『calor ――理想の果てに灯る温もり――』 作:そもゆえに
第32話 桜梅桃李
修学旅行を終えて帰ってきた生徒達で俄かに騒がしく活気に溢れる麻帆良。
再開したカロルも賑わいをみせていた。
京都での出来事を経て、変わったもの。
変わらなかったもの。
だが変わろうとも変わらない日常。
そんな中日常の中の一幕。
時間帯によって様々な表情をみせるカロル店内。
穏やかな昼下がり、学生達の活気溢れる放課後、落ち着いた雰囲気が癒しと明日への活力を与える夜。
───そんな店内において
「ほぅ?ネギが中国拳法をね」
なんでも修学旅行で相対した白髪の少年も中国拳法と思える武術を修めていたという。
再び相対する可能性などを考えて魔法だけでなく、体術を修得する為に古菲に師事してきたという。
「そうネ。けど私も師父に師事し修業中の身アル。だから……」
成る程。
普段は天真爛漫であるが、武術においてはストイックな部分がある古菲らしい。
「構わないと思うがね。教える事で学ぶ事や、自己の振り返りともなる──しかし、魔法使いが中国拳法とはね」
くくく、と喉を鳴らして笑う。
「変アルか?師父も様々な武術を修めているアルが」
「いや、昔の知り合い──まぁ、私の魔術の師ともいえる人物が修得していたのを想い出しただけさ」
なんせ、あのあかい悪魔は神代の魔術師を殴り倒したのだから。
ただ、古菲に師事する直前に、エヴァに魔法の師事を請うていたという。
ソレを後で知ってエヴァが臍を曲げた、と聞いてエヴァらしいとも思ったが──たしかに正直不義理ではあると思う。
京都の戦いを経て強くなるためなら、何でも飛びつきたくなる状況なのだろ。自分の歯さを自覚して。
「まぁ、ネギにとっても良い機会となるだろう。特にネギのように才が在れば、試練によって飛躍的に伸びるだろう」
なんだかんだ言ってもエヴァもネギを育ててみたいという気持ちがある。
ソレよりもシロウが気になるのは───
「ホラよ、お待ちどう──って、また
コトリ、と目の前に珈琲が置かれ鼻腔を薫りが満たす。
胸の前で腕を組みながら、何処か不機嫌そうな千雨が立っていた。
修学旅行前に色々な経過を経て彼女がcalor店員として働く事になった。
当初は、給仕と簡単な料理の下準備などを中心にして貰っていたのだが──
驚いた事に珈琲を淹れる技術が思いのほか上達をみせた。
特に本人自身が珈琲好きなのが長じてか、ネットなどで情報を仕入れて自分で淹れるのが趣味に変わったとの事で。
珈琲の淹れ方は店に出せるレベル。
サイフォン、ネル、ペーパードリップと一通り修得している。
珈琲の香ばしい苦味。
苦味の中にもチョコレートの様なビターな風味。
彼女自身はフルーティーな酸味が味わえる珈琲が好みだった筈だから、私の好みにあわせて淹れてくれたのだろう。
そんな珈琲を味わいながら、これからの予定を考える。
やはり、放っておけない。
さて、どうしたものか──
「───はぁ」
普段は馬鹿ピンクと呼ばれ、悩み事が無いのが悩みなような自分ではあるが、今回ばかりは少々趣が違った。
自分の取り柄でもある運動神経、それが否定された。
無論、いくら馬鹿と言われていても顧問の二ノ宮先生の言わんとしている事もわかる。
新体操は運動神経も大切だがソレ以上に表現力などの技術が重要である。
良く言えば天真爛漫。
悪く言えば子供っぽい。
指導者として、演技者として冷静な意見だったのだろうが──自分の総てを否定されたように感じる。
解っていても簡単には受け容れられない。
ある意味その思考自体が子どもっぽさなのだろが。
だが五歳から始めて、一番大好きな新体操。
ネギ君にも迷惑を掛けてしまった。
エヴァちゃんに子供っぽいと言われて、苛立ちをぶつけて結果的に───
古菲曰く、ネギ君は反則的に飲み込みが早く上達してるとの事たけど、時間が足りない。
少しでも助けになればと、食事の差し入れも裏目に。
手伝うつもりが邪魔までしてまう始末。
───自主朝練に向かう足取りは自然と鈍く。
「随分と浮かない表情だなマキエ、君らしくない」
そこにはcalor店長のエミヤさんが佇んでいた。
扉にClosedと札が掛けられたcalor店内。
「成る程、自己嫌悪と演技の方針について悩んでいるという訳か」
はっきりいって要領の得ない話し方だったろうに、彼は適度に相づちをうちながら黙って聴いてくれていた。
スィーツ目当てでカロルの常連といえる彼女であったが、普段は友人らとお喋りに花を咲かせている為、彼と話した事は多くない。
彼が無愛想であった事にも起因しているのだが。
実際、今も多くを口にはしていない。
だが、彼は聞き上手であった。
気が付けばルームメイトの亜子にも言えなかった複雑な心境を吐露していた。
担任で頼りがいはあったが不在がちであった高畑先生や、子供ながらも時折大人びて見えるネギ君。
そのどちらとも違う。
そして促されるままに、カフェテラスで彼に新体操のリボン演技を見て貰っていた。
「ふむ、私自身は刀剣類なら多少は目利きも利くが、芸術の分野───特に新体操ともなると門外漢。気の利いた助言は出来ないが、一聴衆として感想を述べる事は出来る」
