バスケットボールは何色か。 作:バレテーラ
番外編も書きたかったけど、そんな余裕なかった……チキショウ
「監督、入部希望の子連れてきました」
「入部希望って……彼が?」
「はい」
千夏先輩に引っ張られ、やってきたのはバスケ部の監督の下。
監督の人は戸惑いも隠さず、先輩から俺へと目を向ける。
まぁ、そりゃそうだろうな。
「あの、先輩……」
「文句は聞かないよ。こうでもしないと、君はいつまでたっても入らないだろうし。たまには勢いに任せることも必要だよ」
むっとした顔をする先輩。
どうやら、いつまでも尻込みしてる俺を見兼ねてからの行動だったらしい。
俺のことを考えての行動。
それは素直に嬉しい……嬉しいんだが、
「いや、そうじゃなくて。ここ女バスです」
「…………あ」
先輩が連れてきたのは、男子バスケ部じゃなくて自分が所属している女子バスケ部。
そんな異様な光景のせいか、周りからめちゃくちゃ注目されまくっている。
「あと、気持ちは嬉しいんですけど、今日ばっかりはバッシュも練習着も持ってきてないんで参加はできないです」
「………」
やっぱりこの人って、どこか抜けてるよなぁ。
「焦らなくても、ちゃんと自分で動けますから。先輩は自分の練習に専念してください」
「……………うん」
顔を赤くした先輩がやっと袖から手を放してくれる。
お騒がせしました、と監督や女バスの人たちにぺこりと頭を下げ、その場を後にする。
……にしても、異常なまでに注目を集めてしまった。
ここは変なやっかみを受ける前に、この場を退散した方が――
「どこ行くんだよ、颯人」
「まさか、もう帰るなんて言わないよねぇ」
両肩をガシィッ! と掴まれる。
何故だろう……友達の声なのに全然友好的には聞こえない……。
「「話、聞かせてもらおうか???」」
「……ひゃい」
怖いて、その笑顔。
*
部活が終わるまでの間、目立たない場所で時間を潰し、大喜と蝶野と合流する。
ちなみに、今日は家が別方向のためいない。
合流するやいなや、さっきの千夏先輩とのやりとりはどういうことかと問い詰められた。
最初は先輩のプライベートにも関係することだし、どう説明したもんかと悩んだが、テキトーなことを言っても納得はしてくれない様子で。
悩んだすえ、入学が決まった際に母さん繋がりで学校案内をしてもらい知り合った……とだけ話すことにした。
「なるほどねぇ~」
「そういうことだったのか……というか、それならうちの母さんとも接点あったってことだよな!? そんな話一度も聞いたことないぞ!?」
母さんめぇ~、なんて恨めしそうな声を漏らす大喜。
この様子、まさか……
「なぁ、大喜ってもしかして千夏先輩のこと……」
「はぁ……お察しのとおり、大喜は千夏先輩にほの字なわけですよ」
「マジか」
衝撃の事実に手で顔を覆う。
蝶野はともかくとして、そりゃ大喜としては気が気じゃないわけだ。
「……なんか、ごめん」
「謝んな! 余計みじめな気持ちになるだろ!」
いや、だってこっちは同居してるわけだし(話してないけど)。
むしろ隠しているぶん、罪悪感マシマシだ。
大喜は良い奴だし、親友の恋路は応援したい。
せめて事前に知っていれば……って、そんなこと考えてもどうしようもないんだよな。
「まぁ、そんな気に病むことないんじゃない? ほらっ、なんだったら颯人くんが千夏先輩との仲を取り持ってくれるかもしれないし!」
「そう、だな。千夏先輩に迷惑にならない程度でいいなら……」
「別にいいって」
蝶野がフォローを入れ、俺がそれに乗っかるのだが、大喜は苦笑いを浮かべる。
「気持ちは嬉しいけどさ、さすがに友達を利用するような形はとりたくない。やっぱり、こういうのは自分でなんとかするもんだろうし」
「……いいのか、大喜」
「颯人も気にしすぎ。お前も言ってただろ、俺相手に気を遣うのは違うってさ」
確かに、言ったけども……。
「だから、俺は自分の力で千夏先輩に振り向いてもらえるようにするよ」
さっきまでの絶望顔はどこへやら、大喜は吹っ切れたように笑ってみせた。
強がり……には見えない。
けど、そこには大喜らしい真っすぐで「やってやる」という意思が見えた気がした。
なら、これ以上は野暮ってもんだろう。
「そっか。頑張れ」
「おう!」
俺はそれを応援するだけだ。
「……とか言ってる間に、千夏先輩の方が颯人くんを好きになっちゃったりして」
「ぐぅお”お”お”お”お”……!!」
そこに蝶野からの横槍が。
