「では高度育成高等学校、否。日本国に対抗して夏目組子犬の会を結成しましょう。私は入りませんが」   作:猫又のフグリ厶ネ

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続、春の嵐に手をひかれ

 

 

「待ってください。ただ交友を深めようとしただけじゃないですか夏目貴志。ほら風の精霊達も、『夏目くんと遊びたいわん』とお気に召しています」

「……。おれはきみみたいな人を友人に持ちたくないが(風の精霊って犬なのかよ……)」

「この木蓮の姫と呼ばれた美少女になんたる不躾な態度でしょうか。ああもしやあまりにも私が魅力のありすぎる美少女で惚れてしまったから、奥手な夏目貴志はこの森下藍を直視はおろか、盗み見することさえも出来ないのですね、シャイボーイめ」

 

 ダル絡みし続ける森下藍に夏目は気にも留めず昇降口を目指していたが、夏目はジト目で振り向いた。

 

「きみと会話すると疲れそうだからだ。現に一方的に話を聞いてて疲れてるんだが」

 

 妖怪に襲われるより森下藍に付きまとわれる方がやっかいだと夏目は思った。

 

「ようやくこっちを見ましたか。まったく、男のツンデレ仕草はこの世に不要ですよ」

「……ああそう、もう構わないからな」

「なんとまあ、まーたつれない態度ですか。私はともかく流石の風の精霊達も『無視するだなんて夏目くん酷いみぃ。鬼畜にゃあ』と泣き出してしまいましたよ」

 

――犬から猫になった……設定がどんどん遠ざかってる――

 

 森下藍は風の精もとい鯉のぼりの目の下にマジックで涙を描いてはその鯉のぼりを夏目に見せる。ほら、ほら、ほら――と夏目が観念するまでダル絡みは続いた。

 

 

 

 

 夏目は鯉のぼりをバッグに差し込み1人で自身の教室に向かっている。彼のクラスはDクラスだった。

 

 森下はというとAクラスに組み分けされていた。――あまりにもナイーブすぎる夏目貴志にとって友人づくりは困難でしょうから、この邪魔にしかならない荷もt、もとい風の精を片方差し上げましょう。友人が出来なくてもこの風の精が友人になってくれますので――と要らない世話とお荷物を夏目に押しつけて、森下はAクラスの教室を目指していった。

 あと、やはり鯉のぼりは妖精ではなくただの玩具であった。

 

 妖怪を追い払い、森下ともようやく離れることが出来て、二(?)件落着した夏目が安堵のため息をつきながら廊下を渡る。

 

 ――それにしても……。ずうっと誰かに見られてる気がする――

 

 妖怪に襲われてる時は気づかなかったが、森下に付きまとわれてから夏目は妙な視線を感じるようになった。妖怪独特の不気味な雰囲気、害意や敵意とは別の視線だった。

 悪意はないようだが、見られているのはストレスがたまるものだった。

 

「少しは我慢するかな」

 

 気にはなるがようやく平穏が訪れたのだ。今だけは見せかけの平和を享受しようと夏目は決めた。明日も感じたならばその時に動けばいいと、明日の自分にこの問題を任せるとしよう。

 

 それに。まぁ、妖怪が犯人の場合は望み薄なので考えないとして、こんなにも校舎内にカメラがあるのだから、もしもの時はカメラで犯人でも見つければいい、と夏目は結論を下した。

 

「ここか」

 

 夏目はDクラスの前に着いた。

 室内は既にいくつかのグループが作られて、新入生同士で他愛ないおしゃべりを咲かせている。

 

 ――眩しいな……――

 

 夏目も、小学生の頃までは何とかしてクラスに馴染もうと努力した過去がある。だが次第に夏目は孤立し転校をする結末で、その繰り返しだった。

 下手に他者と繋がりを持てば、自分のせいで繋がりを持った彼らを傷つけてしまう。そして周囲から疎まれる。

 

 その眩しさに夏目は手を伸ばそうとしなかった。

 夏目はクラスメイト達と目を合わせず室内に進んだ。

 

 教室内の黒板に座席表が貼られており、それを見て夏目は席につく。

 

「あの人、なんか結構イケメンじゃない?」

「ちょっと、てか細いけど、ミステリアスな感じがかなりあっていいかも」

「顔はいいけど頼りがいがほしいなぁ〜」

 

