「教祖様。本日の御神託は」
「……そうですわね、WSGだっけ?あれ、延期になりますわよ」
おお、と周囲の者達は流石教祖様や千里眼の御力と持て囃される。ああ、なんて空虚なんだろうと思うもそれはおくびにも出さず慈悲深く妖しい魅力のある教祖様の笑みを崩さない。
ここは宗教団体、輪廻千里眼教会の本部の礼拝堂。そして私は輪廻千里眼教会の教祖、リンネ様である。
そも輪廻千里眼教会とは輪廻転生や六道輪廻の考え方の下、徳を積めば来世でより良き事が起こる。そして教祖の千里眼は凡てを見通しておりあらゆる災難を事前に見通す事が出来る。信ずれば恩恵に預かれるし、修行すれば教祖のように千里眼を身につけられる……かもしれない。
……バカバカしい。
まごうことなきインチキ新興宗教である。唯一インチキじゃないのは一番インチキくさい千里眼である。もっともソレも今ではインチキなのかもしれないが。そんな気持ちは出さないようにしながら微笑み続ける。まあこの地位にも組織にも人生にもすでに興味はなく、ただ与えられてるロールに従い惰性で過ごしているに過ぎない。
今日は新たな入信者が目通りに来ている。老若男女問わずで20人程度であろうか。教団の服である白い作務衣のような服を着た中で一際目立つ男がいた。やや褐色の肌に金髪の髪をし整った顔立ちの青年。年齢はおそらく私とそんなに変わらない。
そんな容姿で目立っている彼はその運命も目立っていた。入信者はこの目通りの際に私が千里眼で見ることになっている。幹部どもはこれはただの儀礼的なもの兼教祖のカリスマ性を際立てるものとしか思っていないが、私が彼らの未来を見ている。
彼の運命は普通のものではない。普通の日本人は銃器を持たないし突き付けられはしない。となると普通ではないという事である。
「そこのあなた、この後私の部屋に来なさいまし」
ああ、私は彼のような男を待っていたのかもしれない。この惰性で続く悪夢を終わらせてくれるような人を。
「……あなた、中々数奇な未来を辿るのね」
輪廻千里眼教会。最近急激な拡大を見せている新興宗教で拡大に伴いトラブルも増加してきている。曰く家族が入信したとか、お金を巻き上げられただとか。
新興宗教……悪質なカルト宗教というのはどの世界でも問題しかうまないし、我が国の犯罪史においては切っても切れない深い傷がある。
さてどんな肥え太った金や欲の亡者が出てくるかと思えば出てきた教祖は化粧の濃い女で装飾品の類も多数身につけている。それがどれ程の被害者達の涙から生まれているかと考えると腸が煮えくり返るかと思った。
この宗教は入信の際に教祖から神託を賜るのだそうだ。どうせでまかせか当たり障りの無いモノだろうと思いながら自分の順番を待つ。
数奇な運命。目の前に来た女はひどく退屈そうに儀式をこなしていたが自分を見下ろすなりその様子を変じさせた。それは一瞬だけであったがすぐにまたつまらなそうな雰囲気に戻った。
潜入が気づかれたか?いや気づかれたとして探偵として潜っているのでさらに先の内偵の事までは至らないだろう。
「銀髪の黒尽くめの男性に銃を突きつけられていますわね。それによく平然としていられますわ」
顔を上げられなかった。何故組織の事を知っている?もしかして輪廻千里眼教会は組織とつながりがあるのか?ならば猶更調べ上げなければいけない。平静を装い顔を上げる。教祖と目が合う。碧の瞳が俺を見ているようで見ていなかった。
この後、私の部屋に来なさい。それは教祖からの異例の声かけだった。供回りを務める幹部たちは教祖をいさめようとする。その様子に教祖に対して敬っているようでそうではないように感じた。しかし教祖は頑なで俺を部屋に招こうとする。
俺としてはあまり目立ちたくはないが教祖と接触できることと一気に本丸には入れることのメリットは大きい。しかし教祖がそこまで俺を気にすることに気味悪さも覚える。
「リンネ様」
「ようこそ、安室様。何かお入れいたしますか」
「いえ、お構いなく。それで、リンネ様はなぜ僕をお呼びになったのでしょうか」
