低く呟く。
『護衛BETAが少数であれば、先に超重光線級の照射器官と周囲の光線級を潰し、そのまま波動砲で決着を付けられる』
『だが、今回は数が多すぎる。あれだけの戦力を相手に、全てを捌き切るにはこちらの戦力が足りなさすぎる』
ほんの僅かな沈黙。
メジェド1は思考を巡らせた後、小さく息を吐く。
『...よし。一度本隊と合流し、作戦を練るぞ』
『『了解』』
亜空間潜航状態を維持したまま、ゴースト・タッチ隊とウォー・ヘッド隊は静かに後退を開始する。
巨大空洞を抜け、入り組んだ坑道を高速で移動。
周囲では依然として無数のBETAが蠢いていたが、潜航状態の機体群へ気付く様子はない。
やがて前方から、断続的な砲声と爆発音が響き始めた。
BETA群を迎撃していた第六軌道降下兵団と、ウォー・ヘッド本隊である。
『前方、シューティングスター隊確認!』
『挟撃するぞ!亜空間潜航を解除、撃てっ!』
突然後方から現れた戦闘機たちによる攻撃に反応する前に、前後からの高火力を受け瞬く間にすり潰される。
『こちらシューティングスター1! 状況は!?』
『今、詳細情報を送信する』
ゴースト・タッチ隊が取得した坑道内部および大広間の高精度立体マッピングデータが、全機のUIへ一斉共有される。
そして、大広間中央に鎮座する超重光線級とその周囲を埋め尽くす大量の光線級、要撃級群。
地下空間そのものが、巨大な迎撃陣地と化していた。
『照射密度が異常だ……回避空間そのものが存在しない』
重苦しい空気が流れる。
だが、その中でシューティングスター1は静かに前を見据えた。
『だが、やるしかあるまい』
『メジェド、カウボーイ。こちらシューティングスター』
シューティングスター1が、静かだが力強い声で告げる。
『我々は展開している光線級群の対処を行う』
『そちらは、その隙に超重光線級を短時間で撃破してほしい』
『こちらは多層防盾を展開しつつ攻撃を行う。超重光線級相手では流石に耐え切れんが、通常光線級程度なら持ち前の装甲と対レーザー蒸散膜で6~8秒は持つ』
『その間に、こちらが超重光線級へ接近するというわけか』
『そういうことだ』
シューティングスター1が頷く。
『光線級群の照射をこちらへ引き付ける。そちらは最短距離で突入し、超重光線級を叩け』
『長引けば終わる。勝負は一瞬だ』
通信越しに、各機が静かに武装確認を行っていく。
『こちらカウボーイ隊、いつでも行けるぜ』
『シューティングスター隊も準備完了だ』
『では、大広間前に移動するぞ。道中現れるBETAはウオー・ヘッドで蹴散らす』
ウオー・ヘッドが先陣を切り、大広間までの道を切り開く。
やがて、全機が大広間前へと辿り着く。
『全機、突入準備』
シューティングスター1の号令と共に、第六軌道降下兵団が陣形を展開する。
防盾持ちを前列に、後方には長距離砲撃機を。
さらにその上を、亜空間潜航状態のウォー・ヘッド隊とゴースト・タッチ隊が静かに待機していた。
『よし、カウントダウン開始』
『三...二...一...突入!』
その瞬間に、全機が同時に飛び出した。
突如として姿を現した人類側戦力へ、BETA群が即座に反応する。
要撃級が殺到し、超重光線級および周囲の光線級群も瞬時に照射態勢へ移行した。
まず最初に、光線級群がシューティングスター隊へ一斉照射を開始。
機体前方へ展開された多層防盾と対レーザー蒸散膜が、レーザーを受ける度に激しく火花を散らす。
そして、超重光線級が巨大照射器官を発光させ、超高出力レーザーを放とうとした瞬間。
既に亜空間潜航の状態で至近距離へ到達していたゴースト・タッチ隊全機が、超重光線級の照射器官へ向けて光子バルカンを一斉射撃。
超重光線級の照射が阻止された、その一瞬の隙にウォー・ヘッド隊が光線級群の背後へ回り込む。
『亜空間潜航、解除!』
空間の歪みと共に、ウォー・ヘッド隊が一斉に実体化。
光線級群が反応し振り向くよりも早く、光子バルカンと大量のミサイルを叩き込んだ。