 D組のおチャラけた女子生徒グループが夏目を話題にする。

 

 夏目がポジティブ気味に女子生徒らに評価されてるが、朝からまぶたが重かった夏目は気にも留めず机に突っ伏す。

 ホームルームが始まるまで少し眠ろう、と夏目は意識を落とす。――ふと。バックにある鯉のぼりを指先でそっと撫でて。

 

 

 

 

 

 

「新入生の諸君、おはよう。これよりホームルームを始める」

 

 その言葉と共に教室に入ってきたのは、ポニーテールで凛とした顔立ちをした女性教諭だった。

 眠っていた夏目が姿勢をただし彼女に注意を向けた。

 

「私は諸君らDクラスを担当する茶柱佐枝、そして担当科目は日本史だ。言っておくがこの学校にクラス替えはない。卒業までの3年間は私と諸君らは運命共同体となる」

 

 茶柱は教壇に立ち、クラス全体を一瞥した。そして、彼女が持ってきたこの学校の資料等を配るように最前列に座る生徒らに指示をする。

 

 ガイダンスの内容だが、学園生活のルールや、学園内でお金の代わりに利用されているプライベートポイントの説明だった。

 

 一ポイントが一円。そんなポイントが生徒個人個人に10万ポイント振り込まれていることを茶柱が説明すると、クラスが色めきだつ。

 

「この学園は生徒の実力をはかっている。入学を果たしたお前たちにはそれだけの、10万円分の価値があるということだ。そしてポイントは毎月1日に振り込まれるから忘れるなよ」

 

 その後も、ポイントは学生証カードに紐付けされており、学生証カードがないとモノは買えない等の、茶柱の説明は続くのだがクラス内の盛り上がりは冷めるどころか逆だった。

 

 他クラスまで響いてるのでは?と心配になるくらいちょっとうるさいのだ。

 

「中学じゃあおれ、野球部でエースで4番だったからなぁ。当然の評価だぜっ」

 

 と、夏目の右後でそんなセリフが聴こえた。

 そんなざわめくDクラスを何故なのか茶柱は注意することはせず、淡々と自身の仕事を進めていった。

 

 ここで夏目は眉をひそめた。

 

 まぁ、夏目たちは確かに義務教育は終えた自己責任が多少付きまとわる高校生であり、教諭がそんな高校生に一々苦言を呈する事はしないだろう。また、生徒指導におざなりな教諭がこの世にいない訳ではない。

 が。

 この学校は政府が直接に管理するような学校であり、学生寮の光熱費等は無料である。国の予算がどの学校よりもかかっているはずなのに、あまりにも甘やかしすぎやしないか。あまり使いたくない言葉だし嫌いな言葉だが、税金分と言うか、予算分の生徒管理をすべきじゃないのか、と。クラス全体の生活態度がそれに見合ってない気がするのだ。

 

 それにだ。

 

 ――先生はおれ達の実力が認められた、と言っていたが、本当に認められたのか……。おれ、まず協調性は、コミュニケーション力はまったくないぞ。てか、人の説明を聞かずにうるさくすることって、内申点的にプラスに評価されるのか? マイナスされるよな……普通に考えれば。…………ん? まさかポイントも?――

 

 悲しいかな。薬にもならない夏目の背負わねばならない可哀想な過去が、茶柱のおべっかじみた弁に当てられても夏目を冷静にいさせた。

 

「この校内においては、お前たちに必要になるすべてのモノはプライベートポイントで購入する事になっている。何か欲しいモノがあればこのポイントを惜しみなく、遠慮なく使ってくれ」

 

 ――普通の金銭が使えないならば、妥当なのか? だとしたら、健康で文化的な最低限度の生活が保障されるはずの生活保護的な、それの学生版の最低限サポートなのだろうか……。でも、生活保護を受け取る者ですら光熱費は払わねばならないらしいが、おれ達の場合水道や光熱費は無料……。やっぱり虫が良すぎる、のか……――

 

「ああ、あと、ポイントが不要なら他の生徒に譲渡することも可能だ。改めて言うが、先ほども説明した通りポイントは金銭と同然である。金欲しさ、もといポイント欲しさにくれぐれもイジメやどう喝を行うなよ。学校はイジメには厳しいからな」

 

 いったん、茶柱がここで息をついた。説明に疲れたから、と言う訳ではなさそうだった。ざわめき止まないDクラスな自分達を値踏みするような視線を彼女は向けている。気がする。

 少なくとも、夏目にとってあまりいい気分ではない視線だった。

 

 ――まるで、嘘つき夏目という噂が広まっていた時のおれに注がれてきた見下しと疑いの目つき、だな――

 

「はぁ~……」

 

 夏目は茶柱を捉えながらため息を吐いた。

 人とは関わりたくないのに、それでもどこかで人の温もりを求めてしまうからか、ネガティブな視線を向けられたら結構引きずってしまう。

 

 ――ん?

