冬木の番外次席   作:甘めのコーヒー

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第72話

二日後――。

 

冬木市は、既に表面上の平穏を取り戻し始めていた。

 

未曾有の大災害。

 

原因不明の地下崩落。

大規模火災。

ガス爆発。

局地的な地盤沈下。

 

表向きには、そう処理されつつある。

 

だが当然、それで納得する者達ばかりではない。

 

時計塔は調査隊を動かし始め、

聖堂教会もまた、“異常な霊的反応の消失”を確認していた。

 

時間は残されていなかった。

 

だからこそ。

 

彼らは再び集まった。

 

廃墟と化した遠坂邸へ。

 

かつて第四次聖杯戦争の中心だった場所。

 

今では壁の半分が崩れ、

庭は焼け焦げ、

大聖杯へ続いていた地下は完全に封鎖されている。

 

だが、不思議と誰も嫌な顔はしなかった。

 

ここは、“終わった場所”だったからだ。

 

朝の冷たい風が吹く中、最初に現れたのはケイネスだった。

 

彼は崩れた門を見上げる。

 

「……自分で見ても酷い有様だな」

 

「自宅だろう? 少しは悲しめ」

 

そう言いながら現れたのは、時臣だった。

 

「既に諦めた」

 

「早いな」

 

「修繕費を計算した瞬間に心が折れた」

 

ロードと名門当主とは思えぬ会話だった。

 

その直後。

 

遠くから爆音が響く。

 

「ぬははははは!!」

 

雷鳴のような笑い声と共に、神威の車輪が空から降下する。

 

「征服王、静かに来るという概念は無いのか……」

 

ウェイバーが死んだ目をしていた。

 

「無い!」

 

即答だった。

 

その後ろから、ディルムッドが苦笑しながら降りてくる。

 

「すまない、止めたのだが」

 

「止められる訳ないだろアンタ……」

 

さらに少し遅れて、黒衣の男が静かに現れる。

 

ハサン達だった。

 

気配すら薄いその姿に、未だウェイバーが時々驚いている。

 

「……全員、来たか」

 

低い声。

 

その直後。

 

空気が変わった。

 

黄金の粒子。

 

そして、ゆっくりと現れる赤い瞳。

 

「待たせたな雑種共」

 

ギルガメッシュだった。

 

相変わらず無駄に目立つ。

 

「お前、普通に来れんのか?」

 

切嗣が呆れる。

 

「王に“普通”を求めるな」

 

「はいはい」

 

アイリスフィールが少し笑った。

 

そして最後に。

 

瓦礫を踏む、規則正しい軍靴の音。

 

全員が自然とそちらを見る。

 

黒い軍服。

白髪。

眼帯。

鋭い隻眼。

 

ブラッドレイだった。

 

受肉した今も、その立ち姿は少しも揺るがない。

 

軍人として。

英雄として。

そして元埋葬機関番外次席として。

 

彼は全員を見渡し、小さく頷く。

 

「揃ったな」

 

その言葉に、場の空気が自然と引き締まる。

 

だが同時に、一つの空席も存在していた。

 

間桐雁夜。

そしてランスロット。

 

既に二人は、桜と共に新しい生活を始める為、冬木を離れる準備に入っている。

 

戦友ではある。

 

だが今は、“戦い”よりも優先すべきものを選んだ。

 

それを、誰も否定しなかった。

 

イスカンダルが腕を組む。

 

「では行くのだな、時計塔と教会へ」

 

「うむ」

 

ブラッドレイは静かに頷く。

 

「話をつける」

 

その声音には、迷いが無い。

 

逃げるのではない。

 

隠れるのでもない。

 

真正面から、“世界の裏側”へ向き合う。

 

それが、彼らの選択だった。

 

切嗣が煙草に火をつけながら言う。

 

「……普通なら、自殺行為なんだけどな」

 

「普通では無いのでな」

 

ブラッドレイの即答に、ウェイバーが頭を抱えた。

 

「もう感覚がおかしくなってるよこの人達……」

 

「今更だ坊主!」

 

イスカンダルが豪快に笑う。

 

その声に、小さな笑いが広がった。

 

二日前まで、互いを殺そうとしていた者達。

 

だが今は。

 

同じ目的の為に、再び集まっている。

 

崩壊した遠坂邸。

 