いつもの仏頂面ではなく、幾分か柔らかい表情と口調で話すシロウさん。
「───素晴らしい。君の演技は十分に誇れるものだろう」
そう言って笑顔で頭を撫でる彼の行為が、何故か自分を子供扱いをされている様に感じてしまった。
気が付けば彼の手を払い除けていた。
パシンと乾いた音を立てて。
────あっ、と思った。
またやってしまった。
エヴァちゃんとのやり取りでネギ君に迷惑をかけてしまい後悔していたばかりだというのに。
───払われて少し赤みがついた掌を、スッと近付けるシロウさん。
怒られると思いビクリと躯を震わせる。
───ふわり、と頭を撫でられ、瞳を瞬かせる。
「桜梅桃李という言葉を知っているか。」
「?」
「桜は桜。」
「梅は梅。」
どういう意味なのか悩んでるのを苦笑しながら。
たとえ桜の真似を梅がしたとして梅は梅である。
むしろ梅本来の魅力を損うばかりだろう。
ならば、梅でも───自分を嫌う必要はない、最高の梅を目指せばよい。
「それだけの話だ───まぁ借り物の理想に埋没した贋作者が言うのは白々しく聞こえるかも知れないがね」
肩をすくめるシロウさん。
「───と、少々話が脱線したか。ふむ、話をして喉が渇いてないかね」
おどけた様子で笑って筒を差し出してくる。
魔法瓶の水筒、かな?
「これは、ただの魔法瓶じゃない。本当に魔法のような珈琲」
少し芝居がかった口調と動作でウィンクする。
差し出されたのは──鼻腔を擽る薫り立つアイス珈琲だった。
喉を潤すのに、一口飲んで
「─────」
声が出ない。
それくらい衝撃的だった。
「これは水出し珈琲だ。家庭で作るようなものでなく、水滴で八時間以上かけて抽出する。」
「熱を通さない分、雑味が少なく、身体にも優しい。」
「今の君には、このくらい穏やかな方がいい。」
「こんな凄い珈琲を淹れられるエミヤさんは凄いなぁ」
コーヒーが眠気をクリアにしてくれるのを感じながら喉を潤す。
「ふむ、この珈琲を淹れたのは私ではないよ。千雨だ」
「………え?」
──千雨ちゃんって、長谷川さん?確かにお店(カロル)で働いているのだから不思議ではないのかもしれないけど……でも、何故?
「──実は珈琲と一緒に、手紙を預かっているのだが」
懐から一枚の便箋を出す。薄紅色の便箋に可愛らしい字体で綴られていた。────内容は。
『よぉ、何だか色々あるみたいだが───詳しい事情は知らないし、本来はアタシの柄じゃないから簡潔にだけ書いておく。これを読んでどう思うかは勝手だし、忘れてくれても結構だ。
まぁ馬鹿ピンクにも分かりやすく変換するなら───どうせなら愉しんでやる方が良いだろ?悩んだり考えたりも必要な事だけどさ、少なくとも好きで、愉しんで積み重ねてきた事は自分を裏切らない。その自分を信じてみたらどうだ?─────長谷川 千雨』
彼女が手紙を読み終えたのを確認し、声をかける。
「珈琲のカフェインは適量ならば胃酸の分泌を促して胃には良いくらいだ。だが」
悩んだり睡眠不足など普段に比べ精神、肉体的にストレスにさらされた状態では胃酸の過分泌で体調を崩す要因になど欠点がある───しかし水出し珈琲は適度にカフェインを削減される。よって体調に左右されずに身体に優しい、良質の珈琲といえるのだ。
「今のキミに必要だろう、と彼女が淹れた珈琲だ」
シロウさんの言葉を聞きながら、もう一口飲む。
──うん、美味しい。ぐっと一息で残りの珈琲を飲み干すと立ち上がる。
リボンを握り直し、笑う。
「ありがとう、シロウさん!千雨ちゃんにお礼を──ううん、今度自分で言うからイイや!!」
ドアベルを鳴らしてまき絵が帰る時。
「また来るといい。」
「うん!」
元気良く駆けていく姿を見送って踵を返す。
「……行ったか。」
厨房から千雨が声を掛けてくる。
「少しは元気になったか?」
「ああ、あとは彼女次第だ。」
「ふん、なら良かった。コーヒーを淹れた甲斐もある」
普段の彼女と少し違う笑みを浮かべる。
今後の料理店に来店して欲しい人。※項目に無ければその他で、感想で希望する人を。クラスメイト以外でも可。話の流れで直ぐには反映出来なかったりします。
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神楽坂明日菜
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龍宮真名
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長谷川千雨
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宮崎のどか
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古菲
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長瀬楓
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その他