至近距離からの飽和攻撃を受けた光線級群が、次々と吹き飛ばされていく。
『光線級無力化!』
カウボーイ1が怒鳴る。
『今度は俺たちが要撃級どもの気を引く! その間に、超重光線級へトドメを刺せ!!』
『『了解!』』
両隊は即座に反応した。
シューティングスター隊は防御陣形を解除。
超重光線級が振り回す巨大な衝角を、BETAの死骸と多層防盾を利用した紙一重の機動で回避しながら、一斉に体節接合部へ精密射撃を叩き込む。
選りすぐりの精鋭たちによる卓越した操縦技術と連携攻撃により放たれた弾丸は寸分違わず接合部へ集中し、その部位の肉を引き裂いていく。
接合部を千切り飛ばされた超重光線級は、大きく体勢を崩す。
巨体が傾き、その下敷きとなった周囲のBETA群が、鈍い破砕音と共に次々と押し潰されていく。
ゴースト・タッチ隊が倒れた超重光線級を、光子バルカンで死体撃ちを行ったところで
生命反応の消失がUI表示により確認された。
UIへ表示された情報を確認し、各隊へ歓声にも似た安堵が走る。
『超重光線級、沈黙確認!』
だが、戦闘はまだ終わっていない。
大広間内部では依然として大量のBETA群が蠢き続けており、崩れた超重光線級の周囲へ新たな要撃級や突撃級が集まり始めていた。
『長居は無用だ! 全機、撤退するぞ!』
全機が後退射撃を行いながら、大広間から離脱していく。
36mm弾と光子バルカンの曳光が暗闇を走り、迫るBETA群を次々と吹き飛ばす。
そして坑道中層部まで後退したところで、メジェド1が通信回線を開いた。
『こちらゴースト・タッチ隊メジェド1よりHQ! 超重光線級の無力化を確認!』
その報告を聞いたジェイドは、一瞬だけ目を伏せる。
そして次の瞬間、決意を宿した眼差しで前を見据え、全軍回線へ向けて叫んだ。
『全軍へ伝達! 超重光線級を無力化!』
『総攻撃を開始しろ!!』
ジェイドのその一声を合図に、地上で待機していた人類側全戦力が一斉に動き始めた。
そこから先のハイヴ攻略は、もはや時間の問題だった。
無数の戦術機部隊が隊列を組み、次々と地下坑道へ突入していく。
今度は――人類側が、BETAを蹂躙する番だった。
36mm砲弾が坑道を埋め尽くし、長刀が肉塊を切り裂き、砲火と爆炎が地下空間をBETAの体液で染め上げていく。
途中、偽装横坑道から新たなBETA群が出現し、各所で被害も発生した。
だが、それすらも流れを止められない。
圧倒的物量と圧倒的火力という名の“暴力”によって、立ちはだかる全てを押し潰していった。
各部隊が制圧区域を広げる度に、ハイヴ内部の抵抗は目に見えて弱まっていく。
やがて、無数の戦術機群が雪崩れ込むようにハイヴ中枢区画へ突入。
人類はついに、佐渡島ハイヴの心臓部――反応炉前へ到達していた。
反応炉を守るように最後の抵抗を続けていた要塞級群も、集中砲火の中へ次々と沈んでいき、最後の一体が崩れ落ちた。
『...反応炉の確保を完了。BETA群の反応も検出されません』
僅かな沈黙の後、震える声で最終報告が告げられる。
『佐渡島ハイヴ、制圧...確認しましたっ...!!』
その報告が全軍へ通達され、一拍置いた次の瞬間――
無線回線は、爆発したような歓声に包まれた。
『やった...!』
『俺達で佐渡島を取り戻したぞ!!』
『うおおおおおおッ!!』
『やったね、タケルっ!』
『ほ、本当に...生きて作戦を完了させちゃいました...!』
『ああ、俺たちは生き残ったんだ!しかも、完全勝利でな!』
これまで張り詰めていた感情が、一気に解放されていく。
戦術機のコックピット内で拳を握り締める衛士。
崩れ落ちるように座席へ身体を預ける整備兵。
無線越しに嗚咽を漏らす兵士たち。
かつて日本が敗北し、日本を蹂躙する足掛かりとなった地獄。
その場所を今、人類は取り戻したのだ。
最上艦橋では、小沢提督が戦闘後処理の指示を飛ばし続けていた。
損害の確認や負傷者の後送などで勝利の余韻に浸る暇など、本来なら存在しない。