応接テーブルの向こう、教祖リンネは暖かな笑みを浮かべている。俺は困惑してる風を装いまずはなぜ呼ばれたのかを聞く。
「安室様、あなたは何を求めて千里眼教会に来られたのですか?」
当然の質問。それに用意していた当たり障りのない理由を話す。報われないだとか救われたいだとか自分では吐かないだろう言葉を紡いでいく。するとリンネはクスクスと笑う。
「何か可笑しいですか」
「あなた、私の千里眼を信じてますか」
「モチロン信じてますよ」
そんな筈は無い。確かに彼女の予言は当たるが、それは彼女の予言を成就させようと動いている勢力がいる事は調べがついている。
彼女がメディアなどで災害や重大事件を幾つも当ててきた。米花シティービルの爆発やノアズ・アークの暴走、飛行機の不時着や北ノ沢ダムの決壊。それらによって彼女の能力は疑いないとされてるがどうだか。今回のWSGについても今から水面下で延期の工作が行われるのだろう。
「嘘……ですわね。あなたは私を探りに来た人」
「参りましたね。確かにまだあなたの軌跡を信じられていないのは認めますが少々飛躍させすぎでは」
「いえ、あなたは探りに来た人。しかしそれを咎める気はないの」
リンネはスっと目を細めてそう言う。その言葉に俺は取り繕おう著するが、彼女が浮かべているのは慈愛や博愛が似合う表情ではなく挑発するような顔。この詐欺師が。
「存分にお調べになって。貴方が望む答えはきっと出てくるわ」
「それはあなた自らお認めになると」
「⋯⋯さあどうでしょうね」
安室に退出を促せば素直に外に出ていく。
きっと何かを仕掛けられているだろう。それに彼が望む答えはきっと記録される。教会のNO2は裏社会と繋がりがあるし、教団の資金が流れているのも知っている。
幹部連中は予言という不確かなものは信じておらず私の言を実行し権力と財を成すことしか考えていない。もう私の力が本物だろうと偽物だろうと関係はないのだ。
部屋にある大きな姿見に目をやる。そこに映るのは装飾品で着飾られた教祖。その姿が⋯⋯リンネのものであるのかすら疑わしい。ただその姿が映るだけである。私の未来予知は見ることが必要である。だからだろうか自身の未来は分からない。
私はひどくつまらない顔で煙草に火をつける。いつからかその味は忘れてしまっていた。そういえば彼も爆死する直前にタバコを吸っていたといつの日か未来で見た光景を思い浮かべる。
ああ、彼が爆死する寸前どんなことを思ったのだろうか。あの前日彼にした予言はその通りになってしまった。彼は私を恨みながら死んだのだろうか。今となってはその答えは聞けない。
「⋯⋯萩原君」
君ならばと縋ってしまった私が悪かったのだろうか。幼いころ私の予言を聞いてくれた君ならと思ってしまった罰なのだろうか。君が生きていたら私を止めてくれたのだろうか⋯⋯
「はは、責任転嫁も甚だしいわね」
たとえ自身に千里眼が使えなくてもたどる路は破滅であろうことは簡単に理解できる。いずれこの砂上の楼閣は倒壊するだろう。多くの人を不幸にして、多くの人に甘い後遺症を残して。悪党の多くは地に潜り、私は吊るされる。財貨と罪過で固められた絞首台への階段を、私は吊るされなければ収まらないところまで登ってしまった。
先ほど安室とした問答がよみがえる。
「ひとつ聞いていいでしょうか?あなたは千里眼を手に入れたいと思いますか?」
「リンネ様のようにたくさんの人を救えるなら手にしてみたいものですね」
「ほんと、未来が見えたところでいい事なんて⋯⋯一つもないわ」
リンネ
未来が見える教祖様。詐欺占い師リンネのある世界線の姿。見えてしまうことにより凡てにおいてやる気がなく、観測者じみておちょくる事や一度自分を侮った相手に屈辱を与える事でしかコミュニーケーションを取れない性格難……だったがこの場面では既に凡てを諦めており早く吊るされる事すら願っている。
荻原とは同級生で一度引っ越しで転校するが東京で再会し予言をするがこの世界線では爆死。