地下大聖堂。
祝福銃剣の豪雨が降り注ぐ。
石床が爆ぜ。
聖別結界が悲鳴のような音を立てる。
代行者達が次々と吹き飛ばされ。
サーヴァント達ですら、防御へ回らざるを得ない。
その中心。
アンデルセン神父 が、狂気じみた笑みを浮かべていた。
『我らは神の代理人――!!』
『神罰の地上代行者!!』
『我らが使命は!!』
『我が神に逆らう愚者を!!』
『その肉の最後の一片までもォォォ!!』
『絶滅することォォォォォ――!!!』
『Ameeeeeen!!!』
轟音。
最後の一声と共に、銃剣の雨量が倍増する。
「チィッ!!」
ディルムッドが槍で弾き。
ハサン達が影へ沈み。
ギルガメッシュが不快そうに宝具を展開する。
だが。
アンデルセンは止まらない。
再生。
投擲。
突撃。
まるで“死”という概念そのものを拒絶している。
ウェイバーが叫ぶ。
「なんなんだよあいつは!?」
ブラッドレイは、半ば呆れた顔で答える。
「だから言っただろう。」
「人間の姿をした災害だ。」
その瞬間。
イスカンダルが豪快に踏み込み。
大剣を振り上げる。
「ええい!鬱陶しい!!
少し黙れぇぇぇぇ!!」
轟音。
アンデルセンに全力の一撃を叩き込んだ。
壁まで吹きとんだ。
瓦礫の嵐。
だが次の瞬間。
瓦礫の中から。
笑い声。
『ク、クク……』
『ハハ……』
『アハハハハハハハハハ!!!』
血塗れの神父が、立ち上がる。
首が半ば千切れ。
片腕が砕け。
それでも。
目だけが爛々と輝いていた。
『退く!?』
『退くだとォ!?』
『我々がァ!?』
『我々神罰の地上代行!!』
『イスカリオテの第十三課がァァァ!!』
祝福銃剣を、自らの腕へ突き刺す。
痛みにより意識を覚醒させた。
そして。
肉体が、更に強引に再生する。
『ナメるなよ売女ァ!!』
『眼前の敵を放置して!!』
『何が第十三課かァ!!』
『何が法皇庁かァァァ!!!』
その怒号だけで。
空気が震えた。
ケイネスが顔を引き攣らせる。
「なんだあの生命力は……!」
言峰綺礼ですら、僅かに沈黙している。
理解してしまったのだ。
あれは“狂信者”ではない。
“信仰そのもの”だと。
アンデルセンは、血塗れの顔で笑う。
そして。
ゆっくり銃剣を構えた。
『来い。』
『闘ってやる。』
『能書き垂れてねぇで――』
『かかって来いよ、化け物共ォォォ!!!』
轟音。
床が爆散。
一直線に、ブラッドレイへ突撃する。
「また私かね……」
ブラッドレイが、本気で嫌そうに呟いた次の瞬間。
銃剣とサーベルが、再び激突した。
双剣と銃剣が激突する。
火花。
轟音。
地下大聖堂そのものが軋みを上げる。
だが。
キング・ブラッドレイは、片手でアンデルセンの銃剣を受け止めながら、深々と溜息を吐いた。
「まったく……」
“究極の眼”が、真正面から神父を見据える。
「少しは落ち着け。」
静かな声だった。
だが、その一言だけで空気が張り詰める。
「今の私は、生前よりも遥かに強い。」
双剣が、一瞬でアンデルセンの銃剣群を弾き飛ばす。
神速。
人間技ではない。
「そして。」
ブラッドレイの背後。
英雄王。
征服王。
光の御子。
呪腕。
百貌。
現代最強クラスの魔術師達。
受肉した英霊達が、静かに殺気を放っていた。
「この場に居る者達全て。」
「以前とは、別次元にいる。」
沈黙。
アンデルセンの笑みが、ゆっくり深くなる。
ブラッドレイは続ける。
「アンデルセン。」
「君なら分かるだろう?」
“究極の眼”が、神父の全身を見抜く。
「勝ち目が無いことくらいな。」
静寂。
ほんの一瞬だけ。
地下大聖堂から音が消えた。
そして。
アンデルセン神父は。
ゆっくりと。
本当にゆっくりと。
口元を歪めた。
『――Amen。』
低い声。
先程までの狂気じみた絶叫とは違う。
静かで。
重く。
底冷えする声。
『なるほど。』
『確かに強い。』
『実に強い。』