『佐渡島ハイヴ、完全制圧を確認』
その報告を耳にした瞬間、小沢は思わず目を閉じた。
泣きそうになる感情を、提督としての立場と責務で必死に押し留める。
そんな彼へ、香月夕呼が静かに声を掛けた。
『...小沢提督。出撃させた衛士たち、8割のバイタルを確認しました』
その一言だった。
張り詰めていた感情の防波堤が、ついに決壊する。
『...こんな...夢みたいなことが起こるとはな...』
嗚咽を堪え切れない。
小沢は顔を覆い、そのまま声を震わせながら涙を流した。
周囲に人目があることなど、もうどうでもよかった。
その様子を見て、ハイヴ攻略の実感を持った夕呼は
『ちょっとは、スッキリしたわ...』
誰に行ったわけでもない言葉が、艦橋内に響く歓声にかき消されていく。
『提督、出撃した戦闘機全機の回収を確認しました』
イングラハムが静かに報告を行う。
『了解した。ジェリコ・トランペットは即時凍結封印。ただし、パイロットはコックピットから出し、別室で待機させろ』
『...よろしいのですか?』
イングラハムが僅かに眉をひそめる。
すると提督は小さく息を吐いた。
『本来なら、搭乗者への負担を考慮して機体ごと凍結封印したいところだ』
『だが、連続して凍結封印処置を行えば、それこそ身体へのストレスが大きすぎる』
『特に今回は、長時間の運用を行っている』
提督はモニターへ表示されたジェリコ・トランペットの機体データを見つめながら続ける。
『バイド液との高深度同期状態も危険域寸前だ。これ以上は、精神汚染や神経損耗のリスクが跳ね上がる』
『...了解しました』
イングラハムは静かに頷いた。
あまりにも強力すぎる決戦兵器、ジェリコ・トランペット。
その代償として、搭乗者へかかる負担もまた常軌を逸していた。
『機体の完全封鎖を確認後、研究班へ引き渡せ』
『外部アクセスは最優先権限以外禁止。監視レベルも一段階引き上げろ』
『はっ』
命令を受けたイングラハムが敬礼し、艦橋を後にする。
残された提督は、しばらく無言で戦況モニターを見つめていた。
そこには、朝日に照らされる佐渡島の海が映っている。
――人類は勝った。
だが、封印していた決戦兵器を使った上での勝利だ。
提督は小さく目を伏せる。
歓喜と不安。
その両方を抱えながら、
◇◇
流星作戦(オペレーション・シューティングスター)
実施日時:AD.2004.01.17
作戦地域:日本帝国領佐渡島
作戦目的:極東戦線の安定化
作戦目標:甲21号目標の無力化、ハイヴの占領及び可能な限りの敵情報収集、敵の突然増殖の原因究明
作戦立案:地球連合軍バイド討伐艦隊総司令、ジェイド・ロス提督
作戦発令:日本帝国軍参謀本部
交戦勢力:国連軍、日本帝国軍、日本帝国斯衛軍、第三帝国軍、統一中華戦線軍、ロシア軍
結果:人類側の勝利
作戦結果
甲21号目標の完全制圧に成功。
出撃した兵士の多数が生存・帰還を確認。
超重光線級を撃破し、反応炉の確保完了。
総評
本作戦は、人類史上初となる“超重光線級存在下での大規模ハイヴ制圧作戦”として記録された。
特に討伐艦隊が投入した
・長距離波動砲
・亜空間潜航戦術
は従来のBETA戦術体系を根本から覆すものであり、今後の対BETA戦争における戦略転換点となる可能性が高い。
また、本作戦成功による心理的影響は極めて大きく、世界各国において「人類による反攻は可能である」という認識が急速に広がる結果となった。
この小説を読んでいただき、本当にありがとうございます。
もし、
・「ここの設定は原作と違う」
・「この描写は少し不自然かもしれない」
・「誤字脱字がある」
など、お気付きの点がありましたら、ぜひ遠慮なく教えていただけると嬉しいです。
感想やご指摘をいただけるだけでも、とても励みになります。
これからも少しずつ頑張って書いていこうと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。