 

 川の流れのようにすぅうっと移動していた茶柱の視線が、窓際の後ろあたり?で幾ばくか止まったかと思うと、茶柱は口角をあげた。

 茶柱の知り合いでもいたのだろうか? 

 

 茶柱の視線は色んな意味で気になるが、ポイントについて尋ねるべきかと夏目がウダウダ考え込んでしまう。下手なことを聴いてしまい赤っ恥をかくのも嫌なのであった。

 

 夏目貴志は恥をかくのを怖がる、普通の男子高校生なのだから。

 

 そして何よりも、夏目の払拭したい嫌な過去を想起させる茶柱の視線が理由だった。過去からくる諦めと恐怖が、夏目を未来へ進ませないように締め付けるのだ。

 

 だから自発的に行動することが、生きることが億劫になってしまう。そして人と関わることに、恐れを抱いてしまう……。

 

「あらかた言い終えたな……。約1時間後には体育館で入学式を行う。式を終えたら教室に戻り以後は自由解散だ。ではDクラスのお前たち、新しい友人たちと一緒に楽しい学園生活をおくってくれ」

 

 茶柱が素早く退室するやいなや、クラス内は何を買おうか、誰々とどこに遊びに行くかといった話題が飛び交う。

 そんな中、爽やかイケメンな男子生徒がハキハキしながらも穏やかな声を上げた。夏目とは違ってスポーツ万能な感じの健全な青少年だった。

 

「ねえ、みんな! 式が始まるまでに自己紹介しないかい? 今日から3年間はずっと一緒に学ぶクラスになるから、お互いを知って、仲の良い楽しいクラスにしたい。いいかな?」

「さ〜んせ〜いっ。わたしもみんなこと知らないし〜」

「うんっ! 私も賛成だよ! お友達いっぱい出来た方が楽しいしね! すっごくいい事だよっ」

「だな〜オレもオッケー」

 

 賛成の声が続いた。

 言い出しっぺのイケメンくんがクラスの温かみ溢れた声を聴いて、うんと首を縦に振った。

 

「みんなありがとう。それじゃあ言い出した僕から。僕は平田洋介。『ようすけ』って気軽に下の名前で呼んでいいからね。趣味はスポーツ全般。特にサッカーが好きでやっていて、ここでもサッカー部に入る予定だ。3年間、みんなよろしく!」

 

 盛大な拍手が巻き起こる。

 もちろん夏目も拍手を行なった。

 

 ――彼のような人がクラスを引っ張るみんなの人気者になるんだろうな――

 

「次は〜……、君からお願い出来るかな?」

「っえ? あっ……わたし? えっと、ハぃぃ……」

 

 消え入りそうな、と言うか事実、言葉が詰まってしまった緊張しきった少女がおどおどしながら立ち上がった。

 

「イ、井の頭心で、す……あ、あっとぉ〜……趣味は裁縫です。そ、それなりのモノしか作れないですが、何か欲しいモノがあれば言ってください。えっと、みなさんよろしくお願いしまップ!! ……かんじゃった」

 

 井の頭は最後に噛んでしまったが、クラスメイトの笑いながらの頑張ったねの拍手を贈られる。

 そうして彼女を機に自己紹介が順番に行われていった。

 

 自己紹介は様々だった。

 イケメンが嫌いで女子が好きなお調子者だったり、中国出身の娘や超金持ちの超ナルシストなご子息、一年生全員とお友達になりたいと言う活発そうな娘だったりと。

 

「うん。じゃあ次は君だ」

 

 ようやく夏目の番がやってきた。

 夏目は静かに立ち上がった。

 

「夏目貴志です。よろしくお願いします」

 

 軽くお辞儀をして座った。

 

「え……。それだけ?」

 

 ポニーテールの、クラスのヒエラルキートップに君臨しそうなギャルが引きつった笑みでツッコむ。

 

