ダンジョンに魔虚羅がいるのは絶対に間違っている   作:パクチーダンス

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第四話 アイズ vs 『怪物』

 

 走る。走る。走る。

 

 ただひたすらに走り続ける。

 

 途中モンスターと遭遇するが、体力を無駄にしたくないアイズは、戦闘をせずに足で置き去りにする。

 

(次は、絶対逃げない………)

 

 襲われた冒険者を助けようという気持ちは二の次三の次。あの『怪物』と戦うことを第一とし、目的地の25階層へ。 

 

 今のアイズには、自分がどれだけ無謀な事をしているのかを、判断する能力を置いてきてしまった。

 

(冒険者を襲った、アレはやっぱりモンスターなんだ。

殺さなきゃ、モンスターは全て…………)

 

 そうしてアイズは、自らの足で死地へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アイズがダンジョンへ向かった事を知って、フィンは直ぐに装備(フォルテイア・スピア)を手に取って出る準備をする。

 

「リヴェリア! アイズを追いかけるぞ!ガレス達にも準備させろ!」

 

 アイズがダンジョンへ向かった理由、昔の彼女を知る者からすれば容易に察せられる。だからリヴェリアも真っ先にフィンに伝えてきたのだ。

 

「分かった!」

 

 リヴェリアはガレス達を呼びにフィンの部屋から出て行った。

 

「団長! 俺たちは!」

 

「待機だ」

 

「でも……!」

 

 自分が付いて行っても邪魔になるのはラウルも理解している。しかし、このままフィン達だけで行かせても良いのかという葛藤が彼を苦悩させる。

 

 さらに反論しようと口を開くラウルの口を、

 アナキティが塞ぐ。

 

「分かりました。団長…………ご武運を」

 

「すまないアキ。ラウル心配するな。戦いに行くわけじゃない。アイズを連れ帰ってくるだけだ」

 

 まだ何か言いたそうだったラウルだったが、グッと口を噤んで小さく頷いた。

 

「フィン! 出るぞ!」

 

 部屋の外からリヴェリアが呼んでいる。フィンは、ラウルとアナキティの横を通り過ぎて部屋から出て行った。部屋に残った二人は、

 

「ラウル………」

 

「分かってる………ごめん、アキ」

 

 アキだって同じ気持ちだったろうに、とラウルは下を向く。

 

「フッ、良いわよそんなの。

 無事に戻ってくる事を祈りましょう」

 

 早く団長達に追いつきたい。その気持ちは一緒だから。アナキティは優しくラウルの肩に手を置いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アイズが25階層へ辿り着いた瞬間、異様な空気を感じ取った。もうこれで三度目だ。だんだんと慣れてきた自分がいる。

 

(すぐ近くにいる)

 

アイズは崖から下の階層を覗き込んだ。

 

(いた、あそこだ)

 

 27階層。湖の底から露出している岩で腰を下ろしているヤツを見つけた。何をせず、ただジッと座っている。まるで何かを待っているような。

 

(今度こそは……!)

 

 アイズは『怪物』のもとへ駆け降りていく。その最中、モンスターが一切出て来なかった(・・・・・・・・・・・・・・・)のだが、そこに疑問を持つことは今のアイズには出来なかった。

 

 27階層に足がつくと、待ってましたと言わんばかりに、『怪物』がアイズの方へ顔を動かした。

 

(ーーッ!?)

 

 すぐに剣を鞘から引き抜き、剣先を『怪物』へと向ける。そして、やはりと言うべきか。手が小刻みに震えだした。

 

(落ち着け………落ち着け…………)

 

 心を落ち着かせるアイズ。そんなアイズの気持ちなど知らない『怪物』は、とある場所を指差した。

 

 そこには冒険者が一人仰向けで倒れていた。

 

『……………………………………………………』

 

 訳 ほら、ここにいるよ。早く助けてあげて。

 

 

 やはり声が出ない。ようやく来てくれたのに、この期に及んでチキってしまった自分に嫌気がさす。

 

 でも、最後だけは、謝罪の言葉だけは絶対に伝えよう。『怪物』は拳を握り締め、勇気を振り絞り立ち上がった。そして、アイズの元は歩き出そうとしたのだが、

 

目覚めよ(テンペスト)

 

『………』

 

訳 : ん?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リル・ラファーガ!」

 

 

『……………』

 

訳 : なんで?

