アモン・ラーとイシスの剣   作:コシャリは食べに行った

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なお作者は調べられる限り調べたけど、神話について間違ってるよという指摘があればお願いします。神話解体は難しいね原作者の先生はよく毎回あんなに複雑な神話解体をできるなって読むたびに思うもん

書きたかったけど書けなかった部分

「ネフェル、これなに?じいさんは俺に何を託したの?」
「それはイシスの剣。エジプトの秘宝で神の真名を暴く言霊の剣よ」
「これを使う機会が訪れるの?」
「訪れないほうがいいわ。そんなの世界の危機だもの」


神殺し

 肺が、燃えていた。

 吸い込む大気はオーブンの熱風そのものであり、呼吸をするたびに気管が、肺の最深部がじりじりと干からびていく。

 背中を直撃した神の火、最高神アモン・ラーの放った絶対熱線は、耀の肉体を内側から焼き焦がし、炭化させていた。一歩動くたびに、全身の神経が千切れるような激痛が骨の髄を駆け抜ける。人間の肉体としては、すでに何十回と死んでいておかしくない致命の領域。

 

 それでも、耀は立ち上がった。

 右手に握りしめた、青く眩いメダリオンを持って

 質量を持たないはずの、ただの青い光の束。だが、それは驚くほど確かな拒絶の意思となって、耀の壊れかけた身体を支えていた。

 

 「嘘……そんな身体で、なんで立ち上がれるのよ……っ!」

 

 すぐ近くで、ネフェルが、涙に濡れた琥珀色の瞳を見開いて叫んでいた。彼女の白いリネンの衣服は、先ほど耀が彼女の言うことを聞かなかったせいで耀自身の血で赤く染まっている。

 

 ホテルの夜に他人のために死ぬなと、彼女は言った。生き残りなさい、と。

 その必死の叱咤と、今回の命の危機が耀の魂を縛り付けていた冷たい鎖、生き残ってしまった罪悪感を叩き割ったのだ。

 

 不思議なほど、冷徹に脳が冴え渡っていくのを耀は感じていた。胸元でドクドクと脈打つラピスラズリのメダリオン。祖父の遺品であり、かつてエジプトから持ち出された神具『イシスの剣』

 

 そこから流れ込む熱量が、耀の記憶の底に眠る、優しかった育ての親、祖父のしわがれた声を鮮烈に引っ張り出してきた。

 

 

 『いいか、耀。エジプトの神様ってのはな、人間と同じくらい嘘をつく。そして、人間もまた、自分たちの都合で神様にたくさん嘘を着せるんだ。……特に、最高神アモン・ラー。あれはな、人間たちの歪んだ欲望が作り上げた、ツギハギだらけの偽物の太陽なんだよ』

 

 じいさん。俺は神話のマニアでも、魔術師でもない。

 だけど、じいさんが俺を寝かしつけるために何度も何度も語ってくれたあのお伽話は、ぜんぶ本物だったんだな。

 

 理不尽な運命に立ち向かうための、神を殺すための最高の武器だったんだ。

 

 武器は此処に!!下剋上を此処に!!

 

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!

 

 神殿の崩落した天井、そこから覗くルクソールの青空を、圧倒的な金色の光が埋め尽くしていた。

 本来の太陽の真横に君臨する、もう一つの巨大な黄金の日輪。そこから姿を現した、鷹の頭を持つ巨神アモン・ラーが、地上の羽虫のような人間に不快げな視線を向ける。神がただ鼻を鳴らしただけで、周囲の砂岩がドロドロに融解し始めた。

 

 圧倒的な最高神の神威。だが、耀は歪んだ唇の端を吊り上げ、天を見上げて不敵に笑った。

 

 「おい、アモン・ラー。これ以上、その偽物の光で地上を焼くのはやめろよ」

 「……人間が、我が威光を偽りと呼ぶか」

 

 神の言葉は、音ではなく、世界そのものを震わせる全能の意思として響く。それだけで耀の鼓膜から血が滲んだ。だが、耀は右手の青い光を、天に座す神へと真っ直ぐに突きつけた。

 

 「ああ、偽物だ。お前が纏っているその光も、絶対の権威も……ぜんぶ、新王国時代のファラオたちが自分たちの政治の都合でツギハギした、ただの欺瞞の神格だ。じいさん直伝の講釈を聞かせてやるよ。お前が何故、そこに最高神として座っているのか、その醜い簒奪の歴史をな!」

 

 キィン、と高く澄んだ音が鳴り響く。耀の言葉に呼応し、胸元のメダリオンが猛烈な青い輝きを放ち、右手の光がさらに鋭く研ぎ澄まされていく。

 