『貴様も。』
『そこにおる英霊共も。』
『その背後の魔術師共も。』
『なるほどなるほど。』
『化け物の見本市という訳であろうな。』
その瞬間。
アンデルセンの口元が、更に吊り上がる。
『――で、あれば。』
『なおのこと。』
『殺す価値がある。』
轟音。
殺気が爆発した。
ウェイバーが震える。
「こ、こいつ本当に話通じない!!」
ギルガメッシュが、不快そうに笑う。
「フン。」
「雑種の癖に、よく吠える。」
だが。
アンデルセンは英雄王すら見ていない。
その視線は。
ブラッドレイだけへ向いていた。
『勝ち目が無い?』
『ハッ――』
『だから何だというのだ?』
鮮血。
狂気。
『我らは神の代理人。』
『神罰の地上代行者。』
『勝てるから戦うのではない。』
『神の敵がおるから殺す。』
『ただそれだけであろうがァァァ!!!』
「……だろうな。」
ブラッドレイは、本気で疲れた顔をした。
「だから私は、君が嫌いなんだ。」
その瞬間。
アンデルセンが獣のように笑った。
『ゲハハハハハハハハ!!!』
『気が合うなァ!!』
『私も貴様が大嫌いだァァァ!!!』
そして。
再び。
神父が、怪物達の群れへ突撃した。
地下大聖堂は、もはや戦場だった。
聖別結界は明滅し。
代行者達が防衛線を維持し。
英霊達ですら、本気で迎撃を強いられている。
その中心で。
アンデルセン神父が、狂笑しながら銃剣を乱舞させていた。
「……らちがあかんな。」
キング・ブラッドレイは、飛来した銃剣を片手で叩き落としながら呟く。
「ナルバレック。」
次の瞬間。
アンデルセンの突撃を紙一重で回避。
床が爆散する。
「バチカンと、まだ話がつかないのか?」
ナルバレックは、後方司令席で通信礼装を操作していた。
幾重もの聖印。
法皇庁との秘匿回線。
埋葬機関最高権限。
だが。
その表情は険しい。
「……駄目だ。」
冷たい声だった。
「イスカリオテが“独断で動いている”。」
「法皇庁も、完全には制御出来ていない。」
ケイネスが顔を顰める。
「は?」
「待て、それはつまり――」
ナルバレックは即答した。
「“現場判断”だ。」
「アンデルセンが、“敵性存在”と判断した。」
「だから殺しに来た。」
ウェイバーが青ざめる。
「いやいやいや!!
そんなので動くのかあいつ!?」
ブラッドレイは、心底嫌そうに頷いた。
「ああ。」
「動く。」
「むしろ、“だからこそ”厄介なんだ。」
その瞬間。
アンデルセンが、聖堂中央へ着地する。
爆音。
石床が陥没する。
神父は、血塗れの顔で嗤った。
『当然であろう!!』
『我々は神の代理人!!』
『神罰の地上代行者!!』
『眼前に異端がおる!!』
『ならば殺す!!』
『実に単純明快!!』
『Amen!!!』
銃剣投擲。
豪雨。
ギルガメッシュが、とうとう苛立ちを隠さなくなった。
「雑種が。」
「いい加減、鬱陶しいぞ。」
王の財宝が、一斉展開される。
だが。
ブラッドレイが片手を上げた。
「待て英雄王。」
「本当に殺すと、後が更に面倒になる。」
「チッ。」
ギルガメッシュは不快そうに舌打ちした。
その横で。
マルグリット・ラ・ヴェルデュールが、愉快そうに笑う。
「でもさぁ。」
「アンデルセン、結構本気よ?」
「もう“偵察”じゃなくて、“処刑モード”入ってる。」
その瞬間。
アンデルセンが、ゆっくり銃剣を構える。
空気が変わる。
先程までの猛獣じみた狂気ではない。
処刑人の空気。
ブラッドレイの“究極の眼”が細まる。
「……まずいな。」
『我らは神の代理人。』
『神の罰を下す地上代行者。』
アンデルセンの声が、地下大聖堂へ響く。
『ならば。』
『神に仇なす愚物共へ。』
『最後の慈悲を与えよう。』
祝福銃剣が、ゆっくり持ち上がる。
『跪け。』
『そして死ね。』
『Amen。』
次の瞬間。
地下大聖堂全域へ、凄まじい聖別圧力が解き放たれた。