キングダム:穿紅の閃光 〜神速の槍と無敵の拳で中華を穿つ〜 作:キング・クリムゾン!!
山陽の大決戦における廉頗の敗北、そして廉頗四天王が二人までもが秦国の若き力によって叩き落とされたという衝撃の報は、瞬く間に中華全土を駆け巡り、列強諸国の宮廷を震撼させた。
ところは変わり、趙国の王都・邯鄲。
その一角にある広大な執務室にて、一人の男が届けられたばかりの戦報を静かに見つめていた。
端正な容貌に、底知れぬ知性を宿した瞳。趙国が誇る天才軍師であり、宰相の座にある三大天――李牧である。
「介子坊が討たれ、輪虎が墜ち、あの廉頗大将軍までもが退いた、ですか……」
李牧の傍らに控える女剣士・カイネが、信じられないといった様子で声を戦慄かせる。
「飛信隊の信、玉鳳隊の王賁、楽華隊の蒙恬……秦国には厄介な若者が揃っているとは思っていましたが、これほどの事態になるとは」
「いえ、カイネ。私が最も懸念しているのは、彼らではありません」
李牧は手にした木札を机へと置き、戦盤の上にある一つの駒を指先でトントンと叩いた。
「この戦報において、介子坊の重装甲を正面からねじ切り、輪虎の神速の剣を縛り付け、さらに廉頗大将軍の本気の一撃をも受け流したと記されている、未知の新星……。秦国軍総司令直轄、特殊遊撃千人隊『穿紅軍』を率いる千人将、貫。この男の存在です。」
李牧の瞳が、これまでにない深い警戒の光を帯びる。
「古流武術『流水岩砕拳』を操り、工匠の知恵による『管槍』という未知の兵器を使う武将。その戦功はすでに将軍級でありながら、未だに千人将に留まっているという謎の男。王騎を討ち取った我が計略の系譜を以てしても、この『貫』という男の予測不能な矛と盾は、次なる大戦において最大の不確定要素になり得ます」
「では、李牧様……」
カイネが息を呑む中、李牧は静かに立ち上がり、壁に掛けられた巨大な中華全土の地図へと視線を向けた。その視線が定まったのは、秦国を全方位から囲む列強五カ国の国境線。
「ええ。近いうちに私が発動させる、中華の勢力図をすべて塗り替えるための大いなる一手……『合従軍』。その大戦において、この貫という男は真っ先に、確実に抹殺せねばなりません。彼の持つ超螺旋の穿光が我らの策を貫く前に、完全にその芽を摘み取るための壮大な策略を、今ここで構築しましょう」
同じ頃、山陽の秦軍本陣。
次なる戦いへの気配を肌で感じ取りながら、穿紅軍の天幕の前で、貫は『積層流星槍』を静かに磨き上げていた。左腕の流星管は、連戦の負荷を工匠の拓の手によって完璧に整備され、カチャリと静かな駆動音を響かせて鈍い光を放っている。
己を狙う中華最強の知略の視線が動き出したとも知らず、新たなる戦場を正面から切り拓く将として、貫は淀みのない声を響かせた。
「初めてお目にかかる。秦国軍総司令直轄、特殊遊撃千人隊『穿紅軍』を率いる千人将、貫だ。我が家に伝わる古流武術『流水岩砕拳』の呼吸法と、相棒の拓が命を賭して鍛え上げし左腕の『超螺旋・流星管』、あるいは『積層流星槍』を以て、いかなる天敵、いかなる深謀遠慮の策略だろうが、その正面から跡形もなく穿ち砕く。趙国の李牧、貴様がどれほどの天才だろうと、我が穿紅軍の進む道を阻むことは断じてできぬ。仕掛けられる罠が巨大であればあるほど、我が超螺旋の穿光が、それを内側から完全に崩壊させる灯火となるだろう」
貫の傲る高ぶることのない、しかし見えざる驚異をも真っ正面から迎え撃つ、絶対的な将としての自己紹介の激。
天才軍師・李牧が静かに巡らせ始めた、貫を抹殺するための壮大な包囲網。そして、それすらも正面から穿ち砕かんと闘志を燃やす穿紅軍。山陽の勝利という光の裏側で、中華の運命を決定づける次なる大戦への、暗き伏線が静かに、しかし確実に張り巡らされていくのだった。
次回:第55話 激震の中原、迫り来る五牙