 

 

 

 

 魔法【エアリエル】の風を全身に纏いながら放つアイズの必殺技。それをモロに食らってしまった『怪物』は、腹部を貫かれそのまま後方の壁へと吹き飛ばされしてしまった。

 

 壁にめり込んだ『怪物』は、しばらく動かずただアイズを見ていた。理解出来なかった。何故を攻撃してくる? 何故助けてやらない? 彼女はきっと誤解している。自分は謝りたいだけなのだ。

 

 

 

(まだ、生きてる)

 

 一方のアイズは『怪物』を観察していた。腹にポッカリと空いた穴。間違いなく致命傷だが、灰となり消える様子は一切見られない。

 

(あの浮遊してる物体、一体なんだろう……)

 

『怪物』の頭の上で浮遊している荷馬車の車輪のようなもの。それに注視していたアイズは、『怪物』の腹部の穴が無くなっていることに、一瞬遅れて気が付いた。

 

(再生! なんて速さ………)

 

 再生。いや、超速再生とでも呼ぶべきか。そのような能力を持つモンスターとは今まで会ったことがない。やはり、他のモンスターとは格が違う事をアイズは改めて理解する。

 

『怪物』は壁から抜け出して地面に降り立った。そしてコチラへ歩いて来る。来るか。

 

「はぁぁぁ!!」

 

 アイズは『風』を纏った剣で切り掛かった。

 

『……………………』

 

訳 : ちょっと待って

 

『怪物』はオーバー気味に回避したが、アイズは驚いていた。巨大に似合わない小回りが効く俊敏な動き。

 

(逃がさない……!)

 

 すかさず追撃に走るアイズ。

 

 

 

 

 

 

 

『…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………』

 

訳 : 何なんだよもう。やりたいのか?そこまで戦いた

  いのか?自分は謝りたいだけなのに。なんで攻撃

  してくるんだよ。おかしいだろ? いいよもう。

  やってやるよ。思う存分、やってやるよ怒!!

 

     『怪物』は迎撃を開始する。

 

 

         ガコンッ!

 

 

 法陣が回った。アイズはそれが何の音なのか分からなかった。さぁ、今から一方的な蹂躙が始まる。

 

 

「ーえっ  バゴォォォォォォォンッッ!!!

 

 

 それは『怪物』が、アイズの魔法【エアリアル】に『適応』した音だった。アイズは『怪物』に殴り飛ばされた。そして空中で何度も回転し、最後には不恰好なまでに地面へと不時着した。

 

 

 

 

 

 

(な……に…が…………)

 

 何が起きた? 『風』は間違いなく『怪物』を捉えたはずだ。なのに吹き飛ばされたのは自分。気付けば身に付けていた鎧が剥がれ落ち、その残骸が周辺に散らばっている。鎧がなければ即死だった。

 

 足音が聞こえて来る。死の足音が。寝転がっている場合ではない。アイズは身体中に走る痛みに耐えて立ち上がると、再び『怪物』と向き合う。

 

 そしてまた、自分に『風』を纏わせる。そして放つのだ。渾身の一撃を。

 

「リル・ラファーガ!!」

 

『風』が荒れ狂う。アイズの剣先は『怪物』の胸の中心へと直撃した。

 

(当たった……!)

