『刹那! トランザムは使うなよ!』『了解! トランザム!!』 作:とんこつラーメン
さぁて…遂に始まるぞ…!
運命…いや、宿命の幼馴染対決が!
授業の一環とはいえ、まさか…こんな日が実際に訪れようとは…。
正直、私は夢にも思ってなかった。
「さぁ! 君たちもよーく対戦を観察して、少しでも多くの事を学ぶんだぞ!」
オールマイト先生の言葉に皆が反応し、目の前のモニターに注目する。
複数あるモニターの一つには、出久君とお茶子ちゃんが一緒にビル内に入っていく様子が映し出され、もう一つのモニターには何かを少し話した後に核兵器のある部屋を後にした勝己君の姿が。
「藤原少女。ちょっとこっちに」
「ん?」
先生直々にいきなりのご指名。
一体全体なんじゃらほい?
「はいコレ」
「これは…」
無線式のイヤホン?
なんで、こんな物を私に?
「本当なら、これは雄英の教師にしか貸し出されていない備品なんだけど、今日この時間の間だけ藤原少女に貸してあげよう」
「…よろしいので?」
「構わないさ。他の子達ならばいざ知らず、この対決に限り君は…君だけは彼らの成長と雄姿をその目で見届けるだけじゃなく、その耳でもちゃんと聞き届ける義務があると思っている。あの二人の幼馴染である君には…ね」
「…そうですね」
私はずっと傍で見てきた。
二人の苦悩も、努力も、涙も。
だから、私もちゃんと全てを知っておきたい。
大切な幼馴染達の成長した姿を。
「あれ? なんで爆豪の奴、たった一人で行っちまったんだ? ここは普通、二人で核兵器を防衛する場面じゃねぇのか?」
「それは、勝己の個性のせいだろう」
「へ? 爆豪の個性のせい?」
切島くんが隣で?マークを浮かべていたのでご説明を。
近くにいるオールマイトも頷いてくれたので説明続行。
「勝己の個性は『爆破』。文字通りの超攻撃的個性だ。同時に、最も火の気が多い個性の一つとも言える」
「火の気……あ!?」
どうやら理解してくれた模様。
切島君は、ちゃんとヒントさえ与えれば普通に問題が解けるタイプと見た。
勉強を教えてて楽しいタイプの子だ。
「そっか…偽物とはいえ、核兵器のある部屋で爆破なんて使ったら、即座に誘爆待ったなしだもんな…」
「それじゃあ、爆豪が
「あぁ。そして、それは自分の個性を誰よりもよく知っている勝己自身が真っ先に気が付いたことでもある。だから恐らく、あいつは自分が単独で行動することを前提にした作戦を立てたはずだ」
この対戦…一見すると圧倒的情報不足なヒーローチームが不利に見えるが、こと今回の対決に限りって言えば敵チームである勝己君も中々に不利な状況に陥っている。
仕方がないこととはいえ、自慢の大火力を意図的に抑えなければいけないのだ。
勝己君の爆破が最大限に発揮されるのは広い場所での戦闘だ。
周囲に遮蔽物や防衛対象がいない場合、彼は何の遠慮も無く自分の持つ最大火力を好きなだけ叩き込める。
「今回の対決に関する情報は確かに不足しているが、出久の場合は、対戦相手である勝己に関する情報は山のように保持している」
「ってことは…」
「この対決…」
「マジでどっちが勝つか分からないってことか…!」
オールマイトの指導によって相当鍛え上げたとはいえ、未だに純粋な身体能力は勝己君の方が圧倒的に上…。
それは出久君自身が誰よりも良く自覚している筈だ。
(『柔よく剛を制す』…とはよく言ったものだが…勝己の場合は、その『柔』すらも優れている。出久…お前の目標としている幼馴染は、お前の想像以上に強大で巨大な壁として立ちはだかっているぞ…!)
ある意味、この対決で君の真価が試されるぞ…。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
何事もなくビル内に侵入出来た出久&お茶子ペア。
だが、このスムーズさが却って不気味に感じた。
まるで、嵐の前の静けさのような。
「無事に入ることは出来た…けど…」
「静かだ…静かすぎる…」
耳が痛くなるような静寂。
いつ、どこから相手が奇襲を仕掛けてくるか分からない。
即席とはいえ、ここはもう相手の居城の中なのだ。
必要以上に警戒をしなくてはいけない。
「ど…どうする?」
「取り敢えずは、当初の手筈通りに。主な戦闘は僕が担当するから…」
「わ…私がその隙に核兵器のある部屋に向かうんだね」
「うん。でも、その部屋にはまず間違いなく飯田君がいる筈だ。気を付けてね」
「お互いにね」
可能な限り足音を消す忍び足で移動を開始する。
今の彼らに出来る最大限の隠密行動である。
(どこだ…どこから来る…? かっちゃんの『爆破』を使えば、その気になれば壁や天井を破壊しながらの奇襲だって可能だ。狭い廊下だからといって、決して安心は出来ない…!)