その瓦礫の中に立つ彼らは、もう“聖杯戦争の参加者”ではなかった。

 

世界を救い、

奇跡を生き残り、

そして今から、“その後の世界”へ踏み込もうとしている者達だった。

 

崩れた遠坂邸の庭。

 

冬の風が瓦礫を撫で、静かな朝の空気を揺らしていた。

 

その中央で、ブラッドレイは腕を組み、戦友達を見渡す。

 

「さて――」

 

低く落ち着いた声。

 

「時計塔と埋葬機関、どちらから行くかね?」

 

その問いに、場が静かに考え込む。

 

最初に反応したのは、やはりケイネスだった。

 

「……時計塔が先だろう」

 

ロードとしての顔。

 

理性的で、政治的な判断だった。

 

「魔術協会は情報伝達が速い。こちらが先に接触すれば、“敵対意思無し”という形を作れる」

 

「なるほど」

 

ブラッドレイが頷く。

 

ケイネスは続けた。

 

「特に今回の件は、秘匿不可能だ。霊脈の崩壊と再構築、聖杯消滅、異常な魔力反応……既に観測されている可能性が高い」

 

時臣も静かに同意する。

 

「時計塔の天体科や降霊科辺りは、既に騒ぎ始めているだろうな」

 

「胃痛で倒れる老魔術師が増えそうだ」

 

切嗣が呟く。

 

「実際増える」

 

ケイネスが真顔で返した。

 

妙な説得力があった。

 

だがその時。

 

「余は埋葬機関からの方が面白いと思うぞ!」

 

豪快に笑ったのはイスカンダルだった。

 

「面白さで決めるな征服王」

 

ディルムッドが即座に突っ込む。

 

「いやしかし聞いてみよ! “受肉した英霊達が教会へ殴り込み”だぞ! 実に愉快ではないか!」

 

「殴り込みでは無い」

 

ブラッドレイが淡々と訂正する。

 

「交渉だ」

 

「似たようなものでは?」

 

ウェイバーが疲れた顔で呟いた。

 

すると、その横で綺礼が静かに口を開く。

 

「……いや、先に埋葬機関という手もある」

 

全員の視線が向く。

 

「教会側は、“脅威認定”される前なら柔軟だ」

 

黒い瞳がブラッドレイを見る。

 

「特に、元番外次席が前に立つなら尚更な」

 

「時計塔と違い、あちらは実力主義だからな」

 

ブラッドレイも頷く。

 

「“世界を救った”という実績は通用しやすい」

 

「逆に時計塔は理屈と利権だ」

 

ケイネスが眉を寄せる。

 

「面倒だぞ」

 

「お前が言うと本当に説得力があるな……」

 

ウェイバーが遠い目をした。

 

その時だった。

 

ずっと黙っていたギルガメッシュが、退屈そうに口を開く。

 

「両方同時に行けば良かろう」

 

数秒、沈黙。

 

「……は?」

 

ウェイバーが固まる。

 

ギルガメッシュは当然のように続けた。

 

「片方へ行っている間に、もう片方が勝手に警戒を強める可能性がある」

 

赤い瞳が細くなる。

 

「ならば同時に“釘を刺す”方が効率的だ」

 

「効率だけで言えば正しいな……」

 

時臣が頭を押さえた。

 

「だが人員は?」

 

切嗣の問い。

 

その瞬間、ブラッドレイの隻眼が静かに細まる。

 

「分けるか」

 

空気が少し引き締まる。

 

「時計塔側には、ロードと魔術師」

 

ケイネスと時臣へ視線が向く。

 

「埋葬機関側には、私と神父」

 

綺礼が静かに笑う。

 

「実に嫌な組み合わせだ」

 

「自覚はある」

 

ブラッドレイは真顔だった。

 

「そして残りは護衛兼、抑止力だ」

 

その瞬間。

 

イスカンダルがニヤリと笑う。

 

「つまり、“何かあれば征服王と英雄王が出る”という事だな!」

 

「大体核兵器みたいな扱いだな……」

 

ウェイバーが頭を抱える。

 

だが、誰も否定しなかった。

 

実際その通りだからだ。

 

受肉した征服王と英雄王がいる時点で、“戦力的圧力”としては十分過ぎる。

 

しばらくの沈黙。

 

やがてブラッドレイが、小さく息を吐いた。

 

「……では、こうしよう」

 