 

 あぁしかし、本当に残念なことに、彼女は自分が無意味な行動をしていることに、未だ気が付いていない。故に、襲い掛かる『風』を前にして、『怪物』は涼しい顔でアイズを見下ろしていた。

 

「どう………して……」

 

 ニタァと笑みを浮かべる『怪物』にアイズは足がすくむ。彼女の顔に、恐怖の色が浮かび上がる。

 

「ガッ!?」

 

 『怪物』の左足蹴りがアイズの横腹に命中し、アイズは見事なくの字に折れ曲がった。先程の殴られた強さに比べれば弱いが、アイズの顔を痛みで歪ませるには十分だった。身体が飛んだ先には大岩があり、彼女の背中はそれに激突した。

 

「あ………が………」

 

 背中に痛みが走る最中、続けて『怪物』はアイズの細い足を掴かみ、宙吊りの状態にした。

 

『………………………』

 

 壊れるな。顔がそう言っているように思えた。次の瞬間、宙吊りになったアイズは高く持ち上げられると、そのまま地面へと叩きつけられた。

 

 砂埃が舞う。それをアイズで払い除けると、またも地面へと叩き付ける。

 

「や…………………………め………………」

 

 アイズの懇願など、『怪物』の耳には届かない。

 

 バコンッ!

 

 何度も。

 

 バコンッ!!

 

 何度も。

 

 バコンッ!! 

 

 そう何度も。アイズは地面に叩き付けられる。既にボロ雑巾と化したアイズだが、『怪物』の手は一向に止むことはない。

 

 アイズの肉体が原型を留めることができたのは、Lv.5という強靭な肉体のおかげ。

 じゃあアイズの意識は? 声を掛ける者がいたとしても、返事は返って来ないだろう。

 

 

 

 

アイズ!!!

 

 リヴェリアの、アイズを呼ぶ声が階層中に響き渡った。だが、先程も説明した通り、アイズは意識を失っている。だから返事はない。

 

『………………』

 

 どうやら応援が来たようだ。『怪物』はボロ雑巾を冒険者達へ投げ捨てた。上から飛んでくるアイズを、ティオネがキャッチする。

 

「酷い……なんてこと…………」

 

 身体中の至る所が青紫色に染まっている。出血箇所も多数確認できる。『怪物』に掴まれていた足は、目視でわかるくらいには折れていた。その他にも折れてる箇所はあるだろう。何より、あのアイズの綺麗な顔が、一面傷だらけ。

 

「リヴェリア!!」

 

「アイズ!!」

 

 フィンに言われるまでもなく、リヴェリアはアイズへ駆け込む。そして治癒の魔法を掛け始めた。

 

「テメェ……よくもアイズを……!!」

 

 ベートはアイズの見るも無惨な姿にブチギレ。

ティオネとティオナも同様。今すぐにでも襲い掛かろうとした時、

 

「やめろ!!」

 

 フィンからの制止。

 

「なんでだフィン! アイズをやったこのクソ野郎を「やめろと言っている!!」……なっ!?」

 

 ベートの激号を、フィンの怒号で抑えつける。

 

「ここへ来た目的を忘れたか!」

 

 アイズを連れ帰るため。

 

「だけどよフィン! はいそうですかと、コイツが帰してくれる保証はねぇぞ!」

 

「ッ!」

 

 ベートの言う通り。逃げられる保証はどこにもない。『怪物』は今もフィン達を見ている。見てーーーそしてーーー背を向けた。興味を失ったように。

 

「なっ!? あの野郎!」

 

 言葉を話さずとも、『怪物』の漂う張り詰めた空気が散らばっていくのを感じる。もう十分遊んだ。帰るつもりなのだと理解したベートは憤慨する。

 

「ふざけんじゃねぇぞ。コケにしやがってぇ!!」

 

「ベートやめろ!」

 

 今にも飛びかかりそうなベートを後ろから拘束するガレス。

 

「離しやがれ!! あの野郎ぶっ飛ばしてやる!!」

 

「落ち着け! お前さんが行ったところで返り討ちに会うだけじゃ!」

 

 ガレスとリヴェリアがフィンに目配せする。もうここにいる理由はない。フィンが指示を下した。

 

「目的は済んだ。これより帰還する。行くぞ」

 

 

 

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