最も身近にいた、最も目指すべき目標とも言えた幼馴染の事は、まるで自分の事のように良く知っている。
知っているからこそ必要以上に警戒する。
もしかしたら、この場でまた新たな爆破の個性の応用方法を思いついた可能性すらあるから。
爆豪勝己という少年は、本当にそんなことを普通にやってみせる程の才能を秘めているから。
「ん…?」
それは、本当に些細な違和感。
天井からパラパラと僅かに降り注いだ埃や砂利。
別に、それ自体は何も変なことではない。
このビルだって訓練場の一つであり、これまでに無数の生徒たちがここで訓練を重ねてきたのだ。
普段からちゃんと整備がされているとはいえ、僅かな罅や老朽化ぐらいはあって当たり前だろう。
だが、今の出久にはその違和感すらも十分すぎる程に警戒に値した。
「ま…まさか…!?」
こっちの隙をつく為に、自分たちの突破口が出来ることを知った上で、敢えて上からの奇襲を仕掛けてくるつもりなのか?
自分たちが上に向かっている以上、天井に穴を開ける行為は自ら敗北に近づくことに等しい愚行。
一度、天井に穴が開いてしまえば、お茶子の個性で適当な瓦礫を少し浮かせて足場にし、そこから一気に核兵器の場所まで大幅なショートカットが出来る。
だからこそ、普通ならば誰も思いつかない作戦。
それを敢えて突いてきた。
『こんなことをするわけがない』という、人間の心理の裏をかくことで。
『当たり前』は、人間にとって最大の弱点である。
故に、二人はほんの一瞬だけ反応が遅れた。
「ありがとよ。俺らのことを必要以上に警戒してくれて」
「え?」
気が付いた時、もう既に爆炎に包まれた爆豪の拳が目の前にまで迫って来ていた。
次の瞬間、ビル全体を震わせる程の爆音が周囲に鳴り響いた。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「まぁ…そう簡単に上手くいけば…苦労はしねぇわなぁ…」
ビルの一角を覆い尽くす爆煙。
換気扇によってそれが消えると、そこには驚くべき光景があった。
「き…危機一髪…!」
前に付き出された爆豪の右腕を、首を捻りながら躱すと同時に左手で掴み、右手で同時に繰り出されたと思われる左膝の蹴りを抑え込んでいた。
「やっぱり…読んでやがったか…」
「それは…お互い様だよ…!」
密着した状態で動けないでいる二人。
本当は、動きたくても動けないのだ。
ほんの少しでも隙を見せたら、確実に主導権を奪われるから。
「かっちゃんは…昔から最初の一撃は右の大振りをする癖がある…。けど、君はそれを僕に読まれることを読んで、追撃で膝蹴りまで同時に仕掛けてきた…!」
「それすらも防いで見せてる癖に良く言うぜ…!」
だが、今の攻防で出久が最も戦慄したのは、勝己の作戦だった。
普段の力押しな彼からは想像も出来ない、こちらの心理を見事に突いた奇襲作戦。
出久は綺麗にそれに嵌まり、こうして勝己を懐に潜り込ませてしまった。
彼が最も得意とする距離に。
「さっき落ちてきた天井からの埃や砂…あれは上の階から飯田君が自慢の足で床を何度も蹴って落とした物なんだね…!」
「そうだ。こんな時のテメェは確実に不必要なまでに警戒をするだろうと思ってな。普通の奴なら別に気にも留めねぇようなことにすら警戒しちまう。そうなれば、嫌でも天井の方に警戒心が行っちまう」
「その隙を…裏の裏を突いたってことなのか…!」
「そういうこった。ま…結果は御覧の有り様だけどな」
状況はまさに一進一退。
爆豪の奇襲攻撃自体は成功したが、攻撃は防がれてしまった。
一方の出久は、相手の接近を許してしまう結果に。
これで、嫌でも二人はこの場で一騎打ちをするしかなくなる。
「…麗日さん。ここは僕がどうにかする。だから…」
「わ…分かった。気を付けてね!」
前を向いたままお茶子に指示を出し、彼女は来た道を戻って別方向から上に行く道を探りに行った。
本来ならば、なんとしてでも彼女の移動を阻止しなければいけない立場の勝己だが、目の前にいる出久がそれを許してくれない。
もしお茶子の方に行こうとすれば、即座に出久による横槍が入るだろう。
だが、この状況は勝己もまた最初から想定していたこと。
「…別にいいさ。俺は最初から、テメェの相手をする気満々だったしな」
「気が合うね…僕もだよ」
幼い頃からずっと一緒にいた二人が睨み合う。
もう『いじめっ子』と『いじめられっ子』の立場ではない。
これは『男』と『男』のぶつかり合い。
生まれて初めての…本気の戦いだった。
お茶子の気配が遠くに行ったことを確認した二人は、ようやくお互いの拘束を解除して、弾かれるように反射的に間合いを取った。
「こっからが本番だ。いくぞ…デク」
「そうだね。じゃあ…やろうか…かっちゃん」
もう出久には勝己が、勝己には出久しか見えていない。
互いの手と手、足と足、細かな息遣いや動きにすら全力で注視する。
ほんの一瞬の隙すらも決して見逃さないために。
真の意味で互いの『過去』と決別するための戦いが…始まろうとしていた。