朝日が隻眼を照らす。

 

「まず時計塔へ正式な接触を行う。同時に、埋葬機関側へ私から非公式ルートで連絡を入れる」

 

軍人らしい、現実的な折衷案だった。

 

「敵対意思無し。ただし、こちらも一方的に狩られるつもりは無い――それを伝える」

 

静かな声。

 

だがそこには、確かな威圧感があった。

 

すると、アイリスフィールが少し不安そうに言う。

 

「……大丈夫かしら」

 

その問いに。

 

ブラッドレイはほんの僅かに笑った。

 

「何、安心したまえ」

 

そして。

 

「こちらには、“世界を救った戦友達”がいる」

 

その言葉に、場の空気が少しだけ柔らかくなる。

 

イスカンダルが豪快に笑い、

ディルムッドが静かに頷き、

ハサンは無言のまま立つ。

 

ギルガメッシュは退屈そうに鼻を鳴らしながらも、その場を離れない。

 

もう誰も、一人ではなかった。

 

ブラッドレイの言葉に、その場の空気が僅かに変わった。

 

「誰か衛星電話を持っているかね?」

 

静かな問い。

 

「私が埋葬機関に電話を入れよう」

 

その瞬間、数人の動きが止まる。

 

「……電話で済ませるのか?」

 

切嗣が煙草を咥えたまま呟いた。

 

「最初の接触はその方が早い」

 

ブラッドレイは淡々と答える。

 

「向こうも既に異常を感知している頃だ。下手に沈黙するより、“こちらから連絡を寄越した”という事実の方が重要になる」

 

「時計塔に行った後に迎えば、良いだろ?」

 

元埋葬機関番外次席らしい判断だった。

 

敵対するにせよ、交渉するにせよ、まず“主導権”を取る。

 

それがブラッドレイのやり方だった。

 

すると。

 

「持っておるぞ!」

 

豪快な声と共に、イスカンダルが懐を漁り始める。

 

「なんで征服王が衛星電話なんて持ってるんだよ……」

 

ウェイバーが頭を抱える。

 

「現代を学んだ!」

 

「学ぶ方向がおかしい!!」

 

イスカンダルは満面の笑みで、やたら頑丈そうな大型衛星電話を取り出した。

 

どう考えても似合わない。

 

「雑種にしては役立つな征服王」

 

ギルガメッシュが鼻を鳴らす。

 

「ハハハ! 便利であろう!」

 

「絶対どこかの軍隊から買っただろそれ……」

 

ウェイバーの呟きを無視し、イスカンダルは電話をブラッドレイへ放り渡した。

 

ブラッドレイは片手で受け取る。

 

その動作だけで、場の空気が僅かに引き締まった。

 

埋葬機関。

 

そこは、彼にとって“古巣”だ。

 

かつて共に異端を狩り、

血と硝煙の中を歩き続けた場所。

 

ブラッドレイは数秒、衛星電話を見つめる。

 

その隻眼には、僅かな懐旧があった。

 

「……懐かしいな」

 

小さく呟く。

 

綺礼が静かに聞いた。

 

「何年ぶりだ?」

 

「私が死んで10年は経つ」

 

「それで普通に電話する気なのか……」

 

時臣が遠い目をした。

 

だがブラッドレイは平然としている。

 

「問題無い。あそこは死人が戻ってくる程度では驚かん」

 

「怖い組織だな本当に」

 

ディルムッドが苦笑した。

 

その時。

 

ブラッドレイがゆっくりと番号を入力し始める。

 

空気が静まり返る。

 

イスカンダルですら口を閉じ、

ギルガメッシュも興味深そうに眺めていた。

 

そして。

 

数回の発信音の後――

 

『――こちら第八管理局』

 

無機質な声が、衛星電話から流れた。

 

その瞬間。

 

ブラッドレイの空気が変わる。

 

戦場の王でも、

セイバーでもなく。

 

“埋葬機関の男”の顔だった。

 

「こちら、キング・ブラッドレイだ」

 

静かな声。

 

「元埋葬機関番外次席。現在、冬木市にいる」

 

数秒。

 

通信の向こう側が、完全に沈黙した。

 

そして。

 

『…………確認不能』

 

わずかに声が揺れる。

 

『ブラッドレイは、既に死亡記録済みです』

 

「知っている」

 

ブラッドレイは淡々と返した。

 