 「まず、そのアモンという名だ! 思い出せ、お前の本当の姿は、このルクソール、古代テーベの地にひっそりと宿る、目に見えない風、姿なき地方神に過ぎなかったはずだ! アモンの名が意味するのは『隠された者』! 光に照らされることすらなき、ただの夜の風。それがお前という神格の、最初の、そして唯一の本質だ!」

 

 耀の叫びが言霊となり、メダリオンを通じて世界の法則を書き換えていく。

 その瞬間、天空のアモン・ラーを包んでいた黄金の光が、一瞬だけ不自然に揺らぎ、その光量がわずかに減少した。神の鷹の目が、明確な不審と怒りに細められる。

 

 「それがどうだ! テーベの地方豪族がエジプト全土を統一し、第十一王朝、第十二王朝を打ち立てた時、人間たちは自分たちの守護神であるお前に、絶対的な『王権の正統性』を求めた! 姿なき風の神では、エジプトを統べるファラオの象徴として覇気が足りない。だから人間たちは、古来より君臨していた絶対の太陽神ラーを、お前に無理やり習合させたんだ!」

 

 大気が鳴動する。耀の足元から、青い光の波紋が砂漠の砂を割りながら広がっていく。ネフェルは、その光景を息を呑んで見つめていた。魔術師としての彼女の知識が、耀の行っていることの恐ろしさを理解していた。

 

 「地方神アモンが、ヘリオポリスの主神たる太陽神ラーの権威を、王権を文字通り簒奪した! それがお前という、歪な最高神の正体だ! 神が世界を作ったんじゃない、お前という神格は、人間たちの領土拡大の野心と、ファラオの権力闘争の道具として、後から仕立て上げられたハイブリッドの神様なんだよ!」

 

 

 

 ドガァン!! と、天空で爆音が轟いた。

 アモン・ラーの身体を覆っていた絶対無敵の黄金のオーラに、まるでガラスがひび割れるような、目に見えるほどの凄まじい亀裂が走った。

 

「おのれ……羽虫が……我が神性を冒涜するかぁっ!」

 

 激怒したアモン・ラーの頭上で、巨大な日輪が狂ったように明滅する。王の権威を否定された屈辱が、神殿の空間を物理的に圧搾し、耀の皮膚から血が噴き出した。だが、耀は一歩も引かない。

 

 右手のイシスの剣は、メダリオンの光は、神の激昂に比例して、より輝きを増していく。

 

 「まだだ! まだ話は終わっていない!!まだ残っている!!アモン・ラー! ファラオたちが政治の都合で塗りたくった、最高神という名の欺瞞の絵の具がなぁ!」

 

 耀はあえて自らの血を吐き出しながら、さらに言葉の刃を鋭く研ぎ澄ませた。脳裏で、祖父の低く掠れた声が、耀をナビゲートするように響いている。

 

 『いいか耀、嘘ってのはな、重ねれば重ねるほど綻びが出る。歴史ってのは、勝者が都合よく書き換えた嘘の積み重ねなんだ。神様を観察するときはな、その神様がいつ、どうして万能になったのかを見極めろ』

 

 そうだ。こいつは最初から最高神だったわけじゃない。エジプトが危機に瀕するたびに、ファラオたちが他国の神や古の権威を強引にデコレーションし続けた、いわばツギハギそのものだ。

 

 「第十八王朝!! エジプトがヒクソスという異民族の支配から脱し、ナイルの覇権を取り戻したあの時代! 軍事国家へと変貌した新王国は、領土をシリアやヌビアへと急速に拡大していった。その時、ファラオたちはお前にさらなる嘘を重ねた! それこそが、異国のあらゆる軍神や嵐の神を呑み込んだ、戦勝の神としての側面だ!」

 

 言霊が光る。

 アモン・ラーを解体する刃が構築される。

 

 「なぜ他国の軍神を呑み込む必要があった? 答えは簡単だ。お前単体の神格では、世界を征服するファラオたちの果てなき野心を肯定するだけの器が足りなかったからだ! だから人間たちは、ヒッタイトの嵐の神テシュブや、レバントの神であるバアルの属性を、あるいはギリシアで語られるゼウスの神格を習合し、お前の背中に無理やり接ぎ木した。お前が右手に持つ戦闘用の大鎌も、元はといえばオリエントの異国から持ち込まれた殺戮の道具じゃないか! 純血なるエジプトの神を気取りながら、その実、お前の内側は征服戦争の返り血と、掠奪した異国の信仰でドロドロに汚れているんだよ!」

 

 そして剣は研ぎ澄まされる。

 真理は此処に!!

 答えは此処に!!