大喜がそれを想像したのか、胸を押さえて苦悶の声を上げる。
こんな調子で本当に大丈夫なんだろうか、コイツは。
「ていうか雛、家は反対方向だろ。こっちまで来ていいのか?」
「有名な整体師さんがこっちでお店を出したらしくてさ。これから寄るつもりなんだ~」
どうやら俺から話を聞くだけじゃなく、ちゃんとした理由もあったらしい。
そうして三人で商店街を歩き、通りかかったわんこをもふったり、たい焼き屋に立ち寄ってみたりする。
「お、羽根つきもある」
「あの羽根の部分、サクサクしてて美味いよな」
「ちなみに二人は粒あん? こしあん?」
「俺はこしあん」
「しいて言えば、粒あん?」
「……フッ」
「多数派になったからってドヤ顔すんな!」
というわけでたい焼きを買おうとしたのだが、蝶野は買わないと言い出して。
「ぐぬぬっ……たい焼き愛好家の私の前で喰らおうとは、なんという仕打ち!」
「だったらお前も買えばいいだろ……」
「食べちゃったら今日のぶんのカロリー越えちゃうでしょ。私、頑張るの得意じゃないし、我慢してすむなら我慢しないとね!」
蝶野なりにいろいろ考えてのことみたいだ。
バスケやバドなんかはトレーニングでもして筋肉をつければいいだろうけど、新体操は繊細な動きが必要そうだし、そうもいかないんだろう。
「雛って、すごいな」
「え、なに急に……」
「だって、常日頃からそういうこと考えて行動してるんだろ。雛にとっては当たり前のことかもしれないけど、俺からしてみれば充分すごいし。俺にはできてないことをし続けられてる雛はめちゃくちゃかっこいいなって思うんだよ」
純粋にそう思った言葉なんだろう。
こうやって素直に相手に伝えることができるのは大喜の良いところだ。
それが千夏先輩相手にできれば一番いいんだけど。
「大喜…………そういうのは千夏先輩に言うべきなんじゃないの」
「いちいち冷やかさないと気が済まないのかお前は!」
すまん大喜、ぶっちゃけ俺も一瞬思った。
「ごめんごめん。でも、そんなことを言う大喜だってかっこいいと思うよ」
「とってつけたように言いやがって」
「いやいや、本当に。さっきの話じゃないけど、変に誰かの力を借りて有利に~とかじゃなく、自分でどうにしてやるって心意気はさ。――だから、大喜もかっこいいよ」
蝶野が一歩前へ出てくるんっと新体操のポテンシャルで回り、大喜へ笑顔を向ける。
「…………おう」
「なに照れてんだよ」
「べ、別に照れてないけど!?」
「あはははっ……って、あれ? あれって千夏先輩じゃない?」
「え”」
蝶野がそんなことを口にし、その視線の先を追ってみれば、そこには千夏先輩……と、知らない男子が隣に並んで一緒に歩いているのが見えた。
「千夏先輩……と、針生先輩……」
どうやら千夏先輩の隣にいる人は針生というらしい。
大喜が知ってるってことは、バド部の人か。
「颯人くん、千夏先輩に彼氏がいるっていうのは……」
「いや、聞いたことないけど」
そもそもいたら同年代の男子のいる家に同居なんてしないだろうし。
……と、先輩二人がこっちに気づく。
「大喜じゃん。こんなとこで何やってんだ?」
「何やってるもなにも、俺の家こっちなんですよ」
ふーん、と淡白な反応をする針生先輩が蝶野と俺の方を見てきたので、頭を下げて挨拶しておく。
「たしか新体操の子と……さっき、ちーが連れて来てた奴だよな?」
「え? あーはい、そうですけど」
やっぱり見られてたのか、注目されまくってたもんなぁ。
というか “ちー” って……ああ、千夏だから “ちー" なのか。
「茶城颯人くんだよ。今年から栄明に入ってきたの」
「何でちーがそこまで知ってるんだよ」
「えっと……母さん同士が友達で、それ繋がりで学校を案内してもらったことがあるんです」
「ちーの親ってバスケ部だっけ? ……ああ、だからさっき」
千夏先輩が迂闊なことを言う前に、同居の部分を伏せて説明しておく。
一方で、針生先輩がちー呼びするたびに大喜が「ゔっ……!?」と過剰に反応していたり。
動揺しすぎだろ。
「先輩方は何してたんですか?」
「買い物だよ。針生君が買いたいものあるから付き合ってくれって」
「彼女に化粧品買ってこいって頼まれてな。けど、そういうもん男一人で買いに行くのって気恥ずかしいから、ちーに一緒に来てもらったんだよ」
そういう針生先輩の手にはたしかに紙袋が。
大喜がそれにホっとした……かと思ったら「針生先輩、彼女いたんですか!?」と驚き、針生先輩が「この間からな」と簡潔に答えた。