「だが、事情が変わった」

 

隻眼が細くなる。

 

「少々、“世界を救って”な」

 

その瞬間。

 

後ろでイスカンダルが吹き出した。

 

「ブフッ!!」

 

「笑うな征服王」

 

「いや無理であろう!! “少々世界を救った”とは何だ!!」

 

「事実だ」

 

ブラッドレイは真顔だった。

 

通信の向こうでは、しばらく沈黙が続いている。

 

おそらく、向こう側は今、凄まじい混乱の最中だった。

 

『……確認する』

 

通信の向こう側の声が、明らかに緊張を帯びていた。

 

『その名を軽々しく口にするな。貴様が何者かは知らんが――』

 

「ナルバレックに変わってくれないかね?」

 

ブラッドレイは、相変わらず淡々としていた。

 

「もしくは、シエルに」

 

その瞬間。

 

通信の向こう側が、完全に沈黙した。

 

数秒。

 

いや、十数秒。

 

誰も何も言わない。

 

衛星電話から聞こえる微かなノイズだけが、妙に生々しかった。

 

そして。

 

『……待機しろ』

 

それだけ言い残し、通信が切り替わる。

 

途端に、後ろでウェイバーが青い顔になる。

 

「いや待って!? 今さらっと、とんでもない名前出なかった!?」

 

「どちらも埋葬機関の化け物だな」

 

切嗣が煙草を咥えたまま呟く。

 

「知り合いなのか……?」

 

ディルムッドが少し引いていた。

 

「仕事上な」

 

ブラッドレイは簡潔だった。

 

「怖すぎるだろその“仕事”……」

 

ウェイバーが本気で頭を抱える。

 

一方、綺礼は静かに目を細めていた。

 

ナルバレック。

 

埋葬機関長。

教会側ですら危険視する、討伐狂いの怪物。

 

そしてシエル。

 

若くして埋葬機関入りした異端狩り。

実力だけなら既に上位クラスとも噂される代行者。

 

そのどちらかへ直接繋げろと言う時点で、ブラッドレイの立場がどれほど異常だったか分かる。

 

ギルガメッシュが愉快そうに笑う。

 

「フハハハ! 貴様、本当に人脈が物騒だなセイバー!」

 

「お前にだけは言われたくない」

 

「違いない!」

 

イスカンダルまで笑い出した。

 

だが次の瞬間。

 

『――久しいな、“隻眼”。』

 

低く、女の声が響く。

 

その場の空気が、一瞬で変わった。

 

ブラッドレイの隻眼が静かに細まる。

 

「……ナルバレックか」

 

衛星電話越しですら伝わる。

 

圧力。

 

獣のような殺気。

それでいて、どこか愉快そうな声音。

 

『死んだ筈だが?』

 

「私もそのつもりだった」

 

『なら何故、生きている』

 

ブラッドレイは静かに空を見上げる。

 

崩壊した遠坂邸。

朝日。

戦友達。

 

そして。

 

「少々、世界を救ってな」

 

数秒の沈黙。

 

その直後。

 

『――ハッ』

 

電話越しに、獰猛な笑い声が漏れた。

 

『相変わらず面白い男だ。』

 

その声に、何人かが本能的に背筋を強張らせる。

 

“危険だ”と直感で理解してしまう声だった。

 

ナルバレックは続ける。

 

『冬木の異常は既に観測済みだ。聖杯反応の消滅、大規模霊脈崩壊、未知の霊基反応……こちらでも騒ぎになっている』

 

「だろうな」

 

『説明しろ。“隻眼”』

 

ブラッドレイは一瞬だけ周囲を見る。

 

戦友達もまた、静かに彼を見ていた。

 

そして。

 

「単刀直入に言おう」

 

低い声。

 

「聖杯は破壊した。黒泥も消滅。人類悪の顕現も阻止した」

 

沈黙。

 

「その過程で、我々は受肉した」

 

今度こそ。

 

通信の向こう側が、完全に止まった。

 

誰も息をしない。

 

数秒後。

 

『……は?』

 

初めて。

 

埋葬機関長ナルバレックが、素で困惑した声を出した。

 

『……驚くのも無理はないが事実だ』

 

ブラッドレイの声は、どこまでも落ち着いていた。

 

『聖杯戦争に参加した、キャスターを除く全てのサーヴァントが受肉し、マスター達も聖杯から溢れた神秘の影響で、桁違いの魔術回路を手に入れた』

 