 

 「エジプト王宮はお前を『万物の父』と呼び、世界の創造主へと祭り上げた。だがな、お前の本質はただの『見えない風』だ! 風がいつから光を生み、風がいつから世界を創る土台になった!? 元来、世界を創ったのはヘリオポリスの創世神アトゥムであり、メンフィスの創造神プタハだ! お前は彼らの創世神話すら強奪し、己の戦果として偽装した! お前が全能なのは、世界の始まりから存在したからではない! ただ、戦争に勝ったファラオたちが、お前の神殿に戦利品と領土を寄進し続けたからだ! お前の神性は、信仰ではなく、ただの醜いツギハギに過ぎないんだよ!」

 「黙れ、黙れ黙れ……羽虫が」

 「いいや、黙らないね!!」

 

 激怒したアモン・ラーが右腕を、大鎌を振り下ろす。それだけで、天空から巨大なソーラー・プロミネンス数万度を超える熱線の槍が、耀を目がけて降り注いだ。

 

「耀、危ないッ!」

 

 ネフェルが叫び、ヒエログリフの防壁を展開しようとするが、耀は避けない。避ける必要がなかった。

 

「イシスの剣よ、その偽りの太陽を切り裂け!」

 

 耀が右手の光を無造作に一閃する。すると、迫り来る熱線の槍は、耀の身体に触れる直前で、まるで最初から存在しなかったかのように綺麗に霧散した。熱が、言葉によって否定されたのだ。

 

 「まだ終わってないぞ、簒奪者アモン・ラー! お前はラーと習合して太陽の権能を得たつもりでいるが、そもそもそのラーの太陽の特権すら、神話の歴史において、とっくに泥棒されているんだ!」

 

 耀は一歩、また一歩と、燃える砂を踏みしめて前へ進む。胸元のメダリオンは、今や神を殺すための牙として耀の味方をしていた。

 

 「思い出せ! かつて老いた太陽神ラーは、自分の本当の名前、万物を支配する『真名』を誰にも明かさず、無敵の覇者として君臨していた! だが、その傲慢を許さなかったのが、知恵と魔術の女神イシスだ! イシスはラーの足跡の泥から毒蛇を作り出し、ラーを噛ませて猛毒に苦しめた。命乞いをするラーに対し、イシスが突きつけた条件はただ一つ、お前の『真名』を我が息子ホルスに譲れ、ということだ!」

 

 天空の巨神が、苦悶するように自身の頭を抱えた。その巨体が、目に見えて縮んでいく。太陽の質量が、耀の言葉によって削り取られていく。

 

 「ラーは苦痛に耐えかねて、イシスに真名を明け渡した! つまり、太陽神ラーの持つ絶対の王権は、神話の内部において、すでに女神イシスによって完全に簒奪され、剥ぎ取られているんだよ! ラーの権威を盗んだアモン。そのラーの権威は、すでにイシスに盗まれている。……泥棒のツギハギで出来たお前に、今更、最高神を名乗る資格なんて、どこにもないんだ!!」

 

 キィィィィィン!!

 

 ルクソールの全域に、耳を劈くような高周波の音が響き渡った。

 次の瞬間、アモン・ラーを包んでいた黄金の光が、ガラス細工のように木っ端微塵に粉砕された。キラキラと輝く金の粒子が、砂漠へと虚しく降り注ぐ。

 そこに残されたのは、鷹の頭を持つ巨神の姿ではない。光を完全に失い、ただの不気味な黒い雲、実体のない黒い嵐へと退化させられた、無力な地方神アモンの本質だった。

 名前の意味は『隠された者』。

 太陽の神格を完全に剥ぎ取られた神は、ただの目に見えない姿なき風へと還されたのだ。

 

「嘘……最高神が、本当に、ただの言葉だけで……」

 

 ネフェルが呆然と呟く。神の無敵の防御は、今や完全にゼロになっていた。

 

「はぁ、はぁ……じいさんの、言った通りだったろ」

 

 耀は肩で息をしながら、しかしその瞳には、かつてないほどの生への執念、そして目の前の少女を絶対に助けるという強い意志の炎が灯っていた。

 身体の奥底から、人間のものとは思えない、底なしの呪力の奔流が湧き上がってくるのを感じる。耀が寿命を削って捻出した底なしの魔力。

 

 実体のない黒い嵐。その中心部に、一箇所だけ、激しく明滅する光が見えた。

 

 暴き出された神の本当の真実。

 『隠された者』と『太陽』

 両者が合一することなどあってはならない。見えないものでありながら太陽という万人が目にする象徴という矛盾、それこそがアモン・ラーというツギハギで作られた神の弱点。

 