安心したり、驚いたり、忙しいなお前は。
「っと、そろそろ行かねえとアイツに怒られる。今日はありがとな、ちー」
「どういたしまして。花恋にもよろしくね」
「おう、また明日な」
針生先輩が去っていく。
「三人はここで何してたの?」
「んー、帰りながら部活見学はどうだったか話したり、たい焼きでも買おうかってなったり」
「それなら私が買ってあげるよ。入学祝いってことで」
「そ、そんな悪いですって!」
「そうですよ。それに、私は遠慮しておきたいかなーって」
「あ、ごめん。たい焼き好きじゃなかった?」
「いえ! そうじゃなくて、今日はこれ以上食べるのは控えておきたいといいますか……なので、私より二人に買ってあげてください」
蝶野がお構いなくと笑い、千夏先輩はそれに「でも……」と少し戸惑った様子を見せる。
一人だけ買わないっていうのは気が引けるんだろう。
「だったら、俺も今回は遠慮させてもらっていいですか?」
――――と、そんな中、蝶野に合わせて大喜も断った。
「ちょっと、大喜は別にいいでしょ。せっかく千夏先輩から言ってくれたんだから……!」
「雛一人が我慢してるのに、俺たちだけ買ってもらうのは不公平だろ」
「でも……」
「見栄張るなって。どうせなら一緒に買ってもらって、みんなで食べようぜ」
「大喜……」
にかっと笑う大喜、惚ける蝶野。
友達に配慮した暖かい判断だった。
「……で、本心は?」
「千夏先輩に奢ってもらうなんて、恐れ多くて心の準備ができてない……!!」
台無しだよ。
なお、小声で話しているため千夏先輩は何のことだかわからず頭に「?」を浮かべてきょとんとしていた。
「ってわけなんで。千夏先輩には悪いですけど、入学祝いってことならまた今度でもいいですか? あ、もちろん祝ってもらわなくてもいいんですけど!」
「ふふっ。うん、いいよ。じゃあ、また今度三人一緒にね」
そんな大喜たちのやりとりを見て、微笑ましげににこりと笑って了承してくれた。
「……ちなみに俺は」
「友達が我慢してるんだから、君も我慢しなさい」
「ハイ」
窘められてしまった。
まぁ、元より奢ってもらうつもりはなかったんだが。
なんてことがありつつ商店街を抜け、帰り道が別方向となって、二人と別れて千夏先輩と並んで歩く。
「それにしても、いのまたたいき君と蝶野さんだっけ。早くも颯人君に友達ができたみたいで安心した」
「おかんかアンタは」
「どちらかというと姉だと思う」
一個年上ってだけでしょ、それ。
「大喜は昔遊んだことがあって、蝶野とは今日友達になったんですよ。というか、大喜のこと知ってたんですね」
「毎朝、朝練してたからね。前にホッカイロ貸してもらったし」
話によると、体育館が開くのを待っていた際ホッカイロやらマフラーやら渡されて、そこに名前が書かれていてことで知ったらしい。
「それに……」
「? それに?」
「……以前エルボーパスの練習してたら、彼の顔面に当てちゃって……」
「えぇぇ……何してんですか」
「だ、大丈夫! ちゃんと謝って、お詫びにお菓子もあげたから!」
そういう問題なのか……?。
大喜のことだから先輩からお菓子をもらえたってことで逆に喜んでそうだけど。
「そんなことよりっ、部活のことだけど……」
「ああ、俺が女バスに連れていかれた」
「そのことはもう忘れなさいっ」
ちょっとだけ揶揄うと、むすっとする千夏先輩。
不機嫌にさせると帰ってから母さんに何言われるか分からないため、先輩をいじるのは程々に、本題を伝えることにする。
「――――入りますよ、バスケ部。今日いろいろ見ましたけど、やっぱり一番やりたいって思えるのはバスケだったんで」
知らなかった世界を見れた。
興味深い体験も出来た。
けど、どうしてもバスケのことが忘れられなかった。
それを再確認して、覚悟が決まった。
「だから明日から栄明の先輩としてご指導ご鞭撻、よろしくお願いします。千夏先輩」
「あはは、私の方が教えられることになりそうだけど、よろしくね。
そして、
「入学おめでとうっ!」
――と、あらためて祝いの言葉を向けられ、今度こそ俺は受け入れることが出来た。
「ちなみに先輩って、たい焼きは粒あんとこしあんどっち派ですか」
「……こしあん、かな?」
たい焼きの好みは勝手に決めてしまったので、原作で書かれていたら教えてください。
雛ちゃんが食べてたアイスのせたい焼き食べたい。