その瞬間。

 

衛星電話の向こう側から、何かが倒れる音がした。

 

『ッ!? お、おい!!』

 

『記録班を呼べ!!』

 

『待て待て待て情報量が多すぎる!!』

 

遠くで怒号が飛び交う。

 

埋葬機関側が完全に混乱していた。

 

「うわぁ……」

 

ウェイバーが乾いた声を漏らす。

 

「そりゃそうなるよな……」

 

ケイネスですら頭痛を堪える顔をしていた。

 

「時計塔でも同じ反応になるぞこれは」

 

「むしろ時計塔の方が酷いかもしれんな」

 

時臣が遠い目をする。

 

一方、ブラッドレイは淡々と続けた。

 

『今から、時計塔に話をつけにいく』

 

その言葉に、通信の向こう側が少し静まる。

 

『……正気か?』

 

ナルバレックの声。

 

今度は困惑より、“本気で理解出来ない”という響きだった。

 

『受肉した英霊共を連れて時計塔へ行く?』

 

「うむ」

 

『戦争になるぞ』

 

「ならんように話をつける」

 

『ならなかった場合は?』

 

数秒。

 

静寂。

 

そして。

 

「その時は、少々荒れる」

 

ブラッドレイは真顔だった。

 

その後ろで、イスカンダルが吹き出す。

 

「ハハハハハ!! “少々”で済むか!!」

 

「貴様らの場合、国家が消し飛ぶぞ」

 

ギルガメッシュが愉快そうに笑った。

 

「笑い事じゃないんだよなぁ……」

 

ウェイバーが本気で胃を押さえている。

 

電話の向こうでは、ナルバレックが深く息を吐く気配がした。

 

『……相変わらずだな、“隻眼”』

 

どこか呆れた声。

 

だが、その奥には僅かな笑いも混じっていた。

 

『だが理解した。少なくとも、貴様が敵意を持って動いている訳ではない事はな』

 

「当然だ」

 

ブラッドレイの隻眼が静かに細まる。

 

「世界を救った直後に、人類側と全面戦争する趣味は無い」

 

『安心した。貴様ならやりかねん』

 

「心外だな」

 

「全員思ってるぞ」

 

切嗣が即座に突っ込む。

 

小さな笑いが漏れる。

 

だが次の瞬間。

 

ナルバレックの声色が変わった。

 

『……しかし、受肉英霊複数か』

 

低い声。

 

『時計塔だけでは済まんぞ。“あちら側”も動く可能性がある』

 

その場の空気が、僅かに変わる。

 

ブラッドレイの隻眼が細まった。

 

「あちら側?」

 

『死徒共だ』

 

静かな声。

 

『人間でありながら英霊級戦力を維持する存在など、連中から見れば最高級の研究対象だ』

 

誰も口を開かなかった。

 

確かにそうだ。

 

不老不死に執着する怪物達にとって、“完全受肉した英霊”など、喉から手が出るほど欲しい存在だろう。

 

特にギルガメッシュやイスカンダルなどは、危険過ぎる。

 

だが。

 

ブラッドレイは小さく鼻を鳴らした。

 

「来るなら斬るだけだ」

 

即答だった。

 

その瞬間。

 

ナルバレックが、電話越しに獰猛に笑った。

 

『ハッ――!』

 

獣のような笑い声。

 

『やはり貴様はそうでなくてはな、“隻眼”』

 

そして。

 

『分かった。時計塔との話が終わったら来い』

 

少しだけ真面目な声音。

 

『こちらでも準備を整えておく』

 

「助かる」

 

『ただし――』

 

声が低くなる。

 

『英霊共を連れてくるなら、“多少の騒ぎ”は覚悟しておけ』

 

その瞬間。

 

ギルガメッシュがニヤリと笑った。

 

イスカンダルも豪快に笑い出す。

 

「ハハハハハ!! 良いではないか! 久々に面白くなってきた!」

 

「絶対面白がってるだろ貴様ら……」

 

ウェイバーが頭を抱えた。

 

ブラッドレイはそんな戦友達を見渡し――

 

ほんの僅かに、笑った。

 

「……では、まずは時計塔だな」

 

世界を救った異常者達は今。

 

次なる“戦場”へ向かおうとしていた。

 

 

 

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