「ああ」

 

 夏目は能面みたいな顔つきで答えた。

 

「マジか~……」「わぁ。とてもクールだわぁww」「幸村くんでももうちょい喋ってたよ」「俺を引き合いにださないでくれか」

 クラス内にビミョーな空気が渡るが、これを見かねた平田が夏目に助け船を出そうとした。

 

「夏目くんは趣味とか、中学時代の部活とか……習い事とかしたことない?」

「帰宅部だったし、習い事もない」

 

 次いで、友達をいっぱい作ると豪語していた人懐っこい少女、櫛田桔梗が夏目に質問する。

 

「お休みの日は、どんな事しているのかな? ショッピングとか映画館とかに行ってたりする?」

「……特に」

「そ、そっか〜……」

 

 夏目のせいでクラスが完全に沈黙してしまった。

 

「き、緊張してそうだね、無理させてごめん。ありがとう夏目くん。夏目くんの隣の子、次お願い出来るかな?」

 

 以降、自己紹介が進むことで夏目が原因で失われた和気あいあいとした空気が戻った。

 が。

 

「ッチ!! やってらんねぇ!! 自己紹介とかガキかよ」

 

 血のように赤い短髪の、ヤンキーみたいなイカつい顔をした、ガタイのよい少年が再度ぶっ壊してしまった。

 

 ――今どきいるのか、不良って。すごいな――

 

 問題行動しか起こさない夏目も、よく親戚や地域の大人達達から不良少年と呼ばれてきたが、本物は迫力があるのだった。

 

「ごめんね。確かに強制的だったかも……きみは……」

 

 平田が少し慌てるような態度で、冷や汗をかきながら謝罪する。

 十中八九で赤髪の彼が悪いが、それでも彼をフォローする献身的な平田は人間が出来ている。そのため、余計に赤髪の少年に注がれる非難の目が濃くなるものだった。

 

「……いちいち謝んじゃねえよ……。うぜえな、いい子ちゃんどもはよぉ」

 

 赤髪の不良はガタン!と乱暴な音を立てて教室の外に出て行った。

 すると、自己紹介していない生徒達の数人も彼に続くように退室する。

 

 お通夜のような重く暗いムードが教室を支配する。

 さすがに2回目となると回復するのに時間がかかるものであり、幾人もの生徒が不安混じりの顔つきになってしまう。

 

 ――幸先が悪いな……――

 

 夏目は平田に目をやるがまだ立ち直れていない様子だった。

 平田は苦笑いを浮かべながらうつ向き気味になり静止してしまう。この短時間でリーダーシップを見せた彼だが、存外メンタルが弱いようだ。

 

 ――平田にはあまり迷惑をかけないようにしよう。こんな俺や赤髪の彼にも気を配れる優しい心根を持った人なのだから――

 

 夏目がそんなちょっとした決意を示す中、平田に代わって櫛田が持ち前の明るさを駆使して自己紹介を再開させた。

 

 クラスのリーダーが平田なら、サブリーダーは櫛田になりそうだ。

 

 そうして、一番後ろで窓側の席の少年に自己紹介の番がまわってきた。

 

「あっと、ええ……。んっと……。綾小路清隆です。えー……趣味や特技はこれと言ってありませんが、小さい頃から一応、書道とピアノを習ってました? えっと。……ああ。皆と仲良くなれるよう頑張りますので、えー、よろしくお願いします」

「へぇ~夏目くんって顔に似合わず大人しい習い事してたんだねぇ」

「今度ピアノ聞かせてよ」 

「綾小路くんかぁ……まずまずかなぁ」

「分かった、仲よくなろう綾小路くん。クラスの題字とか頼むかもだ」

 

 綾小路のそれは、クラスからそれなりに好意的に受け止められた。

 

 そうして自己紹介はつつがなく終わり、夏目達は入学式に向かった。

 

 入学式は淡々と進んで、夏目達はDクラスの教室に戻った。

 

 クラスで陽キャっぽい集団と中流層は親睦を深めるためにカラオケをしに行くようだった。

 だが、その中に夏目はおらず、夏目は一人ぼっちで教室を後にする。

 

――図書室にでもいくかな――

 

 暇つぶしとなる本を借りたかったし、いくらか時間を図書室で過ごせばあの少女とエンカウントする事もないだろうから。

 

 

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