 「これで、終わりだ」

 

 耀は崩れ落ちる神殿の瓦礫を強く蹴り、天空へと大きく跳躍した。

 重力を置き去りにし、黒い嵐へと、光へと迫る。

 右手に握るは、祖父との思い出が、ネフェルの叫びが、イシスが残し耀が編み上げた、最高純度の言霊の光。

 

「神話の彼方へ、還れ!!アモン・ラー!!」

 

 耀は両手で光を引き絞り、神ごと、その光を真っ二つに一刀両断した。

 刹那。

 世界から、すべての音が消えた。

 激しい爆発は起きなかった。ただ、ルクソールを地獄に変えていたあの凶悪な絶対熱線が、一瞬にして、肌を優しく撫でるような心地よい夜の涼風へと変わり、砂漠の彼方へと吹き抜けていった。

 

 天に浮かんでいた二つ目の太陽は綺麗に消え去り、そこにはいつもの、美しいエジプトの青空だけが残されている。

 

「あ……」

 

 宙空からゆっくりと落下していく耀の全身に、黄金の光の粒子、簒奪した神の神血が、新たな権能となって染み込んでいく。

 人間から魔王へ。その劇的な新生の負荷に耐えかね、耀の意識は急速に闇へと沈んでいった。

 だが、最後に視界に映ったのは、必死に手を伸ばし、自分を受け止めようと駆けてくる、褐色の肌の少女の姿だった。

 それを見届け、耀は今度こそ、深い眠りへと落ちていった。

 

 ◇

 

「気がついた?」

 

 ひんやりとした涼しい風の音と、古い石造りの部屋の匂い。

 ゆっくりと目を開けた耀の視界に飛び込んできたのは、見慣れた日本の天井ではなく、エジプトの伝統的な織物が飾られた、見知らぬ隠れ家の天井だった。

 

 そして、枕元には、大きな安堵を瞳に湛えたネフェルが、付きっきりで看病してくれていたようで、少し眠そうな目で耀を見下ろしていた。

 

「ネフェル……ここは?」

「私の結社の隠れ家よ。あれから三日も眠り続けてたんだからね、あなた」

 

 ネフェルは呆れたように息を吐きながらも、耀の額に濡れタオルを置いてくれる。その手つきは、最初に出会った時の冷淡さからは想像もつかないほど優しかった。

 

「三日もか……。あれ、背中の火傷は?」

 

 耀は寝返りを打ってみたが、死にかけたはずの背中に痛みは一切なかった。それどころか、信じられないほど身体が軽い。

 

 「カンピオーネになった時の超回復よ。神を殺して『魔王』になっちゃったんだから、当然でしょ」

 

  ネフェルはふいっと顔を背け、少し照れくさそうに言った。

 

 「……でも、ありがとう。私を助けてくれて」

 「いや、困っている人がいたら助けるのは当たり前だから。……それに、ネフェルが生きろって言ってくれたから、俺は立ち上がれたんだ」

 

 耀が真っ直ぐにそう告げると、ネフェルの耳まで赤くなった。彼女は自分の感情を誤魔化すように、耀の胸元を指差す。そこには、すっかり光を失い、ただの煤けたラピスラズリに戻ったメダリオンが静かに揺れていた。

 

 

 「あなたのお祖父様がこの神具をあなたに預けた理由が、今なら分かるわ。……いつか、自分の命すら投げ出してしまうあなたに、理不尽な運命と戦うための『剣』を遺したかったのよ」

 「じいさんが、俺に……」

 「そう。だから、これからは自分の命も大切にしなさい、このお人好し」

 

 ネフェルはそう言って、呆れたように、しかし最高に愛おしそうに微笑んだ。

 

 祖父が遺してくれた絆と、新しく得た魔王としての力。そして、隣にいてくれる大切な少女。

 

 来井耀の、理不尽な神々に立ち向かう新しい旅は、このエジプトの心地よい夜風と共に、今ここから始まったのだった。

 




読了していただきありがとうございました。
よろしければ感想や高評価頂けると嬉しいです。
耀の話はここで一区切りとなります。ですが彼もカンピオーネ世界のどこかで暴れてることでしょう。


来井耀の権能
万象を統べる至高の太陽(アモン・ラー)
火を操り攻撃したり陽光による回復などを行える権能だがその本質は権能の融合である。原作における天叢雲剣のように権能を融合してこそ真価を発揮する。要は神様殺せば殺すほど強くなる。チート
でも他のカンピオーネの権能も似たようなもんだよね。
デフォじゃ戦闘能力がカンピオーネになった頃のアイーシャ夫人より劣るからね、仕方ないね。

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